20:異世界滞在8日目-1
旅行者、オシノビにつきあう。の巻
「ねえアニー。これってまずいんじゃないの?」
「えー、大丈夫だよ。私いつもこうやって抜け出してるもの」
「へー、そうなんだ~・・・じゃないでしょうよ。いつもって何よ、いつもって」
「まあ、いつも・・・っていっても2ヶ月に1回くらいなんだけどさ。民の生の声を聞くにはオシノビが最適なのよ。さ、ミオ。行くわよ」
そう言ったアニーの恰好は普段の王族らしい恰好ではなく、私と同じようなシンプルなドレス姿。本当にいいのかなあ。頭のなかにヘルガさんのため息をつく顔とか、ノアさんの無表情でも分かるお怒りモードとかが浮かんでくる。
アニーに連れられて地下の通路を通って店の中っぽい場所に到着。外に出ると街中の一角だったから驚いた。天気のいい午後だから、人出も多くて賑やかだ。
アニーは1件のカフェの前に到着し、ここのケーキが絶品なのだと言いお茶にすることにした。
「アニー、せめてヘルガさんには言っておかないとまずいんじゃないの?」
「大丈夫、ちゃんと置手紙してきたから。それに私がオシノビを思いついたのはミオとおばあちゃんと一緒に見たあのテレビドラマなんだから」
「え。まさか・・・・」
うちのおばあちゃんが好きだったあの時代劇か。そういえばおばあちゃんから説明を受けたアニーがやたら興味をもってたっけ。てっきり日本の時代劇が珍しいからなんだろうな~って思ってたんだけど。お忍びのほうかい!!
「ねえミオ。ヘルガってさー、あれでいうとカロウっぽいよね」
「・・・・そ、そうだね」
「ライナスはうっかりか、影のゴエイよね~」
それはまた両極端な。
「ノアとカールが一緒に旅をする従者ってところかしらね」
その場合、印籠を出すのはどっちなんだろう。堅物が出すから、ノアさんか。
「ところで、ペルジェスの王子様たちの見送りとかしなくていいの?」
「あの2人は午前中に帰ったわよ」
「そっか」
「ねえねえ、エルネストとユーグのことどう思った?」
「うーん、王太子は人当たりはいいけど底知れない感じがするし、ユーグ王子は怖いけど王太子に従順な人だと思う。だってさー、アニーが王太子に言うって言ったときの顔、強張ってたよ」
「・・・・ぷっ。ミオ、よく見てるのね~」
「だって。私に対してはすっごく怖かったのにさ、落差がありすぎて」
私がそう言うと、アニーはますます楽しげに笑う。
それにしても、ここのケーキは美味しい。桃のような食感の果物が入ってるんだけど、いい香りがしてとっても甘い。
「アニー、このケーキ美味しいね~」
「でしょう?前にオシノビで遊びに来たときに偶然入ったんだけど、すっかり気に入っちゃって」
ちょうどお茶の時間なのか、店内は人が結構入っていてお茶とケーキで話に花を咲かせている人が多い。
だから、店内に人が出入しても気にも留めなかったから私たちのテーブルの横で「やあ偶然だね」と声がしたときには驚いたのなんのって。
私もだけど、さすがのアニーも予想外だったのか表には出さなかったけどお茶のカップを置いた手つきがいつもより少し動揺している。
「エルネストにユーグ、何してるのよ。とっくに帰ったはずじゃないの?」
「王宮は午前中に辞したけどね。せっかくだから王都を視察しようと思ってね」
王太子殿下が涼しい顔をして優雅な手つきでお茶を飲んだ。服装は裕福な家の息子という感じで、誰も気づいてないみたい。そんな服をいつも持ち歩いているのかがすごく気になるんですが。
「・・・・」
向かいに座ったユーグ殿下・・・ケーキは眉間にしわを寄せて食べるものじゃないよ。でも黙々と完食ってことは甘いものが好きなのか、もしかして。
王太子殿下が「私といるときに女性にお金を使わせるのは趣味じゃないのでね」と言われてしまい、私とアニーはお茶とケーキをごちそうになることにした。
食べ終わると王太子殿下が口を開いた。
「さて、これからきみたちはどうするの?」
「これからミオに大広場と周辺をガイドするつもりなの。ね、ミオ?」
「う、うん」
アニーの口調からしてまだ楽しむ気満載で、これがアニーのストレス発散方法だとしたら帰りたいとも言えず、私はうなずくことにした。
「じゃあ私たちもご一緒していいかな」
「兄上!?」
「あら」
「・・・・」
王太子殿下の発言に、ユーグ殿下は驚き、アニーはたいして表情も変えず、そして私は“まじかよ~”と頭を抱えたい気分になった。
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アニーが影響を受けた時代劇は、鉄板のあれです。




