第38話【心合】
大変お待たせしました。
雑事がまだ終わっていないのですが、とりあえず続きを更新。
とりあえず、4月までにこの戦闘を終わらせたい所存です(^ ^;
第1チームと第7チームの勝負。
それは、霊がチームリーダーとして相応しいかどうかを、彼が訓練した第7チームの3人娘で試すためのもの。
第1チームのリーダーにして最年少ナイトクラスである守鎖之が、Fランクである霊のチームリーダーとしての資質を問い、問われた霊が挑発して、この勝負は行われている。
6対3という、数的に第7チームが不利な条件。それでいて、第7チームは護衛対象である霊を守らねばならない。
しかもこの条件に昂が、第7チームに内緒で追加ルールを設けた。
霊を殺しても構わない、というルールだ。
心皇学園での授業外での勝負……決闘は、審判立ち会いのもとであれば、相手の殺害が許されている。霊が遅れて入学して来た初日に、守鎖之と決闘したときもそうだった。
今回の決闘で最初こそ、標的である霊の殺害の是非については問われなかったが、昂は明文化させた。そのおかげで守鎖之は、霊を殺害する気で挑み、それに気付いたこころが激怒。
身を呈して霊を守ろうとするこころと、こころが傷付くのを許容できない霊。互いが互いを庇い合おうとしたとき、2人に変化が生じた。
本来、こころの【心力】は黄色い光を放つ。しかし今は、青い光を……霊と同じ色の【心力】を纏ったのだ。
その映像を理事長室で見ていた穏宮静奈理事長が、呟くように言葉を出した。
「心合……親子二代でそれをやるとは……御神くんには驚かされっぱなしですね」
「心合? 理事長は、あの現象を知っているんですか?」
傍らで共に映像を見物していた篤情竹馬は、静奈が発した聞き慣れない単語について、訝しむように聞く。
「ええ……あれは、お互いの【心力】が同調することで起きる現象です。単純に【心力】を合わせるのではなく、同じ質にする。故にその強さは【心力】の足し算ではなく、掛け算方式になります。元から強大な霊くんの【心力】と、純愛さんの【心力】の掛け算。とてつもない【心力】になっている事でしょう」
その説明を聞いた瞬間、竹馬は想像することを止めた。いや、想像することが出来なくなったというべきか。
常識を遥かに超えた【心力】を有するのが、御神霊だ。
ナイトクラスとして、閃羽で最高峰を誇る【心兵】である竹馬だが、それでさえも彼の前では塵芥に等しい存在でしかない。
そんな霊の膨大な【心力】が、掛け算方式で強化される。しかもそれは、ナイトクラスとはいかずとも、近い実力と【心力】を持ち始めている、純愛こころとの掛け算だ。
仮に霊の【心力】を1億とし、こころの【心力】100としよう。1億+100ではなく、1億×100。人間とは思えないデタラメな……単独で都市の危機を打ち払える霊の【心力】が100倍になる……想像しろというのが無理だった。
だからこの感想を一時的に棚上げして、別の疑問を理事長に問う。
「さきほど親子二代で、と言ってましたが……御神の親も、心合をやっていた、という事ですか?」
「ええ。彼の両親……御神弦とその妻、御神麗那。あの2人は、閃羽で初めて確認された心合を発現した、たった一つの例です。
お互いの心を合わせ、【心力】を強大にし、数多の【心蝕獣】を屠ってきました。それでも勝てなかったのが、御神霊くんが生まれた直後に襲ってきた【心蝕獣】なのですけど……」
当時のことを思い出しているのか、静奈は少しだけ表情を曇らせた。
「とにかく、あれは間違いなく心合です。おそらく、お互いがお互いを守ろうとする意志が同調の切っ掛けとなり、あのような状態になっているのでしょう」
「それにしては御神のやつ、なんだか拒んでいるふうに見えますが?」
霊は冷や汗をびっしりと掻き、必死に踏ん張っている、というような有り様だ。
映像から見るに、霊の【心力】がこころに移っているのがわかる。それを何とか抑えようとしているのがすぐにわかった。
「御神くんの精神に、純愛さんを拒むという法則は存在しません。あれは、純愛さんに負担を掛けないよう調節しようとしているのでしょう。同調しつつの作業なので、彼自身も苦戦しているようですが……それでも同調しながらやってのけるとは……才能でしょうか。いえ、それほどに純愛さんを想っているのでしょう」
疑問を持ちつつも、霊の内情を知っているゆえに、すぐに解消することが出来た。そうして、竹馬に説明する以上に、自分の考えを整理する意味で、自らの所見を述べていく。
「見る限り、純愛さんは持てる【心力】の全てをぶつけようとしています。ですが、掛け算された【心力】をいきなり感情に任せて使えば、【心器】が持ちません。御神くんはそれを直感し、なんとか調節しようとしている。
しかし拒むことはできず、同調する【心力】を最小限に抑えようとして、あのように必死になっているのでしょう」
「ああ、なるほど。つまりアレな時と一緒ですね。フィニッシュのとき、意志に反して絞り取られ―――ぐぼはぁっ?!」
突然、竹馬が前のめりに屈みこみ、膝を突いて倒れた。
竹馬の両手は、股間を押さえるのに必死だった。
「ちょ……理事、ちょ……アン、タ……」
「ここは神聖な学び舎ですよ。オホホホホ……」
傍らにいた竹馬の股間に、どんな方法かは知らないが、目にも止まらぬ速さで打撃をいれたらしい。
さすがに【心兵】の卵を養成する学園の長だけあって、なかなかに侮れない実力をお持ちのようだ。
それはともかく、理事長は再び画面に目を向け、戦闘の様子をつぶさに観察し続ける。
「しかし御神くんは、同調しつつも拒む、という矛盾に等しいことをしている。いえ、人の心というものは、それを可能にできる、という事でしょうか? 私達は、心というものの定義を、観念を、根本から間違えているのかもしれませんね……」
「うぉぉぉ……イテテ……。そりゃあ、心のランク付けというシステム的なものが出来上がって、それを基に今の社会基盤が形成されてきた訳ですけどね。結局のところ何も分かってない……いや、一部しか分かってないってのが正直なところでしょう? 人の心の真理なんて」
股下を押さえながらも、理事長に相槌を打つ竹馬。
ランク付けの真実を知る身としての本音を、憚ることなく言う。
「ええ……権力者にとって都合の良いところだけを強調し、単純化して、ランクの高い者は潜在能力が優秀、低い者は劣等。事実、低ランク者の【心力】は一般的に低く、反社会的な行い……犯罪率は群を抜いていますからね……誰もこのランクシステムに疑いを持たなかったのは、ある意味では仕方のないことかもしれません……」
あくまでも、霊や昂、準のような存在は異質だ。
普通の法則から外れた存在。
例えランクが、時の権力者にとって都合の良い部分を強調されたものだったとしても、それは一般的な法則から外れたものでもなかったのは事実。
それに、客観的に見て、あの3人がFランクらしい精神的な異常者だという面を持っていることは、否定できない。
「昔、何かの本で読んだことがあるんスけどね……まだ国という統治体制があった旧時代、とある国に暴君がいたそうです。無慈悲に民を苦しめ、殺していく、典型的な暴君。しかしその暴君は、家族にはとても優しい、最良の亭主だったそうな……。人の心理の不可解さを、もっとも分かり易くした例えですよ」
「御神くんたちが、大別すればそれにあてはまると?」
「暴君、とは言いませんが、特定の人物や目的以外の価値を、無価値に置き換えられる……しかもそこに何の感情も抱かない……という点では、御神たちは同じだと思いませんか?」
「言い得て妙ですね……自分にとって大切なもの以外は、大切ではない。だから平気で切り捨てられる……そのお話の暴君と、意味的にはまったく同じですね」
画面は、第1チームと第7チームの戦いだけでなく、それを観戦している昂の姿も映している。
霊の殺人を認めさせた張本人は、霊とこころ、2人の異常事態を見て笑っていた。
【心合】のことを知っているのだろう。使えるモノを見つけたとでもいうように、狂的な笑みを見せていた。
そんな昂を見て、ふと竹馬は、先ほどから気になっていたことを、聞いてみることにした。
「ところで理事長。火村のことですが……あなたは、あなた方は何を考えているのですか?」
火村瀬名。
理事長の孫、という事になっている3年生。そして、ただの生徒でもない。ナイトクラスである実力者の竹馬に、その存在を気付かせなかった、油断できない人物。
そしてそれ以上に、神が生み出した【天使】について、竹馬以上のことを知っていた人物でもある。
彼と、彼を孫と扱う理事長に対し、竹馬はその真意を問い質したかった。
「私と瀬名の願いは、一緒ですよ。この世界の現状……神が【心蝕獣】を使って人類を脅かしている現状を、何とかしたいだけです」
「……それが真意なのかどうか、確かめる術をオレは持っていません」
「そうですね。そして私も、私の真意を証明する術を持ちません。言葉にするしかありません。
だから、敢えて言いましょう。敢えて言うのですから、これは他言無用に願います」
「純愛大佐や……御神にも?」
「ええ。あなたに話すのは、あなたが教官……教育者の立場も持つからです。教え子を、わざわざ危険に晒すことを、あなたは望まないでしょう?」
「ええ、仰る通りです。例え理事長の真意が読めなくても、オレは理事長を信頼しています。そしてこの信頼を、オレは失いたくない。おそらく、大局的に見て火村という得体の知れない存在が必要なんでしょうね……」
「……得体が知れない、わけではありません。あなたにだから……かつて弦斎さまと共に戦い、彼の実力を目の当たりにしたあなたには、話しましょう」
一拍置いて、理事長が静かに語りだす。
「彼は……火村瀬名は、御神くんと同列の存在です」
「……それは、火村もロードクラス、ということですか」
霊と同列……それはロードクラスであるという意味になる。そして確実にロードクラスと言えるのは、霊を含めてあと2人、閃羽に存在する。昂と準だ。
通常、ロードクラスが同じ所に3人もいるなどありえない。だが、この異常な現状を見据えれば、瀬名がロードクラスであったとしても不思議はなかった。
だが、竹馬の予想はある意味で正しく、ある意味では間違いであった。
「ただのロードクラスではありません。【殺神者】の幹部である天使には序列があり、御神くんはその最上位に位置する1位」
そして、瀬名は―――
「そして瀬名も、1位なのです」
「―――火村、も? え……ま、まさか……?」
竹馬の顔が、驚愕に染まる。それは最悪の答えを導いたから。
そしてその答えは、正しい。理事長がそう告げる。
「理解してくれましたか。お願いです。私を信頼しているのなら、瀬名のことを誰にも、特に御神くんには話さないでください。いずれ事が動き出せば、否が応でも知ることになる。しかし知るのは、事が動き出してからでなければなりません。
【殺神者】だけでは駄目なのです。事態は複雑なようで単純。しかしそれを理解するまでの道のりが、複雑なのですよ」
理事長の目は、真剣だ。真剣に現状を憂いているのが見てとれる。
竹馬は、知る必要があると直感した。
自分が知らない事を……おそらく、霊も知らないであろう事を、この老婦人から聞かねばならないと。
「……いずれ、詳しい話を伺ってもよろしいですか? 正直、鵜呑みにすることのできない話です」
「ええ、あなたには話さなければ。御神くんの教官として、彼を傍で見守っていただくためにも、話しましょう」
そういって、画面に視線を戻す理事長。
すでに、いつもの穏やかな雰囲気に戻り、この話題は一先ず終了した事を告げていた。
だから、竹馬も調子を戻す。
「ふぅ……。まあ何はともあれ、この戦いはこれまでっスねぇ……。これをアクシデントとして強制終了させてきますよ。このままじゃ大和が死ぬ。それに本来の目的……御神の、リーダーとしての資質も確認できました。2対5で優勢を保てる針村と戯陽。あの2人を育てたのは間違いなく御神ですからね」
「そうですね。では、取り返しの付かないことになるまえに、お願いします」
理事長が頭を下げたのと同時に、扉が開閉する音が響く。
直後、一人になった穏宮理事長は、そして気付いた。自分の手が震えている事に。想像以上に、参っているようだ。
「それにしても……けっして竹馬くんに影響されたわけじゃないけれど、御神くん……干からびないかしら?」
だから敢えて、普段は決して声に出さないようなことを呟き、己の感情を静まらせることとした。
◆ ◆ ■ ◆ ◆
竹馬が退出していったあとに理事長が呟いていたころ、霊は大変だった。
いや、今も大変だ。
冷や汗を大量に流し、なんとか【心力】の流出を最小限にとどめようと踏ん張る。
「くっ……くぅぅ……」
本来なら、【心力】を吸収しているこころから離れればいい。
だが、こころはしっかりと霊を抱き寄せ、離さない。霊の頭を抱きかかえ、怒りのままにビットの操作に集中しているため、かなり強い力が込められている。
「ふっ……くっ……」
【心力】を吸収されていること。
そして、こころに頭を抱きかかえられているため、呼吸ができないこと。
霊が、冷や汗を大量に流している主な原因である。
なにしろ、こころの豊かな双丘に顔が埋まっており、呼吸が難しくなっているのだ。脱出しようともがけば、今度は【心力】が急速に持っていかれる。かといって【心力】の調整に集中すると、息が出来ないことと柔らかい感触のダブルプレッシャーが襲う。そのプレッシャーから逃れようとすると【心力】の調整が乱れ、急速に【心力】を持っていかれる、という悪循環。
この苦労……【心力】の調整と、ダブルプレッシャーに耐える苦労だが……その比率は、6:4。
どっちがどっちか微妙なところだが、そこはあえて説明しまい。ノベルにあるまじきことだが、黙秘権を行使する。字数とページの節約のためである。
閑話休題。
(壊れ、る……ビットがもう、もたないっ……)
霊が心中で呟いた直後、こころが操るシールドビットの一つが、爆発した。許容範囲を大幅に超えた出力を強要され、オーバーヒートしたのだ。
守鎖之を囲っていた包囲網に隙が出来る。が、霊の【心力】が合わさったビットの攻撃は苛烈を極めており、守鎖之はそのことに気付けなかった。
絶え間なくビットから撃ち出される【心力弾】は、着弾と同時に轟音を上げ、土塊を空に巻き上げている。当たればタダでは済まないその攻撃を、回避することで精一杯な守鎖之は、状況の変化を見逃してしまっているのだ。
「くそっ! この青色混じりの【心力】……こころだけの【心力】じゃないなっ!? 御神霊はっ、こころに何をしたんだ!!」
愛しい幼馴染の【心力】に、忌々しいFランクの【心力】が混じっている。
それは、守鎖之を激情に駆り立てるには容易過ぎる燃料だった。
守鎖之は、【心合】の原理を知らない。存在すら知らない。
だが【心力】を感じることはできるから、異物が混じっているという感覚になる。しかもその異物……徐々に徐々に、時が経つにつれて、解けてあっていくのだ。違うモノが、一つになるように。
「やめろっ!! それ以上、こころを汚すなっ!!」
汚されていく。
染められていく。
犯されていく。
そんな単語が、表現が、守鎖之の脳裏に浮かんでは焼きつき、焼け跡から憎悪という名の煙が立ち込めていく。
無論、それは的外れな感情で、逆恨みでしかない。
憎悪を向けられている霊からすれば、汚されて染められて犯されているのは自分の方。自分の心が、精神が、魂が、こころに吸われ、彼女の感情の赴くままに使われているのだから。
(これは【心合】だから、ぼくが、こころを拒絶すれば【心力】の融和は成立しなくなる。けど……ぼくにそんなこと、こころを拒絶することなんて、できないっ……)
霊は、知識として【心合】を知っている。祖父に、そういうものがある、というのは教えられているからだ。
そもそも【殺神者】は、【心力】に関係するほぼ全ての事象を把握している。だから効率的な【心力】の強化ができる。
【心合】は、その特殊性から発動条件が厳しく、満たすのはほぼ不可能というのが霊の見解だ。なのに自分がその特殊条件の渦中にいるというのは、彼の異常な精神に少なくない影響を与えた。いや、その異常な精神の根幹に、直接関係するからこそ、影響が出たというべきか。
霊は冷静な判断を……こころを拒絶して状況を収束させるべき……という判断を下せなかった。
こころを拒絶するということは、自分が【戦える理由】を拒絶すること……生きる事を拒絶することでもあるから。
「くっ……こころっ、落ち着いてっ……。ぼくは大丈夫だから……」
こころの胸に埋まっている状態から、なんとか顔を上げ、言葉を届ける。
「……許さない……霊くんは、守る……私が……二度と……死なせない……今度は、私が、守らなきゃ……」
(っ!? 封印した記憶が、解放しかかってる?!)
こころの目を見て、霊はすぐその思考に行き着いた。
一種の恐慌状態にあるようで、無意識下で記憶を呼び覚ましているようだ。だがいつ、その記憶を意識してしまうかわからない。意識してしまったら、こころの精神に重大な影響を与えてしまうだろう。それだけは絶対に避けたかった。
(どうすればいい……どうすれば、いいんだ……)
動いても動かなくても、事態は重くなるだけ。そんなジレンマに陥ったとき、
―――行かないで―――
(―――え?)
聞こえた、というよりは、頭に響いた、声。
―――行っちゃヤダ―――
――― 一緒に居てよ―――
―――居なくならないで―――
(これは……こころ、の? 【心合】の影響、なのか……?)
頭の中で響いた声は、こころの声だった。
【心合】によって【心力】を共有している状態になっているためか、こころの思考が霊に流れてきているのだ。
流れてくる思考は、まだこころが幼い頃のもの……。霊が閃羽を出て行く前後の思考だ。
身を裂くかのような、悲痛な願い。霊と……つまり自分と、離れたくないという、こころの願いが伝わって来る。
―――違うっ……レイくんはゴミじゃないっ―――
―――レイくんは死なないよぉっ、弱くなんかないよぉっ―――
―――約束したのっ、帰ってくるって言ったのぉっ―――
心の弱いFランクであるからと、居なくなった霊を蔑む近所の子供たち。そしてその親たち。外の世界で生きていける訳が無い、まして心の弱いゴミならば、なおさら。
幼いこころは、それら侮蔑の感情を、真っ向から否定した。だが、その否定を否定される。
死んだも同然。
生きているはずがない。
諦めろ。
何度もそう聞かされ、それでもこころは信じ続けた。待ち続けた。
「……こころ……こんなに……こんなに傷付いていたのか……」
伝わる【心力】は、想いは、ボロボロに傷付き、今にも砕けてしまいそう。
「……こころっ! ごめん、ごめんねっ。ぼくが居なくなることで、こころがここまで傷付くなんて思わなかった」
意を決した霊は、こころの抱擁から顔を抜け出させ、そしてすぐにこころを自分の胸に抱きしめた。
「もう居なくなったりしないから、もうどこにもいかないから、そばに居るから、だから悲しまないでっ……」
「……レイ、くん……わた、し、は……」
「……聞いて、こころ。ぼくの心臓は、ちゃんと動いてるから。だから安心してっ」
こころを己の胸に抱きかかえ、心臓の鼓動を聞かせる。トクトクと、脈打つ音が、確かに耳に響いた。鼓動を感じられた。
「……あっ……レイ……くん?」
「こころ? 正気に、戻った?」
目の焦点が戻ったようで、こころはしっかりと霊を見つめている。もう、大丈夫のようだ。
「あ、あれ? 私、どうして……それに、え? ビットが、減ってる……?」
「詳しい説明はあとにするけれど、今、ぼくとこころの【心力】が合わさってるんだ。その影響……というよりは強過ぎる出力の所為で、ビットがいくつか壊れたんだよ」
「私と霊くんの【心力】が……? どういうこと―――危ないっ!!」
こころが、霊を押し倒す。その直後、霊の頭があった空間を、白い斬撃が通った。
「こころから離れろFランク!!」
一時的に止まった、ビットの包囲網。そこから抜けだした守鎖之が接近し、攻撃を仕掛けてきた。
二人のやり取りを……【心力】の一体化とお互いを抱きしめあっていたところを、間近で見せつけられた守鎖之は、激しい憎悪を燃え上がらせ、標的である霊を切り殺そうとしていた。
「分を弁えず、おまえ如き低能な弱者が、こころを抱きしめるなどっ―――」
白い両刃剣を振り上げ、その刃にありったけの【心力】を注ぎ込む。
「許されざる大罪だ!!」
白刃が、霊の脳天に振り下ろされた。
●御神霊―――――主人公。Fランクの落ち零れとされているが、膨大な【心力】を有する謎の少年。
●純愛こころ―――霊の美少女幼馴染。数少ない【感応者】。
●篤情竹馬――――霊たちの担当教官。ズボラな性格だが閃羽のNo.2ナイトクラス。
●穏宮静奈――――閃羽心皇学園の理事長。小柄な老婦人。
●大和守鎖之―――Sランクにして最年少ナイトクラスの少年。こころの幼馴染。