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1:王女様のお呼び出し

 カルナステラ王国の筆頭貴族、クロンヴァール公爵家の当主・ノアは、すらりとした長身のうえに整った容姿とスカイブルーの瞳。肩甲骨のちょっと下まで伸びたブロンドの髪の毛を後ろで束ねて堅襟のシャツ、クラヴァットに襟幅の広いダークカラーの細身のコート姿でさっそうと歩く姿が国内ではお馴染みだ。

 普通なら、そんな貴公子を見れば女性たちはうっとりと見ているはず。だか、ノアに対しては皆、緊張した面持ちになり、目を合わせないようにつとめる。

 それはノアの表情に起伏がないことが原因だった。彼の喜怒哀楽が分かるのは、両親と国王夫妻、従妹であるアンナレーナ王女と幼なじみで親友のカール。それから元筆頭魔道士で彼と従妹、幼なじみの教育係でもあったオディロンと、屋敷に昔からいる執事親子と家政婦くらいである。

 そんな彼についたあだ名は「顔無し公爵」。筆頭公爵の名に恥じない切れ者でもある彼に表立って言える人はいないが、陰で口さがなく言うものは結構いた。



 そんな彼は、本日アンナレーナに朝一で呼ばれてちょっと不機嫌だった。

 執務室のドアをノックすると、王女の秘書であるヘルガが扉を開けた。そういえば彼女は彼の喜怒哀楽は分からないようだが、他の人間のように彼をみても緊張した面持ちにはならない。

「おはようございます、公爵様。殿下がお待ちです」

「おはようヘルガ」

 中に入ると、書類を読み込んでいた王女が顔を上げて微笑んだ。艶やかなココアブラウンの髪と青紫色の瞳で王国の至宝と呼ばれる美貌の持ち主だが、公爵は昔から見慣れているのでたいした感慨もない。今日は外で公務があるらしく明るい黄緑色のハイウエストの外出着を着ている。

「おはよう、クロンヴァール公爵・・・ノアお兄様」

 すると公爵の顔がぴきっと固まり、空気が凍る。執務室にいたスタッフが息をのむ。

「お兄様。私のスタッフが顔をひきつらせておりますわ。もっと柔らかな顔でいてくださいな」

「もともとこういう顔なんだ。」

「それは分かっています。“顔無し公爵”の異名があるくらいですもの」

「アニーが私を“ノアお兄様”と呼ぶときにはろくな用件がない。断る」

「まあひどい。用件も聞かずに従妹の用事を断るのですか」

「・・・・話だけは聞いてやる」

 彼の言葉に王女は笑い、ヘルガ以外のスタッフに席を外すように命じた。


「お兄様は、私が3年前に1年間だけ違う世界に滞在していたことを覚えていて?」

「ああ。お前がオディロン先生にねだって行ったのだろう?」

「そこで、私が隣に住んでいた女の子と仲良くなったと話をしたでしょう。ほら、この子よ」

 そういうと、彼に机に飾ってある写真を見せた。

「子供だな」

「ちょっと!彼女は私と同じ歳よ。名前はミオ。私、こちらに帰ってきてからもオディロン先生にお願いして、彼女とは常に連絡をとれる状態にしてもらったの。今は“メール”というもので連絡しあっているのよ」

「それはよかったな」

「昨日ミオから来たメールを見たら、いつも気丈な彼女がとても落ち込んでいたわ。私は彼女を元気づけるにはどうしたらいいか考えたのよ。

 そこで、ミオをこの国に招待することに決めたわけ。環境が変われば彼女も気分を変えることができるかもしれない。でも私も公務で忙しいときもあるでしょう?そこで、ノアお兄様」

 そう言うと、王女はにっこり笑った。

「なんだ」

「私と彼女の観光についてきてほしいの。私が行けない時はガイドみたいな感じで一緒に行動してほしい。この国は女性だけで歩くにはまだまだ安全ではない地域もあるわ。」

「私は忙しい。それに向こうだって見知らぬ男と一緒に観光なんて嫌だと思うが?」

 公爵の返答に、王女と秘書はやっぱりという顔をして見合わせた。どうやら想定内だったらしい。

 王女はため息をついて、公爵のほうをみた。

「そう言うと思ったわ・・・だから、王女としてノア・クロンヴァール公爵に命じます」

「な?!」

「私の親友、ミオ・オダジマが2日後に我が国に2週間の予定で滞在するために来訪します。私としてはもっといてほしいけど、とりあえずね。その間、公爵に彼女のガイドをお願いします。」

「2週間もか!」

「だからここは互いに妥協しましょう、ノアお兄様。午前中は仕事をして、午後にミオと同行ではどうかしら。お兄様になら、私が行けないときでも安心して親友を任せられるの。お願い」

「・・・わかった。午後だけなら。」

「ありがとう!!ノアお兄様」

 公爵は昔からこのパターンで逃げられなかったことを思い出して遠い目になった。


読了ありがとうございました。

誤字脱字、言葉使いの間違いなどがありましたら、お知らせください。

ちょっと感想でも書いちゃおうかなと思ったら、ぜひ書いていただけるとうれしいです!!


メイン連載「天使の前髪」がまだ終わっていないというのに

ついつい息抜きのつもりで異世界物を書き始めてしまいました。

「天使~」を優先させますので、こちらは当面不定期更新になります。

ご了承ください。

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