第8話【戦時権限】
閃羽にもスラム街というものがある。
規模としては比較的小さいが、そこに住む人々は廃屋や屋外での生活を余儀なくされ、餓死者は出ないものの最底辺の暮らしを日々生きている。
外縁防壁の修復作業という、毎日やらなければならない仕事があるため雇用の問題はほとんどないのだ が、それでもあぶれる人間はいるもの。
彼らは自らの意思でここにいるからだ。自らの意思で働かないからだ。
「あ~~~……あ~~~……」
「死ぬんら~~~……どうせみんな死ぬんら~~~」
スラム街……そこに住む人間というのは、基本的に心の強さを表す指数がFランクの人間。
彼らは常に弱く、明日に対して希望を見出せない。そして自らの意思で未来を切り開こうとしない。
―――社会不適応者……人間の失敗作……弱い心を持つ最底辺の人間―――
そのスラム街の一角に、黒いフードに身を包む怪しい男がいた。
その男は、スラム街の人間を人気のない裏路地に連れ込み、暴行を加えていたのだ。
「ゴミが、ゴミが、ゴミが、生きている価値のないゴミがっ!!」
吐き捨てるように叫び、無抵抗な貧民に容赦ない暴行を繰り返す。
「イテぇ……イテぇよぉ……」
「ゴミがしゃべるなっ。ゴミのくせにっ、ゴミのくせにっ、あいつはぁっ!!」
「ごふっ」
やがて血を吐き出し動かなくなる貧民。
激しい暴行に耐えられなかったのもあるが、もともと彼らは弱く、生きようとする意思が乏しい。
最低限の生存本能に従い痛みを訴えたが、黒フードの男には聞こえていなかった。
「はぁっ……はぁっ……そうだ、あいつはこいつらと同じゴミなんだ……」
何かを確認するように呟く黒フードの男。その目には狂気しか宿っていなかった。
「そうだ……あれは何かの間違いだ……。Fランクは、ゴミなんだから……」
暗く笑い、肩を震わす黒フードの男。
その腰には真っ白な剣の【心器】が提げられていた……。
翌日。
暴行された形跡のある死体が発見されたが、スラム街ではよくあることとして処理された。
何より、この後に起こる事件が、この出来事を些事として塗り潰してしまったからだ……。
◆ ◆ ■ ◆ ◆
最年少ナイトクラス・大和守鎖之の敗北は、心皇学園の隅から隅まで広がっていた。
全校生徒のほとんどが、先日行われた決闘を見ていたのだから当然だ。
そこで気になるのが、大和守鎖之と戦った対戦相手。
相手は誰? どんな奴? 学年は? 何組の? 大和守鎖之と同じか。ランクは? えっ?! Fランク?!
簡単に纏めるなら、いまの心皇学園はこの話題の流れ方が一般的だ。
最年少ナイトクラスを倒した生徒の名前。
すなわち、その名前の主こそがこの学園最強ということになる。
であれば気になるのはその生徒の素性。そしてランク。
このランクに話がいくと、皆一様に何かの間違いではないかと疑う。
そして実際に見に来る訳である。
「今日も私たちのチームリーダーは注目の的だねぇ~~~」
霊が率いる第7チームのメンバー、戯陽朗の一言がすべてを物語る。
廊下側のドアにはひっきりなしに生徒が蠢き、噂の生徒を一目見ようと覗きこんでいた。
まるで珍動物でも見に来たような騒ぎ……当事者である霊は他人事のように思った。
「しかし少々うるさい気もするな。そうは思わんか? リーダー」
「まあね……でもどうしようもないし、何もしなければみんな飽きて居なくなるんじゃないかな」
朗と同じく第7チームのメンバー、針村槍姫の問いかけに、これまた他人事のように答える。
霊にとって気にするような出来事でないのは本当だ。
誰かに迷惑がかかるなら別だが、今のところ問題らしい問題も起きてないので放置している。
何かアクションを起こさない限り、この騒ぎはすぐに収束する……そう思っているのだ。
目下のところ、懸案事項は別のところにある。
「霊くん……難しい顔してますね。やっぱり心配ですか?」
3人目のメンバーにして幼馴染の、純愛こころ。
喧騒を無視する……というよりは他のことが気になって仕方が無いという霊の表情を心配していた。
「うん……警戒態勢が敷かれているのに呑気だなって思って。いつもこんななの?」
「ふむ。大量の【心蝕獣】の発見……それも閃羽に向かっているとの報告。しかしナイトクラスが5人いるからということで、皆安心しきっているんだろうな」
この世界では、基本的に一つの都市で生産から消費のすべてが賄われている。
世界各地に点在する都市と交易をする必要は無く、【心蝕獣】の横行を考えればリスクが大きい。それでも隣接する(数十kmは離れているが)都市間での交易は行われており、互いに技術を交換しあったり、その都市の特産物をやり取りしたりして、発展の停滞を防いでいた。
今回もたらされた、大量の【心蝕獣】の群れの情報。
それは隣接する都市からやってきた行商人たちからのものだった。
これを受け、閃羽の上層部は【閃羽心衛軍】の名の下、警戒態勢を発令。心皇学園の生徒たちには警戒態勢が敷かれ、有事の際には戦線に参戦する可能性が示唆されたのだ。
「過去に何回かあったが、そのいずれもナイトクラスと【閃羽心衛軍】だけで事足りていたからな。現実味が湧かないんだろう」
今まで大丈夫だったから、これからも大丈夫。
その雰囲気は一瞬にして凍りつくこととなった。
教室にやってきた、守鎖之の一言によって。
「みんな聞け! 【心蝕獣】の群れの中にナイトクラスが数体確認され、ビショップクラスも大量に確認された!
これは閃羽存亡の危機に関わるとして、オレたち学園の生徒にも非常招集が掛けられた! よって、ナイトクラス・大和守鎖之の権限において、おまえたちはオレの指揮下に入ってもらう!!」
先ほどとは違うどよめきに包まれる生徒たち。
ナイトクラスの【心蝕獣】に対抗できるのは、ナイトクラスの【心兵】だけ。それが数体も確認された。これは今までに無いほど大規模な群れであることを示している。
「入学したばかりのオレたち一年生は、後方支援にまわされることになる。至急体育館に集まり教官達の指示を仰げ! オレはナイトクラスとして軍と共に迎撃に出る……。こころ! おまえはオレと一緒に来てもらう」
「え……」
「まて大和! なぜこころを連れて行く?」
「分からないのか針村。こころの力は重要な戦力だ。オレと一緒の小隊で戦ってもらう」
無線式誘導兵器による情報収集と味方の援護。多くの役割を一度にこなせるのが【感応者】だ。
しかもこころは、閃羽の誰よりも優秀な資質を持っている。
連れて行く理由としては、分からないでもないが……。
「待ってよ! こころちんはまだ一年生だよ?! 大和くんと違って実戦経験なんかないんだよ?!」
「安心しろよ戯陽。こころはオレが守る」
「ナイトクラス数体相手に、守れる自信がキミにはあるの?」
静観していた霊が、こころを庇う様にして前に立ち、大和を睨み付ける。
「Fランク……この前の『訓練』に勝ったからといって調子に乗るなよ? 『訓練』と『実戦』は違う。
おまえは黙って雑用でもやっていろ」
「決闘じゃなかったんだ」
決闘を無かったことにしようとしている大和に、本当に大丈夫なのかと問いかけたくなる。
負け惜しみにしか聞こえないが、ここで議論している時間は無い。
「なら僕も行くよ。キミを倒した『訓練』の成果を見てみたいんじゃない?」
「ハっ。【心器】もまともに使えない奴を同行させられるものか。足手まといだな」
語弊があるが、概ね間違ってはいない。
普通の【心器】では霊の膨大な【心力】に耐え切れず、オーバーヒートしてしまうのだ。
戦闘中にそのような事態を招けば、巻き添えを出しかねない。
「ナイトクラスとして命令する。御神霊……おまえは待機だ。命令違反は禁固刑。破ってくれるなよ?」
「守鎖乃くんっ! そんなこと―――」
「オレは実戦経験がある。訓練ごときでいい気になってるFランクとは違う。それに、こころはオレが守るしな」
チームリーダーとはいえ、一介の高校生と然して変わらない霊に、戦時権限を持つ守鎖乃の命令に抗う術は無い。
それは槍姫や朗、そしてこころも同じ。
霊は守鎖乃に連れて行かれるこころを、黙って見送るしか出来なかった。
◆ ◆ ■ ◆ ◆
心蝕獣の種類はそれほど多くはない。
その理由は不明だが、クラスによって姿形が決まっており、ある程度外見で【心蝕獣】の強さを判断できる。
一番下のポーンクラスは、異形の生物。
バスケットボールほどの大きさの目玉に、複数の触手が生えているという姿が特徴。
空を飛び、目から光線を放ち、触手で獲物の体液を吸う。
通称・アイズ。
ある程度訓練された【心兵】なら撃退は可能だが、数が多く物量で押し込まれやすい。
次にルーククラス。
基本的に野生の動物……特に四足動物の外見をしており、側頭部に三対六つの複眼を持つのが特徴。
狼型、猫型、狐型、牛型など、ポーンクラスに比べれば種類は多い。
四足歩行ゆえに素早く、鋭い牙で獲物の肉を食い千切る。
一般の【心兵】数人掛かりで挑むのが定石だが、ルーククラスも何体かの群れを形成していることが多いので厄介なのだ。
ビショップクラスは恐竜……特にティラノサウルスに似た姿を取っている。
ルーククラスと同じく三対六つの複眼を持ち、大きさは人間より一回り大きいくらいで、大昔に生息していたといわれる恐竜ほど巨大ではない。
しかし発達した四肢と牙で獲物を蹂躙し、一体だけでも一つの都市に多大な損害を与えられる戦闘能力を持つ。
そしてナイトクラス。
その外見は中身の無い甲冑。強固な鎧に剣や弓などの、人間が持つ武器を使うタイプだ。
緑色に発光しているのが特徴で、エネルギーの刃を放出して遠方の敵を切り裂くといった事もできる。
守鎖乃が霊に対して放った【斬撃波】に近いだろう。威力も高く、一体だけで都市を滅ぼしかねない存在だ。
しかし数は多くなく、基本的に一体で行動している姿が目撃されている。ナイトクラスが都市を襲う頻度は高くない。
このクラスがそのまま強さの序列を表しており、人間にも適用される。
ナイトクラスが閃羽に5人いるということの凄さがわかるだろうか。
大抵の都市では1人いれば安心されるほうで、多くはポーンとルーク相当、たまにビショップが混じっているくらいの【心兵】で構成されているものなのだ。
以上のような説明で分かる通り、複数のクラスが一度に群れを成して攻めて来ることは危機的な状況である。
しかもナイトクラスが数体。ビショップクラスも十数体。
都市を数回滅ぼして余りある脅威が、閃羽に迫っているのだ。
「守鎖乃くん、やっぱり霊くんの力は必要だと思うの。あんな数……」
都市を囲む外縁防壁の外に出た、守鎖乃の率いる【閃羽心衛軍】の小隊。
ナイトクラスを筆頭に5つのグループに分かれ、それぞれ【心蝕獣】の群れを撃退するつもりだ。
皆、戦闘用のフルフェイスメットに、黒いバトルスーツ【心装】を着込んでいる。この【心装】に【心力】を纏わせることで【心蝕獣】の攻撃から身を守る鎧となるのだ。
準備を整え、岩と砂だらけの荒野の向こうを見渡すと【心蝕獣】の群れが見える。
「心配しなくていい。先にナイトクラスの【心蝕獣】を倒してしまえばすぐに終わる。こころはオレの援護だけをしてくれればいいんだ」
守鎖乃には自信があった。根拠の無い自信があった。
この前のFランクとの『訓練』の結果は何かの間違いで、イカサマで負けたに違いないと。おそらく未確認の新しい薬……薬物反応の出ない薬を使って強化していたのだ、と。
その証拠に、Fランクは【心器】を使いこなせていなかった。
オレは強い。圧倒的に強い。Sランクであり、最年少ナイトクラスとして将来を期待されている優秀な【心兵】だということを、この戦いで証明する。
そしてこころの目を覚まさせ、自分のチームに入れる。
守鎖乃の頭にはそれしかなかった。
「行くぞっ! 【心蝕獣】を掃討する!! オレに続けぇっ!!」
5つのうち一番先に動いたは、守鎖乃の率いるグループであった。
◆ ◆ ■ ◆ ◆
守鎖乃たちが【心蝕獣】の群れに挑む少し前。
霊、槍姫、朗の三人は未だ教室にいた。
霊は指先に【心力】を集中。目に見えないほど細い糸を出していた。
そんな霊に問いかけたのは、槍姫だった。
「御神くん、どうだい? 何か情報はつかめたか?」
糸は霊に触覚と聴覚に相当する感覚を伝える。
膨大な【心力】を有する霊は【心力】で作った糸を伸ばし、各方面に寄せられる情報を収集しているのだ。
「【心蝕獣】の数は数百単位って言ってるね。確認できるだけでもナイトクラスが12体。ビショップクラスはその3~4倍。残りはルーククラス以下」
「ナイトクラスが……12体だと? こちら側ですら5人しか居ないのに、倍以上の戦力差……」
「それだって、ビショップクラスをすぐに倒せるほどじゃないでしょ? 戦力差は倍どころか、10倍も20倍もあるよ」
はっきり言って危機的状況という言葉は生ぬるい。
絶望的。絶対絶命。閃羽壊滅。そんな言葉が槍姫と朗の脳裏に浮かぶ。
「ナイトクラスが10体以上……経験からして、あの群れを統括している親玉がいる……」
「どういうことかな?」
「あの群れは一体の【心蝕獣】を頂点として、人間でいえば命令系統を作っている。その頂点にいる【心蝕獣】は、ナイトクラス5人が束になっても敵わないってこと」
「待ってくれ御神くん! それではナイトクラスより上があるような言い方じゃないか」
あの群れだけでも絶望的な戦力差だというのに、さらに脅威があるなど信じられない。信じたくない。
だが無情にも、霊は真実を告げた。
「ナイトクラスの上……ジェネラルクラス。
一体だけで都市を消滅させる力を持った【心蝕獣】だよ」
「しょ、消滅……だと?」
「うん。文字通りね。ナイトクラスは精々壊滅ていど……都市の原型は残る。けれどジェネラルクラスは、その気になれば消し飛ばす勢いで襲ってくる。それをしないのはエサが無くなるから。だから群れを、軍隊を作って襲わせ、都市丸ごと食らい尽くすんだ」
「そ、そんな……間違いないのか?」
「経験予測……残念だけど、たぶん間違いない」
絶句する槍姫。
それは朗も同じだ。いつも明るい彼女の笑顔もこの時ばかりは凍りついていた。
二人が絶句するなか、突然霊は立ちあがり教室の外へ歩き出した。
「御神くん、どこ行くの?!」
「ダナン先輩のところ」
短く返し廊下へ出る。
慌てて槍姫と朗も付いてきた。
「どうするつもりだ、御神くん」
「先輩に【心器】を作ってもらう」
「もしかして、糸を使う【心器】かな? でも、今からじゃ間に合わないんじゃないかな?!」
霊は胸ポケットから黒い棒状のデータ端末体を出し、言葉を続けた。
「大丈夫。設計データがあればすぐにでも作れるから。問題なのは……」
指先に集中していた【心力】を収め、歩く速度を速める。
「普通の【心器】で、どこまで戦えるかってこと」
こんどは全身に【心力】を纏わせ身体能力を強化。
直後、槍姫と朗を残し、霊は猛スピードで走って校舎の中庭へ出る。そして屋上へ跳ぶ。
着地し、今度はグラウンドの方へ跳躍。
見降ろすといくつかのテントがグラウンドに張られており、大勢の生徒……【心理工学科】の生徒たちが動き回っていた。
重力に従い落ちていく。見る見る迫る地面。しかし霊は構わず着地態勢に。
激突するように着地し、轟音と共に砂埃が舞う。
「うわぁっ?! な、なんだ?!」
「い、今……人が落ちてこなかった?」
砂埃の舞う地点を凝視する生徒たち。
その砂埃の中から走って出てくる霊。彼はまっすぐダナンのところへ向かっていた。
「あ~、御神くんなんだなぁ~」
「ダナン先輩! お願いがあります」
ぽっちゃりした体型にゆっくりした口調の生徒、【心理工学科】のダナン・デナン。
テントの中で【心器】の整備をしていた彼は、騒動の主が霊だと分かって安堵した。彼ほどの【心力】を持つ人間ならば、何でもありだと思っているからだ。
「先輩、今すぐ【心器】を作ってくれませんか?」
「構わないけれど……でもこの前のように、すぐオーバーヒートしてしまうんだなぁ~」
「いいえ、新しい【心器】を作って欲しいんです。この設計データを、ダナン先輩に託します」
データ端末体を出し、ダナンに渡す。
受け取ったダナンはすぐにデータを引っ張りだし、モニター画面に詳細を表示。
そこには、刀身の無い……柄だけのデザイン画が映し出されていた。
「これは……」
「この前の刀型【心器】を改良すれば、加工機で出来るでしょうか?」
「形だけならできるんだなぁ~。けれどこのデータの示すスペックは……この閃羽の技術力でも再現不可能なんだなぁ~」
「そのデータの1/10000でも構いません。最低でも数百本の糸を出力できれば、なんとかなります」
それは【心力】によるエネルギー状の糸を出力する【心器】だった。
本来、霊が使っていたタイプの【心器】。刀身の無い刀……柄だけの刀。それが霊の本来の能力を引き出す【心器】なのだ。
「それだったら可能なんだなぁ~……。機関部分は刀型の【心器】を流用できるから、5分だけ待って欲しいんだなぁ~」
そういうとダナンは席を立ち、何人かの生徒に声を掛ける。
【心器】は加工機に設計データを入力すれば、よほど大掛かりで歪なものでない限り即座に製造できる。
心の力を【心力】に変換する【CMPコア】と、【心力】のエネルギーを伝達する【心経回路】が機関部となり、そこから外装部……刀ならば刀身……に【心力】を送って武器としての能力を強化する。
霊が依頼した【心器】の場合、【コア】と【心経回路】のみで事足りる(柄の部分を外装とする場合もあるが、武器としての能力には関係ないため割愛する)ので、比較的短い時間で製造できるのだ。
「【心経回路】が複雑になるから、オーバーヒートしやすくなるんだなぁ~」
「このタイプの【心器】なら使い慣れています。どのくらいの糸を出せますか?」
「う~ん……528本……それ以上は保障できないんだなぁ~」
「十分です」
加工機から出された、刀身のない柄だけの【心器】。
先日の大和との決闘で使った青い刀型【心器】の、柄だけの物。
刀身を収める柄の先……茎と呼ばれる部分から【心力】で作った無数の糸を射出し、相手を貫いたり、拘束したり、絡めて喰い込ませ圧殺したりする……それがこの【心器】の特徴だ。
「御神くん、この【心器】の名称はなんて言うんだなぁ~?」
「【糸刀】と、僕のおじいちゃんは名づけていました」
「分かったんだなぁ。それじゃあこの【糸刀】、もっと研究して改良しておくんだなぁ~。だから絶対帰ってくるんだなぁ~」
「はいっ。行ってきます」
【糸刀】を受け取り、ダナンにお辞儀をして礼を言う。
それから再び全身に【心力】を纏わせ身体能力を強化。
校舎の屋上にある手すりに、【糸刀】から数本の糸を射出。絡ませ、自身の身体を引っ張らせて空へ跳び上がる。
「無事でいて……こころっ」
引っ張りの勢いを利用し、都市の上空を覆う半透明の膜上エネルギーバリアを無理矢理突き破る。
そして数km先の外縁防壁の外……戦場へ直接跳び込んだ。
●御神霊―――――主人公。Fランクの落ち零れとされているが、膨大な【心力】を有する謎の少年。
●純愛こころ―――霊の美少女幼馴染。数少ない【感応者】。
●針村槍姫――――背の高いクールな少女。こころの親友。
●戯陽朗―――――いつも元気で明るい少女。こころの親友。
●大和守鎖之―――Sランクにして最年少ナイトクラスの少年。こころの幼馴染。
●ダナン・デナン――心理工学科のぽっちゃり系3年生。【心器】に関する技術はなかなかのもの。