クマとBattle!
新年の投稿第1段は連載をほっぽらかしてコメディーです。以前よりはレベルアップしてるつもりです(ハードル上げてどうする)。どうぞよろしく。
ある日、テレビに出てきたクマよけの鈴の音を聞きながら。
ある一定の世界で草薙とかSとか(魔王とか鬼畜とか……他いろいろ)呼ばれてる弟が言った。
「クマが現れた。
コマンド
戦う
必殺技
道具
逃げる
さあどうする?」
突然の質問に、当然戸惑う私。
「え? は? な、何だって?」
本気で私は弟が言ったことが理解できなかった。
弟はもう一度、淡々と文章をただ読み上げるように言った。
「クマが現れた。
コマンド
戦う
必殺技
道具
逃げる」
誰でも聞いたことがある、見たことがあるこの戦闘形式に、私はとりあえずノッてみた。
「え〜っと、道具って何があんの?」
とりあえずなにがあるかを確認しなければ始まらない。
「クマよけの鈴とか、回復薬とか、お菓子とか」
私は内心、
(お菓子!? 食うのかよ!!)
とか思ったが、とりあえず話を先に進めよう。
「…………。
コマンド
→道具
クマよけの鈴」
とりあえず逃げる前に、その準備としてクマの気を引かねばなるまい。そう思っての選択だったが。
「クマはもう臨戦態勢だ。クマよけの鈴は効かなかった。クマの攻撃、水月にだいたい58くらいのダメージ」
私の思いは届かず、あっさりと却下された。
しかもだいたい58って……『だいたい』ってなんやねん。
「ええっ? ……ちなみに、HPの満タンは?」
嫌な予感を胸に抱きつつ、私はおそるおそる尋ねる。
「100」
きっぱりと爽やかに言いきりやがった。
「ダメージでかっ! じゃあ……次のターン、
コマンド
→道具
上着を脱いで熊よけの鈴をくくりつけて、それを投げて逃げ出した」
だんだん戦闘の内にある『一回にひとつの行動しかできない』という暗黙のルールを逸脱し始める。
クマは音のするものなどに興味を持つ。普通は、たとえ遭遇してしまってもそれで気を逸らして逃げることもできるはずだった。
しかし。
「回り込まれてしまった」
弟はあっさりと言った。
「投げた鈴は!?」
私の猛抗議に、Sは目線を逸らして答えなかった。
「………。クマの攻撃。クマは寝転がった」
「…………」
たまーに、あるよね? 攻撃のはずなのに意味のない行動取ったりすることって。
弟の口からボロボロとこぼれるように戦闘メッセージは続く。
「クマは寝転がっている」
「…………」
あるよね。強敵の意味のない行動にほっとしてみたりとか。
意味のない行動をしている内に……私はそう判断した。
「コマンド
→逃げる」
私のその判断は正しかった。
――普通ならば。
「回り込まれてしまった。クマは寝転がっている」
そのメッセージの非情さときたら、もう。
「どうやって回り込んだの!?」
起こりえないはずの現象に、私はもちろんツッコむ。
しかし。
弟はしばし考え、こう宣った。
「………。こう、ごろごろーっと」
その通りに手を動かして説明する弟。
最初の位置から、指先がついーっと半円を描く。回り込む動きらしい。
「えぇえっ!? なにその有り得ない動き!!」
私はさらにツッコんだ。
だが、弟はその鉄面皮をピクリとも動かさず……むしろ、笑みすら浮かべそうなご機嫌で、ビシッ! と言った。
「気にするな」
うおおっ!? なに無駄に男前にきっぱりと!?
弟はそのまま、何事もなかったかのように進める。
「そっちのターンだ」
芝居がかったそのセリフに、私はなにやら複雑な胸中になりつつも、これ以上抗議しても返ってくるのは無視以外に有り得ないと悟り、続けていく。
「コマンド
→道具
お菓子を与えた」
とりあえず、さっきと同様に、クマがそれに気を取られてくれればいい、くらいの気持ちでの行動だった。
だが、それが思わぬ効果をもたらした。
「クマは懐いた。クマが仲間になった。戦闘に勝利した」
なにぃーーーー!!???
「まさかの展開!?」
クマよけの鈴を見ながら始まったバカな話。
−幕−
そしてあとあとの会話。数日後にブログの記事として載せてみようと、二人でその時を思い出しながら書いたそのあとに。
弟はぽつりと言った。
「攻撃してればなぁ……」
ちょっと残念そうに。そして、その後を想像してか、かなり楽しそうに。
私は弟の性格を考え、イヤな想像が脳裏を駆けめぐった。
「ヤだよ、絶対に死ぬじゃん!!」
当然そう答えた私に、
「うん。シールド取ってカウンターするつもりだったから」
当然のようにしれっとほざく弟。
「えぇ!? なにその高性能!?」
クマがシールド!? カウンター!?
「メルブラ性能だから」
またも当然だと言わんばかりの弟。
「んで、ウチ一般人!?」
悲痛な叫びの私に対して、
「うん」
簡単にこっくりと頷く弟。
この『うん』という一言と、あっさり頷くあたりに、弟の非人道的な性格が凝縮されている。
普通にゲーム感覚でやれば、絶対勝てないという前提のもとに成り立つヒドい戦闘。
攻撃しなくてよかった……。
つくづく私は思ったのだった。
−本当に幕−
ノンフィクションです。我が家ではこんな日常が繰り広げられています。ヒドイ家ですね、慣れましたけど。よければ感想や評価などお願いします。