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2-1 優しき殺人鬼



 「うお~、これが街か!」


 目の前に広がる大きな建物の並んだ景色。

 ヨルト、只今初仕事に出向いております。


 「おいこらガキ、大人しくしてろ」

 「初めて見たんだ、こんなに広い集落」

 「集落って…。他に言葉ねえのかよ。…まぁいい、行くぞ」

 「あっ、ちょっと待てよ」


 ガキって言われたって、やっぱり珍しいのは珍しいんだ。

 ラゼルの後を追いながらも、僕はめまぐるしく変わる景色に目移りせずにはいられなかった。


―   ―   ―   ―   ―   ―   ―   ―   ―


 「仕事!?」

 「そうだ。初仕事なんだからシャキッとしろ」


 死神見習いとなったあの時から、多分二日くらい経った。

 多分って言うのは、今僕がいるこの場所には時間概念がないらしいからだ。

 まぁ、ここがどこなのかもよく分かってないんだが。

 とりあえず、死神の本拠地ってとこだろう。

 ラゼルに聞いても「家だ」としか言ってくれないし。


 「おら、これ着ろ」

 「なっ、いきなり投げるなよ! ……って、これって」


 黒いマントだ。

 ラゼルがいつも着ている物と同じものだろう。


 「何だ、このマント??」

 「言わば制服ってとこだな。仕事に行く時はこれを着るルールなわけ」

 「全員このマント着てるのか?」

 「制服なんだ、当たり前だろ。この黒マント着てる奴は全員死神だ。見かけたら大抵仲間だって思っていい」


 今更だが、僕はまだラゼル以外の死神に会ってない。

 と言うか、この部屋からまだ出たことがない。

 部屋を出ようとした瞬間、俺がいいと言うまでここから出るな、って止められた。

 だから僕はこの部屋以外の事を何も知らないし、死神のことも何も分かってないわけ。

 そんな状態の僕に当たり前って言われたって……。


 「まだ、何も知らないのに……」


 つい本音が口に出てしまった。

 慌てて口を押さえたが、既に遅かった。


 「知識がありゃいいってもんじゃねえ。それに百聞は一見にしかず、だ。今のお前には経験積む事の方が大事なんだよ」

 「だけど、少しくらい基礎みたいなの知ってたって良いじゃないか! このまま仕事行ったって…役に立てるわけないだろうし…」

 「お前に役に立ってもらおうなんざ、これっぽっちも思ってねえよ」

 「なっ……」

 「見習いはただ見てるだけでいい。学ぶのが見習いの仕事だ」


 不覚にも今、こいつをカッコいいと思ってしまった…。

 いや、こいつがカッコいいんじゃなくて、言葉がカッコいいだけだ。

 絶対そうだ。


 「とにかく、ぐだぐだ言ってねえでさっさと行くぞ」

 「分かった、分かったから蹴るな! だけど、仕事ってどこに行くんだよ?」

 「テルタスって街だ」

 「まち? まちって何だ?」

 「お前街も知らねえのか!?」

 「だから、まちって何だよ?」

 「埒があかねえ…。いいから黙って着いて来い」

 「おいっ!」


 連れて行かれた先は大きな扉の前。

 きっとこれは玄関だ。

 この先がどうなっているのか、僕にはさっぱり見当が付かない。


 「ラゼルの名において開門せよ。行き先、テルタス。ヨルトを俺の見習いとして新規登録。これより任務開始」

 「扉に向かって何ぶつぶつ言ってるんだ? 大丈夫か?」

 「こうしなきゃ外には出れねえんだよ。お前も、いずれは覚えることになる」

 「面倒なことしてるんだな」

 「もたもたしてっと置いてくからな。行くぞ」


 扉は勝手に開いていった。

 眩しすぎる光に包まれ、思わず目を覆う。

 光が弱まりようやく視界を取り戻した時、僕の目の前には大きくて四角い建物がたくさんそびえ立っていた。


 「ここは…これは……?」

 「これは家だ。石で出来てる。こい、こっちの方が全体を見れる」


 新しく視界に映ったのは幾分か小さく見えるさっきの建物。

 そして光を反射する道、所々見える緑、行き交う多くの人々。


 「うお~、これが街か!」

 「おいこらガキ、大人しくしてろ」

 「初めて見たんだ、こんなに広い集落」

 「集落って…。他に言葉ねえのかよ。…まぁいい、行くぞ」

 「あっ、ちょっと待てよ」


 まだまだ見ていたかった。

 見る物全てが新鮮で、何故だか懐かしい気もする。

 久々に、ラゼル以外の人を見たのが嬉しかった…のかも。


 …………久々?

 初めて、の間違いじゃないのか?

 何だ、この気持ち悪い感じ。

 頭の中が…かき回されてるような……。


 「おい、しっかりしろ」

 「……ぁ、あぁ。ここは?」

 「俺たちの宿。宿の確保は何より重要だ。ちゃんと覚えとけ」

 「仕事は? 今日はもう休むとか言わないよな!?」

 「焦んなって。宿に荷物置いたらすぐ情報収集だ」

 「情報収集? というか、そろそろ仕事の内容教えてくれたっていいだろ」

 「……そうだな」


 仕事の内容を要約すると、こうだ。

 僕たちはある人間を探している。

 その人間が決められた死に方をするように見守らなくてはならないらしい。

 僕たちはあくまでも見守るだけ。

 余計な感情移入は一切必要ない。

 仲良くなった所で、その人間の死に苦しむだけだから。


 「で、こうやって地道に探すしかないってことか」

 「俺たちに与えられた情報はそいつの外見の特徴と死に方だけだ。名を頼りにすりゃ一発で身元が分かるが、名を知ることで親近感を持つ奴もいる。だから、俺たちに名は明かされない」

 「もし、そいつの名前を知ったら?」

 「別に何かあるわけじゃねえよ。そん時は、必要以上に関わらないようすりゃあいい」


 必要以上に関わらない、か。

 どうせ見守るって言っても数日のことだろうし、そんな仲良くもなれないだろう。


 「くそっ、こうも人が多いと探しづれえ! 二手に分かれるぞ。疲れたら自分で宿に戻れ。俺はそれなりの情報が集まりゃ戻っから」

 「1人で探すのか!? 特徴は!?」

 「この紙に全部書いてある。持ってけ。じゃあな」

 「おい! おい、ラゼル!」


 本当に置いて行きやがった……。


 「いきなり単独行動とかさせるか、普通? え~っと、髪は黒、目は薄めの青、身長やや高めか。メガネ着用。性格は……大人しい? 何だこれ。性格まで書いてあるのか……」


 でも本当にこれだけ。

 こんなんで逆に見つけられるのか?

 それに……。


 「こいつの死に方……うわっ!」

 「いたっ…あたたたた」


 紙を読むのに夢中で前から歩いてくる人に気付かなかったらしい。

 向こうもこっちに気付いていなかったみたいで、思いっきりぶつかった。


 「すいません、前見てなくて」

 「いや、こちらこそ」


 優しそうな人だ。

 細身で頼りがいがなさそうだが、きっといい人だろう。


 「大丈夫ですか?」

 「うん。君の方こそ、怪我がなさそうでよかった。じゃあね」

 あ、あの人メガネかけてたんだ。

 メガネ吹っ飛ぶくらいぶつかったんだな。

 それをあっさり許してくれるなんて…。


 ……僕も師匠にするならあんな人がよかったなぁ。


 「おいガキ、何やってんだ」

 「ラ、ラ、ラゼル!? いや別にあんたがもっと優しかったらとか思ってないし! 全然、全然!!」

 「はぁ? お前何言ってんだ? まぁそのことは後で聞くとして、よく奴を見つけたな」

 「……奴?」

 「今回のターゲットに決まってんだろ」

 「……どこに?」

 「寝ぼけてんのか!? お前の目の前だよ!」


 目の前にいる人といえば、今はさっきぶつかったあの人だけ。

 あの人が……?


 今になってハッと気付いた。

 特徴を思い出せ。

 髪の色、黒。

 やや高めの身長。

 メガネ着用。

 目の色は…はっきりと見てはいないが、きっと青かった。


 「あの人が…ターゲット……」


 あんな優しそうな人が近々死ぬ?

 それも……。



 多数の恨みによる撲殺で……。





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