27:異世界滞在9日目-4
旅行者と満月の夜。の巻
夕食を終えて一人で部屋でのんびり・・・でも私はなんだか落ち着かない。
なにせ、彼氏いない歴が年齢の私。男性に抱きしめられり、手のひらにキスなんて・・・あの王太子(もう殿下なんてつけてやらん)、女好きなのはノアさんの言うとおりかもしれない。腹黒かどうかは分からないけど。
女好きだとしても、こちらの女性とはまったく違う私に興味をもつ意味がわからない。もしかして珍しいもの好きでもあるとか?王太子、どこがツボだったのだろうか。
「あー、我ながらしょーもないことを考えてるなあ。・・・それにしても本当にペルジェスって女性に対する謝罪ってあれなのかなあ」
思わずため息をついて、外の景色を見る。あ、今日は満月なんだ。日本で見る月と同じなんだなあ。これで月が複数あったら異世界に来てるんだって実感わくのかも。
どうもここで過ごしてると、服装は相当時代錯誤だけど自分が本来いる世界で暮らしている気分になる。
「そうだ、久々に図書室行こうかな。気持ちが落ち着く本でも探そう」
アニーとカールさんのデート現場に遭遇しちゃって、それいらいなんか夜の図書室って行きづらかったんだけど、今日はちょっと活字に頼りたい気分だ。
私はアイノさんからもらったランプを手に持って部屋を出た。
図書室に入ると、ランプをちょっと明るめにして周囲を見回す。またうっかりデート現場に遭遇なんて嫌だし、密偵と思われて捕まるのはもっと嫌。
だけど室内に人のいる気配はなく、今日は落ち着いて本を探せそうだ。私はホッとして本棚に近づいた。
「心を落ち着かせる本って・・・う~ん・・・政治経済。これは眠くなること間違いなしだな。童話・・・おっ、ちょっといいかも」
私は「つきにとんだおひめさま」という題名の絵本をぱらぱらとめくってみる。このお姫様って積極的・・・私の住んでる世界の童話だとお姫様ってわりと王子様を待ってるのが多いけど、このお姫様は自分の運命の相手が月にいると判明すると、探しに行くんだから。
「ふふふ。面白そう、これにしよう」
そして「そうげんをかけるおひめさま」とか「ねむれるもりのおうじとおひめさま」というどう見ても同一作者の絵本も出てきて、私は室内のソファに座って読むことにした。
何冊か本を抱えて窓際のソファでランプもともして読み始めた頃、誰かが図書室の扉を開けた。
まさかまたアニーとカールさん?びっくりして扉のほうをみると、そこにはノアさんが立っていた。
ノアさんも私を見て驚いている・・・・ように見えた。
「ミオ、何してる。こんな時間に」
「・・・なんか落ち着かなくて」
「あ・・・その、大丈夫か?」
「う、うん・・・さっきは突然のことで驚いただけだから、大丈夫。ノアも本を借りに来たの?」
「・・・ああ。ちょっと仕事関係で見たい本があってな。ミオは何を読んでいるのだ」
ノアさんが近寄ってきたため、私は持ってきた本を見せる。
「王国で長年読まれているものだ・・・これ、子供が読む本だな」
「絵本は大人が読んでもいいものだよ。なんか、心が和むじゃない」
「そういうものか」
「そういうものだよ」
私がそういうと、ノアさんは納得したようなしてないような顔つきで窓のほうを見た。
「満月か・・・ミオ、エルネストはアニーからそうとうきつく叱られていたので、もうあんなことはしてこないと思う。謝罪をしたかったのは本当らしい。だから花は受け取ってやってくれないか。
私は、あんな女好きの腹黒を庇うつもりは毛頭ないのだが、アニーからそう言われてしまってはな」
「ノア、王太子相手に怒ったの?」
大丈夫なのかな、公爵とはいえ違う国の王族を怒ってしまって。
「心配するな。アニーに私からも一言いっていいと言われたからな。王女公認だ」
「そ、そう・・・ならよかった」
沈黙。
いつもならもっと会話がそれなりに続くのに、なんだか今日は続かない。
この絵本、部屋に持って帰って読もうかな・・・ここで読破しちゃうと夜更かししてしまいそう。
ノアさんだって、仕事関係の本を探しにきたんだから無駄話する時間もないだろう・・・私は本を抱え、椅子から立ち上がった。
「ミオ?」
「私、この本を部屋で読むよ・・・それじゃ、お先に・・・・えっ」
急にノアさんが立ち上がって私の行く手をさえぎり、腕を引っ張られノアさんに抱きしめられる形になる。
「ノ、ノア?」
「・・・・本当にミオは華奢なのだな。ちょっと強くすると折れてしまいそうだ。我が国には満月の伝説があるんだ・・・満月の夜は奥底にある気持ちを自覚することがあるらしい」
「そ、そうなんだ」
奥底にある気持ちを自覚する・・・そんな伝説があるのか。ちょっと怖いな。
「もうしばらく、こうしていても?あの女好きの抱擁を私が上書きしてやるから」
同じように抱きしめられているのにノアさんは平気。まるで・・・
「まるで、ノアに守られてるみたい」
「ああ。ミオは私が守るから」
そういうとノアさんの腕はさらに強く私を包み込んだ。




