日食
2012年5月21日午前7時29分49秒、金環日食。
大阪では最大食分を迎えていた。
その数分前、機材の最終確認をしている面々が、高校のグラウンドにいた。
「確か、直接目で見ちゃいけないんだったな」
天文部である、高校2年の井野嶽桜は、同級生で同じ部活に属している澤井陽菜と島永宗谷と一緒に、金環食を観測していた。
「そうそう。直視は厳禁。見るんだったら、日食グラスを通してみることだね」
澤井が島永に言っている横で、桜が着々と準備を整えていた。
「日食グラスも、ひび割れとか何か汚れていたりすると目を悪くすることがあるから注意だね」
「それに、ススを付けた下敷きとか、昔ながらの方法は大概だめらしいね」
桜は、何も言わずに、機材をセットし始めた。
「科学の進歩で、より安全にみる方法が開発されたからな。そのたびに、この方法がいいっていうのが出てきて、終わりがないのさ」
「かっこつけるのはそれぐらいにしてさ、島永たちも手伝ってよ」
「ああ、わるいわるい」
桜があらかたの準備を終えたタイミングで、二人に声をかける。
「今日はどうやって観測するんだっけ」
「太陽黒点の観察と同じ方法で。ちょうど前にもやったしね」
「そういえば、日食とか月食とかってどうして起こるんだろう」
澤井が島永に聞いた。
「月と地球と太陽が、一直線に並ぶタイミングだよ。日食は、太陽ー月ー地球が基本構成で、月の位置が太陽よりか、地球よりかによって、太陽がどれだけ隠れるかが決まるんだ。完全に隠れないものは部分日食や金環日食。すべて隠れる場合は皆既日食だね。今回見えるのは金環日食。太陽が完全には隠れずに、周りにふちが見える状態になるんだ。かなりまぶしく感じるから、直視は厳禁な」
「じゃあ月食は?」
「月食の基本は太陽ー地球ー月なんだ。普通であれば太陽からの反射光で月がはっきりと見えるわけなんだけど、地球がそれを隠してしまうんだ。その状態を月食というわけ。月から見れば日食が起きるわけ」
「なるほどねぇ」
そういいながらも、いよいよ食分が最大となった。
その時、島永が澤井に言った。
「こんな風な指輪、君に贈れたらいいんだけどね。そんなことできないからさ、ここでいうよ」
「なにを?」
島永が思い切って一息で言った。
「好きだ。付き合ってくれないか」
「…突然ねぇ」
そこへ桜が観測しながら、突然入り込んできた。
桜の言葉から遅れること数秒、金環食はいまだに続いている。
島永が答える。
「こんなに立派な指輪じゃなくてもいいの。ダイヤモンドリングもいらない。ただ、あなたがほしい」
そういったのだ。
「おめでとう」
桜が小さな声で、二人を祝福した。