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 「で、ここはどこなんだよ」

 「そう睨むなって。俺だって鬼じゃねぇんだ。ちゃんと説明してやるよ」


 今僕は石造りの、まるで牢獄のような部屋にいる。

 というか、連れて来られた。


   ―   ―   ―   ―   ―   ―   ―   ―   ―


 「し、死神見習い? 何の話だ?」

 「ったく、奴め。何も言わず連れて来よったな」


 よく覚えてない。

 どうやって僕はここまで来たんだ?

 そもそもここはどこなんだよ。

 部屋…のはずだが……。

 暗いだけなのか、それとも色が黒なのか。

 僕と黒マントの頭上にしか明かりはないみたいだ。


 「奴のことだ、我々が何を言っても聞きはしまい」

 「だがこいつは奴が連れてきた。こいつのことは全て奴に責任がある」

 「ならば奴に任せるとしよう。全てな」


 何を言っているのかさっぱり分からないが、話されているのはきっと僕のことだ。

 それに奴って…?


 「誰か、ラゼルを呼べ。今すぐだ」

 「俺はずっとここだぜ」


 いつからそこにいたのか、背後からいきなり白髪の男が現れた。

 って、ずっといたのかよ!


 「あんた、いるならいるって」

 「んじゃ、手続き済んだならこいつは連れてくぜ」

 「……好きにしろ。どうせ我々が何を言っても無駄なんだろうからな」

 「よくご存知で。行くぞ」

 「お、おいっ!」


 それからどうやってその空間から出たのか分からない。

 突然目の前に穴みたいなのが現れて、気付いたら外に出ていた。

 そして、今に至る。


  ―   ―   ―   ―   ―   ―   ―   ―   ―


 「ここはどこなんだ? 死神見習いって何だ? あんた一体誰なんだよ」

 「そうごちゃごちゃ喚くなって。一応お前病み上がりなんだぞ」

 「あんたが言うな!」

 「まぁ……どこから説明すっかな」

 「…あんた……誰なんだよ」

 「俺か? 俺はラゼル。死神」


 まただ、また死神って。

 平然と言われたってこっちは分からないんだって。


 「死神ってのはお前もよく知ってるだろ。魂を奪う者。導く者。悪魔。天使。何でもいい」

 「あんたは、その死神なのか?」

 「一応な。今日からお前もそうだ」

 「何で僕が死神なんだよ」

 「俺がお前を選んだ。お前は死神見習いとして俺を補佐し、経験を積む。んで、一人前の死神になるってわけだ」


 補佐? 経験? 一人前?

 僕が……選ばれた?


 「何で、僕を?」

 「……さぁな」

 「それに僕は死神になるなんて一度も言ってないぞ!」

 「じゃあ、また死ぬか?」

 「また……? そういえばさっきもそう言ってたな。僕が、もう死んでるって」

 「今、お前の魂はその仮の肉体があるおかげでこの世にとどまっていられてる。だが、それはお前が見習いでも死神だからだ。もしお前が死神になることを拒否すれば、肉体はお前の魂を拒否し、拒否された魂は行き場を失い消滅する。つまり、死だ」


 死神になるか、死ぬか。

 僕に残された道はこの二つしかないってことか。

 どうして……こうなったんだ。

 いつ僕は死んだ?

 どうやって?


 「なぁ、あんたは知ってるのか? 僕がどうやって死んだのか」

 「それを知ってどうする」

 「……もしかしたら、思い出せるかもしれないってさ」

 「何を?」

 「……分からないんだ、自分のことが。名前も、どこで生まれたのかも、親や友達のことも」


 違和感は感じてた。

 気付いたのはついさっきだ。

 死んだ時のことを思い出そうとした時。

 何も、何も思い出せなかった。


 「ここにいる連中はみんなお前と同じだ」

 「みんな? みんなってどういうことだよ」

 「死神には掟がある。そのうちの1つだ。俺たちは誰一人、生前の記憶を持っちゃいねえ。死神に選ばれた瞬間、記憶は消される。何もかも。記憶が戻ることも稀にあるが、戻ったとしてもそいつは処刑される」

 「記憶を持つことがそんなにいけないのか?」

 「どうだろうな。知らねえよ」

 「あんたも記憶がないのか?」

 「……さあな」


 視線をそらすと同時に白髪が隻眼にかかった。

 何か大きな秘密を持ってる、そんな雰囲気だった。


 「で、どうするんだ? 見習いとして俺と来るか、それとも今すぐ消えるか」


 鋭すぎるほどの視線がまた僕に向けられた。

 思わず息が止まる。

 心臓がこれでもかってくらい脈打ってるのが分かる。

 情けないな。


 この選択が全てを決める。

 このまま消えれば楽だろう。

 死神なんて訳の分からないものになれば、それこそ何が起こるか分からない。

 …僕は……。


 「あんたといれば、何か思い出せるかもしれない」

 「思い出した瞬間に処刑決定だがな」

 「あんたが守ってくれるんだろ?」

 「お前なぁ」

 「このまま消えちゃいけない気がするんだ。それに、わざわざあんたに選んでもらったわけだし」

 「後悔はしないな?」

 「他に道はないんだろ?」

 「それでこそ、俺の見習いだ」

 「で、あんたのことは何て呼べばいいんだ?」

 「ラゼル様、ラゼル先生、またはラゼル師匠」

 「ラゼルでいいな」

 「お前ってたまにすっげえ冷静」

 「ほっといてくれ。で、僕は……」


 僕の、名前は……。



 「ヨルト。今からお前の名はヨルトだ」



 「ヨル、ト…?」

 「不服か?」

 「あんた、えと、ラゼルが考えてくれたのか?」

 「まぁ、俺の見習いだからな」


 ヨルト。


 今日から僕は、死神見習いヨルト。





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