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第60話【日常の中の異常(スポーツテスト編)】

 大変、たいっへんっ、お待たせしました。


 どうも獅子舞です(^ ^;

 年末に続く年度末の忙しさ……甘く見ていました。早く新しい環境に慣れたいです。


 それでは、第60話をお届けいたします<(_ _)>


 キュリオテスを倒して一週間が経過した。


 あれから散発的な【心蝕獣】の襲来はあったものの、すべて小競り合いと呼べるものであり、閃羽だけで対処できる、極々一般的な日常が送られていた。


 その日常の一コマとして、6月中旬に入ったこの時期に行われるスポーツテストが挙げられるだろう。


 心皇学園では全学年にスポーツテストを課している。

 自身の運動・身体能力の現状を把握し、今後の訓練の参考にするためだ。


 教官一人では全生徒の結果を記録することは難しいので、各自がグループを組み、記録する側とされる側に分かれ、交互にテストを行なう。

 50m走のような単純なものならまだいいが、ある程度人数が必要な項目もあるので、大体5~6人ほどのグループになり、男女別に行なわれることとなった。


 そんななか、孤立する男子生徒たちがいた。


 S及びAランクで構成された1組のなかにあって、最底辺のFランクである異端児。

 御神霊(みかみ くしび)噴激昂(ふんげき こう)照討準(てらうち じゅん)の3人である。


 グループを作れと言われた途端、1組の男子たちは、わざわざ3人から遠ざかって組み合わせを決めた。


「ハッ。嫌われてんなぁ?」

「そりゃあ、昂は第一印象もその後の心象も最悪だからね」


 模擬戦中に、いきなり乱入。霊との戦いで模擬戦用の市街地を壊滅に追いやったのだ。


 そしてそれ以上に、昂は態度が悪い。

 授業中に居眠りするのは当たり前で、注意して来た教師には悪態をつくばかり。口が悪いから喧嘩腰に見えるし(実際そうなのだが)、人を小バカにしたような態度がデフォルトで、度々ほかの生徒と衝突を繰り返していた。


『ふざけやがってFランクがっ。粋がってられんのも、今のうちだぜ?』

『テメェが強いと思っていられるのは1年生のなかだけだってことを、オレ達上級生様が教えてやるよ』


 それで多少痛めつけられるならいい。しかし昂は人外の力を持つロードクラス。増長は止まらない。


『ぅ……ぅぅ……』

『痛ぇ……イテェよぉぉぉ……』


『あ? もう終わりか? テメェら弱過ぎんぜゴラァ』


 死人こそ出さないものの、喧嘩になった相手は一人残らず病院送りにしていた。


『憤激! 貴様の行動と言動は目に余る!! Fランクだから仕方ない、などと思わんことだ!!』

『所詮は人間のゴミ。クズ。失敗作。教師として導けないモノも存在することは確か。ならば処分するしかないでしょう』


 Fランクに対して露骨な差別感情を抱く教師たちが動く。


『がはっ……バカな……』

『あり、えない……この私が、Fランクに、手も足も出ないなどと……』


『ったくよぉ……よくそれで戦いを教える職に付く気になったなぁ? だからここの奴ら、弱いんじゃね?』


 しかし逆に返り討ちにされる始末。

 Fランクに負けたなどという屈辱を知られたくないため表沙汰にはならないが、かなり憎まれているのが現状だ。


 おまけに上からの圧力……特に彼らの実力と背景を知っている理事長からは、放っておくようにとの御達しが来ている。故に退学処分にもできないため、向けられる憎悪は計り知れない。


 そしてその憎悪は、共に行動していて且つ同じFランクの霊と準の2人にも向けられており、孤立化が進んでいた。


「まあ、しょうがないね。誰も組んでくれないなら、この3人でやろうか」


こちらから歩み寄っても遠ざけられると判断した霊は、いつものメンバーとの行動を提案した。


「あ……う、うん。そそ、そうしてもらえると、ありがたい、よ……」

「だな。よぉし……この3人で誰が一番か競争しようぜぇ?」


 特に異存があるはずもなく、霊の提案に乗る準と昂。

 昂はやる気満々に宣戦布告するが、それを霊は諌めた。


「昂、本気はダメだから、ほどほどにね」

「づあぁぁ……そうだった。じゃあよ、合わせるからお前が基準になってくれや」

「……? あ、あの……2人とも、どういうこと?」


 好戦的な昂が、すんなり言う事を聞いたのが不思議だったのか、準が説明を求める。


「ぼくらが本気で動いたら、衝撃波が発生してこの辺一帯が吹き飛んじゃうよ」

「え、ええっ?!」


「照討くん、キミも出来るんだよ? だからちゃんと【心力】をコントロールしないとね」

「ええええっっっ?!」


「不安だからやらないって選択肢は無しだよ? このスポーツテストは、キミの【心力】コントロールのテストも兼ねるからね」

「そそ、そんなぁ……」


 泣きそうになる準だが、霊は容赦しなかった。


 そもそも、無意識で【心力】を使えてしまう準に、コントロールをマスターさせるのは必須だ。

 我を忘れて閃羽を消し飛ばしてしまいました、では泣くに泣けない。


 霊は本来、新世代の狩天使となった準のために、【心力】の向上よりもコントロールに重きを置いた訓練を彼に施したかった。

 だが、すぐ暴走する馬鹿()の鎮静剤として、【天使モード】での訓練を優先せざるを得なかった。


 もっとも、その甲斐あって準の【心力】は相当上がり、【天使モード】での戦闘にもかなり慣れてきたのだが。


「安心しろ。霊の動きを真似すりゃあいいんだ。よぉく見ておけよ?」


 昂の言葉に一応でも頷くが、不安をぬぐいきれない。慎重になろう、と決意する準だった。


 そんなこんなで各自、テストを行い記録をしていく。


 使える器具が限られているものもあるので、器具を必要とするグループと必要無いグループとに別れる。


 始めて少し経ったころ、とある一角で歓声があがった。


「うわっ、すげぇ!! 大和さん、上体起こしの回数が48回だ!!」

「さすがナイトクラス。平均の1.5倍以上か」


 称賛の声を浴びているのは、大和守鎖之(おおわ すさの)

 まわりの生徒たちは尊敬の念を、担当教官は称賛を贈る。


 驚異的な上体起こしの記録を出したことで息を乱す大和は、用紙に記された記録を見て満足そうに頷いた。


 ふと、霊と目が合う。


「はぁ、はぁ、はぁ。……ふっ」


 見下すような目を向け、人目を憚らず鼻で笑ってきた。

 おまえでは無理だろう、という蔑みの情念が丸出しだった。


「ふぅん……48回、ね……」


 対して霊は、聞こえて来た記録を聞いて思考する。

 ちなみに、挑発されても彼の心に小波は立たなかった。むしろ、48回でいいのか、と安堵しているくらいだ。


「じゃあ、昂がぼくら2人を押さえてて。照討くん、ぼくに合わせて動いてみて?」

「う、うん……頑張ってみる」


 昂が霊と準の足を抑え、上体起こしを開始。

 霊の動きに合わせて準も動く。

 30秒間に何回上体を起こせたか。それを測るテストなのだが、霊も準もペースが早い。残り10秒になってもペースは落ちず。常に一定。


 そして30秒が経ち、二人の記録が昂に読み上げられる。


「2人とも48回、と……よっしゃ。次はオレだな」

「ちゃんと見てた? ぼくらの動き」

「ったりめぇだろ? 余裕でいけんぜゴルァ」


『……は?』

『嘘だろ……』


一部始終を見ていた他の生徒の口が、開いたままになった。


 凄まじい速さの上体起こし。

 それでいてまったく息が切れてない。どころか眠た気な昂の様子が、他の生徒たちには信じられなかった。


「昂も48回、と……次、やろうか?」


 呆然とするクラスメイトたちを余所に、マイペースを貫き続ける霊たち。


 それからもFランク3人は、Sランクにしてナイトクラスの守鎖之に合わせた記録を、次々と叩き出していく。


 守鎖之は大人顔負けの身体能力を持っている。

 すべての種目において驚異的な記録を出しており、彼の実力が本物であることを証明している。伊達にナイトクラスとして知られている訳ではなく、そのクラスに見合った身体能力を、彼は確かに持ち合わせていた。


 その能力に、【合わせる】程度に加減している3人。

 とことん人外であり、そしてそれが彼らを見下している生徒たちの神経を逆撫でしていった。


 やがて、器具を使ったテストに移る霊たち。


 まずは握力測定から。

 ここでも、ある程度の目安を知るために、霊たちは守鎖之に先手を譲り、自分達は最後にやる算段だ。


「すげぇ!! 握力85kg!? 大和さんマジっパネェ!!」

「さすがはナイトクラスですね。たゆまぬ努力が結果として現れているようです」


「ねぇねぇ聞いた? 大和くんの握力測定、85kgだって!」

「すごぉい!! 大和くんって、顔も身体能力もズバ抜けているわよね!!」


 合同で行っている女子のグループにも話が行ったようで、黄色い声音と共に守鎖之の結果が耳に伝わって来る。


 やがて最後……霊たちの番となる。


「最初は照討くんね」


 準に握力計を渡し、握らせる。

 特に力は込められず、だが握力計はとんでもない数値を示した。


 記録係の生徒が、思わず叫んでしまうほどに。


「は、はあっ?! 107kg?!」

「照討くん、ちょっと加減できてないよ。すみません、もう一度やり直しさせてください」


 何食わぬ顔でそんなことを言い、再び準に握力計を握らせる。


 そして、今度は……。


「ハ、ハチジュウ8キロ……」


 守鎖之を超える、有り得ない記録。

 目が点になっているかのような、呆然としたリアクションを見せる記録係の男子生徒は、ただただ口を開けるのみ。それでも記録を書き込んでいるあたり、真面目な性格のようだ。


「誤差3kgか……まあまあかな」

「いや、ダメだろ。貸してみ」


 得意気な顔をしながら、昂は握力計を準から取り上げ、それをかる~く握る。


 その程度で出た数値は……。


「125kg。誤差40kg。全然ダメ。ダメ過ぎる」


 霊が読み上げた数値の通り。

 目標値を大幅に超える結果であり、準よりも誤差が大きかった。


 そんな醜態に、霊は肩を浮かして首を振り、容赦ないダメ出しを昂に喰らわせた。


「……うるせぇ。オレは力を司る【力天使(りょくてんし)】だぜ? 細かな調整とか苦手なんだよ」


 そっぽを向きながらそんな言い訳をする昂。

 どうやら先ほどの得意気な態度を見せていた自分を、無かったことにしているようだ。


「だったら照討くんのこと言えないじゃないか。

それに、ぼくに【心力】のコントロールを指導してくれたのは、先代の【力天使(りょくてんし)】だよ? その後継である昂が、コントロールを不得手としているっていうのは、問題な気がするんだけど?」

「オレはオレなりの役割を果たしてんだよ。だからいいだろうがゴラァ。それよりテメェは大丈夫なんだろうなぁ?」

「昂じゃないんだから……」


 苦笑しつつ、昂から握力計を受け取る霊。


 記録係に自分用の用紙を渡し、握力計を握る態勢に入る。


「あ、御神くん、だ……うう~~~ん……伸びろ~~~……」

「ほう。今から握力測定のようだな。どうせ、大和よりも強い握力……どころか、さらに人外な記録を出すんだろうな」


 女子のグループで長座体前屈をしていた戯陽朗(あじゃらび ほがら)が霊に気付き、その彼女の記録を測っている針村槍姫(はりむら そうき)が、どこか諦めたように呟く。


「ぷはぁっ! よしよし、記録更新したねっ! 次、こころちんの番だよ……って言いたいけど、御神くんの結果が出てからにしよっか。御神くんが気になって集中できないんじゃないかな? こころち~ん」

「なっ!? べ、別にそういうわけじゃなからっ」


 同じ組として一緒にテストをしている純愛(じゅんない)こころを見てみれば、彼女は霊に目が釘付けで、これじゃあテストにならないと悟った。


 茶化しながらこころの背中に抱きつく朗に、こころは顔を真っ赤にしながら答えた。


「いいからいいから。それよりほら、御神くんを応援してあげようよ」

「う、うん……霊く~ん! 頑張ってくださ~い!」



 次の瞬間、金属がひしゃげる音が、この場にいるスポーツテスト中の全生徒の耳に響き渡った。



 見れば、霊の握った握力計が、霊の手の中で圧壊していた。

 数値を示す針は、想定以上の力(最高150kg)に耐え切れず過回転した所為で吹っ飛んでいる。


 こうなった原因は、こころの応援だ。

 彼女の応援で思わず力が入り過ぎた。はっきり言えば張り切り過ぎてしまったのだ。霊は。


 そして、余裕をかましていたにも関わらず、自分以上の醜態を晒した霊を、この男が放っておくはずもなく……。


「ダハハハハッ!? ダッセ!! 超ダッセェ!! 霊ダッセェ?! ぎゃははははっ!!」


 霊を指差し、涙を流しながらバカ笑いする昂。

 終いには腹を抱えて転げ回る始末。


 そんな昂と、圧壊した握力計を見比べる霊。そして徐に、次のようなことを呟いた。


「……これ、不良品だったんだね。粗悪品だから脆かったんだ」

「ギャハハハハッ!! んなわけねぇ~~~っ!!」


 しれっと言い切る霊に、さらに爆笑する昂。

 バカ笑いする甲高い声が、グラウンド中に響き渡る。


「ねぇよ! ねぇよそれは!! テメェは力加減を間違えたんだよぉ!! オレ以上にコントロールが出来てねぇ~んだよぉ~~~!! ぎゃはははははっ!!」

「……不良品だよ。その証拠に―――」


 眼下で笑い転げる昂に、壊れた握力を振りかざす霊。

 そして、昂の頭部に、それを勢いよく振り下ろした。


「――――――っ!?!?」


 昂の頭部に叩きつけられた握力計が、粉々に砕ける。そして動きの止まる昂。


 同時に、それを見ていた女子が悲鳴をあげた。


「キャ、キャーーー!!」

「ひ、人殺し……人殺しぃぃいいい!!」


 突如、白昼に起こった殺人劇。

 バカにされたことで腹を立てたらしいFランクが、同じFランクを撲殺した。




「ね? 普通、人を殴っただけで粉々になるとかないでしょ?」




 平然と言い放つ霊。


 こういうことを、平気で出来る。やってしまえる。そして何の罪悪感も持たない。


 気に入らないから。

 恥を掻かされたから。

 我が身可愛さで他人の命を平然と奪い、自分以外のすべてを身代わりにし、犠牲にすることすら厭わない。


 Fランクのほとんどが、こういう奴らなのだ。


「Fランクがっ!! とうとう本性を顕わしたか!!」


 騒ぎを聞き付けた守鎖之が、霊の前に躍り出て糾弾する。


 前々から、特に一週間前の【主天使キュリオテス】との戦いから思っていたのだ。このFランク(クズ)共は、かならず事件を起こすと。


 いや、それ以外にも、兆候はあったのだ。


 どんな非常識な行いをしても平然としているあの(ツラ)

 平気で人の命を奪うときの、冷めた目。

 非行を繰り返す同胞()を止めもせず、それどころか何食わぬ顔で一緒にいる事実。


 御神霊というFランクは、正しくFランク(人間のゴミ)である。


 故に今こそ、裁きをくだす時。


 Sランク(聖人)たる己が、Fランク(絶対悪者)を断罪し、すべてを正常に戻す。


 己の隣に、常に彼女が居ることが当たり前だった、あの頃に戻す。


(そうだっ! コイツが来てから、全てがおかしくなった!! コイツさえいなくなれば、全てが元に戻る!! こころは再び、オレの隣に居てくれる!!)


 幼きころから凡夫より優れた【心力】を持ち、最年少でナイトクラスとなり、将来を嘱望された守鎖之。

 その彼の隣に、幼きころより寄り添っていた可憐なる少女、純愛こころ。


 刀型【心器】が使えずとも、それ以上の力を引き出してくれる両刃剣によって、守鎖之はナイトクラスとしての地位を掴んだ。

 数ある【心器】のなかで最強と呼ばれる刀型【心器】さえも、己が両刃剣型【心器】を振るえば、簡単に蹴散らすことができた。


 常識を覆す力を持つ、大和守鎖之という自分。

 絶対者。

 Sランク(正しき者)


(ロードクラス? 神を殺す者? コイツの隣が世界で一番安全な場所?)


 去来する、Fランクを擁護する過ちを犯す者たちの言葉。


(ふ、ざ、け、る、な っ っ っ ! ! !)


 血が沸騰するかと思った。その言葉を聞いた時は。


 それらはすべて、Fランクに向けられるべき言葉ではない。

 自分にこそ向けられるべき賛辞ではないか。


 世の中間違っている。間違いだらけだ。


 Fランクが褒められることが。

 Sランク(自分)Fランク(ゴミ)に負けることが。

 自分の隣にこころがいない事が。

 Fランク(ゴミ)の隣にこころがいる事が。


 すべて、間違いだ


(その間違いを、オレがすべて正してやるっ!!)


 霊の前に出てからの、一瞬の思考。


 その一瞬で、守鎖之は霊を断罪することを決定した。決定事項にした。




 憎悪によって、正義が施行される。




「~~~ってぇな霊ぃ!! いきなり何すんだゴラァ!!」


 守鎖之が今まさに霊に跳びかかろうとしたその時、頭を抑えながら昂が跳び起きた。


 大きなタンコブが出来ており、若干の涙目な昂というのも、ある意味レアかもしれなかった。


「脆かったでしょ? それを証明しただけだよ」

「だ~か~ら~! 脆かったんじゃねぇんだよ!! オレにぶつけたから壊れたんであって、不良品だから粉々になったんじゃねぇって言ってんだよゴラァ!!

 っつうか、いい加減テメェが【心力】のコントロールをミスったんだってのを認めやがれやゴラァ!?」


「……頑張れってこころに言われたから、頑張って壊しただけだよ」


 今度は霊がそっぽを向く。

 若干いじけているように見えるのは、【心力】のコントロールをミスし、それを昂にバカにされたのが悔しかったからだろうか。


「やっぱり壊したんじゃねぇか!! 不良品だから壊れたんじゃねぇんだろうがゴラァ!!」

「不良品を頑張って壊したんだよ」

「まだ言うか?!」


 勢い込んで出張って来た守鎖之を無視し、霊と昂の言い合いは続く。


『え……死んでなかった、の?』

『でも、すごい音、したよね……』

『音、だけだった? じゃあやっぱり、不良品だった?』

『だ、だよねぇ。普通、人を殴っただけで機械製品が粉々になるとか、ないよねぇ~……』


 悲鳴のあがった女子のグループから、そんな囁きが漏れ聞こえてくる。

 殺人現場に居合わせてしまったわけじゃなかったと、将来戦う者としては失格な安堵をし、やがて囁きの範疇では収まらない喧騒となって、非日常を日常に戻していく。


「お~いお前ら~~~。一体何の騒ぎだこりゃあ?」


 そんな中、1年1組担当教官の篤情竹馬(あつじょう ちくば)がやって来る。


 ボサボサの髪をガシガシと掻きながら、非常にダルそうな声音で声を張り上げるという芸当を聞かせた。


「握力計が粗悪品だったようで、脆くて壊れてしまったんです」

「テメッ、まだ言うかよ……」


「はぁ? おいおいダリィな~~~。どうせ力の入れ過ぎで壊しちまったんだろ? 新しいの持って来てやるから、破片とか片付けておけ……って、粉々じゃあ土と一緒にしちまって問題ねぇか。

 とにかく、今度は壊すなよ~~~」


 正しく言い当てた竹馬は、そのまま職員室へ向かっていった。


「……脆い粗悪品だから壊れたのに」

「しつけぇっつうの」


 諦め悪く呟く霊。

 その霊の頭の上に手を乗せて諌める昂。ここまで来ると、もう怒る気にもなれなかったらしい。


 怒る気が失せたから、周りの状況……守鎖之が自分を睨んでいることに気付いた。


「……あ? なんか用かゴラァ」

「……ちっ!!」


 露骨に舌打ちをし、去っていく守鎖之。


 その足取りは荒く、乱暴に人混みを掻き分けていた。


 そしてその、胸中とは……。


(大人しく、死 ん で ろ よ っ ! ! )


 もう少しであのFランクを裁けたというのに、寸前のところで邪魔をしてきた。


 憤激昂の死が、御神霊を裁く大義名分だった。それが実は、死んでいなかったなどと……。


(なんで死んでなかった。死んでいれば、すべての間違いを正しく正せたはずがっ……)






◆ ◆ ■ ◆ ◆




「ふむ……あそこまで【死天使】を憎悪していても、【心器】がなければ【心力】を操れないか」


 校舎の屋上。

 そこから守鎖之を見下ろす一人の人物……火村瀬名(ひむら せな)がいた。


 長い黒髪を風で煽られながら、顎に手をやり思案する。


「しかし、だからこそマズイことになる、か……」


 苦い顔付きをする。それは瀬名にとって、珍しいことだ。


「嫉妬による憎悪……【零世界】の創造に利用されなければいいが……」


 彼には彼の思惑がある。

 そしてこれまで、すべてが順調だった。


 しかしここにきて、一つの不安要素が出てきた。捨て置くことはできないが、捨て置くことしか出来ない不安要素だ。


「【スローネ】の前か後か。どちらにしても、この件に関して私に干渉できる余地は無いか……」


 クリアしなければならない問題は、確実に減ってきているというのに、彼の【心】は揺らぐばかりだった。


 揺らぐからこそ、思い出した。


「しかし……色恋の嫉妬に晒されるのは、さすがお前の息子だと言ったところか。少し、懐かしくなったよ……(ゆずる)


 また呟く、故人の名前。


 その名前が、霊の父親の名前であるというのは、この場に誰もいないが為に気付かれることはない。




 一先ずの終了です。


 次回から再び話を動かしたいと思います。ええ、動かしますとも。


 え? 今回の伏線ですか?

 放置プレイ状態にしますのであしからず。


 だって、今回の伏線を次話で回収するとか……私のネタの池の水は、循環式なのですよっ。垂れ流しにしたら枯れるんですよっ。


 まあでも、そんな事は重要じゃない。どうでもいい事なんだ。


 次話はなるべく早く更新したいと考えていますが……ごめんなさい、しておいた方が良いかもしれない予感が……。

 長期更新停止表示が出る前には、しますから……。


 では、またのご来場をお待ちしております<(_ _)>

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