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第4話【○○○なリーダー?】


 心皇学園は広い。

 【心力】を操る兵士・・・・・・【心兵】を育てるのだから、それ相応の施設が必要になる。


 今、第7チームのいる建物もその施設の一つだ。


 実戦訓練を行う専用の施設。

 このような施設は複数あり、連日向上心の旺盛な生徒たちが利用している。

 無論、実戦訓練なので建物は頑丈にできている。具体的には、対心蝕獣用の装甲である外縁防壁と同じ素材、同じ強度。


 施設の中は闘技場のようになっていて、中央のステージで戦う。

 広さはテニスコート4面分と広く、かなり動き回って戦うことができそうだった。

 端っこには、訓練経過を観察するためのモニター設備もあり、そこで各種データを採取できるようになっている。


 その施設で、霊率いる第7チームは、実戦形式での対戦を行おうとしていた。


 赤い槍を持つ、針村槍姫(はりむらそうき)

 黒のバトルスーツ……【心装】を纏い、矛先を目標に向けて構えている。


 その隣には、同じく黒い【心装】を着こんだ戯陽(あじゃらび)(ほがら)

 ひし形の紅い盾とガトリングガンを一体化した【心器】、シールドガトリングガンを構えている。


「…………」


 二人の前には、御神霊(みかみくしび)が立っている。

 その出で立ちは、丸腰。武器……【心器】を持たず、【心装】も身に付けていない。学園指定の制服姿だ。


「いくよっ!!」


 朗がガトリングガンの銃口を霊に向け、連射。

 無数の弾丸が霊に降り注ぐ。

 しかしそのすべてを、霊は縦横無尽に走り、または跳んでかわす。


 その弾丸が、一瞬途切れる。


 霊に襲いかかる、赤い流星。

 槍型【心器】を使う槍姫が、【心力】を纏わせ霊を貫こうとしているのだ。


(途切れるタイミングには完璧に合わせた……でも50点。弾幕と同時に来なきゃ意味が無い)


 心のなかでそう採点し、迫る槍姫を真正面に迎える。


 間合いに入ると同時に、鋭い突きが放たれた。

 その突きも、易々と避ける霊。


「はぁぁぁああああ!!」


 避けられても間を置かず、引いて、そしてまた突き。

 連続的して放たれる一突き一突きが、正確に霊の眉間を狙う。

 だが寸前でかわされる。かわされ続ける。


「ぅぅ……霊くん、大丈夫かなぁ……」


 施設の隅っこで3人の戦いを見守るこころ。

 いくら霊が強いとはいえ、朗も槍姫も入学前から訓練を積んでいる。

 だから霊が怪我をしないか心配だった。


 もっとも、そんなこころの心配を余所に、霊は2人の戦い方に点数を付けている訳だが。


「っ!」


 しばらくして、霊が素手で槍を払う。


「なっ?!」


 高速で走るトラックにでもぶつかったかのような衝撃が、槍を持つ腕に響く。


 思わず呻いた槍姫に、霊が肉薄。


「くっ!!」

「意識を逸らしちゃ駄目だ」


 霊の掌底が、槍姫の胸部に打ち込まれる。

 無論、素手とはいえ【心力】が纏われているのだ。その威力は【心器】で攻撃されたのと同じ。


「うあっ!!」


 抗うこともできずに吹き飛ぶ槍姫。


 その先には……朗がいた。


「うえぇ?! ちょっ―――」


 受け止めるべきか否かを迷い……結果、吹っ飛んで来た槍姫に巻き込まれる形で、朗も一緒に吹っ飛んだ。


「うにゃぁああ?!」

「がはっっ!!」


 討議施設の壁にぶつかり、轟音を上げる。

 そして折り重なるようにして地面に落ち、土煙を巻き上げた。


「イタ~~~イ……」

「ぐっ……【心器】もないのに……さすがは大和(おおわ)を退けただけあるっ……」


 二人とも、絡まるように倒れていて、なんとか起き上がろうとする。


 朗は目を回しながら、槍姫は槍を杖代わりにしてなんとか……と思ったところで力尽きた。


「針村さん、槍の扱い方は随分上手だと思う。でも【心器】に【心力】を注ぎ切れていない。

 ちゃんと注いでいれば、掠るだけでも相手の皮膚くらいは抉れるよ?」


 2人に手を貸しながら立たせる霊。

 今の戦いを批評しながら、さらっと怖い事を、何でも無いことのように言う。

 特にこころは、『抉れる』という言葉に反応。もし本当にそうなっていたら、霊の顔の皮膚が抉れるということだ。


 そんな光景……こころはもう【二度と】見たくなかった。


 ところで、そもそも【心器】とは何か。

 それは、【CMP(コンバート・メンタル・into・フィジカル)コア】と呼ばれる機関が、使用者の心の力を【心力】として、物理的なエネルギーに変換する、というものである。

 コアによって心の力を物理エネルギーに変換された【心力】は、【心経回路】によってエネルギーを伝達され、剣なら剣としての【切断力】を、槍なら槍としての【貫通力】を高める。

 簡単に、大雑把に言ってしまえば、武器としての威力と特性を強める。そのエネルギーを【心力】と呼んでいるのだ


 銃タイプの【心器】だと、この工程が少し異なる。


 【心力】をいったん圧縮し、弾丸として発射する機構が追加される。

 圧縮率が高ければ威力は増加し、射程も伸びる。が、連射ができなくなるので、スナイパーライフル等に向いている。

 逆に、圧縮率が低いと連射性は増すが、威力も射程距離も減衰してしまう。朗の使っているガトリングタイプや、拳銃などには低圧縮が向いている。


「それと戯陽さん……針村さんは【心装】を装備しているんだから、シールドで受け止めてあげないと。

【心力】で衝撃を相殺できるんだからさ」


 そして【心器】の派生である【心装】。

 バトルスーツに小型化したコアを埋め込み、そこから【心経回路】を繋いで全身に織り込んだ服を【心装】と呼ぶ。

 【心器】が攻撃ならば、【心装】は防御。

 スーツの耐久性を上げ、外部からの衝撃を緩和、あるいは相殺する。


 しかも、身体の活性も同時に行うため、【心装】を纏った人間は超人的な動きが可能となる。


 それでも無論、全ての衝撃から守れる訳ではない。限度がある。

 装着者の【心力】を上回る威力の攻撃を受ければ、その分だけダメージが貫通する。

 現に、霊の掌底は槍姫の【心装】の防御力を上回り、吹っ飛ばした。


 そしてその先に朗がいた。

 シールドガトリングガンの盾で受け止めれば、ぶつかる衝撃を無効化し、槍姫を受け止めることが出来たはず。

 霊としてはそれを期待し、わざと朗の方へ吹っ飛ばしたのだが……。


「ふぇ~~~ん……そんな事言われても無理だよ~~~。第一、槍姫ちゃんが怪我をしたら―――」

「シールド……【心装】の役目はあくまでも、衝撃の緩和、または相殺。カウンターの発動する【心装】もあるにはあるけれど、戯陽さんのシールドガトリングガンにそんな機能、付いてないでしょ?」

「あ、そうなんだぁ~~~。ふむふむ、御神くんは物知りだねぇ~~~」

「……朗、本当に知らなかったのかい? 私はてっきり知っているものだと……」


 呆れを含んだ目で親友を見る槍姫。

 もし受け止めてくれれば、もう少し勝負ができたものを、と惜しんでいた。


「それに、【心装】にも【心力】を注ぐように。じゃないと、防御力も上がらない」

「うぇ~~~……御神くん、意外にスパルタだよ~~~」

「……そうなのかな? でも、【心装】に意識を集中してみて? 違いが分かるはずだから」


 言われて2人は、【心装】に意識を集中し【心力】を注ぐ。


 すると、黒いバトルスーツに赤く光るラインが浮かび上がる。

 血液のように全身を駆け巡り、同時に身体が軽くなった。


 【心装】に十分な【心力】が注がれている証拠だった。


「2人ともわかる? その状態を維持しながら、【心器】にも【心力】を注ぐ。

 どちらか一方に、っていうのは、最後の手段。相手と力の差があるときだけだ」


 ならある意味、さっきの自分達は正しかったのではないか? と思う朗と槍姫。

 【心器】も【心装】も使わず、あれだけの【心力】を使えるのだから。


「次はこころだね。どう? ちゃんと12方向から僕らの戦い、同時追跡できた?」

「あ、はい……たぶん、大丈夫だと思います……」


 そう言ってこころは、自身の周囲に【心器】を戻した。


 それは、浮遊するひし形の砲塔……無線遠隔操作タイプの【ビット】だった。

 しかもこれらは複数あり、一つ一つが、あるいはいくつかのビットを繋げて、シールドとすることもできる。

 いわば、こころの【心器】は【シールドビット】なのである。


 さらに【シールドビット】はこころの右腕に集まり、盾の形を形成する。

 これが装着状態であり、ビットでありながらそのまま盾として使える。

 右腕には黄色く丸い水晶体のようなもの……コアを取り付けた腕輪があり、その周りを正ひし形のビット4機が合体。さらにそのまわりを、もう12機のビットが合体。

 計16機のビットが合体した盾……それがこころの【心器】である。


 ちなみに、4機のビットで形成された状態でも、伸ばした腕を隠して余りある大きさだ。

 そのため、基本は外側の12機を攻撃や仲間の防御に使い、残りの4機は純粋な盾、あるいは予備のビットとして待機させておく。


「それじゃあ皆で見てみようか」


 モニター設備に移動し、各種操作を行う。

 まず【シールドビット】とモニターをケーブルで繋ぎ、画面を12分割して表示させる。


 すると、さきほどの霊たちの戦いが映る。

 それも、12方向から。


「……うん。ちゃんと全部のビットをコントロールできてるね」


 さて、ここで少し、こころが使うビットタイプの【心器】について説明しておこう。


 ビットはそれ自体が攻撃兵器であり、また【心力】を受信する機能を備えているため、無線式誘導兵器となる。

 【コア】によって物理エネルギーに変換された【心力】と同じものでしか操作を受け付けないため、他人の【心力】による妨害・誤動作は基本的に受け付けない。

 このためビットは、使用者と五感情報を共有する。つまり、ビットは攻撃兵器であると同時に偵察機の役目も果たし、離れた位置に存在する敵や、建物等に隠れた相手を見つけ出すことが可能なのだ。

 使用者の【心力】にもよるが、操作距離は広く、一つ一つのビットを中継点にすれば、数十km先の場所を索敵したり、目標を攻撃することも可能だ。


 だが、これには複雑で高度な情報処理能力を要求される。

 故に使える人間は少なく、先天的な才能が無ければまともに扱うこともできない。


 このように、【心力】を電波のように使い、無線式誘導兵器のような【心器】を操る人間を、【感応者】と呼ぶ。


「16機のビットを一度にコントロールできるのは、閃羽ではこころだけ。これほど心強い味方は居ないな」

「そんな……槍姫ちゃんは言い過ぎだよ……」

「言い過ぎじゃないよ~~~! クラスの皆がこころちんをチームにって、奪い合いに発展しただけのことはあるんだからね!!」


 この能力は貴重。しかもこころは閃羽で最多の操作ビット数を誇る。

 偵察、情報収集、攻撃に防御。複数の役割を同時にこなすこの【心器】と能力は、心蝕獣と戦うなら喉から手が出るほど欲しい力なのだ。


「こころ、一つのビットでどれくらいの範囲をカバーできるの?」

「あ、えっと……確か、半径10kmは大丈夫だと思います。」


 ちなみに、【感応者】の平均的なカバー範囲は、1機につき3~5kmと言われている。

 こころは通常の倍以上の操作範囲を持つということだ。


「なるほど。なら野外訓練も大丈夫そうだね」


 確かに、こころの力は特殊。希少で強力なものだ。

 だが……霊に驚いている様子はない。かといって失望している訳でもない。

 まるで予想通り。もしくはその程度は当たり前、というような態度だ。


「っ……」


 こころには、それが面白くなかった。

 別に自分が特別な人間だと思いあがっている訳ではない。SランクでありながらAランクの朗や槍姫と一緒にいるのだから、彼女がそんな人間でないことは明白だ。


 では何が面白くないのか。


 霊は強い【心力】を持っている。そして自分は希少な能力を持つ。

 だから霊の役に立てると思った。霊に頼られると思った。だが、実際はどうだ?


 扱いは朗や槍姫と一緒。


 特に驚くでもなく、頼ってくれるでもなく、普通の反応。


 自分はあれだけ霊の【心力】に驚き、頼もしく思ったというのに……。


 驚いてくれない → 頼ってくれない → 特別扱いしてくれない → かまってくれない、という構図がこころの中で出来あがってしまった。


「むぅ……」

「ん? どうしたの? こころ?」


 モヤモヤした気持ちがこころの心情をささくれ立たせる。

 その所為か、モニターに映ったとある場面が目に付いた。それも、決定的に嫌な場面だ。


「霊くん……女の子の胸に攻撃するなんて……ぇっちです」

「へ?」


 件の場面とは、霊が槍姫に掌底を打ちこんだところだ。それも胸部に。


 バトルスーツは、【心力】を纏って防御能力を強化する、というのが前提の防護服。

 しかし、胸部などの急所を保護するところは、防弾チョッキのように分厚くされている。

 だからそんなものに打ち込んだ霊は、特に何も感じなかったのだが、そんなもの乙女には関係ない。


 言われて気付いた槍姫が胸元を両手で隠し、顔を赤くした。


「エッチって……だって訓練だし……」

「訓練なら、霊くんは女の子の胸を平気で触るんですか?!」

「いや、そうじゃなくて……相手を倒すことを目的にしているんだから、心臓を狙うのは当然でしょ?」


 困惑気味に、かつ控えめに言う霊。

 だが内容はとんでもない。強力な【心力】を【心器】なしで出力できる人間が言うと、シャレにならない。


 その証拠に、槍姫は一層胸元を両手で隠しつつ、今度は顔を青くした。


 真っ青だ。


「ちゃんと手加減はしてるんだけど……。それに、殺すつもりなら首だよ。首を跳ね飛ばせばそれでほとんど終わり。心蝕獣が相手のときは、頭も潰しとかなきゃいけないけれど」


 さすが10年も外の世界を放浪していただけはある。

 言葉の重みが違う。

 都市育ちの乙女三人には、どん引き、かつ説得力のあるものだった。


「むぅ……」


 とはいえ、こころだけは全てに納得したわけでは無かったが。


「まあまあこころちん。大丈夫だよ。槍姫ちゃんより断然大きいんだから、チャンスがあれば―――」

「煽るな朗」


ゴツぅンっ!


 朗の脳天に落ちる、槍姫の怒りの拳骨。

 怒りが入っているのは、どうしようもない事実を突きつけられたから。


「イタイ……胸の話になると槍姫ちゃんは怖くなるよ~~~」


 ちなみにこの三人の順位は、こころ>朗>槍姫の順。

 サイズは……槍姫のプライドを尊重して機密扱いと致します。


「もっと怖くなってやろうか?」

「うぅ……もういいよぉ。ところで、御神くんはどんな【心器】を使うのかな?」


 幼馴染であるがゆえに、槍姫のボルテージがどんどん上がっていくのがわかる。

 だからちょうど、朗は疑問に思っていたことを霊に聞き、話を変えた。


「糸を使うんだけど……ちょうど、こんなふうに」


 霊は指先に【心力】を集中。

 昼休みに、こころの前で見せたように、青く光る糸を指先から垂らした。


「学園の心器カタログを見せてもらったんだけど、糸を使う【心器】は無いみたいで……」


 入学時に配られる心器カタログ。

 生徒はそのなかから、自分にあった【心器】を用意してもらい、訓練に望む。

 特注もできるが、基本的にはカタログに記載されているものと同型のものしか作れない。


 設計データがあれば別だが、一から【心器】を作るのは、技術的な面や資金的な問題から難しいのだ。


「確かに糸を使う【心器】など、聞いたことがないな……」

「槍姫ちゃんが知らないんじゃ、私もわからないかなぁ~~~。こころちんはどう?」

「私も聞いたことないかな……。あ、でも霊くんのおじい様は、糸を武器にしてましたよね?」


 幼い頃の記憶。

 霊の祖父は、糸を使った遊びを、自分達にしてくれた。

 人形を糸で操ったり、体を持ち上げたり、何万本も束ねて遊具を作ったり……。


 まさに変幻自在。霊とこころは一日中、糸で作られた遊びに明け暮れていた。


「うん。でもあれはこの都市で作ったものじゃないから」

「御神くんが糸を使うのは、おじいちゃんが戦い方を教えてくれたからってこと?」

「そうだよ。でもまあ、糸じゃなきゃいけないってことはないし、代わりの【心器】を選ぼうかなって、考えてるけれど……何にしようかな……」


 モニターに心器カタログのデータを呼び出し、次々と画面をスクロールしていく。


 剣や銃、ガントレット。

 槍姫が使うようなランスタイプも映される。


「御神くんは近接型なのかい?」

「いや……距離は選ばないよ。近~中距離が多いけれど、糸は伸ばそうと思えば、数十キロ先まで伸ばせるから」

「……常識外れにも程があると思うが?」


 そんな便利な【心器】があることも驚きだが、それを操れるという霊にも驚く。


 【心器】の性能は基本、【心力】に左右される。

 ある程度【心器】の方で補助されるとはいえ、高性能であればあるほど、膨大で強力な【心力】が必要になる。

 霊の言うような万能型ともなれば、必要な【心力】は如何程のものか……想像もつかない。


「……とりあえず、これでいいかな」

「なっ……これは―――」


 霊が選んだ【心器】。

 それを見た槍姫が何か言おうとしたとき……。


「Fランク! 御神霊はいるのか?!」


 施設の扉を乱暴に開け、大和守鎖乃(おおわすさの)が白い剣を携えてやってきた。


 その後ろには、彼と同じチームメンバー。さらに数人の生徒達がいた。

 全員、S及びAランクで構成される、1組の生徒だ。


「守鎖乃くん?! どうしたの……?」

「こころ……おまえは俺と一緒のチームになるべきだっ。そこのFランクを決闘で倒し、証明しようと思ってな」

「まだ諦めてなかったのか。大和は……」


 大和(おおわ)守鎖乃(すさの)

 こころにとって二人目の幼馴染であり、閃羽で5人しかいないナイトクラスの一人。

 こころを自分のチームに入れようとするが、担当教官の篤情竹馬(あつじょうちくば)の適当な割り振りによって、その狙いは外れた。

 そしてFランクである霊がこころと同じチームになった事に、猛反対している。


「御神霊。Fランクに生まれ、卑しい心しか持たないおまえなど、本来俺と決闘することすらおこがましい事なんだがな。学園を納得させるために、特別に相手をしてやろう」

「お断りします」

「なっ―――」


 間髪入れずの返答。静まり返る守鎖乃とその取り巻きたち。


 霊は黙々と【心器】の注文を申請し、学園側に電子メールで送付。

 モニター画面をシャットダウンし、機材の片付けに入った。


「おい、貴様っ―――」

「戦う理由がないので」

「はっ。結局、俺に勝てないから逃げようという腹積もりか。卑しい心しか持たないFランクらしいな」

「いえ、さっきの騒動で君の実力は把握しました。君はぼくの敵じゃない」


 眼中に無い。

 霊は冷めた視線でそう告げた。


「ナイトクラスの実力を持っているのなら、実感したはずだ。君はそこまで無能じゃない」

「……調子に乗るなよ、Fランク。さっきは【心器】の調整が不十分だったからだ」


 腰に携えていた白金の剣を抜き放ち、霊に切っ先を向ける。


「再調整し、完璧に仕上げたこの【守鎖乃専用心器】。Fランクを屠る事など造作も無い」

「……経験不足なのかな。そういう事じゃないんだけど」


 一人呟き、さらにため息を一つ。

 そしてゆっくりと、守鎖乃の正面に立つ。


「【心理工学科】に【心器】の注文をしました。君がナイトクラスとして掛け合ってくれれば、すぐにでも【心器】が用意され、納得のいく形で決闘できると思うよ」

「ふん……自分から敗北の瞬間を早めるとはな。Fランクにしては潔いぞ? はははっ」


 見下した態度を隠そうともしない、守鎖乃の高笑い。

 彼の取り巻きたちも、一様に霊を見て嘲っていた。

 彼らは確信している。守鎖乃の勝利を。Fランクが、Sランクに勝つことは不可能だと。


「っ……」


 そんな彼らを、こころは激しい嫌悪感を秘めた眼で見ていた。


御神(みかみ)(くしび)―――――主人公。Fランクの落ち零れとされているが、膨大な【心力】を有する謎の少年。

純愛(じゅんない)こころ―――霊の美少女幼馴染。数少ない【感応者】。

針村槍姫(はりむらそうき)――――背の高いクールな少女。こころの親友。

戯陽(あじゃらび)(ほがら)―――――いつも元気で明るい少女。こころの親友。

大和(おおわ)守鎖之(すさの)―――Sランクにして最年少ナイトクラスの少年。こころの幼馴染。

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