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第57話【お寝んね】

 お待たせしました。

 第57話、更新です。


 地の文が……上手いこと浮かびませんでした。短めです(T_T)


 古竜姫3rdも更新停止状態。申し訳ない<(_ _)> 




「いっやぁ~、悪いっすねぇ~! 乗っけてもらっちゃって。正直もう徒歩はキツいと思ってたとこなんで、助かりましたよ」


 キュリオテスとの戦闘が終了し、閃羽心衛軍は帰還の途に着いていた。


 手を貸してくれた【殺神者】の一人、ダン・バレッタも一緒だ。

 そして彼が助け、霊たちが救出しようとしていた偵察部隊も、避難していた場所から拾われ、一緒に帰還している。


「いや、なに。我が軍の兵士を救っていただいたのだ。礼としては物足りないと思っているくらいだ」


 この部隊の指揮官である純愛誠(じゅんない まこと)は、苦笑しながら応えた。

 軍用トラックの中には、行きと違って荷台の方に誠と霊がいる。 運転は部下に任せ、代わって荷台に来た誠は、指揮官として色々と事情を把握したかった。

 なにしろダンは、霊や昂と同じ、人類の天敵【心蝕獣】と、それらの頂点に立つ【神】を殲滅せんと活動する【殺神者】のメンバー。その高い……というか、人智を超えた力を持つ彼らは、実力に比例して非常識なところが多々ある。


 であるのに、ダンの気さくで明るい態度は、身構えたこっちがバカらしいと思えるものだった。


 もっとも、油断するとどんな奇襲を受けるかわかったものではないため、この明るさを素直に歓迎できないところがあるのは、霊と昂の所為か。


「ダン兄さんは、しばらく閃羽に?」


 ダンの隣に座る霊が問う。

 今でこそ五体満足だが、キュリオテスとの戦いで両腕を切断され、大量出血した霊の顔色は、ほとんど真っ青。しかし旧知の人間に会えた所為か、嬉しそうに見える。


「まあ、そのつもりだ。ここに来たのは偶然だけどよ、キュリオテスは倒しちまったし、狩天使は継承しちまったしなぁ~。来るべき神との戦いに備えて、しばらくは後進の育成を手伝うぜっ」


 言いながら、自分を挟んで霊とは逆方向……隣に座る準を見る。


「次世代の狩天使は、ずいぶんと育て甲斐があるようだからなっ」

「わわっ!」


 準の頭に手を置き、くしゃくしゃと撫でる。

 つい先ほどまで持っていた【狩天使】の力。それをダンは、準に【継承】した。隻腕となった自分では、最早戦力不足であるとの認識がある。

 だがそれ以上に、準の才能は【狩天使】に相応しいと感じた。それは正しく、準の圧倒的な動体視力と、天性の才能ともいうべき先読み能力。そして【殺神器】。それらが合わさったことで、キュリオテスの【神速】を完全に封じることができた。

 新たな【狩天使】となった準が、主天使キュリオテスを倒すことのできた最大の要因であると言えるだろう。


「そういやぁ、照討よぉ。テメェかなり早く目ぇ覚めたんじゃね?」

「だよなっ! オレもビックリしたぜ? 【最適化】が済んでからたった数分で目覚めたろ? それに比べて、オレは8時間かかったし、昂なんか半日くらいかかったのになぁ?」

「え……そそ、そうなんですか?」


 昂とダンの二人に言われ、準はおどおどしつつ返事をする。


 【継承】のとき、準の全身を激痛が襲った。耐えようとしても耐えられなかった痛みに、準はたまらず気絶。

 体感では嫌に長かったような気がするのだが、そうでもないらしい。


「ああ。殺神者200年の歴史のなかで、最速記録は霊の30分だったからな。大幅に記録更新で、もう破られないんじゃないか?」

「え、えええっ?! み、御神くんでも30分?! っていうか、ぼくはもっと眠ってたような気がするんですけど……」


 これにはかなり驚いた。

 昂やダンよりも早く目覚めた、というのにも驚きなのに、あの霊よりも早かったのか。


 いや、今回は最速で目覚めたからこそ助かったのだ。遅れれば遅れただけ、霊たちはキュリオテスにどれだけのダメージを与えられていたか、わかったものではない。


「その【最適化】とやらは、一体なんだね?」


 一方、【殺神者】でない人間には理解不能な会話に、誠が質問する。

 正直、何がどうなっているのか、すべて把握し切れていないのだ。


 まず答えたのは、霊だった。


「【殺神器】を完全に扱えるよう、人体および精神に負荷をかけるんです。その負荷に耐えられた時、【殺神器】の真の所有者となり、天使になれるんです」

「まあ、負荷っていう言葉で片付けられるほど、生易しいもんじゃねぇけどな。 だったろぉ? 照討よよぉ?」

「う、うん……。体が爆発するかもって、本気で思った……」


 ダンから狩天使の力を【継承】するとき、準の全身を激痛が襲った。

 咄嗟に【心力】で全身を強化しても、どうにもならないほどの激痛。内側を喰い破られるような、焼かれるような、あるいは切り刻まれるような……そんな激痛だった。


 そしてそれ以上に耐え難かったのが―――


「それに……みんなが、孤児院のみんなが、次々と殺される……そんな幻覚を、ずっと見せられ続けた……」


 大切なもの。

 それを失っていく光景。失ったときの気持ち。


 絶対に失いたくない人達を、敵に惨殺されるのは、あまりに耐え難いものだった。


 それが例え、幻覚であったとしても、だ。


「あんな思いは、したくない。したくないから、僕は……僕は神を、殺すよ」


 失いたくない人達がいる。だが、それを奪いに来るものがいる。


 だったら、失いたくない人達を守りたいなら、奪いに来るものを……殺せばいい。

 殺そうとするのに、命の奪おうとするのに、難しい理由はなにひとつない。相手が神であろうとも、奪いに来るなら殺すだけ。


 準は、もう十分に【殺神者】……神と戦い、神を殺そうとする天使になってると言えた。




 それは、霊が説明した以上のことが、天使の身に起こっているからだが……それは敢えて、ロードクラスの誰も、語らなかった……。




「ところで霊。閃羽に着く前に、一つ頼みがあるんだけどな?」

「頼み、ですか?」

「ああ……重要な頼みだ」


 真剣な顔。

 ダンは普段、陽気で明るい男だ。それこそ、霊のような変わり者が、兄と慕うほどに。


 そんな彼が、珍しく真面目な雰囲気を纏い、頼みごとをしている。


「閃羽に着いたらな……―――」


 一体、どんな重要な頼みなのか。


 霊は思わず、身構える。


「―――当面の生活費、貸してくんない?」


 片腕で拝むようにしながら、媚びるように頼むダン。それも、とてもいい笑顔で。


 瞬間、場の空気が凍りついた。


「お、おい? なんでみんな揃って黙ってんの? え、ちょ、なんだよその呆れたような視線はっ! 重要なことだろ?! オレは閃羽の貨幣なんか持ってねぇよ?! っていうか沖ノ大鳥島から泳いでくるときに換金できそうなものは全部失くしちまったんだよ!! だから超重要だろ?!」


「ダン兄さんェ……」


 呆れかえった霊の視線が、この場の人間すべての気持ちを代弁していた。

 その視線は、閃羽に着くまでずっと続いたそうな……。




◆ ◆ ■ ◆ ◆



 主天使キュリオテスを倒した翌日。


 こころはいつも通り、霊に朝食を作るため、彼の部屋へやって来ていた。


「おはようございます、霊くん。朝ですよ~」


 予め預かっていた合鍵を使い、部屋の中へ入る。

 いつもならここで、寝室から挨拶が帰って来るところだ。しかし、今日は返ってこなかった。


「霊く~ん? ……まだ、寝てるのかな?」


 鞄を置いて、霊が寝ているであろう寝室のドアの前へ行く。


「霊くん、朝ですよ~」


 一応ノックしたが、それでも返事はない。

 そっとドアを開け、中へ入る。


 思った通り、霊はベッドの上で熟睡していた。


「霊くん、起きてください。朝ですよ。霊くん?」


 そばに寄り、声を掛ける。

 だが、霊はまったくの無反応。


 優しく肩に手をかけ動かしてみるが、それでも霊は起きなかった。


「霊、くん……?」


 いよいよ、様子がおかしい。まるで死んでいるような眠り方だ。


「息はしてる……心臓も、動いてる……」


 呼吸はしている。霊の胸に耳を当てると、ちゃんと心臓の音がする。


 生きている、とは分かっていても、霊は時折、死んでしまったのではないかと思えるほど、静かに眠るときがある。

 そんなはずはない、とわかっていても、心配になる。


 どうすればいいのか。尋常ではない深い眠りについている霊を、このままにしていいのか。


「あ~~~、やっぱ起きてねぇか」


 成す術も無く途方に暮れていると、この場に新たな人物が現れた。


「っ?! 憤激くん? と、ダンさん?」


 驚いて振り向くと、ドアの入り口には昂とダンの二人がいた。


「おっは~! いっやぁ~、こんな可愛い娘の呼びかけで起きないなんて、霊も贅沢な奴だよなぁ~」


 ダンはそんな陽気な挨拶をしつつ、部屋の中へ入ってそう言った。


「贅沢っつうか、さすがに起きねぇよ。ダメージがデカかったからなゴラァ」

「まあな。【殺神器】なしってのは、さすがに無謀だったよなぁ。しかも腕をくっつけるのに、体力を根こそぎ奪われちまっただろうしよぉ~」


 やれやれ、と苦笑めいた雰囲気を出しながら、ダンは霊を見下ろす。


「あの……霊くんが起きないのは……」


 霊が起きない理由。

 どうやらそれを知っているらしい二人に、こころは藁にもすがるような思いで問いかける。


「大丈夫だって。普通なら【心力】で急速回復するんだけど、そのエネルギー源はやっぱり体だ。体力を一気に消耗して、いつもより深い眠りについてるだけだから、安心しな」


 そう。いくら人外ともいえるような力を持つ霊でも、やはり人間。

 無から有を生み出しているわけではない。体を動かすにも、治すにも、普通の人と同じように体力を消耗する。

 その体力を、常人より効率よく使えるというだけだ。ガス欠になってしまえば、動けなくなるのは当然だった。


「それと【ナノ心器】を使って腕をくっつけた所為ってのもあるぜ。さすがに切断した腕をまたくっつけるっていうのは、ハンパねぇ体力を使う。たぶん昼までは起きねぇだろうぜ」

「【ナノ心器】……?」


 昂から新たに出た単語。

 聞いたことのない【心器】に、こころは再び疑問を持った。


「ナノサイズの【心器】のことだ。オレ等の体の中に入っててな。そいつを起動すると、自然治癒不可能な大怪我も治せんだよ。その分、滅茶苦茶体力を消耗するんだけどな」


「ちなみに、昨日の戦闘中に霊がお嬢さんにキスをしたのは、唾液に含まれる【ナノ心器】を譲渡するための行為だったからな。トチ狂って発情したとか、そんな誤解はするなよ~?」


「っ?! わ、わかってますよ!! 霊くんはそんな人じゃないですから!」


 言われ、顔を真っ赤にして叫ぶこころ。


 霊を守るためにキュリオテスの前に立ちはだかったが、こころは【神速】の弾丸によって腕を折られた。

 だが、直後に起き上がった霊に深いキスをされ、次の瞬間には、折れた腕が治っていたのだ。


 その行為は、今の説明を聞けば納得がいく。

 キス……というにはあまりに乱暴で、深かった。妙に霊の唾液が流し込まれる……というのを意識していたが、【ナノ心器】を譲渡するため、ということだったらしい。


 思い出したら、また鼓動が早鐘を打った。ファーストキスにしては、かなり刺激が強かったからだ。


「ハハッ。まあそういうわけで、霊は今、お寝んね中というわけよ」


「やっぱり、霊くんでも昨日の戦いは……かなり厳しかったんですね……」


「ま、何にしても、本人の意思に関わらず深く眠ってるんだ。お嬢さん、悪いんだけど、今日は霊が起きるまでそばに居てやってくんない?」


「それがいいだろうな。学園にはオレから言っといてやるぜゴラァ」


 ちなみに、今日は普通に学校がある日。平日なのだ。

 都市の外へ出ていたからといえど、臨時で休むというのはできない。表面上、彼らは普通の学生なのだから。


 とはいえ、状況が状況なだけに、ナイトクラス権限を使って休ませる、と昂は言っている。


「あ、そうそうお嬢さん。霊が起きたとき、相当体力が減ってると思うから、飯を用意してやってくんね?そうだな、昨日の戦闘から察するに……ざっと10人前くらいは必要だろうなぁ」

「じゅ、10人前ですか?」

「そそっ! さっきも言ったけど、【心力】で回復するにも栄養が必要なんだよ。一応、オレも昼ごろにまた顔を出すからっ。じゃあな~~~」


 そう言いながら、ダンは部屋から出ていき、昂もそれに続いた。




◆ ◆ ■ ◆ ◆




「献立は……唐揚は鉄板だよね。それとサラダ……もしくは消化にいいもので、煮豆がいいかな? いっそのこと鍋物にすれば……。あとご飯は……ちょっと柔らかめにして―――」


 ダンに言われた通り、霊が起きてすぐに栄養を補給できるよう、料理をするこころ。


 まずは霊の好物である唐揚。

 起きてすぐに食べても大丈夫なように、消化の助けとなるものも用意する。


「……霊くん、いっぱい血を流してたよね」


 思い出すは、昨日の戦い。

 キュリオテスとの戦闘で右腕を欠損。左腕は自分で切断。


 糸の数を増やすためとはいえ、その行為は明らかに諸刃の剣だった。


「うん。ホウレンソウとか魚とかも用意しよう。幸い、冷蔵庫のなかに一通り揃ってるし」


 血を増やす助けになる物も用意するべく、さらに品数を増やす。


 そうして大量の料理を用意していくと、あっという間に昼になった。


「そろそろ12時か……。霊くん、まだ起きないかな……」


 時計を見ると12時。


 一通り料理ができたところで、霊の様子を見に行く。


 霊は相変わらず、眠ったまま。

 呼吸はしているが、胸部の動きは極僅か。静かなものだった。近くに行かなければ、本当に死んでいると錯覚しかねないものだ。


「全然……動かないんですね……」


 そっと霊の頬に手をやり、愛おしそうに撫でる。


「霊くん……ごめんなさい。私、途中から……いえ、最初から役に立ってませんでした……」


 あの戦いの当初の目的は、霊との【心合】によって、こころが【ジェネラルミスト】の核を探し出し、破壊すること。

 発見はできたものの、核を破壊したのはダンだった。


 そのあとに現れたロードクラス、主天使キュリオテスとの戦いでは、こころはほとんど役に立たなかった。


 霊に言わせれば、キュリオテスに殺されかけた自分を救ってくれたのだから、むしろ居てくれて助かった、というところなのだが……。


 それでも終始、ロードクラスの戦いに付いていけなかったと、こころは思っている。


「私、もっと強くなりたい……。じゃないと、霊くんのそばにいられないから……」


 そう呟きながら、霊の顔を抱き込むようにする。


 決して離すまいと。

 離れまいと。

 離されまいと。


 二度と、離れ離れになるまいと。


「……っ」

「あ、霊くんっ……」


 抱き込んだ霊が少しばかり動き出し、それに気付いて声を掛ける。


 霊は、最初こそボーッとしていたが……すぐに意識を取り戻し、こころに問うた。


「―――今、何時?」

「12時ちょっと過ぎくらいですけど……」

「そう、か……マヌケなほど寝入ってたなんて……」


 悔やむように呟きながら、上体を起こす霊。

 そして自らも時計を確認すると、心底後悔するように、苦い顔をする。


「……こころは、ずっとここに?」

「はい。だって、昨日の戦闘ですごく消耗してるって聞きましたから、放ってなんかおけませんよ」

「そっか……ありがとう……」


 御礼を言いながら、霊はベッドから降りた。

 昼まで寝ていたせいか、少しだけ体が凝っている。それをほぐそうと、軽く伸びをしようとて……ふら付き、バランスを崩してしまう霊。


「っ、霊くんっ!!」


 慌てて霊を支えるこころ。

 だが、中腰だったため支えきれず、そのまま下敷きに。


「あうっ―――」

「っ……ごめん、こころ。大丈夫?」

「はい。大丈夫で―――すっ?!」


 声が裏返ってしまったのは、仕方ないだろう。霊に覆い被さられている形なのだから。

 力が入らないのだろうか。霊はその体重すべてを、こころに乗せてしまっている。そのせいで、妙に霊の体を意識してしまう。


「ごめっ……すぐ、退くから……」


 床に腕を突き、なんとか起き上がろうとする。

 しかし腕が震えていて、とても自力で退けられそうもない。


「あ……ちょっと待って下さい。私が……」


 こころは態勢をずらし、霊の下から出る。

 そして霊を抱き起こし、肩を貸して歩かせた。


「やっぱり、憤激くんやダンさんが言ってた通り、昨日の戦闘が響いているんですね?」

「来てたの? あの二人……」


「はい。体力を消耗し過ぎたから、きっとお昼まで起きないって言ってました。だから起きるまで、私が面倒をみることにしたんです」

「そう……。ところでこころ、学校は?」


「あ、えっと……今朝、霊くんが起きなくて困ってたところに、憤激くんとダンさんが来て、霊くんはお昼ごろまで起きないだろうから、そばにいてくれって言われて……」

「そう……じゃあ、ずっとここに?」


「私、呼んでも霊くんが起きないから、もしかしたらこのまま、死んじゃうんじゃないかって、すごく心配で……」

「そっか……ごめんね。心配かけて。それと、そばに居てくれて、ありがとう」


 随分と心配されたようで、霊は素直に謝罪。それと同時に、御礼も述べる。


 本当なら、こんな心配も、世話も掛けさせたくはなかった。掛けさせないために、力を付けたのに。

 ままならないものだ。


 そう思った、矢先だった。

 霊のお腹が、ぐぐぐぐぐぅ~~~……と、音を響かせたのは。


「っ……」

「ふふふ……ダンさんに言われて、お昼ごはんをたくさん用意してます。顔を洗ったら、食べてください」

「うん……ありがとう」


 本当に気が抜けている。

 締まらない展開に、少し照れたように笑う霊。


 こころは小さく笑いながらも、霊を介助しながら洗面所へ誘導。


「はい、タオルです。拭きますね」


 甲斐甲斐しいこころの世話のもと、霊は顔を洗われ、タオルで水気を拭き取られる。


 それからリビングへ連れていかれると、いい匂いと共に、テーブルの上をところ狭しと並べられた料理があった。


「……すごい」

「ささ、たくさん食べてくださいね」


 椅子に座り、促されるままに箸を持つ。

 そしてまずは、やはりというべきか、唐揚を食す。


 こころの手料理は、栄養を欲している体に染みる。我知らず、霊は次々と箸を伸ばし、口の中へ運んでいった。


「ん、むぐむぐ、ガツガツ……おいし……うまっ……」

「……」


 霊は、基本的にこころの手料理を、本当に美味しそうに食べる。


 作った方としては報われた思いで、こころは夢中になって料理を平らげていく霊を、幸せそうに見つめた。


 だが、ふと気付く。

 昨日に比べ、やつれているように見えた。やつれたというべきか、痩せたというべきか。


「よく見ると、すごく痩せましたよね」

「んぐんぐ……ふぅ。……やっぱり、わかる?」


 お茶を飲み干し、こころの呟きに苦笑しながら応える。

 自分でも、わかっていたことだ。

 自分で自分の体を支えられないほどに消耗しているのだ。当然、それが外見に現われているのは、むしろ必然だった。


「はい。それくらい消耗したということですか?」

「まあ、ね。でも、こころの料理は美味しいし、これならすぐ回復できるよ」


 体力の消耗にともない、胃も不活性だろう。

 だが僅かに残った体力を使い、【心力】で胃を再活性。食べた物を強引に消化・吸収し、常人の何倍ものスピードで血肉に変える。これならすぐに、戦う事もできそうだ。


「よぉ~っす! お? 起きてたか、霊ぃっ」


 そうやって、半分ほど料理を片づけたところで、来客……ダンがやってきた。


「はぐはぐはぐ……もぐもぐ……がつがつ―――」

「分かってるって。オレがここに来るまでの経緯とか、全部話すからよ」


「……(なんで分かるんだろう?)」


 霊は食べながら、ダンに視線を向けただけ。なのに、ダンは霊と会話してることに疑問符を浮かべるこころだった。


「しっかし、美味そうに食うよなぁ……オレも貰っていい?」

「ガツガツガツガツガツガツ―――」


 ダンが手を伸ばそうとした料理を、瞬時に掻っ攫う霊。


 伸ばしていた手を空中で停止させながら、ダンは抗議した。


「おいおい!! 一口くらい良いじゃねぇか!」

「ハグハグハグハグハグハグ―――」


「外で食えって……こんな美味そうな手料理があんのにお預けってか!?」

「むぐむぐむむぐむぐむぐむぐ―――」


「くそっ! こいつ露骨に妨害してきやがるっ!! く~し~びぃ~~~!!」

「むぐはぐもぐはぐむぐガツガツ―――」


「ふざけんなっ! 可愛い娘の手料理は全部オレのモノってか?!」

「むぎゅむぎゅむぎゅむぎゅ―――」


「こいつ開き直りやがった!?」


 どうやら、霊はこころの手料理を独占する気のようで、ダンの手を容赦なく弾いていた。


 終いには、右手で箸を持ちつつ、左手の5本指から【心力】の糸を生成し、ダンの妨害を行う。そして両者の動き……霊の糸と、ダンの腕、双方が凄まじいスピードでテーブルの上を行き交い、遂にはこころの目にも、残像すら映らない速さとなっていた。


「畜生っ! なんつう才能の無駄遣いだっ!!」


 人智を超えた力は、今日もこうして、くだらない事に使われていった……。




 と、いうわけで第57話でした。


 今回は間幕みたいなものですね。しばらくこうした日常編を続けたいと思います。

 霊とこころ、もうワンステップ上に行かせたいですしね。フラグは立てましたし(何


 ちなみに、【ナノ心器】とは【心力】をエネルギー源にして活動するナノマシンとでも思ってください。

 そしてこの【ナノ心器】の持ち主は、宿主ではない、というヒントを出したりしてみます(^Д^)


 では、またのご来場をお待ちしております<(_ _)>


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