12:異世界滞在4日目-2
植物園に行こう。の巻
ノアさんが行きたい場所と言うのは、王都にある植物園だった。
「ガイド本によると、中にはお茶が飲めるスペースもあるそうだ」
ノアさんが植物園とは。てっきり城見学かと思ったら。
「城は毎日通ってるし、館は住んでるからな。ま、ミオが見たいというならつきあうぞ・・・ただ、申しわけないが、当公爵家は本邸も王都の館も現在改装中でな。すまない」
私たちの話を聞いていたライナスさんが、何かを言おうと口を開いたもののノアさんの顔をみて、あわてて食器を片付け始めた。
私には未だにノアさんの機微は謎だけど、どうやらライナスさんの様子からみて、ノアさんの意に沿わないことを言おうとしたようだ。
「残念。じゃあ、ノアの家以外の館見学にはつきあってくれる?」
「ああ、かまわない。ところで、お茶を飲んだら出かけないか?」
「うん、いいよ」
ノアさんの言葉を聞いたライナスさんがお茶のしたくを始めた。
この国の交通手段は一般的に徒歩と馬車らしい。魔法が使える人は移動魔法を使うそうだ。
というわけで、初めての馬車!!
まるで、あの名探偵の時代に紛れ込んだようだ・・・窓から見える景色から私は目が離せないでいた。
馬のひずめの音が床に響き、ちょっと揺れるもののクッションがかなりいいのか、お尻も痛くない。
「そんなに面白いか?」
「うん!私のいる世界とは全然違うもの。馬車に乗るのも初めてだし」
「ミオの世界では馬車はないのか?」
「あるけど、日常的に乗るものじゃないよ」
「なるほど。そろそろ到着するぞ」
馬車のスピードがゆっくりになって、ゆるやかに停車した。
私が降りようとすると、ノアさんがなぜか制して先に降りた。そして、私に向かって手を差し出す。
「ん?」
「女性が馬車で乗り降りするときは人の手を借りるものだ。私の手を取れ、ミオ」
こ、これは「お手をどうぞ」ってやつ??でも、確かに馬車の階段(?)って、この国の恰好だとちょっと乗り降り厳しいよね。あ!それでさっき私が一人で乗ったとき御者さんが微妙な表情をしたのか!!
いや~ん、お姫様みたいっ!でもそうなると、ノアさんが王子様か・・・ま、まあイケメンだから、いいか。
「ミオ。さっきから顔が面白いが、さっさと降りてくれないか」
「う・・・ご、ごめん」
私はあわてて、ノアさんの手の上に自分の手を重ねた。
「もともと、この植物園は薬草の研究をするために王宮付属の治療士学校が、当時の国王に願って作られたものだ。だから最初は薬草と穀物しかなかったらしいのだが、王妃が植物の好きな方で国王が国内外からさまざまな植物が集めさせたそうだ」
「へー、王妃様のためになんて素敵~」
「まあ、その国王には側室が30人いたらしいが」
「・・・・その情報はいらなくない?」
「楽しいこぼれ話じゃないか」
最初はクロンヴァール公爵の突然の来訪に驚いた植物園の職員さんがガイドを申し出たんだけど、ノアさんが個人的に来たからと断った。
あの職員さん、ノアさんにびびってたな。怖い人じゃないのにって思った自分は既に感化されているかも。
展示されている植物は、私の生活している世界とほぼ同じものが多い。ただ、難しいといわれている「青いバラ」が、いろんな青色系バージョンで咲いているのには驚いた。
「うわあ、青いバラがたくさん!!え、紺色?スカイブルーまである!!」
「なんだ。珍しいか?」
「だってさ、私のいる世界では青紫色に近いものがようやく開発されてニュースになったんだよ。結構前の話だけどね」
当時まだ子供だったけれど、祖母が「まあ、青いバラが咲いたの」って驚いていたからよく覚えている。
「なるほど、ミオの世界より進んでいるものもあるのだな。面白いな」
そう言って、ノアさんはすこしだけ唇が動いたような・・・も、もしや笑ったのだろうか。うーん、わからん。
「なに見てる」
「な、なにも?・・・あ、ノア。薬草と穀物展示だって。見てみようよ」
私は話をそらした。
読了ありがとうございました。
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