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第45話【それぞれの兄妹】

 ゴールデンウィーク前半。


 ということで、第45話をお送りいたします<(_ _)>


 文量は短めですが、それでも6000文字近くありますので、約1週間ではこんなものかと、生温かい目で見てください(;´∀`)

 頬が痛い。虫歯ではない。確実に。


「ふっ……随分と痛そうだな。御神くん」

「……ふぁい」


 両頬が赤く腫れている御神霊(みかみ くしび)は、上手く発音できず、火村瀬名(ひむら せな)にそんな答えを返した。


 焼き鳥用に売られていた鳥肉を、霊は生で食べてしまった。

 そして例の如く、恋人である純愛(じゅんない)こころに制裁を加えられたが故、いまの状態となっていたのである。


「ちょっと……やりすぎた、かな……? で、でもっ! 霊くんが悪いんですからねっ!!」


 赤く腫れた霊の頬を見て、多少なりとも罪悪感を抱くこころ。

 しかし、ここで甘やかしたらいけない、と心を鬼にする。


 今、霊たちはスーパーマーケット内に併設されている喫茶店にいた。そこで先ほど出会った瀬名とともに、軽い飲み物を頼んで歓談していた。

 あの騒ぎ……瀬名曰く、夫婦喧嘩、を収めて周りに迷惑が掛かるのを防いでくれたお礼だ。


「まあ、冷たいものでも当てておくといい。ほら―――」

「ふみまへん……」


 瀬名が、頼んでいたアイスティーのコップを、霊の頬に当てて冷やしてやる。


 それが、こころにはなんだか、二人が兄弟のように見えて微笑ましく思えた。

 控えめだったとはいえ、思わず笑ってしまう彼女を、霊と瀬名の二人が不思議そうに見遣った。


「あ、すみません。なんか、霊くんと火村先輩を見てたら、二人が兄弟みたいだな、って思いまして……」

「ふむ……そのように見えるのかね?」


「はい。こう……なんというか、雰囲気が似ているんですよね。お二人は」

「ほう……それはそれは。御神くん、彼女はこう言ってるが、どう思う?」


 瀬名は、微笑しながら霊に問う。

 その問いが、若干興味深げであり、霊がどんな返答をするか楽しみにしている雰囲気だった。


「さあ、どうでしょう……。ぼくには兄弟がいませんから、何とも言えませんね」

「そうか。私は、【7人兄妹】なのだが……皆、私に似ていなくてな。似ているという感覚は、理解できないのだよ」

「お、多いんですね……」


 こころが苦笑いしながら返した。

 現在の閃羽の、平均出生率は2.2。であることを考えると、7人という人数は驚くべきものだ。


 都市内という限定された空間ではあるが、閃羽では特に人口の制限等はされていない。各種産業や生活圏を、地下空間へ伸ばしたりしているため、まだそういった制限をしなくても良い、というのが政府の見解だからだ。


「ふっ……まあ、すでに【3人】亡くなっていてな。7人だった、というのが正しい。今は【4人】だ」

「すみません……無神経な事を聞いてしまいました」

「なに。過去の事だ。気にする事ではない」


 瀬名自身、そういう反応を予測していたようで、特に気にした様子も無く答える。


「そういえば、火村先輩は買い物ですか?」


 場が湿っぽくなる前に、話題の転換を試みるこころ。

 こういう時、彼女の性格はありがたい。気遣える性格と言うのは好ましく、話をスムーズに進めてくれるからだ。

 霊などは、相変わらずのマイペースで、冷たい飲み物の入ったコップを頬に当てていた。腫れが引いてきたようで、もとの顔に戻りつつあった。


「いや。ちょっと所用があってな。ある人と、ここで待ち合わせをしている」

「なら、私たちは失礼した方がよろしいですか?」

「ふっ……別に構わない。ちょうど来たようだしな」


 瀬名の視線が、こころから外れる。

 その視線の先には、喫茶店に入ってきたばかりの女の子。瀬名を探しているのか、辺りを見回していた。


 女の子は、手を挙げてこちらの居場所を伝えている瀬名に気付くと、すぐにやってきた。


「え……あの子、もしかして……?」


 こころが、そんな呟きを漏らす。

 どうやらあの女の子を知っている様子。ここで出会うとは思ってもいなかったようで、驚いているようだった。


 その女の子は、髪の左右をお団子状に縛った髪型。立ち居振る舞いが大人びており、何か武術をやっているような印象を受ける。背は霊やこころより低いものの、その所為で年上に見えなくもなかった。


 もっとも、それは彼女が、こころに気付いたときに霧散してしまったのだが。


「お、お姉さま……こころお姉さまっ?!」

「お、音寧(おとね)ちゃん?!」


 音寧、と呼ばれた女の子は、こころに気付くと目を丸くして驚いた様子を見せる。次いで、物凄い勢いでこころの元へ駆け寄った。


「お久しぶりですっ、こころお姉さま! こんな所で会えるなんて、音寧はすごく嬉しいですよっ!!」


 こころに抱きつき、歓喜の声をあげる音寧。

 初めて見たときの大人びた雰囲気が一変、姉大好きな妹、というような甘えん坊になった。


「あ~~~……本当に久しぶりですっ。最近、めっきりうちの道場に顔を見せてくれないものですから、みんなが寂しがっておりますよ?」

「ご、ごめんね音寧ちゃん。ちょっと色々あって……」

「分かっております。高校……それも心皇学園ともなれば忙しくなるのは当たり前でしょう。

 お姉さまのお手を煩わせたくはありませんから、無理強いするつもりはありません。ですから、お気づかいなく」


 こころから少し離れ、にっこりと上品に微笑む音寧。


 そんな彼女に、こころは申し訳なさそうに言葉を返した。


「あはは……本当にごめんね? それより、音寧ちゃんは、どうしてここに?」

「あっ! 感激のあまり忘れていましたっ! 実は、他流試合の日程について、私が代表としてお話しにきたのですが……」


 いけない、とばかりに音寧は口元を手で抑え、本来ここで会う約束をしていた人物に向きなおる。


 その人物……瀬名は、一段落したのを見計らっていたかのように、静かに話を切り出した。


「初めまして。申し込みをした、火村瀬名という。今日は御足労いただき、感謝する」

「これはご丁寧に……そして今の非礼をお詫びいたします。私は【白和一刀流】の師範代、大和音寧(おおわ おとね)と申します。以後、お見知りおき願います」


 瀬名の挨拶を皮切りに、大人びた雰囲気に戻る音寧。

 瀬名の丁寧な口調に対し、相応の態度で返礼する彼女は、妙に様になっていた。


「大和? もしかして、その子は?」

「はい。音寧ちゃんは、守鎖之くんの一つ下の妹です。中学3年生ですが、すでに免許皆伝の腕前で、ナイトクラスとして忙しい守鎖之くんに代わり、師範代を務めているんです」


 大和、という苗字に覚えがある霊は、思わず疑問を声に出した。

 その疑問を聞いたこころが、音寧の紹介をしてくれた。守鎖之の妹だという。


「ふむ……こうして、ここに私たちが揃っているのも何かの縁。3人とも刀型【心器】を使えるのだし、どうだろうか? 今週末に予定している他流試合に、御神くんも参加しては?」

「刀型【心器】を……使える? 御神? 失礼ですが、あなたは? 私の記憶が正しければ、刀型【心器】を使える者に、御神という名前はいなかったはず……」


 刀型【心器】を扱える者は、閃羽でも極僅か。

 その理由は、刀に【心力】を通すのが非常に難しいためだ。技術的な調整でも、【心力】を通せない人間は多く、何か特別な才能が必要とされている。


 刀は、その切れ味から、【心器】として使えれば最強の性能を誇る。1ランク上のクラスにも、刀型【心器】であれば対抗できると言われ、使える人間はリストアップされて重宝されていた。

 そのため、音寧はそのリストに御神、という名前を見かけなかったことから、そのような質問をしたのである。


「ぼくは、御神霊といいます。4月にここに来たばかりだから、知らないのも無理はないかな……?」

「御神……霊……まさかっ?!」


 自分を凝視する音寧に、たぶんこうなるだろうな、と予測していた霊は、しかし何か警戒する訳でもなく、変わらずその場にあり続け、そして音寧の次の言葉を待った。


「あなたが、こころお姉さまの、待ち人ですねっ?!」

「え……?」


 しかし、予想していた言葉は、まったく違うもの。

 面喰った霊は、返すべき言葉が喉で突っかかり、声に出す事ができなかった。


 その間にも、音寧の話は続く。


「こころお姉さまから、お話は常々聞いておりますっ! たった5歳で【心蝕獣】に挑み、お姉さまを守った人だとっ! お会いできて光栄です!!」


 こころには実の妹、真心(まこ)がいる。

 しかし歳が離れており、長い間一人っ子だった彼女は、自分を姉のように慕ってくれる、第2の幼馴染の妹を、本当の妹のように思っていた。


 音寧は、こころにとってはとても信頼できる人間。そのため、家族以外には決して話さなかった霊のことも、少しではあるが話して聞かせていた。


「あ……ええっと……。あの、音寧、さん?」

「さん付けは不要ですよっ! 御神さん!!」


「あ、ああ~……じゃあ、音寧ちゃん。君は、大和……守鎖之くんの妹さん、なんだよね?」

「ええ、あの愚兄は、確かに私の兄ですね。認めたくありませんが」


「ぐ、愚兄……。えっと、大和くんから、ぼくについて何か聞いてないのかな?」

「あなたの事を、ですか? あの愚兄は自分の賛美談以外は、あまりお話になりませんから、何も聞いておりませんね。それに、最近はうちに帰って来ることが少ないですし……。

 そういえば、あなたはFランクという事でしたよね? もしかして、辛く当られておいでで?」


 その、質問と言う名の確認に、霊はさてなんと答えるべきか、即答しかねた。


 だが、それで音寧はすべてを察したようで、溜息をつく。


「はぁ……あの愚兄は、未だに【あの御方】の事を根に持っているのですか……死ねばいいのに」


 ボソッ、と囁いた言葉は、物凄く毒々しかった。


 守鎖之という男は、現在ではSランクにして最年少ナイトクラスとして有名であり、ほとんどの人間が彼を知り、尊敬している。

 そんな男を兄に持ち、またそんな男の妹である彼女が、そんな毒を吐くとは思わず、霊は少し意外だった。


 もっとも、意外に思った理由は半分にも満たない。大概の理由はもっと別……Fランクと知りつつも普通に話しかけてくることが、意外に思った主な理由だ。


「ええっと……音寧ちゃんは、Fランクと普通にお話ができるんだね?」

「いいえ。できればFランクのような卑しい心根の人となど、同じ空気すら吸いたくありませんよ。

 彼らの犯罪率は群を抜いておりますし、なにより、全てを諦めながら未練を残した、言いようの無い嫌悪感を催すあの目。異性を見れば欲望に濁りまくる視線。他にも挙げればキリがありませんが、おぞましいことこの上なしですね」


 毒は吐かれ続ける。

 嫌悪感を隠そうともしないその言葉は辛らつの一言に尽きる。


 霊としても、その見解は同意するところである。自身も同じFランクであるのだが、まったく反論しようとは思っていなかった。


「ただ、あなたはこころお姉さまを、その身を呈して守った方。それに、他のFランクとは違い、今こうして普通にお話できている時点で、【今のところ】は、侮蔑する理由になりませんから」


 おしとやかに微笑むも、しっかりと釘を指してくるところが、彼女のFランクに対する姿勢を物語っていた。


「ところで、どうだろうか? 先程の話」

「あ、私は是非っ! お願いしたいですね! 火村さんの【熾炎刀(しえんとう)流】。そして外の世界に出ていたという、御神さんの実力……どうか、ご参加願えますか?」


 瀬名が話を戻し、本題が議論される。

 音寧はすごく活き活きした表情で、霊の参加を望んでいた。


「う~ん……別にぼくは、刀が本職って訳じゃない無いからなぁ……ルールも無い剣術だし……足技とかも織り交ぜるし……」


「あら、それが剣術というものではありませんか? ルールの範囲内で安全に戦う剣道じゃあるまいし、むしろそれくらいの方が、戦い甲斐があるというものです」

「その通りだ。我々の敵は人間ではなく【心蝕獣】。よって、更なる高みを目指すため、この他流試合はルールが無い。

 足技はもとより、刀以外の道具も使用可能。如何に相手の裏を掻くか。敢えて言ってしまえば、それがこの他流試合のすべてとなる」


 【心蝕獣】に対し、剣以外を使うのは反則だ、などという理屈は通用しない。


 勝たなければ、心も体も喰われる。

 閃羽での主流は、スポーツとしての武道よりも、より実戦的な武術が重んじられている。


 もっとも、この流れは全世界共通であり、霊が言ったことは当たり前すぎる事。霊も重々承知している。

 のだが……あまりに平和ボケした閃羽の雰囲気に対し、ひょっとしてスポーツマンシップが望まれているのかな、と思っていたのだ。


 とはいえ、自分が使う武器は、それこそ千差万別。

 糸で織りなす様々な武器道具を同時に操り、死角から攻撃するのが常だ。たとえルール無用を覚悟していても、ズルイ! と思わせるのが霊の……祖父から教わった【心弦曲】だ。


 戦闘狂の昂ですら、霊の戦い方をエグいと評することから、その限度の無さが理解できるだろう。


「霊くん、参加してみてはどうでしょう?」

「こころ……?」


 悩む霊に対し、その背を押したのは、こころだった。


「ルール無用なら、戦い方を選ばない霊くんに、都合が良いと思うんです。それはきっと、音寧ちゃんのためになると思いますし、何より、こういう場に出る事は、霊くんにとって悪い事ではないはずです」


 霊の指導は的確で、こころ自身、相当強くなれた。少なくとも、ナイトクラスの守鎖之を追い詰められるほどには。

 だから、妹分の音寧にも、指導してほしかった。彼女も来年には心皇学園に入るつもりらしいし、強くなれば死ぬ確率も低くなる。


 もっとも、こういう戦いの分野で、霊から学ぶことは多い。そのため良い意味で注目されるはず。そういう思惑の方が強い、というのが本音であったのだが……。


「……うん。わかった。こころがそう言うなら、出て見るよ」


 特に何も考えず、霊は他流試合に参加する旨を伝えた。


 もし、こころが霊の背を押さなかったら、もっと考え、そして断っただろう。

 守鎖之の実家がやっている道場で、しかも会話の流れから、こころはよく顔を出していた様子。それが最近、めっきり顔を出さなくなった。

 理由は、霊自身。霊の世話を焼いているからだ。


 こころが顔を出さなくなった理由がFランクにあると分かれば、何も知らない一般人の反応など、手に取る様にわかる。


 間違いなく、霊はその思考に行き着いたはずだ。


 それでも思考放棄と呼べる即決を下したのは、こころに言われたからの一言に尽きる。


 もし人が、人の思考プロセスを可視化できたとすれば、やはり霊の事をこう評するだろう。


 『やはり、所詮はFランク(ゴミ)か』と……。





 7人兄妹って、普通に多いと感じる人数ですよね?

 って、ちょっとあざとかったかな……? ま、まあ色々予想してみてください(^ ^;


 さて、ゴールデンウィーク後半用の話を書かなきゃ……書けるかどうか、ちょっと不安ですが、近いうちに更新いたしますので、しばらくお待ちください。


 それでは<(_ _)>

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