21:異世界滞在8日目-2
旅行者、散歩する。の巻
「ユーグ、まだ出発まで時間はあるはずだが?」
「兄上。ここはペルジェスではありません。早々に出発したほうがいいと思います」
「アニー王女の案内で街中を歩けるなんてめったにない機会だと思わないか?アニー、どうだろう。ミオとともに私たちにもガイドをしてくれないか?」
「・・・・うーん、そうねえ」
アニーは首を少し傾けて困ってる・・・いや、あれは面白がってる。1年付き合ってきた私はなんとなくパターンが頭に浮かんできてしまう。
ノアさんに知られたらまずいんじゃないかな。アニー、断って。断るんだ!!
「いいわ。まとめてガイドしてあげる。じゃあ、大広場に行きましょうか、由緒ある建物に囲まれてるのよ」
・・・・ああ、やっぱり。
外に出て、大通りをのんびり歩く。店の並びは本当にあの名探偵のドラマで見た雰囲気そのままで、今にも道の向こう側から名探偵が相棒と一緒に歩いてきそうな気がする。
道なりに歩くと大きな広場に出て、アニーが広場の説明をしてくれるのを私となぜか2人の王子様たちまで一緒に聞いている。
広場を囲んで立てられた建物は、建国時から改修を重ねているものの当時の面影を極力残している。当時は王家の離宮だったけど、今は店舗や居住スペースになっているらしい。由緒ある建物に住めるなんて素敵。
「由緒ある建物に住めるなんて素敵だね」
「そうね。だからここの物件は人気があるの。でも、入居条件は厳しいわよ。とにかく規則が細かいのよ」
「ミオは古い建物が好きなのかな?」
王太子殿下にいきなり話しかけられて、ちょっと驚く。
「え、えっと、ええまあ、嫌いではありません。王太子殿下」
「アニーのことはアニーと呼ぶのに、私のことは殿下なのかい?」
「エルネスト。ミオをからかわないで」
「わかったよ。王女様には逆らえない」
王太子殿下はそのあとアニーと話しているため、ユーグ殿下と私が並んで後ろを歩く形になる。
「その、・・・・昨日はすまなかった」
ユーグ殿下が気まずそうに口を開いた。
「い、いいえ。もう終わったことですから」
「だが、きみが刺客や密偵だったら、あんな無防備なわけがないと冷静に考えればわかったはずだ」
無防備・・・つまり、ぼーっとしてるということを言いたいんだろうか。確かに否定できないけど、何気に言動が失礼だな。
「無防備というのは、変な意味ではないからな。つまり、その・・・」
どうやら私がちょっとむっとしたのがわかったらしい。
「いいですよ、ユーグ殿下。私がぼーっとしてるのは自分でよーく分かっていますから」
「そ、そうか。それにミオは、すごく・・・その、華奢だ。腕は大丈夫か?」
華奢・・・確かにアニーみたいにナイスバディじゃないもんね。
「腕、ちょっとアザになってました」
「・・・・本当にすまない。ところで、一つ聞いてもいいだろうか。ミオは何歳なんだ?」
「アニーと同じ23歳です」
「え。・・・・てっきり17歳くらいかと」
小声のつもりだろうが、聞こえてるぞユーグ殿下。この国にいると童顔だが、日本では普通顔だ。
「・・・若く見てくれてありがとうございます」
「・・・すまない」
そのしょぼくれっぷりに、私は思わず噴き出してしまう。とたんにユーグ殿下がムッとした顔をする。
「すみません。私は別に怒ってないのに、ユーグ殿下は謝ってばかりだから。本当に怒っていません。アザだってたいしたことありません」
「そうか。すまない」
今度はユーグ殿下が自分で気づいて、少しだけ笑った。
「でも、やはり私はミオにお詫びがしたい。ミオは甘いものや果物などは好きか?」
「はい」
「それなら、国に帰ったらプレジェス特産の果物を送ろう。食べてくれ」
「・・・ありがとうございます」
これを知ったらノアさんが眉間にしわ寄せて深いため息をつきそうな気がする・・・でも、王子様の申し出を断って手打ちにされるのは嫌だ。
「・・・・やっと見つけた」
「探したよ、アニー」
背後から聞こえたのは、聞き覚えのある声。
恐る恐る後ろを振り向けば、そこには笑顔のカールさんと無表情だけどお怒りモードのノアさんが立っていた。
読了ありがとうございました。
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ノアさま、降臨ってことで(笑)。
ユーグ殿下、ちょっといい人っぽく書いてみました。どうでしょう。




