第37話【私が守る】
キリキリと書き上げたいのですが……どうもノらない。そんな今日この頃。
春先までゆっくりできなさそうですが、ちびちびと書いてなるべく更新したいです(^^;
それはそうと、ガンダムUCのBGMが神すぎて聞き入ってしまうw
これ聞きながらだと、なんとなく次の展開が頭の中で組み上がる。
今期のガンダム成分は補充できないと諦めていたのですが、光明が出てきました。
え? AGE? 知らんがな。
ああ、別に中傷している訳ではなく、見た途端これはダメだと思ったまでです。放映当初はボロクソ言われていた∀ですら、私は発掘的要素にワクテカしていたというのに、AGEはなぁ……。
ちなみに、AGEシステム的なものはフォーミュラー戦記でやり尽くされているので新鮮味が無い、というのもあります。あっちはTV化されなかったんですけどね。
「ねぇねぇねぇねぇ、なんで私達だけで、大和くんのチームと戦うことになってるのかな?」
「成り行きに決まってんだろ。少し考えればわかるだろうがゴラァ」
「わかる訳ないよっ!! それで分かる方がおかしいからっ!!」
戯陽朗の問いに、ぞんざいな答えを返したのは、憤激昂。
2mに届きそうな金髪長身のイケメンな癖に、口が最悪に悪い。そんな彼に、小柄な朗は彼の頭を叩こうと、ぴょんぴょん跳び跳ね、両サイドのショートツインテールの髪を揺らす。
しかし昂が頭を抑えつけてきたので、朗は無力化されるのだった。
「しかし、参加するのは私とこころ、そして朗の3人だけだろう? 対して相手は6人。そのうちの1人は現役のナイトクラス……勝てるわけがない」
難しい顔をしながら呟く、針村槍姫。
第7チームでは、昂に次いで2番目に背の高い女子であり、いつも凛とした感じの子だが、目の前に迫った無理難題に、今はその様子がない。長いツインテールが萎びて見えるくらいだ。
まあ、それも仕方のないことだろう。
第7チームの主力と言ってもいい、常識のすべてを無視した実力を持つ、御神霊と憤激昂、照討準の3人を除く、女子3人で第1チームと戦わなければならないからだ。
人数は半減だが、戦力は半減どころではない。ほぼ無くなったと言っても過言ではないだろう。
「だだ、だ、大丈夫だと思うよ? 御神くんのトゥレイタを使った訓練で、針村さんと戯陽さんは、5機を同時に相手して撃破しているんだから……」
「あの大和とかいう奴には厳しいだろうが、そこは純愛がいるから大丈夫だろ?」
準のどもりながらの励ましと、昂の率直な意見。
3人は、霊が課した訓練によって、相当な腕を上げていた。霊と昂から見ても、太鼓判を押せるほどに。
だが、彼女達はそれを実感していないために、心配しているのだ。
「それよりも、霊くんが標的って、何でそんな条件を付けたんですか?! もし私達が守り切れなかったら、霊くんが危ないじゃないですか!!」
こころが、今にも掴みかかりそうな勢いで、霊に詰め寄る。
これらかの戦いは、第1チームが霊を倒すか、第7チームに戦闘不能にさせられるか、という一種の防衛戦。
ただでさえ数が少ないのに、普通なら防衛不可能な条件だ。
「いやいや大丈夫だよ。向こうのほとんどがSランクって言っても、大和くん以外はポーンクラスがいいところだから。針村さんと戯陽さんはルーククラスの実力は付いているし、今のこころなら、大和くんともいい勝負ができるはず。
大丈夫。ぼくが施した訓練通りにすれば。なにより、自分の力を信じて?」
「霊くん……」
だが、標的であるはずの霊は、いつもと変わらぬ、平々凡々な口調で諭す。
それがかえって、こころのプレッシャーになってしまったのだが……何か言う前に霊が話題を変えてしまった。
「それに、これは今までの訓練成果を見る意味もあるんだ。昂……ちゃんと見ててよね?」
「わかってるよ。沖ノ大鳥島が落ちた今、こいつらが強さの最低限に達しててくれねぇと、テメェは心配で戦いに集中しねぇだろうからなゴラァ」
「沖ノ大鳥島? ねぇねぇ何それ? 鳥?」
「島と言っているんだから、違うに決まっているだろう」
ボケたことを言う朗に、槍姫が突っ込みを入れて正す。
「沖ノ大鳥島って……今朝の、霊くんのバイクの……?」
「うん……それについては、放課後に話すよ。理事長にも話しておきたいしね……」
もう少しのところで霊を落とせた(と、こころは思っている)ところを邪魔した、悪いタイミングで入って来た、悪い情報。
あのあと、霊は何も教えてはくれず、放課後に話すとだけ言っていた。
そんな折、昂がこの場を離れて歩き始めた。
「ん? 昂、どこに行くの?」
「しっこ」
「ちょっと! せめてトイレって言いなよ!!」
デリカシーの欠片も無いことを言う昂に、若干顔を赤らめた朗の注意が飛んだ。
トイレ、というのは嘘。昂の目的は第1チームが待機しているロッカールームだった。
「よぉテメェら。調子はどうよ?」
「貴様……なんの用だ?」
突然現れた昂に、敵意を剥き出しにする守鎖之。ほかのメンバーも同様で、蔑みの視線が昂に殺到する。
しかし、昂は気にした様子も無く、気安く話しかけて来た。
「ちょいとルールの変更を伝えに来たんだよ」
「変更……? フッ……御神霊を標的から外す、とでもいう命乞いか?」
そんな守鎖之の呟きに、第1チームのメンバーから笑いが漏れる。
「ハハッ、ワロスワロス。あいつがそんな玉かよ」
「ワロス……?」
「気にすんな。それでな、変更ってのはよぉ……霊を殺しても構わないってことだ」
「なに?」
そう言いながら、昂はある書類を見せる。
それは、昂がナイトクラス権限で学園側に出させた、今回の決闘のルール変更許可証。
「今からやるのは、決闘だろう? この学園では、立ち会いのもとの決闘で相手を殺しても構わないんだってなぁ?
つまりよぉ、おまえらは霊を殺してもいいってことなんだよぉ」
守鎖之に詰め寄り、狂気に満ちた笑みを見せる。
「その方がやる気出んだろ? おまえも、あいつらもよぉ」
「……狂ってるな。だが、それこそFランクだ。いいだろう、殺してやるよ。そしてこころの目を覚まさせ、オレのもとに取り返すっ」
気持ち悪い。
そう感じたが、それ以上に昂が持ちかけた話が、守鎖之の心を掴み取った。いや、掴み取られたというべきだろう。
あの卑しいFランクを、堂々と裁くことができる。守鎖之の頭の中は、この決闘が迎える結末は、こころに近づくFランクの排除……死、以外に無いとしていた。
(クックックッ……さぁて、どうなるよぉ。これならトラウマを刺激せずに、純愛の底力が見られるかもしれねぇぜ? ええ? 霊さんよぉ……)
このルール変更、霊たちには知らせていない。
知らせればうるさく反対するのは目に見えているからだ。霊ではなく、霊以外の人間が……特に、純愛こころが。
だが、必要だ。彼女の力を測るには。
こころに直接危害が加わることを嫌うから、霊が邪魔をしてくる。なら、立場を逆転させてみればいい。狙われるのを霊にすればいいのだ。
どのていど彼女が霊に執着しているかはわからないが、少なくとも本来の力の片鱗を見る事は出来ると踏んでいる。
(そのための噛ませ犬も、楽に用意できたしよぉ……なかなか権限ってやつは、便利じゃねぇかゴラァ)
ロードクラスの力を持つからと与えられていた権限に興味はなかったが、こんな所で役に立つなら悪いものでもない。こんなに簡単に事を運べるのなら、これからいくらでも乱用してやろう。そう思った。
◆ ◆ ■ ◆ ◆
「何をやっている……こっちは5人だぞ!? たった2人相手に何を苦戦しているんだ!!」
森林を模して作られた野戦場で、第1チームと第7チームが激突する。
第7チームでは、槍姫と朗の2人が先陣を切り、残るこころが、第1チームの標的である霊の護衛に付いてる。
6対3という、数の上で劣勢ながらも、第1チームは押されており、指揮官として後方にいた守鎖之が、チームメンバーに向けて激を飛ばしていた。
「朗、突っ込む! 牽制を!!」
「お任せっ!!」
槍型【心器】を持って相手へ突っ込む槍姫。
【心装】にも【心力】を纏わせ身体能力を強化することも忘れない。霊の教えだ。
そんな槍姫を援護するため、朗は後方からシールドガトリング型【心器】から心力弾を撃ち込み、牽制。
雨のごとく降り注ぐ心力弾が、第1チームの動きを牽制。
頃合いを見て連射から単射に切り替え、槍姫の背後を襲おうとする敵を狙う。
(御神くんなら、避けるか弾くかしてた。けれど、この人たちはどっちもできない。怯んでくれるし、こっちの思い通りにいくっ)
この援護は、霊には通用しなかった。トゥレイタによる訓練でもだ。
だが第1チームには通用する。
ガトリングガン本来の目的……面制圧という役目を果たすことできる。それがしっくり来すぎて、怖いくらいだった。
(朗の牽制が、いつも以上に上手い? いや、違う……こいつらが弱いんだ。御神や、御神のトゥレイタを相手にするより、断然やりやすい。弱過ぎるんだ)
朗の援護により、槍姫は第1チームを掻き乱していた。
槍の一撃(先端は潰されている)が通る。相手がふっ飛んでいく。
「っ!!」
横合いから別の敵。斧型【心器】を持った相手が、槍姫に向けて得物を振り下ろす。
それを槍で受け止め、弾く。
(軽い……いや、今まで相手だった御神の攻撃が、重過ぎだったんだ)
ガラ空きになったドテッ腹に槍を突き入れる。
霊には弾かれるか受け止められるかだったその一撃は、あっけなく相手をふっ飛ばした。
(行けるっ! 御神の訓練通りにやれば、行けるんだっ!!)
数の不利をものともしない、一騎当千の戦いぶり。
無論、それは朗の援護もあっての事だが、それでも、槍姫が一人で無双しているかのような戦いぶりは、見ている者達を沸き立たせ、敵対している第1チームの戦意を萎縮させていった。
と、形勢に明暗が付きそうになったそのとき、槍姫に向かって、白い剣が振り下ろされた。
「ふんっ!!」
「くっ?!」
守鎖之の白い剣。
その剣を、槍姫が槍で受け止める。
霊ほどでは無いにしろ、決して侮れない衝撃が、槍姫の槍型【心器】と腕に襲いかかった。
「槍姫ちゃんっ!!」
朗が牽制射撃を入れる。だが、槍姫にも当たらないよう注意しているため、当てる気が無いのは分かり切っている。
「今だ! 分断して孤立させれば、おまえ達でも数で押し切れるだろ!?」
チームメンバーを叱咤し、自身は【心力】を纏わせた剣で槍姫を押す。
そうして、槍姫と朗の2人が連携できないようにする。
「このぉ!!」
他のメンバーに任せたために、槍姫から離れた守鎖之にガトリングガンを連射。
だが守鎖之は、【心力】を剣に纏わせ、斬撃として放つ【斬撃波】を使用して来た。
咄嗟にシールドでガード。
防いで、また打とうとするが、守鎖之以外のメンバーが2人、こちらに迫って来ていた。銃口を向けるも、再び放たれた守鎖之の【斬撃波】が、朗に防御を余儀なくさせる。
なんとか守鎖之の足を止めなければ……そう思ったとき、朗の前にシールドビットが4機現れた。
そのシールドビットは、朗に迫る第1チームの2人に【心力弾】を放ち、足を止めさせる。
「なにっ?!」
そして、別方向から守鎖之に襲いかかる、新たな4機のビット。
それらに対応するため、守鎖之は朗への攻撃ができなくなった。
「こころちん!」
『朗ちゃんは槍姫ちゃんの援護を続けて! 守鎖之くんは私が……』
朗を援護した4機のビットも、守鎖之に充てる。
計8機のビットに囲まれた守鎖之は、驚愕しながらもビットから放たれる【心力弾】を捌いていった。
形成は振り出しに戻り、そしてすぐに、槍姫と朗の連携が第1チームを押していった。
「こころ……何をそんなに……なんで必死になってる……相手は、オレなんだぞ?!」
ビットに向かって呼びかける守鎖之。こころにも聞こえているはずだからだ。
「オレは、ただFランクからおまえを救いたいだけなんだ! 邪魔をしないでくれ!! オレ達は、幼馴染だろう?!」
しかしこころは応えず、守鎖之への攻撃を続行。
形勢は、3対6という戦力でありながら、第7チームの有利に傾いていった……。
◆ ◆ ■ ◆ ◆
「へぇ……入学からわずか1カ月半で、あそこまでいきますか。第7チームの娘っ子どもは」
理事長室。
そこには霊たちの担任であり、No.2ナイトクラスでもある篤情竹馬と、心皇学園の理事長・穏宮静奈が、第1と第7チームの戦闘をモニターで見ていた。
「うふふ……霊くんがいるのですよ? 彼に合わせられたら、あれくらいは出来る様にならないといけませんからねぇ」
「オレたち教官陣、いらなくないっすか? ダリィなぁ~……」
頭をガシガシと掻き、大欠伸をかます竹馬。典型的なダメ大人な人であるが、何故かナイトクラス。
「それにしても、いいんスか? 御神を殺しても構わないというルールに変更して……しかも憤激以外は知らないって話ですし……」
「憤激くんにもナイトクラスと同等の権限が与えられています。ですから逆らうことはできませんよ。それに、御神くんが殺されることはないでしょう? この様子なら」
「そりゃあ、まあ……大和相手に、針村と戯陽はキツイでしょうが、純愛の力量は大和と互角くらい。ビット操作が前より数段上手くなってますし、もしかしたら倒しちまいそうな勢いですけど……」
モニターに目をやり、戦闘の様子を見つめる。
ビットによる三次元戦闘。大和は幾重にも張られた射線に絡め取られ、ビットからの【心力弾】をすべて捌いているが……動けないでいる。
「けど、殺しにかかってる大和を、ビットだけで止められますかね?」
だが、守鎖之はこころと違い、実戦を数度も経験している。今押されているとはいえ、実力の拮抗した相手にいつまでもいい様にやられる奴ではない。
「止められないでしょうねぇ……」
「……わかってて、何故?」
普段と変わらない、穏やかな声。状況と似つかわしくないその声音に、自分の耳と理事長の正気を疑った。
「憤激くんの狙いは、純愛さんの力です。御神くんが危険に晒される事で、その一端が見られると思っているのでしょう。実は私も、同じ事を考えていました」
「憤激が最初に現れた、あの時の会話……信じているんすか?」
昂が最初に、霊の前に姿を現したのは模擬戦の最中。
乱入する形で現れた彼は、霊を連れ戻すために大暴れ。霊を守るために応戦したこころは返り討ちにされたが、昂が彼女から感じる力と、実際に使っている力に落差を感じる……その様な趣旨の話をしていたのを、音声として拾っていたので知っていた。
「御神くんは一度殺されている。そのとき彼は、純愛さんを守れなかったというトラウマを背負ったまま死にました」
「理事長……?」
「弦斎様から聞いていたのですよ。それで、弦斎様はそのトラウマを逆手にとることで、彼を強くしたのです」
「トラウマを逆手に……?」
トラウマ……言いかえれば弱点にもなるそれを、逆手にとるという意味が分からず、竹馬は聞き返した。
「ええ。純愛さんを守れなかったというトラウマ。彼は純愛さんを、今度こそ守るために、文字通り死にもの狂いになれる。だからあれほどの【心力】が出せます。普通の精神性では、絶対にあの域に達することはできません。だからこそ、トラウマを利用したのですよ……弦斎様はね」
竹馬や理事長など、一部の人間は【心力】の強さが、いわゆる執着心によって強力になり得ることを知っている。それは過去、霊が凱やチームメンバーに話したことと、ほぼ同じ内容だ。
「そして、御神くんが殺されたとき、その瞬間を誰よりも近くで見ていたのが、純愛さんです。それは彼女の心に大きな傷を付け、その時のことを忘れさせなければならないほど、彼女は壊れました。
御神くんが純愛さんを守れなかったというトラウマを負ったように、純愛さんも彼の死にトラウマを負っています。もしかしたら、似たような状況になることで、彼女の力が解放されるかもしれない……」
そこまで言って、はじめて理事長の声音に変化が……憂いを帯びたような声が発せられた。
「しかし同時に、危険もあります。弦斎様が封印した【御神くんが殺された時の記憶】までもが解放されてしまうかもしれません……。だから私は踏み込めずにいたのですがね……」
人の記憶を封印する。それは洗脳に近い、残虐な所業だと……理事長は考えている。
そして弦斎は、条件があるとはいえそれが出来てしまうのに、その力を忌避していたのを知っていた。そんな彼が、その手段を使わざるを得ないほどの状態だったのが、霊が殺された直後の、こころの精神状態だった。
竹馬がなんと声をかけるべきか……そう迷っていたとき、第三者の声が、理事長室に響いた。
「だからこそ【力天使】の提案は渡りに船だった……という事だ」
「?! 誰だっ?!」
この理事長室にいるのは、竹馬と理事長の2人だけのはず。
今まで気付かなかった第三者の気配に、竹馬は所持していた小太刀二刀を、一瞬で抜き放った。
そこには、心皇学園の制服を来た、黒い長髪、長身の男子生徒が立っていた。
この学園の教官として赴任している竹馬には、その生徒に見覚えがあった。
「おまえは確か、3年の……あの【規格外な問題児】と同じチームの……」
規格外な問題児……輝角凱のことであり、入学当初から様々な問題を起こしていることで付いた通称だ。
竹馬の記憶では、この生徒はあの問題児と同じチームにいたはずだ。
「火村瀬名……一応、わたしの孫、ということになっている子です」
「孫って……だって、理事長の子供は全員……だから孫なんて……」
理事長の子供は、全員【心兵】となり、若くして戦死していた。
だから孫などいるはずもない。そもそも、理事長に孫がいるなど聞いたことも無い。
一応、と付けたからにはそれなりの訳があるのだろうが、何故? という疑問が竹馬の思考を埋めていく。
「それに、今【力天使】って言ったな? 理事長に教えてもらったのか?」
【天使】に関することは、弦斎が元情報。その情報は一部の人間だけにしか教えられていない。
まだ18歳前後であろう少年が、弦斎に教えてもらったというのは無いだろう。そもそも接点が分からない。
だから、理由はわからないが仮にも祖母という立場にある理事長から聞いたのだ、と思っての質問だった。
だが、その予想は裏切られた。
「ふっ……いいや。正確には私が、お婆さまに全てを教えた。先代の【死天使】は何かと隠し事が好きだったのでな……」
「な……に……?」
思考が、追いつかない。
耳は確かに、瀬名の言葉を脳に伝えているのに、脳が言葉を理解していない。
「神が産んだ7体のロードクラス。【熾天使】・【智天使】・【座天使】・【主天使】・【力天使】・【能天使】・【権天使】……。
それらに対応する殺神者の天使達。【死天使】・【知天使】・【挫天使】・【狩天使】・【力天使】・【悩天使】・【堅天使】……。
そう……すべてをお婆さまに教えたのが、この私だ……」
「火村……おまえ……?」
瀬名と、理事長を交互に見る。
だが、瀬名も理事長もモニターを見ているだけで、竹馬の呟きにそれ以上の答えを返さなかった。
「私もそろそろ、今代の【死天使】と顔合わせくらいはしなければなるまい……」
「まだ早いのではないですか?」
理事長がモニターから目を離し、瀬名に問いかける。
「大丈夫でしょう。ただ話をするだけですし、輝角を経由するつもりです」
「なら、大丈夫でしょうが……」
「お婆さま、ご安心ください。私はまだ、今代の【死天使】と刃を交えるつもりはないのですから」
そう言うと瀬名は、静かに理事長室を出ていった。
◆ ◆ ■ ◆ ◆
第1チームと第7チームの戦いは、佳境に入り始めた。
第1チームの形勢有利、という形で。
竹馬が危惧した通り、守鎖之が押し始めたからだ。
ビットを相手にせず、霊を守るこころに向かって走り出し、その勢いを止めることができなかったからだ。
「くっ……」
16機のビットすべてを、守鎖之の迎撃に充てる。
いままで8機だったところを16機と倍増され、守鎖之の足が再び止まった。
「止めろ、こころ! おまえはそいつに、そのFランクに誑かされているだけなんだっ!」
呼びかけるも、こころは応じない。
ひたすらビットの操作に集中し、足の止まった守鎖之に十字砲火をしこたま叩きこむ。その怒涛の攻撃は、【心蝕獣】の大群を相手にした時よりも激しい。
十字砲火を築きながらも、ビットは一か所に留まることなく動き回り続けているので、守鎖之はビットの迎撃も出来ないでいた。
「ぐっ……ビットの全力稼働なのに、なぜ撃ち続けていられるんだっ」
予想もしなかったこころの戦闘力に、内から湧き上がる疑問を抑えられない。
普通ならとっくにスタミナ切れを起こしているであろうペース。守鎖之自身、かなりの消耗を強いられているのに、こころの攻撃は間断なく続いている事が信じられなかった。
「こころはもともと、これくらいは出来る素質があった。だからぼくは、その素質を伸ばす訓練を施したんだ。こころはよく頑張ってる。ぼくに応えてくれている」
守鎖之の呟きが聞こえたため、その疑問に対する答えを提示する霊。
だが、それは守鎖之にとって、霊の方がこころの事を自分より理解している、というふうに聞こえた。
守鎖之の思考が、一瞬で沸騰した。
「っ!! ふざけるなっ!! 貴様のようなゴミが、人殺しが、こころを語るなっ!!」
あらん限りの声を振り絞り、叫ぶ。
今まで守鎖之に応えなかったこころが、その叫びに反応した。
「人殺しって、守鎖之くん、どういうこと?!」
想い人を中傷するような言葉に、こころの感情が激しく沸騰する。
だが守鎖之はそれに気付かず、霊が犯した真実を語った。
「そいつは、人を殺している! 商業区の裏通りの監視カメラに、その映像が残っていた!!」
「商業区の、裏通り……それって、【心蝕獣】の大群が来た日の、夜のこと?」
「そうだ。その日、そいつは白装束に身を包んだ十数人の人間を殺している。平気な顔でな。そいつは、罪も無い人々を平気で殺せる、まさにFランクを体現したような奴なのさ!!」
(……そういえば、あれはナイトクラス以上の権限持つ人間でなければ見れないって話だったかな?)
あの時、あの場には、竹馬が居合わせていた。その竹馬から、追加報告という形で聞いた話を思い出す。
特殊な道具を使って【心蝕獣】をおびき出し、操り、混乱に乗じて人を攫う奴隷商人。【心蝕獣】をある程度、思い通りに操れるというとのは大問題だ。そういった事を公表するのは混乱を招くとして、機密扱いにされたのだという。
(篤情教官を通して報告したし、奴らの犯罪証拠も提出しているから、詳細な文書があるはずなんだけど……もしかして、映像だけしか見ていない?)
守鎖之が発した言葉のなかに、詳細を確認していない事を匂わすものがあった。それに気が付いた霊は苦笑し、その様子を見た守鎖之が、霊を揶揄する。
「何が可笑しい!? 貴様、自分が人を殺したという自覚が無いのか?! それともシラを切るつもりか?!」
「いやいや。別にそんなんじゃないよ。確かにぼくは人を殺したよ。否定なんかしない」
取り繕うことはしない。
それは見栄とかではなく、ただ事実だからだ。事実を指摘されて動揺するのは、疾しいという自覚があるから。しかし霊にとって、彼らを殺害したことは、疾しい事でも何でもない。
「聞いただろ、こころ! こいつは、人を殺すことなんか、何とも思っちゃいない!!」
我が意を得たり、とでも言いたげな守鎖之の、勝ち誇ったような声。
一体何に勝ったのかは分からないが、その雄姿を見せたい相手……こころには伝わらなかった。
「守鎖之くん……その白装束の人たち……罪が無い人って言った?」
「ん? ああ……」
「その人たちが、あの【心蝕獣】の大群を呼び寄せ、そして閃羽に【心蝕獣】を持ちこんだ犯人って、知らないの?」
「なに……?」
こころも、霊と同じように気付いていた。守鎖之が詳細を知らないのであろうことに。
「霊くんが殺したのは知りませんでした。けれど、あの人たちは、そうされても仕方のない罪を犯した。知ってるでしょ? 少なくない被害者が出てるって」
気付いて、よく知りもしないで霊を中傷していた事に、感情が沸騰の度合いを、静かに、しかし確実に激しくしていく。
対して、中傷された本人はいたって普通。感情の揺らぎは一切なく、ただ事実を、真実を口にするのみ。
「大和くん。ぼくが彼らを殺した経緯について、政府や【心衛軍】に報告書を提出していた。たぶん、監視カメラの映像と一緒に添付されていると思うんだけど、ちゃんと見なかったでしょ?
ぼくが【苦笑】していたのは、それに気が付いたからなんだよ」
「な、なんだと……」
こころの話と、霊の話が一致していて、自分が道化を演じていたことに、いまさら気が付く。
「仮にもナイトクラスなんだから、もう少し冷静になろうよ。下に付いてきてくれる人が可哀想だよ」
だがこの一言が、道化を演じていた、ではなく、演じさせられていた、という認識に変えるスイッチになった。
包み隠さずハッキリ言ってしまえば、単なる責任転嫁なのだが、それを正当化する、根拠とは言えない根拠が、守鎖之の中で形を成し、喉を震わせる……霊を追及させる材料となった。
「……だがな、Fランク。おまえがあいつらを殺していたときの、あの表情……おまえは人殺しに慣れているな」
「だとしたら、どうなの?」
ここでも否定はしない。
霊は、ただ奴隷商人を知っていただけではない。過去、祖父や【殺神者】と共に世界を放浪していたとき、何度も彼らと対立し、そのたびに殲滅していたのだから。
【心蝕獣】は敵であり、それを利用しようとする彼ら奴隷商人もまた、自動的に敵となるからだ。
「そんな奴を、こころの傍に居させられる訳がないだろう!!」
もっとも、そんな事を守鎖之は知らないし、知りたくも無い。なにより……関係無い。
八つ当たり染みた感情に任せ【心力】を増大させる。増大した【心力】を両刃剣に纏わせ、斬撃を放つ【斬撃波】を、未だ苦笑する霊に向けて放つ。その威力は不思議な事に、倒すべき【心蝕獣】に放ったものよりも強い、むしろ、今までで一番強い威力。当たれば確実に、普通の人間なら真っ二つになるような威力だ。
もっとも、普通でない霊には歯牙にもかけない威力だ。
今回は自分が標的であり、しかも動かないと決めている。自分の心臓が止まらない限り、第1チームに勝ちは無いのだから(つまりどうやっても、第1チームはこの勝負に勝てない)このままでも良いか、棒立ちのままでいる事にした。
が、そんな霊の前にひし形の壁……こころが操るシールドビット4機が合わさり、守鎖之の【斬撃波】を防いだ。
「この、威力……守鎖之くんっ!!」
ビットを通して得られた情報は、防いだ威力が致死性のもの(霊にではなく、あくまで普通の人間に当てはめた場合)である事がわかった。
「今の……当たってたら、霊くんが死んじゃってたかもしれない!!」
だからもう、こころは理性的ではいられなくなった。怒りを露わにする。
その怒りを向けられた守鎖之は、嗤うだけ。
「こころ……こいつは決闘だ。標的であるそいつを殺してもいいと言ってきたのは、そっちなんだがな」
「え……」
怒りを継続させながら絶句する、という表情をつくったこころ。文字通り言葉を失うも、目線は守鎖之から外さず、意識は護衛目標である霊を守れるようにする。
(……なるほど。昂か)
一方の霊は、突然のルール変更の陰に昂が関与している、と気が付いた。
(こころの力を見たいから、ぼくらに内緒で大和くんに持ちかけたんだね? まあ、たぶん大丈夫だろうけれど)
昂は、【心蝕獣】とその先にいるであろう神を殺すことに執着している。そのための戦力は多い方がいい、というのは霊も同じだ。
だが霊にとっての戦力に、こころは入ってない。確かにこころは、強い【心力】を有しているが、あくまで一般人よりは、という程度。
(でもね、昂。もしも、こころの力の一端が見られて、それが期待できるものであっても、ぼくはこころを戦力に数えないし、数えさせないからね?)
祖父に暗示をかけられて記憶を封印され、その影響で抑えられているこころの本当の力が出せれば、もしかしたらジェネラルクラスくらいはあるかもしれない。少なくとも昂はそう睨んでいるし、戦力としてのこころを欲しているのだろう。
その兆候はあった。昨夜、時計塔の上で話したときに、昂はこころを戦力化するつもりなのだろうと感じた。昨日の今日で行動に移すとは思わなかったが、しかしこの戦いのタイミングが良過ぎたのが原因だろう。
とにかく、霊は昂の思惑に気付き、しかしこの突然のルール変更に異議を唱えることはしなかった。
もっとも、意義を唱える間すら与えられなかったのだが。
「死ねぇ! Fランクのゴミがぁぁあああ!!」
(気合入ってるなぁ……)
再び放たれた【斬撃波】。それも連続して、だ。
16機のビットを4機ずつにしてシールドを形成しても、追いつかないほどの連撃。
あれだけの威力の攻撃を連続して放てば、消耗も激しいはずだが、途切れない。霊はそんなところに感心しつつ、呑気に見ていた。
そして一発の【斬撃波】が、ビットの防御網をすり抜け、霊に迫る。それでも棒立ちのまま、霊はそれを見ていた……が、
「霊くんっ!!」
(え……こころっ?! マズいっ!!)
ビットで防ぎきれないと判断したこころが、霊を庇うように抱きついて来た。
驚いた霊は、こころを守るために動こうする。
そのとき、霊はある異変に……それも突然の異変に気付き動きを止めてしまった。
こころの【心力】が膨れ上がり、自分にも勝るとも劣らない密度となったからだ。
それも、ナイトクラスである守鎖之の【斬撃波】を防いでしまうほどの。
「な、なんだ、それは?! おいFランク!! こころに何をしている!?」
防がれた守鎖之も驚きを露わにし、攻撃の手を止めてしまう。
大事な幼馴染が起こした現象と、その幼馴染に起きている現象。
なにしろ、普段は黄色い光を放つはずの、こころの【心力】は今……霊と同じ青い【心力】に包まれているからだ。
霊が何かしたのかと思い、声を荒げる。
その問いに応えたのは、しかし霊では無かった。
「許さない……」
守鎖之に向き直る、青い【心力】に包まれたこころ。
完全に我を失った、激しい怒りを秘めた視線は、守鎖之を硬直させるだけの威圧感があった。
「う……うぉっ?!」
だがその硬直は、すぐに解けた。いや、解かさなければならなかった、と言うべきだろう。
再び攻勢に転じたこころのビットが、守鎖之を狙って一斉射。それらを避けなければならなかったから。動かなければまともに喰らい、戦闘不能にさせられていただろう。
何よりも、威力が上がっている。ビットから放たれ、外れた【心力弾】は地面を爆裂させ、土くれを宙に巻き上げ、大穴をあけるほどだった。
思わず、守鎖之の背筋を冷や汗が伝う。悪寒も走っている。最悪な気分だった。愛しい人に殺意とも呼べる敵意を向けられるのは。
しかし、冷や汗を流しているのは守鎖之だけではない。霊も、冷や汗を流していた。それも、守鎖之以上に。
「うぅ……くぅっ!!」
こころに抱きつかれたままの霊は、何かに抗うかのような表情で、必死の形相を呈していた。
その理由は、自身の【心力】が垂れ流しに放出されているからだった。
自分の意志に反して放出されていくのを、何とか止めようとしているのだ。だが、放出してされているという感覚は、ある意味では間違いだということに、すぐに気が付く。
(な、なんだこれ……こころに、【心力】を持っていかれてる……? まさかこれって……)
放出されてはいるが、それはこころを通してビットに送られ、威力を上げた【心力弾】として放たれている、が正解だった。
簡潔に言えば、霊の【心力】がこころに吸収されているのだ。それも凄まじい勢いで。普通の人間なら、とっくに精神疲労で廃人になっているペースだ。
そんな必死な様子の霊に抱きついているこころは、ビットの攻勢を強めるために、意識を集中し続けている。守鎖之を倒すために。
「霊くんは……私が守る!!」
膨大な【心力】をビットに送り続け、その力を受けたビットが縦横無尽に動き回り、守鎖之を包囲し、追い詰めていった。
●御神霊―――――主人公。Fランクの落ち零れとされているが、膨大な【心力】を有する謎の少年。
●純愛こころ―――霊の美少女幼馴染。数少ない【感応者】。
●憤激昂―――――霊を連れ戻しにやってきた男。イケメンだが口が悪い。
●戯陽朗――――いつも元気で明るい少女。こころの親友。
●照討準―――――小柄で気弱な男子。孤児院の皆を何よりも大切にしている。
●針村槍姫――――背の高いクールな少女。こころの親友。
●大和守鎖之―――Sランクにして最年少ナイトクラスの少年。こころの幼馴染。
●篤情竹馬――――霊たちの担当教官。ズボラな性格だが閃羽のNo.2ナイトクラス。
●穏宮静奈――――閃羽心皇学園の理事長。小柄な老婦人。
◎火村瀬名――――3年生。戸籍上は穏宮理事長の孫。凱と同じチーム。
◎は初登場。