10:異世界滞在3日目-2
庭園に行こう。の巻
発見。ノアさんとの昼食は気楽だった・・・意外だ。特に何を話すでもなく食べてただけなんだけどなあ。
うーん、もしかして私、ノアさんに馴染んだのか?認めたくないけど。
「ミオ。用意はできたか?」
「は、はいっ」
「もっと気軽に話せと言ったはずだが」
「ノア様、ミオ様はまだこちらに来て3日です。あまり急かすと嫌われますよ?」
ライナスさんがフォローしてくれるのはありがたいんだけど、その言動に引っかかりを覚える。で、それを聞いて「それもそうだな」と納得してるノアさんもどうなのよ。
まあ、互いにいい印象を残しておきたいって気持ちは分からないでもないか。忙しいのに無理して時間を作ってくれてるんだもんね。ふむ、だったら私も無理なんて言っちゃだめだ。
「わかったよ、ノ・・・ノア。もっと気軽に話すようにするね?」
そこで主従がぴたっと固まった。自分でノアと呼べといっておいて、呼ばれたらその態度かいっ。
「よかったですねえノア様!!これは大奥様にご報告しないと」
「・・・・なるほど。オディロン先生かと思ったら・・・ライナス、お前か」
あ。ノアさんが何か黒いのが漂ってる感じがするー。
「わ、私は少々用事を思い出しました。ミオ様、それでは失礼いたします」
ライナスさんは慌てた感じ(でもその動きは洗練されていた)で部屋から出て行った。
「あのー、ライナスさんはどうしたの?」
「気にするな。さて、今日は王宮の庭園でいいのか?城下に出てもいいのだぞ」
「んー、私お金持ってないから・・・いや、持ってきてはいるんだけど私の国のお金、ここでは両替できないでしょう?」
「確かに異世界のお金はここでは使えない。私が出しておこう」
「えっ、だめだよ。だって、返済するにもお金が・・・」
「戻ったらミオの住んでいる世界がどのようなものか分かるものを送ってくれないか?アニーに連絡してくれれば、オディロン先生がミオのところに引き取りに行くから」
「それって、地形とかが知りたいの?」
「先生やアニーが行って楽しかったという世界にどんな国があるのかを知りたくてな」
それならインテリアとしても飾れる素敵な地球儀を送ろう。使い方を書いたカードをつければいいか。
部屋を出るとノアさんと並んで庭園に向かう。
それにしてもすれ違う人たちの様子がノアさんを見ると、びくっとして顔がひきつるのはいかがなものだろうか。
そりゃ「顔無し公爵」って呼ばれる人だからさ・・・でも、ひどくない?
「どうしたミオ?怖い顔して」
「へっ?なんでもないよ」
怖い顔に怖い顔って言われちゃったよ。
案内された庭園は四方を生垣と花壇に囲まれて、芝が青々としている。図書室から見えたのは、その一角だったらしく全体はとても広いものだった。
「うわー、広いですねえ」
「公開されている表の庭園はもっと広いぞ。ここは限られた者しか入ることはできない」
「へー、そうなんですか?あ、あそこにある部屋はなんですか?」
それは庭園に面していて閉め切ってはいるものの、そうとう広そうな部屋だった。
「あれは大広間。パーティーやレセプションに使われる。そばに小さい噴水があるのだが、大広間を使うとき以外は水は出てない。行ってみるか?」
「うん」
近寄って実際に見た「小さい噴水」は、大きめな公園にある立派なサイズなんですが。これって育った環境の違いですか。
「水出ているところ見てみたいなあ。きっときれいなんだろうね」
「まあ、きれいなんじゃないのか。私は挨拶と会談で忙しいから分からないが」
「えー、きれいなお嬢様方とダンスとかしないの?」
「・・・・ダンスは教養として教わるから一応踊れるが・・・ミオは踊れるのか?」
「私の国ではダンスは娯楽の一つだから好きな人はできるけど、私は踊れないよ」
「なんだ、踊れないのか」
ノアさんが人の顔をみてちょっと鼻で笑った(憶測)。
「む。悪かったわね」
「おや、ノアが女性とデートをしている。珍しい風景だな」
現れたのはボルドーの短髪を後ろになでつけて、黒褐色のスーツの上に灰色のインバネスコートを着た男性だった。背は、ノアさんと同じくらいで目は琥珀色。
「カール!お前、アニーの警護はどうした」
カール・・・あ、午前中にオディロン先生が言ってた人かな。もしそうだとすると、ノアさんの親友で王宮の警護担当者のはず。
「オディロン先生が陛下たちと会食してるからな。あそこではあの無才は何もできんよ。それより、お前こそデートか?よかったなあ、俺心配してたんだよ」
「・・・・彼女はそんなものではない。アニーの客だ」
「えっ・・・あ、もしかしてミオ?」
急にこっちを見られて驚く。いきなり呼び捨て・・・ああ、やっぱり類は友を呼ぶのか。
「そ、そうですけど?」
「いきなり名前を呼んで悪かった。俺はカール=クリスティアン・ブライトナー。名前が長いからカールと呼んでくれ。ノアとは幼なじみなんだ。
アニーのことも小さい頃から知ってるものだから、きみのことは“私の親友”なんだとシャシンを見せてもらっていてね」
「あ、そうなんですか。初めまして、ミオ・オダジマです」
その後、流れでアニーからノアさんが私のガイドを“王女命令”で引き受けることになった話をカールさんにしたところ、アニーらしいなと腹をかかえて大笑いしていた。
「仕事と結婚したようなお前を心配してのことだろ?俺も暇だったら同行するんだけどなあ」
ちらりとノアさんの表情を伺ってみるけど、だめだ。さっぱり分からない。
だけど、本当に迷惑だったら誰かにガイドを交代してもらうようにアニーに頼んでみようかな。
「ミオ。大丈夫だよ、ノアはアニーの命令を迷惑に思ってないさ」
ふいにカールさんが私に話しかけてきた。
「え?」
「こいつはね、いくら陛下やアニーから命令されたってそれが嫌なら断るくらいは平気でする男なんだよ。また誰もそれを咎めたりしない」
「そ、そうなんですか?」
「ノアの喜怒哀楽が分かることにかけては、俺は年季入ってるからね」
そう言うと、カールさんは私に軽くウインクをしたのだった。
読了ありがとうございました。
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ライナスは執事の息子で、ノアの年下の幼なじみのようなものです。
ですが、使用人でもあるのでノアのお母さん(大奥様)から
息子の様子を聞かれれば答えざるを得ないってことです。