2:美生、「ちょっとした旅行」に行く
私の名前は小田島 美生。23歳の元会社員だ。なぜ「元」かといえば、勤務先が倒産して現在無職だから。
両親と祖父母の位牌と写真に、いつものように手を合わせ話しかけた。
「お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん。2週間ばかり出かけてくるね。アニーの国に招待されて海外旅行に行くことになったんだよ。なんと費用は全てあちら持ちなんだって。すごいよね~。
もしかしてアニーってセレブなのかなあ。だとしたら、おばあちゃんの料理に感激するなんて、庶民的だよね。それでこれからアニーが頼んでくれた人が一緒に国まで行ってくれるんだって。至れり尽くせりだよね」
親友のアニーに送ったメールでこんな展開になるなんて。
両親と祖父母の保険金や貯金などのおかげで生活には困らないけど、再就職はしたいのに気力がわかない・・・そんなときに見た親友からのメール。
それについつい今の自分の状況を書き込んだ。あとから愚痴メールなんて送っちゃって悪いことしたなあ~と後悔しているところに見たアニーの返信に私は「ええええっ?!」とPCの前でのけぞってしまった。
そこには、温かい励ましの言葉とともに、この時期を次のステップへの長い休暇だと思って私の国に遊びに来ないか、と書かれていたのだ。
「アニーの国って外国よね。私、パスポートの有効期限大丈夫かな」
あとで有効期限を調べなくては。アニーとおしゃべりもしたいし、ちょっとだけのんびりしたい・・・私はすっかりアニーの国に行く気になっていた。
そういえばアニーってどこの国の人なんだろう?私も祖母もアニーの外見から欧米かなあと思っていたので、たいして気にしていなかった。
欧米だと、さすがに2泊3日は辛いから、5日くらい行ってみるとして・・・。アニーが暇なときは案内をお願いしちゃうけど、1人でもぶらぶら歩けるようなところだといいな。そうだ、いいホテルがあれば教えてもらおう。
そう考えてメールしたら、その返信に私は飲んでいたお茶を噴出しそうになってしまった。
『5日間なんて短すぎる!最低でも2週間はいてほしいと思っているのに。それに、ホテルなんて悲しいこと言わないで。私の家に滞在してちょうだい、絶対よ。費用のことなら心配しないで。すべてこちらでもつから』
「え!!!それはいくらなんでも」
その後、押され気味の話し合いの結果、私は2週間の予定でアニーの家に滞在することになったのだ。本当にいいんだろうか。
「そんなわけで、2週間挨拶できなくてごめんね。おわびに仏壇はいつもよりも気合いれて掃除したからさ・・・私が旅行を楽しめるように祈っててね」
もちろん、写真は返事をしない(したらホラーである。身内でも勘弁してほしい)。それにしてもアニーの国の人ってどんな人だろう・・・そう思っているところに、マンションのインターホンが鳴った。
「はい・・・」
インターホンに映ったのはサンタのようなひげと濃紺の瞳が優しげなおじいちゃん。そう例えるならスーツを着た細身のサンタ。
「ミオ・オダジマ様のお宅ですかな?アンナレーナ・ファルゲート様のお使いで参ったものですが」
聞こえてきたのはなめらかな日本語。
「あ。今開けます」
「ミオ様ですな?初めまして、私はオディロンと申します」
「はじめまして。小田島・・・あ、ミオ・オダジマです。よろしくお願いします、オディロンさん」
「こちらこそよろしくお願いします。ミオ様、さっそくですが準備はできてますかな?」
「あの、オディロンさん「ミオ様」じゃなくて「ミオ」と呼んでいただけないでしょうか。それと、アニーの国って日本からどれくらいかかるんですか?」
「それではミオさんとお呼びしましょう。そうですな・・・我が国までは5分ほどでしょうかね」
「は?5分??」
「ええ。さ、行きましょうか」
そういういと、私のトランクを持ったオディロンさんはアニーが住んでいた隣室に入っていった。あれ?そこは現在、空き部屋のはず。
「え?どうして?」
「ここは我が国が買った部屋でしてな。さ、こちらが我が国への入り口です」
入り口ってなに?いやその前に。そこはアニーが物置部屋なのと言っていた部屋。
扉をあけるとまぶしい光で目がくらみそうになる。そして吸い込まれそうになる。
「ミオさん、私にしっかりつかまってくいてくださいよ」
「は、はいいっ!!」ものすごい風力が私を包んだけど、頑張ってオディロンさんの腕をつかむ。
目を開ける余裕なんかなくて、どれくらい時間がたったのかも分からない。だけど・・・
「ミオさん。我が国にようこそ」
オディロンさんに言われて、おそるおそる目を開けると・・・・そこは天井がやたら高く、えんじ色の絨毯の上によく磨かれた木製の机、大量の本が詰め込まれた本棚。そして大きな水晶のかたまりが置かれた部屋。
「・・・・ここどこ?」
「カルナステラ王国の王宮内にある私の執務室ですよ。アニー様が、そろそろお見えになるはずなのですが・・・」
オディロンさんが言うがはやいか、扉がばんっと勢いよく開いた。
「ミオ!!!」
私にぎゅっと抱きついたのは、間違いなくアニーだった。
読了ありがとうございました。
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主役が登場です。
以降は基本的に美生視点で話が進みます。