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23:異世界滞在8日目-幕間

お兄ちゃんのはなし。の巻


エルネストはかく語りき。長文になります。

 我が国ペルジェスとカルナステラ王国は隣り合わせなこともあって、昔から友好的な関係を築いている。

後継者同士の交流も盛んで、私とアニーはよく顔を合わせていた。

 ノアやカールと知り合ったのは、私が15歳の頃だ。


 あの頃、宰相とともにカルナステラ王国を訪れると、アニーに庭を案内してもらうのが恒例になっていた。アニーは歳のはなれた妹みたいで面白い。

 今回はそこに同行者が2人加わった。

「エルネスト、私の従兄と幼なじみを紹介するわね」

 そう言われて紹介されたのがノアとカールだ。3人とも筆頭魔道士のオディロンに学んでおり、特にカールはその魔力の高さから彼の後継者として決められているようだった。

 ノアのほうも名門・クロンヴァール公爵家の跡取りとして申し分のない人物だと評判だが、彼の場合はあだ名も有名だった。

 よろしくと挨拶をかわすと、カールのほうはにこやかでノアのほうはあだ名どおりの無表情だ。聞きしに勝る「顔なし」で、ちょっと感心してしまう。

 アニーのほうがあわてて「エルネスト、ノアはけっして怒っているわけではないのよ?」と従兄をかばったくらいだ。

「うん、わかってる。彼は私を嫌っているのではなく、もともとこうなのだろう?」

「なんだー、知ってたんだ。よかったね、ノア」

「・・・気遣いいただき、ありがとうございます」

 そう言ったノアの顔がほんの少しだけゆるんでいた・・・なるほど、表情が乏しいだけで無表情と言うわけではないらしい。ただ、表情の機微が分かる人間は少ないだろうな。

 だが、彼はアニーを支えるいい家臣になるのは間違いない。

 そしてノアが私のことを「女好きの腹黒」認定したのは、ノアが18歳のときにペルジェスに訪問してきたときだろう。


 19歳の私は、お飾りの王である父の裏で病床についた母に代わって宰相や大臣とともに政務についていた。弟のユーグも新米騎士として騎士団の寮で生活を始めていた。

 私とユーグの両親は典型的な政略結婚で、父は悪い人間ではないが政治に興味がなかった。それでも国王になれたのは、相手が俊才と評判の人間だったからだ。

 それが母で、政治や経済を勉強し将来は国の中枢で働くことを目標にしていた筆頭貴族の娘だった。

 結婚後、父は表面的には王としての公務をこなしていたが実質的な政務や外交は母や宰相、各役人たちがうまく連携してこなしていた。そしてユーグが産まれた直後に父は側室を迎え、母や私たちとは公務のときしか顔を合わせなくなる。

 とにかく私は政務に追われていて鬱憤がたまり、その発散先が私の場合は女性だっただけである。

 身分を隠してこっそりその手の宿に行ってみたり、パーティで顔を合わせた遊びなれた年上の女性と戯れたり。うっかり未婚の娘に手をつけてはまずいので未婚の娘の顔は常にチェックし(そのためだけに大臣に未婚の娘リストなるものを作らせ髪と瞳の色も記載させた)、宰相は苦笑いしながらも噂と病気と避妊にはお気をつけくださいとしか言わなかった。

 まあ、若さゆえと大目に見てくれていたのだろう。

 ところが、ノアはそうはいかなかった。なんでばれたのかといえば、ノアも参加していたパーティに私の相手をしたことがある女性も来ていて(彼女は子爵家の裕福な未亡人)、こともあろうにノアに粉をかけたからだ。

 真面目なノアはどうやらその未亡人から話を聞いたらしく、私のところに来たときのあいつの顔は・・・そりゃあ怖かった。

「王太子殿下・・・・なかなかの遊び人だそうで」

「いいじゃないか。普段は政務にかかりきりなんだから」

「なるほど。殿下、アニーには手をつけないように願いますよ」

「私の相手は遊びなれた女性限定だし、少女にそんな興味はない」

「・・・それを聞いて安心しましたよ。殿下、私の願いを忘れたら容赦しませんから」

 そう言ってノアは少し楽しげに笑った・・・今でも幻かと思うんだが、確かに笑ったのである。それが逆に恐ろしく、私はあれ以上の恐怖を今まで体験したことがない。

 それでノアのなかでは私は「女好きの腹黒」となった。女好きは認めるが、腹黒のほうは納得できない。私は自分では結構素直な性格していると思うのだが。



 そして現在。私はといえば相変わらずで政務の合間の息抜きは女性たちとの戯れが一番と思っている。そんな私を反面教師にしたのかユーグがノアみたいな堅物になってしまい、お兄ちゃんはちょっとつまらない。

 そんな私の課題はアニーに懸想する異母弟の処遇をどうするか、だ。傀儡だが父はいまだ国王の座にいる。

 だいたい長年の友好国に無能な男を送り出して関係をだめにするほど私は愚か者ではない。

 体調不良ということで、そろそろ父には引退していただいてどこか遠方の離宮で心穏やかに暮らしてもらおうか。

 頭のなかで条件を決めると、宰相を呼ぶように秘書に頼んだ。ちなみに現在の宰相は、先代の宰相の息子で私とは幼なじみだ。

 宰相が来ると、私は地方領主で独身の一人娘がいる一族をリストアップするように命じた。

「そろそろ国王が代わってもいい頃だと思わないか?」

「おや、そろそろ落ち着きますか?」

「遠方であまり末弟の評判が伝わっておらず経済的にちょっと困窮している一族なら、末の王子を持参金付で婿にどうだといえばうなずくだろう?先代の国王と寵愛している側室も近くに住まわせるといいだろう。適当な離宮も探さないとね」

「・・・殿下の条件にかなうお相手を探すのは大変そうだ。すぐは無理ですね・・・5日はほしいところです」

「ああ、それでいいよ。父に宣告するときに一緒に弟と側室殿にも伝えたいからね。親子水入らずでのんびり暮らせる環境に移れるんだから、さぞかし喜ばれるだろうね」

 私がそういうと、宰相はちょっと笑って一枚の紙を取り出した。

「最近国王陛下も体調に不安があるようですし、よろしい時期かと思います。ところで、殿下・・・いやエルネスト。あとで知らせようと思ったのだが、ついでだからな。ユーグが国の名産の果物を大量に、カルナステラに送る手配をしているのだが何かあったのか?」


 宰相が私やユーグを名前で呼ぶときは私用のときに限られる。今聞いたことはまさに寝耳に水で、私が驚いていると宰相もおやと眼を見張った。

「は?何だそれ。私は聞いてないが・・・カルナステラ・・・・ああ、もしかして」

 頭に浮かんだのはユーグが密偵だと思って捕まえた一人の少女・・・いや、アニーと同じ年齢らしいから女性だな。童顔で華奢で、あのノアがやけに守りたがってる。

 食べ物で釣るのか・・・弟よ、大量に送るなんて無粋な。一人で食べきれる量じゃないと皆に分けられてしまうじゃないか。

「エルネスト?なにニヤニヤしてるんだ」

 宰相の不気味そうな声にはっとなる。

「悪い。誰に送るように手配されてるんだい?」

「それが・・・ミオ・オダジマ、と。誰だ?」

「アニーの親友で、2週間の予定で王国に滞在してる旅行客。この間向こうに行ったとき、ユーグが密偵だと思って捕まえてノアに突き出した」

「はああ?!何だその面白い展開は」

 その顛末と王国の町を一緒に観光した話をすると宰相は言葉も出ないようだった。

「彼女は実に興味深い。あのノアがやけに彼女を守っているんだよね・・・よし、じゃあ私は花でも贈るか。弟の不始末のお詫びにね。申し訳ないが花屋を呼んでくれないか?」

「お前が自分で選んだ花を女性に送るのか?今までしたことないくせに・・・・兄弟間でなにやってるんだか」

「そうだ、どうせなら花は直接渡しに行こうかな・・・ノアの反応が見てみたいし」

「・・・おまえ、性格悪いぞ」

 宰相は呆れたようにため息をついた。

読了ありがとうございました。

誤字脱字、言葉使いの間違いなどがありましたら、お知らせください。

ちょっと感想でも書いちゃおうかなと思ったら、ぜひ書いていただけるとうれしいです!!



女好きの腹黒・エルネスト視点で語らせてみました。


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