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第41話【廃工場の炎騎士】




「エリアA、B、C、D、オールクリア。奥の索敵へ移ります。槍姫ちゃん、朗ちゃん、内部地図のデータ更新をお願い」

「ああ、わかった」

「了解! 任せてっ」


 旧鉱山近くの麓にある、旧時代の廃工場。


 旧鉱山で採掘された鉱石の製錬工場として使われていた場所であり、【心蝕獣】の出現以降に放棄された。

 文明の最盛期が【心蝕獣】の発生直前であり、それ以降は衰退の一途を辿るばかりとなった現在においては、高度に製錬された素材が今も眠っている、所謂宝の山と呼べる場所である。

 もっとも、現在の技術では除去できない有害物質も眠っており、迂闊に探索などできないため、実際に回収できる製錬素材は非常に少ない。


 今回、偵察部隊がベースとしていた廃工場の空間は、そういった有害物質の無いスペースだった。おそらく旧時代においては事務所として使われていたのであろう一室で、偵察隊はここを拠点に旧鉱山の入り口を監視していたのである。

 今は、霊たち救援部隊が拠点としており、こころがビットによる廃工場の索敵を行っている。サポートに針村槍姫(はりむら そうき)戯陽朗(あじゃらび ほがら)がついており、手助けをしていた。


 救援部隊に編成されているのは、【心衛軍】から純愛誠(じゅんない まこと)大佐の直属部隊と大和守鎖之。

 そして第7チームと、輝角凱(きかど がい)

 救援要請にあった未確認のナイトクラスと戦わせるため……ではなく、道中の護衛兼実戦を経験させるために、霊が連れて来たのだ。

 護衛とは、こころが索敵に集中している間の役目であり、もし【心蝕獣】が襲ってきたら、誠の直属部隊と共同する。


 すでに、霊や昂に次ぐ【心力】を身に付けはじめた照討準(てらうち じゅん)がいるため、霊としては、あまり不安はなかった。


「赤く燃え盛るナイトクラスという事だが……こころ、熱反応は今のところ、検知されてないのだな?」

「はい、お父さん。ただ、所々に戦闘の痕跡があります。それでいて血液反応は無いので、もしかたしら偵察部隊の人たちは生きているのかもしれません……」


 通信途絶……全滅を覚悟していたが、今のところ死体は見当たらない。


 逆に不気味ではあるが、生き残っているという可能性が出て来たのは、こころの精神に少なくない安定をもたらした。


「霊くん。奥の方の索敵を開始する。もしかしたらそこにいるかもしれない。発見次第、私と大和と君の3人で出るつもりだ。準備はどうか?」


 一人で黙々と【心器】の点検をしている霊に、誠が問う。


「いつでも行けます」

「よろしい。ではそのまま待機だ。ところで、北西方面はどうなっている?」

『ちょうど今、憤激くんが群れを目視できる所まで近づきました。それで……憤激くんはバイクから降りて、徒歩でそのまま突っ込むと聞かないのですが……』


 こころの使うシールドビットとはまた違う、別のビットからの通信。冴澄理知子(さえずみ りちこ)中尉のものだ。


 閃羽を挟んで反対方向から来ているという群れ。

 その迎撃に出たのが憤激昂(ふんげき こう)。巻き添えを出さないために単身で出た彼の付き添いは、理知子のビットのみだ。


「冴澄中尉。ビットはそこで待機させておいて下さい。たぶん、巻き添えを喰らって破壊されますから」

「そんなにか?」


 昂の【殺神器】はガントレット。それが、周囲を巻き込むほどの武器だとは、誠は思えなかった。


力天使(りょくてんし)……昂の特性は【力】……【心力】による肉体の究極強化です。ただ殴っただけで、その衝撃が周辺の地形を滅茶苦茶に壊して変えます」

「……なんの災害だ、それは」

「もっとも、それは本気を出したらの話です。ポーンアイズが100体程度では、そこまでする必要な無いと思いま……あっ―――」


 何かを思い出したかのように、霊は突然黙ってしまった。しかも口を半開きにしているのだから、誠の不安を余計に煽った。


「ん? どうした?」

「……いえ、何でもありません」


 言うが、明らかに顔を逸らしたので、何でもないわけが無い。非常に嫌な予感がした。


「ちょっ、待てっ! それは明らかに何でも無い事ないだろう?! 何かマズいのか?!」

「いえ、ただ……途中で面倒くさくなって、昂が癇癪(かんしゃく)を起さなければ大丈夫かな、と……」

癇癪(かんしゃく)で何かが起きるのか?!」

「冴澄中尉、もうちょっとビットを離した方がいいかもしれません。念のために……」


 おそらく霊は、昂が癇癪を起して、何かとんでもないことをする、という確信があるのだろう。それは単なる勘か、それとも経験則から来るものなのか……後者の可能性が高い気がするのは気のせいなのか、誠には判断が付かなかった。


 そんな折、こころがターゲットを発見した。


「っ! 居ました!! 赤いナイトクラス……間違いありません!!」


 未確認のナイトクラスの存在は、何かの間違いではないかという思いが強かったのだが、こころが改めて確認したことで、場に緊張が走る。


「よしっ。こころ、お前がビットで誘導してくれ。霊くん、大和。二人とも行くぞ!!」

「はい」

「了解です」


 それぞれの装備を準備し、出動する。


「それでは、凱先輩、照討くん。ここは任せます」

「うむ。任された」

「きき、気を付けてね……」


 事前に打ち合わせした通り、凱と準を拠点の護衛に残す。


 拠点の護衛というが、2人が最優先に守るべきはこころであるのは、霊にとってはいうまでもなく、また2人も理解していた。




◆ ◆ ■ ◆ ◆




 廃工場は、もとから定期的に偵察隊を出していた関係で、工場内の空気循環が行われていた。有害な液体こそ除去できていないが、そういった物は直接空気に触れる場所に漏れ出ていない事が確認されている。 


 霊たちはこころのビットによる先導で、内部に突入。


 現在霊たちがいるのは、ベルトコンベアらしき設備が敷設されている区画。

 どうやら鉱山で得た鉱石を運ぶための場所のようだが、200年も経つと劣化が激しく、赤錆だらけでもう動くとはとても思えない。作りはしっかりしているのか、床が抜けるようなことはないが、それでも劣化して砕けたのであろう、ガラス片や瓦礫が床に散乱しており、ライトがないと進めたものではなかった。


『この先に2つ進んだ区画に、私たちが拠点としている部屋と同じような所があります。偵察隊の人はそこに立て籠っているみたいです』

「立て籠っている? ナイトクラスからの攻撃は受けているのか?」

『それが……立て籠っている部屋の扉の前で、じっと立ったままです。だから偵察隊の人はそこから出て来れないみたいなんですけど……』


 妙な動きだ。

 娘からの状況報告を聞いて、誠が一番に思ったことだ。


 通常、【心蝕獣】はどのクラスであれ、真っ先に人間に襲いかかろうとする。わざと半殺しにして嬲るような個体もいるが、数人はいるであろう偵察隊の人間を殺さず、ただ閉じ込めるだけというのはおかしい。


「霊くん……どう思う?」

「わかりませんね。ただ、何であるにしても急いだ方がいいでしょう。いつ気が変わって、偵察隊のいる部屋に攻撃を仕掛けるかわかりませんから」


 もっともだ、と誠が頷き、3人は歩を速める。


 ちょうどその時、進行方向から爆音が響いた。


『あっ―――気付かれましたっ!!』


 こころからの、切迫した通信。

 どうやら、監視させていたビットに、赤いナイトクラスが気付いて攻撃を仕掛けてきたようだ。


『くっ―――ほ、炎が……?』

「こころ、落ち着いて。敵はどんな攻撃を仕掛けて来てる?」

『は、はいっ。装備は、剣と盾です。ただ、剣から炎が噴き出して、ビットが一機―――焼き切られました』


 装備だけなら、よく見かけるナイトクラスだ。

 ナイトクラスは基本的に、人間が使うような武器……剣や槍、斧といった装備をしているのをよく見かける。そのため、剣を持っていれば【ソードナイト】、槍を持っていれば【ランスナイト】というふうに呼称される。

 ただ、炎を噴き出すというのは、誠や大和はおろか、霊ですら見たことも聞いたことも無い。


「対象を【フレイムナイト】と呼称する。こころ、偵察隊が立て籠っている部屋から引き離し、我々の所へ誘導できるか?」

『やってみます』


 直後、爆音が激しくなり、こころのビットが本格的な攻撃に転じたのがわかった。


「ビットは真っ先に襲ってくるのか……なんでだろう……」

「【心力】に反応しているのか?」

「こころの【心力】は強いですから、有り得無くはないですが……それでもすぐそばにいる人間を襲わない理由にはなりませんね。分からないことだらけだ……」


 言葉とは裏腹に、霊から焦りの感情は感じられない。

 それもそのはず。【心蝕獣】は常に更新という独自の生命プロセスを得て強化される。昨日戦った種が、今日はまったく別の動きをし、こちらを翻弄してくる。特に、大陸を跋扈(ばっこ)している【心蝕獣】……激戦地に身を置く個体ほど、その更新速度は速い。


 分からないからといって、迷ったりするのは愚か。それを霊は身をもって経験している。


「ふん。偉そうな事ばかり言って、結局何も知らないんじゃないか」


 そして、大陸ではない、島国の一角でしか生きた事の無い人間にとって、現状は大事(おおごと)。なのに危機感を持っていないように見える霊の態度は、守鎖之の感に激しく触った。

 余程事態を軽く見ているのか、それとも考え無しなだけなのか……守鎖之から見た霊の態度は、その類の人間にしか見えなかった。


 守鎖之の、棘のある批判に、しかし霊の態度は変わらない。


「まあね。そもそも【心蝕獣】が何なのか、どうして突然発生したのか、根本的な事から分かって無いしね」

「【殺神者】とやらも大したことは無いな。なにが神を殺す者だ。名前負けした組織だな。そもそも、【ゴッド】なるものは本当にいるのか?」


「それは間違いないよ。最初に確認された【心蝕獣】こそ、【ゴッド】だからね」

「証拠は? 出任せじゃないだろうな?」


「各大陸……旧時代では北アメリカや、ユーラシアと呼ばれていた大陸で、記録が保管されていたんだ。記録した組織はそれぞれ別物だけど、大体同じだったよ」


 霊(いわ)く、欧米列強と呼ばれていた国々が同じ見解をもっていたということは、それだけ危機感を強めていたという証拠。であるにも関わらず、欧米列強は【心蝕獣】によって壊滅した。

 欧米列強だけではない。その脅威を目の当たりにし、準備していた世界各国も、【心蝕獣】の侵攻は防げなかった。


「【心蝕獣】が発生した当時は、まだ【心器】が開発されていなかったみたいだからね……。物理的な兵器を主体としていた当時では、歯が立たなかったんだよ。

 火薬を使って爆発させ、吹き飛ばすか、もしくは金属片で致命傷を与える……でも、それは【心蝕獣】には効果が薄い。効かないわけじゃないけれど、致命傷にはならないし、資源の無駄でしか無かったんだ」


「弦斎さんも、私や(ゆずる)に同じような事を言っていたな……。心を力に変える【心器】でなければ、奴らの存在を消すことは出来ない、と」

「存在……? 大佐、それはどういう意味ですか?」


「奴らを物理的に傷付けても、すぐに再生される。その再生エネルギーを消さない限り、奴らは何度でも蘇える」

「そのエネルギーを消せるのが【心力】。そしてその【心力】を増幅するのが【心器】。刀身に【心力】を纏わせたり、銃弾を【心力】で作り出したりするのは、そのエネルギーを消すため。それがそのまま、奴らにとってのダメージとなるんだ」


「ま、待てっ! そんな話、聞いたことないぞ!?」

「今普通に使われている手段に、疑問を持つことって少ないからね。物理兵器よりも【心器】による攻撃が【心蝕獣】に効く。生き残りが掛かっている現状では、その事実だけがすべてなんだよ」


 3人が歩くフロアに、終わりが見える。同時に、戦闘音が壁を隔ててすぐそばで聞こえて来た。


「2人とも、おしゃべりはそこまでにしろ。あの扉を開けたら、敵は目の前だ。気を引き締めろ」


 2人に注意を促しながら、誠が自身の武器、刀型【心器】を鞘から抜刀。同時に、ドアに手を掛ける。


「私が正面から仕掛けるっ! 二人は両翼から頼むぞ!!」


 勢いよくドアを開け、誠が突入。


 ドアの先には、赤く光る甲冑……フレイムナイトの姿があった。

 剣と盾を持ち、剣は燃え盛るような炎を噴出。噴出した炎は、こころが操るビットを飲み込み、一瞬で消し炭にした。


 こころが操るビットは、本人のそばに待機させているのと、ここまで霊たちを先導してきた機を除けば、14機。しかし、この短時間ですでに10機まで減らされている。


 誠はすぐに、フレイムナイトに斬りかかった。

 フレイムナイトは盾で防ぐ。

 動きが止まる。


 その隙を突き、盾を持つ左側面から、大和が白い斬撃を見舞う。

 フレイムナイトは、誠から掛かる力を受け流し、後方へ退避。距離を取る。


 だが、さらに追撃を掛ける者がいた。霊だ。


 1万本の糸が射出できるようになった【糸刀Ver.2.0】。(なかご)と呼ばれる、本来は刀身を収める空間から、青く光る糸が光線のように殺到。

 突き刺さるよな鋭い軌跡は、しかしフレイムナイトが剣を激しく燃え盛らせ、その炎が青い線を歪めて散らした


(熱風で、糸が散らされた? なら―――)


 あれはただの炎ではない。一瞬でそう認識した霊は、攻め方を変える。


 青く光る糸を束ね、刀の形へ。

 刀を糸で構築し、青く光る刀身を振り下ろす。

 青い斬線が、炎の剣と激突。


 今度は、散らされない。糸を束ねて密度を高くしたからだ。


 もっとも、この刀は、刀にして刀にあらず。本質は、刀身を糸で模したに過ぎない。だから束ねていた糸を数本、気付かれないように解く。


 次の瞬間、青い刀身から、青く光る糸が数本、突き刺すように伸びた。


 霊と武器による鍔迫り合いをしようとすれば、たちまち武器から伸びた糸の餌食になる。


 格闘戦に絶対の自信を持つ昂ですら、【糸刀】を使う霊と、一瞬以上の接近戦を嫌う。

 昂は、霊本来の戦い方を【エグい】と評している。その理由が、この戦い方にあった。


 正面からの奇襲とも呼べるこの攻撃を、初見で避けるのは不可能に近いだろう。


 事実、霊はこれでフレイムナイトを仕留めるつもりだった。


 だが、フレイムナイトは上体を後ろに反らして避け、そのままバック転で距離を取った。


(糸との連携を予測していたような動き……なんだ? このナイトクラスは……)


 警戒心が高まる。というよりは、この【心蝕獣】をナイトクラスの力量で見るのを止めた、というべきか。


(万単位の糸じゃあ、熱風で散らされる。それなら……)


 【糸刀】の切っ先をフレイムナイトに向け、静かに次の一手の準備をする。


(【心器】の許す限り、糸を太く……先端は鋭く……)


 【心器】に流す【心力】を調整。オーバーヒートしないギリギリのところまで出力を上げる。


 刀身が、刀身で無くなる。

 太く、そして丸く。しかし先端は鋭く。ちょうど、円錐型になる。


 武器としての分類は、ランスになるか。


 霊が最低限欲しかった本数は、万単位。数百~数千本の糸では、束ねられる密度の関係上、細身のものしか構築できなかった。

 万単位で糸を射出できるようになった【糸刀Ver.2.0 】は、すでに昂との模擬戦で見せたように、様々な武器形態を構築できる。


射出槍(ショットランス)


 そのランスが、飛ぶ。

 【糸刀】自体は……(つか)は霊が持っている。糸で構築したランス部分だけが、飛んだ。


 一直線に飛んだランスは、矢のごとくフレイムナイトに迫る。


 だが、寸でのところで避けられてしまった。


 霊らしくない、直線的な攻撃だった。バカ正直に放たれた一撃など、相応の実力を持つ者にとって避ける事など容易い。


 守鎖之も、その直線的な攻撃を見て、思わず叫んだ。


「馬鹿がっ! そんな見え見えの攻撃が当たるものかっ!!」


真実は蛇(トゥルースネーク)


 外れたランスが、空中でピタっと静止。

 フレイムナイトに先端の向きを変え、脱兎のごとき勢いを持った速さで襲いかかった。


 しかも、まるで見えない手が持っているかのように、何度も突き刺す動作を繰り返す。


 それもそのはず。ランスは【糸刀】から伸びる糸で操っているからだ。有り体に言えば、有線式誘導兵器と化したのだ。

 そのことが分かれば、まるで蛇のよう。蛇が獲物に素早く噛み付くように、何度もランスの先端がフレイムナイトを襲っていた。


 繰り返すが、霊の本来の戦い方は【エグい】。

 振り下ろされた剣が、激突の瞬間には鈍器になっていたり、かと思えば無数の糸が突き刺して来たり、今のようにランス型になって襲ってきたりする。

 絶えず変化する武器形態・武器運用方は、すべての定石を無視する。だから相手は、咄嗟に対応できなくなるのだ。


「弦斎さんに比べれば小規模だが……射出できる糸の本数が万単位では、構築できる武器形態が限られるか」


 それでも、【本来】を知っている誠から見れば……物足りない。そしてその理由も分かる。


 出力できる糸の本数が、本来の物に比べれば少ないからだ。無理矢理構築しようとすれば、密度が少なくなり形態を維持できない。

 閃羽に帰ってきたばかりのころ、霊が糸しか使わなかったのはそのため。いや、糸としてしか使えなかったというべきだろう。それでも、細身の槍程度は構築していたようだが、とても本気を出せたものではなかった。


「こころ、今のうちに、中の人たちの様子を確認して。動けそうなら撤退誘導を」

『はいっ!』


 フレイムナイトに有利な状況を作れたと判断した霊は、ビットに声をかける。


 救援が目的であり、フレイムナイトの討伐は二の次。優先すべきは、偵察隊の撤退だ。


「こころに偵察隊を誘導させます! 波状攻撃をかけて、こいつの足を止めましょう!!」

「分かった! 大和、両翼から攻めるぞ!」

「くっ……わかりましたっ」


 霊が有線誘導するランスの攻撃。その合間に、誠と守鎖之が追撃。


 攻勢に転じることが出来なくなったフレイムナイトは、ひたすらに防御と回避を繰り返すだけとなった。


『霊くんっ! 偵察隊の人たちは全員無事です。今から誘導します』

「わかった。大きなの仕掛けるから、合図したら撤退させて」


 再び【心力】を調整。


 ランスの形が変わり、球体状になる。


針鉄球(ニードルハンマー)


 その球体から、無数の突起物が伸びる。

 この形状は、棘付きの鉄球。鈍器と刺突、両方の特性を併せ持つ。


 先ほどと同様、何度もこの針鉄球がフレイムナイトを襲う。避けられた針鉄球は地面を陥没させ、足場を崩し、フレイムナイトの動きを制限した。


「今だっ!」


 霊の合図。

 それと同時に複数の足音。偵察隊の人間……合わせて6名……が、ビットの先導に従って退避していく。


「すみません、純愛大佐! 助かりました!!」

「早く行け! ここは我々に任せろ!!」


 最後尾の人間……おそらく偵察隊のリーダーだろう……が、誠に一言礼を言い、離脱する。


「よしっ、あとはコイツを……なにっ?!」


 終わりが見えたことで勢いづいた守鎖之。両刃剣の白い刀身に【心力】を集中。振り下ろす。


 しかし突然、フレイムナイトの全身が燃えた。


「熱っ―――!?」


 熱風が肌を焼き、守鎖之を押し返す。


「このぉぉおおおっ!!」


 それでも振り下ろした両刃剣は、フレイムナイトの燃え盛る炎の剣に受け止められた。


 鍔迫り合いになった守鎖之は、己の【心力】を増大させ、両刃剣の切断力を強化し、押し切ろうとしたのだが……炎の剣が、白い刀身に埋まっていた。


 守鎖之の【心器】が、炎の剣に焼き切られようとしていたのだ。


「な、にっ……」

「大和! 離れろっ!! その熱剣とまともに鍔迫り合いをしてはいかん!!」


 誠が警告という名の叫びを上げた瞬間、白い刀身は完全に焼き切られた。


「ぐあっ!!」


 【心器】を失った守鎖之に、フレイムナイトが赤い盾で殴り付けた。

 顔面を打たれた守鎖之はそのまま後ろに転がる。無理に留まらず、この勢いを利用して距離を取ることに集中。


 ある程度転がったところで、何とか四つん這いの状態で態勢を立て直した。


 しかし……。


「大和っ!!」


 守鎖之の首筋に、熱いものが添えられた。


 いつの間にか後ろを取っていたフレイムナイトは、刃を守鎖之の首筋に当て、そして甲冑の頭部を誠に向けた。


(くっ……大和を人質にするつもりか? これでは動けんぞっ)


 すぐに首を撥ねないところを見るに、誠はそう推察した。


 守鎖之を人質にとってこちらの動きを封じ、一網打尽にするつもりなのか……。


 緊張に顔を歪めたが、フレイムナイトはさらなる行動に出た。


「がはっ!?」


 守鎖之の頭部を鷲掴みにし、床面に叩きつける。

 かと思えば持ち上げ、腹に膝蹴りを入れた。


「大和っ?!」


 守鎖之を助けようと一歩踏み出したとき、フレイムナイトは守鎖之を、誠に向かって投げつけた。


 速い。

 誠は刀型【心器】を手放し、守鎖之を受け止めることに全力を注いだ。


 人一人が軽々と、それも高速で投げられたのだ。その衝撃は凄まじく、誠は踏ん張りながらも一緒になって吹き飛ばされてしまった。


「誠さん、大丈夫ですかっ」


「あ、ああ……なんとかな……。大和、大丈夫か?」

「く……は、い……げほっ、げほっ」


 (むせ)ながらも答える守鎖之は、一応大丈夫なようだ。


 霊はフレイムナイトを改めて見据え、【針鉄球(ニードルハンマ―)】をフレイムナイトの斜め上に待機させ、威嚇するように揺らす。


 威嚇されたフレイムナイトは、燃え盛る剣の切っ先を霊に向け、さらにはこの場に残したこころのビットにも向けた。そしてその剣を、くいっと揺らす。


 まるで、二人で掛かって来い、とでも言っているようだった。


「……誠さん、大和くん。2人はそのままで。手を出さないでください」

「挑発だ。霊くん、そいつは普通じゃない。無理をするなっ」


 誠の言う通り、フレイムナイトは明らかな挑発をしている。守鎖之を戦闘不能にし、誠に投げつけたのは、霊と、こころが操るビットと戦うため。

 フレイムナイトがそう言ったわけではないが、そう確信させるしぐさを、今見せた。


「あまり時間はかけません。

 こころっ、ビットを4機、シールド形態にして誠さんたちのそばへ。残りはぼくの援護に回して」

『わかりました』


 その瞬間、フレイムナイトがはじめて、構えらしい構えを取った。




◆ ◆ ■ ◆ ◆




 同時刻・廃工場内拠点。


 誠の直属である救援部隊の数人が、廃工場の入り口付近で見張りをしていた。

 廃工場の周辺は森に囲まれ、近くには川があるが基本的に見通しは悪い。そのため周辺を哨戒しなければならないのだが、こころ以外にも【感応者】はいるため、その人たちが行っていた。


 その【感応者】のビットに、生命反応……【心蝕獣】が検知された。それも、いきなり。


「索敵に反応っ! 【心蝕獣】だ! 森から、東方向から来るぞ!! すぐそばまで来てる!」

「なんだと! 索敵は何をやっていた!!」

「それが、突然現れたんだ! なんだよ、どんどん増えてやがる!!」


 索敵の外からではなく、内側から突然反応が出るため混乱していた。

 この場を任された軍人たちが、急いで迎撃に出る。


 拠点内部も慌ただしくなり、最低限の人数しか軍の者は残らなくなった。


「ふん。どうやら、ただ留守番だけをしていなくとも良さそうではないか。行くぞ! 第7チーム留守番部隊かっこ純愛除くかっこ閉じ!!」

「は、はいっ」


 そんななか、凱は勢いよく立ちあがって言う。

 突然大声で、さも当たり前のように言うものだから、気の弱い準は一にも二にも無く頷いてしまった。


「いやちょっと! 留守番部隊って何ですかぁ?! 輝角先輩っ!!」

「しかもかっことか、わざわざ言うほどのことでも無いでしょうに……」


 それに待ったをかけたのが、朗と槍姫。

 迎撃に出るのはいいが、留守番部隊などと変な呼ばれ方をされて突っ込みを入れてしまった。


 しかし凱はそれらを華麗に無視し、愛用しているバズーカ型【心器】を手にとり歩き出した。


「あ、待って下さいっ。ここに残してある1機だけですけど、援護に回します」


 ビットは、右腕に付けている腕輪のコアから離れても、こころの遠隔操作範囲は、平均的な【感応者】の倍以上。予備として残しておいたビットだが、今回は狭い範囲でなので必要は無い。


 それに、最大で16機の同時操作が行えるこころにとって、1機だけ別の場所でビットを戦わせたとしても特に問題は無い。霊の訓練で全力稼働に慣らされたおかげもあって、ナイトクラスでなければ役に立てる自身はあった。


 それはチームメンバーだけでなく、凱も知っていることだが……敢えてこの場に留まらせることを、彼は選択した。


「純愛。おまえは御神のサポートに集中していろ」

「で、でもっ」

「だだ、大丈夫だよ純愛さん。外には軍の人も、い、一緒に出るだろうし、だだ、だから御神くんの手助けをしていて?」


 準もこころの待機に同意し、出て行こうとする凱に続く。


 こころは、【感応者】が自分だけでは無い事を改めて思い出し、自分に出来る事を最大限やろうと決め、凱たちの指示に従うことにした。


「では行くぞ! 第7チーム留守番部隊かっこ純愛除くかっこ閉じ!!」


「せめて記号を使ってください凱先輩!! っていうか御神くんと憤激くんがいないのに、なんで突っ込みが減らないの?!」


 突っ込みをしなければならない非常識人間2人がいないと思ったら、意外なところに伏兵がいて、思わず叫んでしまった朗だった。



 登場人物紹介も掲載したので、そろそろ後書きに載せなくてもいいでしょうか(^ ^;


 それと、レイアウトを旧版にしました。

 古竜姫は旧版だったのに、こっちは新版。というか、新旧あるということがわからなかったんです……(汗

 個人的には旧版の方が好みで、まことに勝手ながらレイアウト変更をさせていただきました。


 御了承くださいませ<(_ _)>

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