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第28話【神とその子供たち】




『大切な、人なんだ……ぼくの味方であり続けてくれた、とても大切な人なんだ』


今でも、聞き間違いかと思う。


大切と言われて、ドキリとした。

ただ幼馴染だからという理由も、あるかもしれない。


それでも、期待してしまうのは、仕方のないことだろう……。


好きな人に大切と言われるのは、嬉しいことだ。

それで両想いになれたら、どんなに幸せなことだろう。


近くにいることを、我儘を言う事を許してくれているところを見ると、やはり期待してしまう。


優しくて、困ったときはいつも助けてもらっていた。

身体を張って守ってくれたこともある。


周囲から疎まれ、軽蔑されようとも、自分は彼の良いところをたくさん知っている。


だから、今度は自分の番。

今はまだ無理だけど、いつか彼の隣に並んで立って、支える。


「だから……知りたい。レイくんを支えるためには、知らないことが私には多過ぎる……」


それが、純愛こころの、御神霊に対する偽らざる気持ち。


霊を連れ帰ろうとした男……憤激昂(ふんげき こう)


彼は、自分に何らかの封印が施されていると言っていた。

それさえ解放すれば、霊の足手まといにならずに済む、ようなことを言っていた気がする。

そして、その封印を施したのが霊だとも、推測していたらしい。


だが……。


「けど、レイくんは私に、知って欲しくないような言い方だったな……」


霊が大和と決闘した日のこと。

あのとき、医療室で霊を治療していたとき、自分は何かを思い出そうとした。

思い出そうとして、急に気分が悪くなった。


それを、霊が治めてくれた。


そして『思い出す必要が無い』という趣旨のことを、言っていた気がする。


「レイくんは、嫌がってる。でも、どうして?」


聞いてしまいたい。

だが、聞いたときの霊の反応が、何故か怖かった。


憤激昂が模擬戦に乱入してきた翌日の朝。


まどろみのなかで、こころは一人、悶々とした朝を迎えていた……




◆ ◆ ■ ◆ ◆




憤激(ふんげき)(こう)が1年1組に転入。

同時に、探索部部長の輝角(きかど)(がい)が昂を探索部にスカウト。


朝のHRはドタバタ劇化し、やる気の無さに定評のある篤情竹馬(あつじょうちくば)教官の怒りを買うという、ちょっとしたイベントが起きた。


が、凱は反省せず。

そして昂も反省せず。


「御神……あとで反省文提出」

「……何故ですか」


「おまえが悪い気がするからだ。というか、たぶんお前が原因だろ」

「……」


凱も昂も、(くしび)を起点とした知り合い。

完全なとばっちりなのだが、状況を鎮静できるのにやらないので、篤情教官なりの頼みごと(メッセージ)なのだろう。


思惑通り、霊が二人を締め上げて騒動は終息。


昼休みにきちんとした話し合いの場を設けることになった。




◆ ◆ ■ ◆ ◆




昼休み。

探索部の部室で昼御飯を食べることになった霊たち。


昂の転入により、第7チームは霊、こころ、槍姫(そうき)(ほがら)(じゅん)、昂の6人編成となった。


その6人に加え、探索部の先輩である凱とダナンの2人。計8人で昼食を囲む。


探索部の部室は、一般の生徒たちが授業を受ける教室と同じぐらいの広さだ。


霊たちが入るまで、凱とダナンのたった2人しかいなかったというのに、これは広すぎるだろう。

ダナンが整理しているらしく、本や紙媒体の資料などはきちんと整頓されている。

中央には円形の机が設置されており、十数人は座れそうな大きさだ。


その円形の机に、各々が座って弁当を広げる。


なお、弁当を作っていない凱や昂は、学食から持って来ている。

部室の裏手が食堂に直で通じているので、さほど苦労せず持ってこれるのも、探索部の良いところだった。


「ぐおぉぉ……痛ぇ……。ったく、少しは手加減しやがれよ」

「クックックッ……この程度で情けないぞ、憤激昂。男なら余裕で耐えてみせ―――ぐおぉぉ……」


朝の一件で、霊に締められた昂と凱。


愚痴をこぼした昂を嘲笑った凱だったが、直後に反撃を受けて悶絶。

生傷の部分を指先でビシィッと指されてのことだった。


「き、貴様……」

「へっ。口ほどにもねぇ―――ぐおぉっ?!」


昂も反撃を受け、撃沈。


そんな二人を追い込んだ霊は、そのやり取りに構わず話しかけた。


「昂、前より【心力】の出力が上がったでしょ? 手加減してらんなかった」


【心器】無しで【心力】を使える霊と昂。


前日は昂が【殺神器】を持っていたために、霊は圧倒された。が、【殺神器】を互いに持っていないという条件であれば、【心力】を糸状にして自在に操れる霊に軍配が上がる。

昂もかなりの実力者だが、この場合は相性の問題で霊が有利となり、ボッコボコにされる確率は高い。


霊としては昂を気絶させるつもりでやったのだが、そうならなかったが故の言葉だった。


「ったりめぇだろぉが。2年も経ちゃあ余裕でレベルアップしてるっつうの。ってかよ、そういうお前の方こそ、めちゃくちゃ【心力】が強くなってんだろ? どういうことだよ……」


そもそも、最強最高の性能を持つ【殺神器】に対し、あれほど抵抗できたのは驚嘆すべきことだ。


例えるなら、【戦車という殺神器】に対して、【石ころという心器】で挑むようなもの。

冗談、もしくは誇張しているように思われるかもしれないが、【殺神器】と【心器】とではそれほどに性能差がある。


「さて、どうしてだろうね……。

ところで凱先輩。昂や照討くんを誘いつつ、今回の騒動に関連して聞きたいことがある……それは、ぼくらの事ですよね?」


答えを返すことはせず、霊は話を進めることにした。


ここに集まった目的。

昂と準を探索部に入部させることももちろんだが、昨日の騒動において霊たちの話しに出て来た、諸々の事を聞く目的もあった。


「うむ。貴様らの会話は、ダナンが学園の施設にハッキングを掛けて収集した、昨日の模擬戦のデータからすべて把握済みだ。俺様にも関係あることならば、聞いておこうと思ってな」


訓練所の至るところには、監視カメラや収音マイクなどが設置されている。

それらから得られた戦闘データその他は、学園のサーバーにリアルタイムで蓄積される。


本来は学園の教師か軍関係者しか閲覧できないのだが……ダナンは凱の無茶に付き合わされているうちに、ギリギリアウトなスキルを身につけてしまったのだ。


だから……知ることができた。

霊と昂。

2人の会話とその内容が……。


「私も気になります。照討くんのときも言ってましたけど、【同列存在】って、一体何ですか? それに、神や、殺神者……霊くんの【心力】の翼のことも、気になります」


これまで見せられた、常識外れな霊の実力。そして昨日の戦闘。


知りたかった。知らなければ、霊のそばにいられない……そんな気がして、こころは必死に訴えた。


そんな彼女の視線に、しかし霊は即返答ができない。


どこまで教えていいのか?

いや、そもそも教えるべきでは無いのでは?

教えるにしても、【あの事】について触れないようにしなければならない……。

上手くいくか?


表情は変えず、心中で葛藤する。


そんな霊に、昂は溜息混じりに声を掛ける。


「まあ、なるようにしかならねぇだろ? どのみち巻き込まれることになんならよぉ、心構えだけでもさせておくべきじゃね?」

「うん……そうだね。じゃあ、まずは何から説明しようか……」


心構え……確かに、無用に混乱させるよりかは、今のうちに慣れてもらった方がいいのかもしれない。


とりあえず頭の中で教えるべき情報を取捨選択。

細心の注意を払いながら話を進めることにした。


「ぼくらが何者か。何に所属しているのか。それは、殺神者という……いわば傭兵集団、かな」

「殺神者……なんか物騒な名前だねぇ~……」

「神を殺す者……という意味か? 罰当たりだな」


朗が率直な感想を述べ、槍姫が推測を口にしながら、少々呆れたような言葉を漏らした。


なにしろ、畏怖の象徴である神を殺す、と言っているのだ。

槍姫の言うとおり、罰当たりもいいところ。


それでも、霊は苦笑しながら補足をする。


「まあ、神といっても全知全能の、お伽話に出てくるような存在じゃないよ。実在する神……事実上、この世界の頂点に君臨する【心蝕獣】の……すべての原点」

「ゴッド……オレ達はそう呼んでいる」


霊に続いて、昂。

ゴッドという単語を口にする彼からは、憎悪が感じられた。


「ぼくたち殺神者は、【心蝕獣】の頂点に君臨する、ゴッドと呼ばれる存在を殺すことが目的なんだ」

「その神を炙り出すには、神が直接産んだ7体の【心蝕獣】……つまり【同列存在】を倒す必要があんだよ」


「ええっと、御神くん……? 【同列存在】って、僕や凱先輩のことでも、あるんだよね……?」


【同列存在】= 準や凱 = 敵。

二人の口ぶりから出てくる、この【同列存在】という単語。それは完全に敵視されていた。


一瞬、ヒヤリとし、準は慌てて聞き返してしまった。


「ん? ああ、忘れてた。えっと……【同列存在】には二つの意味があるんだよ」


霊の方も、説明不十分で余計な誤解を与えてしまったことに気付き、再び補足していく。


「【同列存在】は、クラスのことも表している。みんなはジェネラルクラスを含めて、5つの階級しか知らないよね?」

「はい。一番下から、ポーン、ルーク、ビショップ、ナイト……そしてこの前に現れたジェネラルクラス、ですよね?」


確認するように、こころが聞く。


【心蝕獣】の群れとともに現れた、山のように大きな岩の巨人。ジェネラル・ゴーレム。

それまで、こころ達はナイトクラスより上があるなど知らなかった。


「うん。でもあと二つ、さらに上の階級があるんだ」


指を2本立て、言葉を続ける。


「ゴッドと呼ばれる【心蝕獣】を頂点とし、これをゴッドクラスと呼ぶ。これはゴッドそのものを指すんだ」

「ゴッドしかいねぇからな」


ゴッドクラス=ゴッドのことであり、事実上、ゴッドクラスは1体しか存在しないことになる。


「そしてさっき言った、神が直接産みだした7体の【心蝕獣】。ぼくらは皇王(ロード)クラスと呼んでいる」

「そのロードクラスの【心蝕獣】、またはロードクラスの人間。そいつら全部をひっくるめて【同列存在】って呼んでんだ」


【同列存在】とはロードクラスの実力を持つ【心蝕獣】と人間のこと。


霊たちが倒すべき【同列存在】とは、【ロードクラスの心蝕獣】というわけだ。


「ある意味では、同じクラス同士なら【同列存在】って呼べるけど、数の少ないロードクラスにのみ、適用しているんだよ」


「ロードクラス以外ははっきりいってザコだからな。

ま、モブキャラ共に付ける別称なんざ必要ねぇってこった。笑えるよなぁ……ナイトクラス程度で二つ名を授ける所もあるんだってよ。ザコの分際で身の程知らずだぜ」


「そうは言っても、知らない人にしてみれば、ナイトクラスは人類最高峰の証なんだよね……」


「井の中の蛙、大海を知らず、か……。滑稽だぜ、本当に」


鼻で笑う昂。

その笑いは嘲笑であり、無知であることは罪である、と断言するものでもあった。


「ふむ……つまり、俺様や照討もロードクラスということか?」

「ええ。その資質はあると思います。……人類側の戦力は圧倒的に少ない。なら、一騎当千……いや、一騎当億の人間を見つけ、鍛えた方が効率いいんですよ」


霊が、準と凱の2人にこだわる理由はそれだ。


すぐにやられてしまうような有象無象を手駒にするより、自分と同等の力量を持つ人間を見つけて鍛えた方が、思い通りに戦える。


実のところ、この2人が本当にロードクラス相当なのかは、まだハッキリしない。

だが少なくとも、鍛える価値はある。

ナイトクラスよりも、遥かに強い領域……自分達と同じ(クラス)に辿りつける可能性を感じていた。


「それで、ぼくの翼のことだけど。アレは【心力】で作り出した翼、っていうのは分かるよね」


次に教えるべきこと。

それは【殺神者】としての、霊たちの役割。


その切っ掛けとして、【心力の翼】を話題に出した。


「はい。ただ、霊くんが普段纏う【心力】よりも、すごく強いものを感じました。霊くんくらいになると、ああいうことも、【心力】で出来るようになるんですか?」


本来、【心力】の体外出力は、【心器】か【心装】を通してしかあり得ない。


だが、霊たちはそれら無しで【心力】を出力できる。

全身に【心力】を纏い、肉体を強化。強力である彼らの【心力】に比例し、超人的な動きを可能にする。


が、【心力の翼】は肉体強化の域を逸脱している。

あの翼に触れただけで、すべてが消し飛んでしまうような威圧感を感じるのだ。


聞いている者を代表したこころの質問に対し、霊は……。


「いや、できない。アレには条件があるんだ」

「条件、ですか? それは……?」


「神を殺す兵器……【殺神器】に認めてもらい、神殺者としての高位権限を継承すること」


「【死天使】やら、【(りょく)天使】やらのことなんだなぁ~?」

「そういえば、そんな会話もしてましたよね」


あの場にいなかったはずのダナンが、霊と昂の会話の内容を把握していた。

どうやら、本当にハッキングしていたらしい。


「神が産んだ7体のロードクラスには、それぞれ神から与えられた役割がある。それに対応して、殺神者も7つの【殺神器】を作り、それらを扱うものに殺神者の中心的役割を担わせることにしたんです」


「その役割を持つ者に与えられる権限の証として、例えば霊には【死天使】、オレには【(りょく)天使】の名が与えられているって訳だ」


「名と役割を継承すると同時に、【心力】を収束・凝縮できる能力を【殺神器】を通して与えられる。その結果が【心力】の翼なんですよ」


「ふむ……翼のことはわかった。だが今の話で疑問に思った事がある。

 なぜ、神とやらは自ら動かんのだ? 7体のロードクラスの役割とは、一体なんだ?」


霊たちは、ゴッドクラスを自分達の上のクラスに置いている。


ということは、ゴッドという存在は、この世界で最強であるということ。

その最強の存在が自ら動かず、配下の【心蝕獣】に役割を持たせていることが、凱は腑に落ちなかった。


「神はある目的を持っているそうです。その目的が何なのかまではわかっていません。が、それに集中するために、7体のロードクラスを生み出したそうです」


「だからこそ、そいつらをぶっ殺せば、神は自ら出てこざるを得ない。すでに3体まで倒した。残りは4体だ」


「役割については色々とややこしくなりますし、今知っても意味がないので割愛させてもらいます。まあ一つ言えるのは、神が持つ圧倒的な力の一部を、それぞれが持っている、ということです」


「神が持つ圧倒的な力?」


この質問はこころ。

だが、それは霊と昂以外の、この場の全員が知りたいことだった。


「力にも、色々と種類がありますよね? 単純な力の強さから、速さや、技術、などなど」


「つまりロードクラスとは、各々が何かに特化した能力を持っている、ということか?」


強さ、という言葉に敏感な反応を示したのは、凱だった。


「ええ、その通りです。そしてぼくらにも、特化とまではいかなくても、名を表した力と能力を持っています。とはいえ、それも【殺神器】あってのものですし、後々説明していきますよ」


一息つくため、お茶をすする。


こころの母である志乃が用意してくれたお茶だ。

口当たりがよく、霊の好みに合っていた。


「あうわ~~~……色々スケールが大き過ぎて処理しきれないよ~~~」

「確かに、朗の言うとおりだな……。私も追いつけん……」


朗が頭から煙を出し、槍姫が難しい顔で話を整理しようとしていた。


そんな2人に苦笑しながら、霊は手元にお茶のコップを置き、助言した。


「ぼくらは【殺神者】。【心蝕獣】の親玉を殺すという目的があり、残る4体の【同列存在】……【心蝕獣】側のロードクラスを倒す必要がある。

 とりあえず、これだけ覚えてくれれば困らないかな」


話が一段落し、それぞれ本格的に昼食を食していく。


霊は相変わらず、純愛家が用意してくれた弁当。

こころとは色違いのおそろい弁当箱で、今日はご飯ものに野菜炒め系が中心だった。


学食組である凱と昂は、唐揚ランチ。

学生用に大盛りにされたごはんと、5個の唐揚にキャベツの山盛り。


そんな折、凱は部室に備え付けられている冷蔵庫から、ある物を取り出した。


それは、レモン。

半分に輪切りにされたレモンを取り出し、それを摘まんで果汁を唐揚に掛けた。


「フッフッフッ。今日のレモンは一段と活きが良いではないか。ダナン、これはどこで見つけた?」

「農業区の友人にもらった物なんだなぁ~。育て方を少し工夫した試作品で、今年採れた物のなかでは、一番のデキだって言ってたんだなぁ~」

「ほぉ……この果汁の色味、なんとも素晴らしい。輝いてすらいる。そしてこの酸味と香り……果汁量が多いにも関わらず、実に濃厚ではないか」


唐揚に掛けたレモン汁。

それを頬張りながら、不敵な笑いを洩らす凱。


彼はレモン汁を掛ける派であり、大抵のものはこうした食べ方をしていた。


「おいちょっと待てやゴルァ。唐揚にレモンだとぉ?」


しかし、それに待ったを掛ける人物がいた……。昂だ。


「なんだ、憤激。貴様もレモン、いるか?」

「いらねぇよ! ってか、唐揚にレモンは邪道だろうがゴルァ!! 醤油漬けにしたものをさっと揚げて、そのまま食べんのが常識だ!!」


「なっ! き、貴様っ!! レモンを侮ったなぁ!! レモンはなぁ、醤油だけでは不可能な味の域に達することのできる、唯一の手段なのだぞ!!」

「バカてめぇ醤油だけで十分だろぉが! レモンなんざ加えた日にゃあ、至高なる醤油のうまみがぶっ殺されちまうぜゴルァ!!」


ギャアぎゃあと舌戦を繰り広げる、【同列存在】の2人。

互いに譲れぬもののため、殴り合いに発展しそうな勢いで論戦。


静かな昼食が一変、激しい味比べになってしまった。


「たははっ……憤激くんにも、こだわりってあるんだねぇ……」

「戯陽さんがそう言うのも無理ないけど……。でも、昂って大体あんな感じだよ? 好みにはうるさいんだ」


朗が、昂の意外な一面を垣間見て苦笑する。


一応の友人として、また戦友として、霊は何かフォローしようとも思ったが……結局やめた。


「まあ放っておけばいいよ。下らないことでこっちが気を揉むことはないから」


「おい霊ぃ!! 下らないってなんだゴルァ!!」

「そうだぞ御神!! 貴様にはポリシーというものはないのかっ!!」


今まで言い争っていた昂と凱。

霊がボソッと漏らしたおざなりな一言を、耳聡く聞きつけた2人は、息ぴったりに彼を糾弾する。


「別に、唐揚の味付けにそこまで拘らなくても……」


「何を言うか! 事は唐揚だけの問題ではないのだぞ?!」

「そうだぜゴルァ! お前みたいに、腹に入れば何でも一緒だとか言ってる奴にゃあ分からないだろうけどなぁ、食ってのは、生きる上で一番大切なことなんだよ!!」


「よくぞ言った憤激。だからこそレモンによる味付けは必要不可欠なのだ!!」

「だから醤油で味付けした唐揚には不必要なんだって言ってんだろゴルァ!!」


再び争う凱と昂。


堂々巡りなるかと思われた。が、しかし。

徐に、凱は不敵な笑みを浮かべて席に着いた。


「よぉし、そこまで言うなら、この味音痴な御神に、レモン汁付きの唐揚と醤油漬けの唐揚。これらを(しょく)させてどちらか美味いか選ばせようではないか」

「それはいいけどよ……こいつ、まともな感想なんか持たないぜ? どっちもどっち、とか言いそうでよぉ」


「フッフッフッ……俺様に抜かりは無い。一つ、確実に感想を持たせる策がある」

「ほぉ……そいつはなんだよ?」


「ふっ……それはな……御神嫁!!」


「ひゃ、ひゃあい?!」


ビシィッッ! とこころを指さす凱。

定番になりつつあるフレーズに、こころは顔を真っ赤にしつつも、否定せず返事をした。


「貴様、唐揚は作れるか?!」

「え、は、はい……一応、作れますけど……」


「ならば話は早いっ!

今日の放課後までに、俺様と憤激の2人は、それぞれ唐揚用の材料を用意する!

その材料を使って、御神に、貴様の持てる全ての技術を費やして唐揚を用意してやるのだ!!」


「なるほど……それなら霊も、何かしらの反応はみせるってか……いいぜ、乗ってやるよ」


霊の心の内を知った昂は、それならばいけると、凱がふっ掛けて来た勝負に乗ることにした。


それに、勝算もある。

世界中、閃羽のように外縁防壁を設けて社会を形成しているところは少ない。【心蝕獣】の陰に怯えながら、深い森や谷、標高の高い山など、住むのにあまり適さない場所で暮らしているところがほとんだ。


故に、閃羽のようなところでは、文明・文化が発達しており、食材を探すのは比較的容易だ。


「今日の探索部の活動はこれで決まりだ! ダナンっ! 学園側には、何か適当な理由でもでっち上げて受理させろ!!」

「ええ?! そんな無茶苦茶なんだなぁ~~~!!」


あまりにも畑違いな活動内容を、どう誤魔化せというのか。


具体的な指示を出されず、すべてを丸投げされたダナンは悲鳴を上げた。

とはいえ、相変わらずのゆっくり口調なので、切迫した雰囲気など微塵も無かったが。


「材料はこの閃羽にあるもので構わん! 外に素材があるのならば、探索部付けで出向許可を出してもらえ!! いいなっ!!」


「上等だぁっ! 逃げんなよ輝角ぉ!!」


「フッ、その台詞、そっくりそのまま返してくれよう!!」


こうして、凱と昂による唐揚対決が始まった。


「あの、霊くん……私、精一杯頑張って、美味しい唐揚を作りますね!」

「うん、楽しみにしてるよ。あ、それからさ……ちょっと別に頼みたい事があるんだけど……」


霊にしては珍しく、ちょっと言い辛そうに口を開く。


が、何か言葉にするまえに、こころがそれを遮った。


「分かってます! 霊くんの好みは、昔と変わって無いんですよね?」

「うん、そう。よく分かったね」


「よく見てれば、霊くんは分かりやすいですから」


この時の2人の会話が、まさか勝負の行方を決する大事な要素である、と気付いた者は、まだ誰もいなかった。



御神(みかみ)(くしび)―――――主人公。Fランクの落ち零れとされているが、膨大な【心力】を有する謎の少年。

純愛(じゅんない)こころ―――霊の美少女幼馴染。数少ない【感応者】。

憤激(ふんげき)(こう)―――――霊を連れ戻しにやってきた男。イケメンだが口が悪い。

戯陽(あじゃらび)(ほがら)――――いつも元気で明るい少女。こころの親友。

照討(てらうち)(じゅん)―――――小柄で気弱な男子。孤児院の皆を何よりも大切にしている。

針村槍姫(はりむらそうき)――――背の高いクールな少女。こころの親友。

輝角(きかど)(がい)―――――戦闘学科の3年生。野生児的でトラブルメーカー。

●ダナン・デナン――心理工学科のぽっちゃり系3年生。【心器】に関する技術はなかなかのもの。


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