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第59話【約束】

 明けましておめでとうございます。獅子舞です。


 12月中に1話くらいはUPしたいと思っていたのですが……ダメでした。


 それでも、遅くなりましたが新年一発目のお話を更新いたしますので、今年もよろしくお願いいたします<(_ _)>




 主天使との戦いで消耗した霊の体力は、こころが作ってくれた料理を摂取し強引にエネルギーに変換することで回復した。


 時間はすでに昼を過ぎ、これから学園に行くのも遅いので、このまま休むことにする。昂が学園にその旨を伝えているはずなので、諸々の心配はいらないだろう。


 ということで、霊とこころは午後の時間をゆっくり過ごすことにしたのである。


「学生服で歩き回ると目を引きやすいだろうから、着替えてきたら?」


 霊が気を利かせ、こころの家へ寄って、それから買い物などをすることになった。


 こころの母である志乃は出かけていたのか、家には居なかった。学園を休むことになった理由を特に伝える必要性が出て来なかったのは、幸いだったというべきか。


「えっと、この服は……ちょっと地味? こっちは……派手、かなぁ……」


 あまり待たせるのもどうか、と思うも、身だしなみに少々の時間を使ってしまうのは女の性というものだろう。

 デート、と明言はしていなくとも、同然のことなのだから気合も入ろうというもの。少しでも霊に気に入ってもらいたくて、あれやこれやと服を引っ張り出しては、鏡で確認していく。


「これ、は……うん。これにしよう」


 そうしてこころが選んだのは、ワンピース。

 上下一続きだが、上衣はブラウン色で、スカート部は黒色と、二色に分かれているタイプだ。


 それを着て、タンスの扉の裏に付けてある姿見に、自身を映す。


「……よしっ」


 軽く髪を整え、玄関で待たせている霊のもとへ。


「お待たせしました」

「じゃあ、行こうか」


 二人が向かうのは商業区。

 物流の要所となる区で、昼飯に食材のほとんどを使ってしまったため、買い物をするのにちょうど良い。


 それに娯楽施設も多く存在するため、行きはデートがてらに遊び、それから買い物をして帰るという予定だ。


「それにしても、暑くなってきたね……。閃羽って、結構気温が高くなるんだね……」


 閃羽全体を覆う透明な薄膜状のエネルギーバリア。

 それを透過して降り注ぐ日射しは、6月に入ってから本格的に強くなってきていた。


 5歳の時にここを出ていったこともあり、霊は閃羽の気候を把握していなかった。それで今のようなことを口にしたのだが……。


「……霊くん。そんな長袖長ズボンの、しかも冬仕様の格好で言う事じゃないです」


 ジト目で霊を見るこころ。

 彼女の言う通り、霊が今着ている私服は、冬仕様。初夏のこの時期に着るものではない、場違いな服。しかも全身真っ黒なため、日射しを完全吸収。体温は上がる一方だった。


「食事だけでなく服までこんな無頓着だなんて……。他の服はないんですか?」

「あるにはあるけど、どれも同じようなものかな。閃羽に戻って来る前に居た地域って、ほとんど平均気温の低いところばっかりだったし……」

「なら、今日は霊くんの服を買いに行きましょう。ちょうど私も、新しい服を買おうと思っていたところですし」


 という訳でまず、二人は大型デパートへ向かう。

 平日の昼過ぎではあるが、デパートの仲はそれなりに人々で賑わっている。


 時々、学生であるはずの二人がここにいることを気にしているのか、視線が少し向いてきている気がするのは気の所為か。

 それでも今は私服であるため、すぐに視線は消えていく。


「これなんてどうですか?」


 服売り場に来て、まずは霊の夏服選びが始まる。

 こころが持ってきたのは白を基調としたポロシャツ型の半袖セット。


 霊にあてがい、各種サイズが合っているか確認していく……が……。


「あ、あれ……なんか……」


 サイズは合っている。

 だが、なんというか……違和感がある。


 はっきり言えば、この白いポロシャツ……霊に全然似合っていないのだ。


「じゃ、じゃあこのブラウン色は……うっ……」

「ははは……」


 これも似合わない。

 霊は容姿が残念、というわけではない。

 ただ、どうにも服に負ける。霊が透明人間的存在……とまではさすがにいかないが、明るい色の服を着せると、存在感が服に埋もれて違和感が出てしまうのだ。


「ま、まさか……黒、ですか……?」


 霊が普段から来ている服の色……黒の服をあてがう。


 するとどうだろう。


「な、なぜこんなに……黒が馴染むの……」


 黒がすごく、馴染んでいる。似合っているとは言えないのが霊クオリティというところか。


 その後、何種類かの服を試着させてみたのだが……明るい系の色は全滅。

 生き残ったのは暗い色……黒とか、妥協できても紺色が限界だった。


「はははっ……まあ、明るい色ってあんまり着たくないから、ぼく的にはこの辺でいいかな、って思ってるんだけど」

「霊くんがいいなら、それでいいんですけど……」

「うん、大丈夫だよ……」


 明るい色を嫌うのは、【心蝕獣】などの外敵に発見されやすくなるからなのだが……それは無粋なので言わずに置いておく。


「それより、こころも服を選びなよ。あんまりぼくの方に時間をかけなくてもいいからさ……」


 自分のことには無頓着であると同時に、面倒くさがりでもある霊。

 なので、早々にこころの服選びに向かわせる。


 女性物の服売り場に向かい、何着かこころが選んだものを試着して霊に感想を聞く、という流れになった。


「ど、どうですか?」

「うん。似合ってるよ」


 試着したのは、白を基調とした花柄模様のあるブラウス。

 肩が見えるタイプで、涼しげなイメージ。これからの季節にはぴったりだろう。


「これはどうです?」

「いいと思うよ」


 次に試着したのは、白と黒のバイカラーブラウスで、こちらは長袖だった。


 次々と試着しては霊に披露し、それを霊は褒める。

 ただし先に述べたような簡潔なものばかりだが。


「……あんまり好みじゃないですか?」

「え? そんなことはないけど……え? どうして?」


 褒めてくれはするのだが、どれも簡潔でしかも即答。

 霊の表情を見るに、特に変化はなく、それがこころには不満だったわけで……。


「なんか、あんまり興味ないみたいですね。感想も簡単で、どうでもいいように聞こえますし」

「いや、別に、そんなことはないよ? 似合ってるし、いいと思うし―――」


 慌てるように褒め言葉を―――さっきと同じことしか行ってないが―――並べる霊に、こころは思わず笑ってしまう。


「……あっ」


 そこでふと、ある売り場コーナーが、こころの視界に入った。


「……そうだ、霊くん。買いたいものが、他にもあるんです。一緒に来てください」

「え? あ、うん……」


 突然の話題転換に戸惑う霊だったが、特に何も感じずこころに手を引かれて移動する。


 だが、霊は気付くべきだった。

 こころの顔が、悪戯を思い付いたように密かに笑っていたことに。


 もっとも、そのことにはすぐ気付くことになったが。


「……えっ」


 何せ、こころが向かおうとしているのは……女性物の下着売り場だったのだから。


「ちょっ、こころ……どこに行く気……」

「すぐそこ、目の前の売り場ですが?」


 当たり前のように言うこころ。

 嫌な予感しかしない霊は、しかしこころがガッチリと手を掴んでいるので逃げ出せない。


「あの、こころ、ぼくは行かない方がいいんじゃ、ないかなぁ……」

「霊くんに選んでもらおうと思いまして」


 すっごくいい笑顔で言われた。


「なっ―――」

「洋服選びに興味がないようなので、ならば下着をと……」

「おかしいっ。それはおかしいからっ」


 なんとなく、こころが怒っているのはわかった。

 すごくいい笑顔なのだが、霊クラスが感じ取れる微弱な心力が、怒りを表わしているから。


 そして、それは褒め方が悪かったから、というのも今気付いた。


 では、どうするべきだったのか? 霊にとっては解答不能な問題故に、頭を抱えるしかない。


「下着にしか興味無いって、それ事情を知らない人が聞いたらただの変態じゃないか……」

「違うんですか?」

「違うよっ」


 他の客もいるため、大声は出さない。それでも結構必死だった。


「こころ、服のことだけど、本当に似合ってたと思ってる。似合ってないなら別のを勧めるくらいは、ぼくだってするよ。

 だから下着で気を引こうとしなくていいからね? っていうか恥ずかしいでしょ」

「うっ……ま、まあ、そうですけど……。でも、霊くんの好みとか、し、知りたいなぁ……なんて……」


 顔を真っ赤にしながら俯き、そんな事を(のたま)う。

 それでも霊の手を離さないあたり、恥ずかしくとも下着を選ばせるつもりなのだろう。


「ぼくの好みっていっても……下着って見えないじゃない」

「えっと……普段はそうですけど……その、あの……―――」


 誰にも聞こえないよう、霊の耳元に口を寄せ、真意を語る。


「……こころ、ぼくらはまだ学生」

「そ、そうですけど、私は【感応者】ですし、私たちが16歳になれば、その……」

「ああ、うん。そうなんだけどねぇ……」


 16歳になれば……それは、心皇学園のような【心兵】を育成する軍事機関に属していれば、【感応者】は学生であっても婚姻が認められる、というものだ。

 そして相手も同じ軍事機関に属していれば、【感応者】でなくとも16歳で結婚できる。


「それと、凱先輩と真輝先輩の話を覚えていますか?」

「うん。あの二人の話を聞くと、ねぇ……。チーム決めのときでさえひと悶着あったわけだし……」


 凱と真輝もその制度を利用して婚姻している。

 二人とも好き合っていたのは確かだが、真輝という美少女と結婚しようと、周りで騒動があり、それで急ぎ結婚し、場を落ち着かせたという話を以前に聞いていた。


「まあ、その辺は心配しなくてもいいよ。力尽くで来てもこの都市の人間相手なら返り討ちに出来るし、絡め手で来るとしてもある程度の予想は付くし。でも……」


 人智を超えた力を持つ霊なら、大抵のことには対処できる。


 だが……。


「騒がしくなるだろうなぁ……」


 対処はできても、まったく労力を使わないということではない。

 疲れるものは疲れる。霊は耐えられるとしても、こころはどうか分からなかった。


「私は……霊くんじゃなきゃ、嫌ですからね……?」


 ぎゅっ、と霊の腕を抱きしめ、自分の額を乗せて呟く。


 付き合っていても、不安なのだ。霊が自分を好きでいてくれても、引き裂かれてしまわないか。


「……わかった。煩わしくて仕方ないってことになったら、そのときは、ね?」


 霊には、【ある理由】で絶対に大丈夫だという確信がある。

 しかしそれは人には言えないこと……こころにすら、出来れば言いたくないこと。後ろ暗いという思いはないものの、それでも自慢できる事ではないから。


 それ故に、安心を与えてあげられない。だから、別の方法で……誓うという方法で、安心させる。


「や、約束ですよ? 霊くんが16歳になったら、絶対ですからね?」

「うん。こころが望むなら……望んでくれるなら、こっちからお願いするよ」


 今の段階でも、煩わしくなることはすでに【把握済み】。


 おそらく、この約束は、自分が16歳になったその瞬間に、果たされる事になるだろうことは、簡単に予想できた。




◆ ◆ ■ ◆ ◆




 服を買い、食料も買い込んだ霊とこころは、霊の住まうマンションへの帰路に着いていた。


 その途中、見知った顔に出会う。


「おや? 御神くんと純愛くんではないか」

「火村先輩?」


 霊がその人物の名を言う。


 長身長髪の青年、火村瀬名(ひむら せな)

 凱と同じチームに所属し、刀型【心器】の使い手でもある人物だ。


「二人で買いものかな?」

「はい。火村先輩も買い物ですか?」

「いや。先日、私の弟が亡くなってね……。その関係で色々と、な……」


 霊の問い返しに、瀬名は少しだけ寂しそうに笑って語った。


 それに対し、こころは過去に聞いた、火村家のことを思い出した。


「火村先輩の、弟さんが……。あの、確か前に話してくれましたよね? 火村先輩は7人兄妹で、もうすでに3人亡くなっている、と……」

「ああ。だがこんなご時世だ。戦いで亡くなるのも、それ以外の要因で亡くなるのも、すべてよくあることだ」


 そう言いながら、瀬名は空を見上げる。


「先日亡くなった弟とは、あまり仲が良くなかった……どころか、悪かった。しかし……それでも居なくなられると、寂しいものだな……」


 その言葉が、より深く事情を聞くことを拒ませた。


「ふっ……詰まらない話を聞かせてしまったな。私はこれで失礼する。また、学園でな……」


 瀬名は片手をあげながら、その場を去った。


 見送る霊とこころは、かけるべき言葉が見つからず、黙って見送るしかなかった。


「……火村先輩の弟さんは、【心蝕獣】の所為で亡くなったんでしょうか?」

「どうだろうね。ただ、あれは覚悟をしていた人の目だったよ。それであれだけ、表面上だけでも落ち着いて見せているのは、すごいなぁ……」


 珍しく、感嘆の言葉を漏らす霊。

 瀬名を見るその目は、どこか憧れを抱いているようにすらみえた。


 だが、表情にはどこか寂しげなもの垣間見える。


「……やっぱり、霊くんも、その……おじい様のことも……?」

「そうだね……。おじいちゃんがもう長くないって分かったとき、覚悟はしたよ。一人ぼっちになるかもしれないってことも。でも、いざおじいちゃんが亡くなったとき、ぼくは……」


 言いながら、霊は苦笑する。


「ちょっと、取り乱しちゃったかな。それでみんなに迷惑をかけちゃったし。そこは反省すべきところで、きっとおじいちゃんは呆れてたかもしれないね」


 後悔。

 それが、祖父である弦斎を亡くした霊に、深く刻まれている感情。


 霊クラスのものが簡単に我を失い、取り乱すだけでどれほどの迷惑が周囲に掛かるか。

 祖父の跡を継ぐものとして、霊は自分自身を不甲斐ない者として責めている。


「そんなこと無いと思います。自分の死を悲しんでくれることを、責める人なんていませんっ」


 自分を責める霊を、こころが諌める。

 幼い頃の記憶とはいえ、弦斎は霊のことを本当に可愛がっていたのを覚えている。そんな弦斎が、自分の死に取り乱し、周囲に迷惑を掛けてしまったという霊を、責めるだろうか。こころには、そうは思えなかった。


「それから、忘れないでください。霊くんは一人ぼっちなんかじゃありません。私がいます。私がそばにいますから……だから、心配しないでください」


 そしてもう一つ、気になったこと。

 弦斎を亡くしてしまえば、霊は自分が一人ぼっちになってしまうといった。


 それは、弦斎亡き今、霊は自分が一人ぼっちだと思っている、ということだ。


 だがそんなことはない。

 霊は一人ぼっちじゃないということを、こころは必死に言葉にして伝えようとする。


「霊くんが、誰に何と言われようとも、少なくとも私だけは、霊くんの味方で居続けます」


 真剣な目で伝えるこころ。

 一人じゃないということを実感できるよう、霊に体を寄せ、じっと霊を見つめる。


「……ありがとう。すごく、安心できるよ」


 安心したかったのは、自分なのかもしれない。


 この時、霊はふと思った。

 例え自分の精神が、普通の人より揺れ動きにくい、頑ななものだとしても、その中心にはこころがいる。幼い頃、彼女の目の前で【殺されてしまった】という事実と、その所為で一度、彼女の精神を破壊してしまったというトラウマから、ただ彼女を大切に、大事にしたいという一心で強くなった。


 それはきっと、裏返しなのではないか。


 守りたいだけではなく、こころのそばにいたい、居れるのだという確固たる何かを得るための手段が、人智を超えた力を手に入れた理由の一つに、あるのではないか、と。




 改めまして、どうも獅子舞です。


 年も変わり、新年となりました。相変わらずの亀更新ですが、一つ生温かい目で見守ってくださればと思います(^ ^;


 では、またのご来場をお待ちしつつ、今年もよろしくお願いします。<(_ _)>

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