17:異世界滞在7日目-1
旅行者、つかまる。の巻
夕食時に私が東屋でノアさんから“明日は女好きの腹黒とガチガチの堅物が来るから大広間方面に近づくな”と言われたことを話すと、黙って聞いていたアニーが盛大に噴き出したかと思うと大笑いしだした。
「ご、ごめん・・・お、おかしくって・・・」
ようやく落ち着いたアニーは、それでも肩を震わせながら「ノアったら・・・」とくすくす笑っている。
「アニー笑いすぎ」
「ごめーん。あのね、明日はペルジェスの王太子と第二王子が定例会議出席のために来るのよ」
「ペルジェスの・・・ということは」
「そう。政の長男と武の次男よ。互いの国で一年交代で開催していて、今年は我が国で行われるの」
ノ、ノアさん・・・王太子と第二王子に対してすごい言いっぷり。何か因縁でもあるのか。
「ちなみにノアの言う女好きの腹黒は長男の王太子のほうで、ガチガチの堅物は次男の第二王子ね。ノアもうまいこというわよねー」
「そ、そうなんだ?」
「まあ、長男は確かに切れ者だけど女性関係の噂は絶えないわね。でもあれは長男・・・エルネストも悪いのよ。わざと中身がからっぽな女性とばっかり浮名をながして。周囲の反応を楽しんでいるんだから」
「へー」
「次男はユーグって言うんだけど、こっちはエルネストと違って真面目が服着て歩いている感じ。エルネルトと同腹の兄弟で、普段は騎士団副団長だけど今回は彼の護衛としてこちらに来るわ。
兄が即位したら、公爵家として臣下に下ることが決まっているそうよ」
「同腹って・・・第三王子は」
「長男と次男は王妃様が母親で、三男は国王が寵愛してる側室の方が母親なの」
「なるほど。オディロン先生が三男はアニーの婿を志望してるって言ってたけど」
「あんな無才、いらないわよ。こっちは断ってるしエルネストも反対してるんだけど、ペルジェス国王がノリノリでさあ、本当うっとうしいったら」
アニーは眉をひそめた。
今日はオディロン先生も会議に参加するため授業がない。
そこで、のんびり図書室で過ごそうと決めた。今度こそ、“王妃の本棚”にあった「誘惑の作法」を読むんだ。今日は絶好のチャンス!!
昨日届いたばかりのブラウスとベストにスカートを着てドアを開けて図書室に向かって歩き出した。
すごい、私見事にこの国に馴染んでる。昨日まではやたら視線を感じていたのに、この国の服装にしたら視線が減っている。ノアさんのアドバイスは正しかったというわけだ。
図書室に入ると、書棚のすぐ近くにある赤い革張りの椅子の一つに誰かが座って本を読んでいる。
がっしりとした肩幅に藍鉄色に明るい灰色のボタンとラインの入った服を着た淡い黄緑色の短髪の男の人。座っている椅子から剣らしきものが少し見える。
王宮内をあちこち歩き回ってるおかげで、カールさん以外の魔道士さんや騎士さんも見たことあるけど、こんな人いたっけ・・・・
「私の顔は珍しいか?」
「え、あ・・・ごめんなさいっ!!」
男の人の褐色の瞳が本を読むのをやめて私を見ていた。
「きみは誰だ。王宮の職員か・・・・今まで見たことないが、新人か」
「え、えっと・・・わ、私は」
アニーの友人で王国に遊びに来てますって言って信用してもらえるのかな。しかも私に質問してきた時点で剣はいつでも出せるみたいな体勢してるし。もしかして変な回答したら斬られちゃう??
「答えられないのか」
男の人の目が鋭くなる。
「いえ・・・その、私は・・・アニー・・・アンナレーナ王女殿下の友人でこの国には旅行に来てるんです」
「・・・・・王女殿下の友人?嘘をつくならもっとましな嘘をついたらどうだ」
「嘘じゃありませんっ!!」
「そうか。それならちょっと来い」
そういうと、私の腕を強い力でつかんだ。
「痛っ!」
「逃げられては困るからな」
そう言うと、男の人は私を連れて図書室から出た。私を知ってるメイドさんが通りかかってくれれば、すぐにノアさんかアニーに知らせてくれるのに・・・どうしてこういうときに限って誰も通らないわけ~~~?!
ああ、今日ばっかりはアイノさんについてきてもらえばよかった・・・それにしてもどうしよう。男の人の手は私がどんなにもがいてもびくともしない。
読了ありがとうございました。
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なんとか更新できました。
まずは堅物が登場です。




