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いいこと。

作者: 大蔵 富造

ちょっと暴力描写があります。死人も出ます。


主人公は三途の河に行きますが、ホラーといえるほどのものではないと思っています。ホラーファンタジー? ダークファンタジー?

 彼は大学を卒業し、サラリーマンとなり、早8年。

 就職難だったため、社員大量募集の大手企業に入ることができた。これで安泰と思っていたのも束の間、有能な同期が多すぎて彼は埋もれていった。今となってはただただ言われるだけの仕事をこなしていた。その仕事も同期の部長課長から降ってくる。


 家賃・生活費以外にも貯金ができるぐらいの給料は貰えているし、不自由はない。不自由がない状況だからこそ欲が出る。そして、成功者が羨ましく、疎ましくなる。彼は周囲の人間からすれば大手企業に勤めているから成功しているように見えるだろう。でも、同期に負けるただの凡人である。アルバイトでも教えればできるような仕事をしている。彼はなんだか死にたくなった。


 彼は有り余る有給を使って実家に戻っていた。このまま平平凡凡と生きるか、それとも死んでしまうか。それを考えるために実家に帰った。彼の実家は港町で漁師を営んでいる。港町といっても観光地でもなく、漁港紹介のようなテレビ撮影が来るわけでもない。誰も知らない潮騒の音しかしない寂れた田舎の漁村である。こんな田舎だからこそ、両親は彼が大手企業で働いているのが誇りだった。そんな両親を見ているうちにもう一度頑張ろうと、死ぬ気なんかなくなった。


 翌日、彼は早起きをして漁港へ向かった。水平線から上がる太陽が勇気を与えてくれるかの如く激しく光り輝き、守ってくれるかのように暖かい日差しで全身を包み込んでくれた。大きく背伸びをした彼は家に戻ろうと振り向くと外国人がいた。

 こんな早朝に。こんな田舎に。背が高く、日本人より肌が白い。田舎に似合わない金髪。バックパッカーなのかリュックサックを背負っている。だが、ジーンズにジャケットという恰好は少し疑問を感じる。

 外国人は彼に気づき、屈託のない笑顔で近づいた。日常会話なら理解できる彼は外国人が道を尋ねてきたことを理解した。


 リスニングはできてもトークができない彼は外国人が持っていた地図を指さしながら、汚い発音で何とか教えてあげた。こういうところが同期に追い抜かれる理由なんだろう。トークもできるように努力しなかった自分に原因があったんだ。彼は前向きになっていた。

 外国人も行き先を理解できたらしく「アリガトウ」と調子よく片言の日本語で礼を言い、目的地へと去って行った。


 朝からいいことをしたが慣れない英語になんだか疲れた、などという心地よい疲労を感じながら家を目指した。思い返せば外国人はなんでこんな田舎にいたのだろう。しかも目的地は住居だ。神社仏閣巡りというわけでもないし、そもそもこの田舎には観光できるものもない。

 不思議に思っていると『ブオォォー』と耳になれない音が聞こえる。彼は立ち止り、辺りを見回す。山の方から鳥が数十羽飛び立った。

 それを見ていた彼は後ろから近づいた『ブオォォー』という音に轢かれた。


 彼は宙を舞い、地面に叩きつけられた。地べたに頬を擦りつけながら目にしたのは真っ赤に輝くスポーツカー。都会にいれば車だと気がついたであろうエンジン音。田舎においては説明しづらいただの異音と思い、車の存在に気がつかなかったのだ。


 運転手が降りてきた。さっきとは別の外国人だった。彼に近づくこともなく、立ちつくすスーツ姿の外国人。彼を見ていたが車に戻るとエンジン音を高らかに響かせて、走り去ってしまった。

「助けてくれないのかよ。俺はあんたと同じ外人を助けたのに」

 彼は死を予感した。

「死のうなんて思っちゃいけないんだな」

 全身を強打した彼は身動きできず、もう生き伸びようという気持ちも湧かなかった。どうしても生きれるわけがないと本能的に感じたからだ。

「死ぬ前にちょっとだけいいことしたもんな。天国に行けるさ」

 全身に響く痛みを感じながらも彼は安らかな死に顔だった。


 息を引き取った彼は気がつけば砂利の上に寝ていた。起き上がって手に付いた砂利を払いながらよく見れば河原だった。これが有名な三途の河原だと直感的に感じた。晴れでもなく、曇りでもないなんとも微妙な天気の中、彼と同じく死者と思われる人間たちが全速力で河に向かって走っている。

「よく聞け死人ども! お前たちを恨む奴らが追っかけてくるぞ! 追いつかれれば報復を受けるだろう! 報復を受けたくなくば走って河を渡るがいい! だが、お前が報復相手を探してもいいぞ! 報復を受けるが覚悟がある者はここに残って報復したい相手を探すがよい!」

 体が大きく、人ではない者がそう叫んでいる。彼は思った、あれが鬼だろう。でも、絵で見る鬼とは違う。


 とにかく鬼らしきそれが言う言葉を聞いた死者たちは大急ぎで走る。中には報復される覚悟で残っている者もいた。河原は広く、なかなか河までたどり着かない。走る者の中には疲れてへばっていたり、追いかけてきた報復者に捕まって殴られたり、爪を立てられて皮膚を裂かれている者もいれば、体中を噛みつかれている者もいる。怒号と絶叫が響き渡る。

 面白いのは報復者を追っかけてきた報復者が混ざり、さらに報復者が混ざり、一団となって乱闘している。それがあちこちにある。彼はそれをサーカスを見るように眺めながら周りに合わせて走っていた。


「そうか、俺も報復していいんだよな」

 彼は自分を轢いた外国人を走りながら探した。しかし、見つからない。

「まだ死んでないのかな」

 他に恨む相手を探してみたが、いないことを悔やんだ。なんて平凡で地味な平和な人生だったんだ。

 誰からも襲われることもなく、ジョギング感覚で河へと着いた。しかし、そこに三途の渡し船はなく、向こう岸までまた走らなければならないらしい。水かさはせいぜい膝下ぐらいで河の幅もまた長い。河の中でも報復に遭っている死者たちがいる。


 彼は河の中へ足を入れた。冷たくもなく、熱くもない。その時、後ろから何者かに押され、水中に頭を抑え込まれた。もがいて何とか頭を上げ、息を切らせながら振り向くと見たこともない知らない女がいた。

「誰だ、あんた!」

「お前が案内した外国人に殺されたんだよ。お前がいなければなぁ、あたしは――」

 女は叫びながら彼を襲う。知りもしない女に報復される。彼が女を殺したわけではないのに。彼は怒りを感じた。力いっぱい女を蹴り飛ばした。バカバカしいと彼は河を渡ることを決意したが、次の瞬間、横からタックルを食らった。それはあのスポーツカーの外国人。彼を襲った女の彼氏だった。


 彼が道案内した外国人は彼を襲った女の元彼でストーカーに成り下がり、あんな田舎まで追いかけて女を殺した。スポーツカーの外国人は女の新しい彼氏だった。彼を牽き殺してまで女の元に急いで駆け付けるも時遅く、女は殺されていた。犯人もいなくなったあとで、外国人は女を抱きしめながら自殺をしたそうだ。

 最後に彼はスポーツカーの外国人を一発殴ってやった。そのあとは2対1で報復を受け、河を渡ることはできなかった。

いいことをして報われることって少ないですよね。

本人はいいことをしたつもりでも他人には悪いことになっていたりして。


この話では度が過ぎてますけどねw

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