第五話
「木島、部活…」
「ごめん。今週休む。」
「冴さん帰ってきたんだっけ?」思い出して波多野はポンと手を打つ。
「なんか予定より早く帰ってきたんだよね。」
「台風帰還、ってとこか。」
「笑い事じゃないよ。」もう、と都は口をへの字に曲げる。
「相変わらず、思い立ったら即行動なんだもん。」
らしいなー、と波多野大地は笑った。
すっかり背が伸びて男前の体格になったが、人懐こい笑顔は保育園時代と変わらない。幼馴染と言ってもあまり接点はなく、言葉を交わすようになったのは高校でクラスと部活が一緒になってから。でもそうやって接点が出来てみれば、同じ趣味を持つもの同士、気安く話をすることが出来るのが楽しくもある。
「部長には言っとくよ。ま、落ち着いたら来いや。」
波多野の言葉に感謝しつつ、カバンを掴むと学校を飛び出す。
急いで家に帰り自室に入ると、床に恐竜の縫いぐるみが転がっていた。
もぞもぞとベッドカバーが動いて銀竜が顔をのぞかせる。どうやらそこで寝ていたらしい。都を見つけると嬉しそうに飛びついてきた。
「ただいま、コギン。」
きゅう、と鳴いて都に顔をすりつける。
「今、ごはんあげるね。」
制服のまま、小さな竜を肩に乗せてキッチンへ連れて行く。
基本的には何でも食べると聞いたので、弁当を作るときに取り置いてあったおかずと、帰りに買ってきたパンをトレイに並べる。その一つ一つの匂いをかぎながら、コギンが小さな手で掴んで食べるのを都は眺める。
生き物を飼うのは小さい頃に買ってもらった金魚以来だが、金魚以上に意思の疎通が出来るのが嬉しい。
考えてみれば小さい頃から母と冴との三人暮らしで、家に出入りするのは仕事に関係した大人ばかりだった。自分より小さい存在と接する機会がなかっただけに、この小さい竜との暮らしは新鮮に感じる。こうして自分を待っていてくれるのもだが、恐竜の縫いぐるみにぴったり寄り添い、小さな腹を上下させて眠る姿を見ると素直に可愛いと思える。もちろん責任感という重圧はあるが、それ以上に充実感を得ているのは確かだ。
身づくろいを終えたコギンがふわりと舞い上がる。都の頭にしがみついて髪の毛をいじる。
「引っ張らないで。」
今度は膝に舞い降りる。
幸い昼間は冴がいないので、こうして自由にさせることができる。今はまだ飛ぶのも上手くないのでこのままでもいい。
けれど…と都の表情が曇る。もう少し大きくなった時に、隠しきれるだろうか?
「やっぱりどこかで独立しないとだめかなぁ…」ふぅと溜息をつく。
二年前に唯一の肉親だった母親が死んだ時、冴は都に、「今更遠慮なんてしたら怒るわよ。」と言ってくれた。そのおかげでこうして一緒に暮らしているが、果たしてそれはいつまで続けられるのだろう。竜杜との一件もそうだが、コギンのことを思うとずっとこのまま…とはいかない気もする。かといって今の自分にどうする事ができるだろうと考えると、行き詰ってしまう。
都の不安な気持ちを察知したのか、コギンが首をかしげて覗き込む。
「大丈夫。」都は白い身体を抱き上げて、目の高さまで持ち上げた。
「物事はなるようになるって、お母さんが言ってたから。きっと大丈夫。」
ね、と子供をあやすように金色の瞳に言って聞かせる。
その言葉に安心したのか、コギンは目を細めて小さく鳴いた。
とりあえず、この話と次の話は3日にいっぺんを更新目標に進めます。




