第27話【生きる目的と戦える理由】
神を殺す。
それは彼……憤激昂にとって、生きる目的そのものと言ってもいい。
この世界を蹂躙する【心蝕獣】。
その頂点に立つ、神と呼ばれる存在。
宗教にある抽象的な神ではなく、実在する神。実在するからこそ、その存在を憎まずにはいられない。
そう……憎いのだ。
昂は、実在する神が憎い。
あの日、自分からすべてを奪った【心蝕獣】。親や兄弟、友人……さらには、故郷そのもの。何もかも奪われ、命すらも奪われそうになったあの日。
奴が、現れた。
『神がいるから、【心蝕獣】がいる。神を殺さないと、【心蝕獣】は永遠に生まれ続ける』
あの日とは、いまから5年前。
【心蝕獣】に殺されかけた昂を救ったのは、10歳のこども……御神霊だった。
その手に持つ【殺神器】、糸刀から無数の糸を周辺に放出。
破壊しつくされた故郷の都市全域を跋扈する【心蝕獣】を、その糸で絡め、絞め殺し、圧殺し、そして貫く。あちこちで血風が吹き荒れ、断末魔の声が上がっていた。
『ぼくの力はまだ発展途上だけど、いずれ必ず神を殺してみせる。キミはどう? 神を殺したくないかい?』
幼い霊は、呆然と座り込む昂に手を差し伸べ、問うた。
その顔は、酷く無機質だった。
同情や憐れみ、ましてこの事態に共感するような感じも受けない。
ただ目だけが、この幼い少年の心情のすべてを表していた。
すなわち、狂気。
暗い暗い、人の心を闇に沈めるかのような瞳。あまりの暗さが、逆に並々ならぬ生気を思わせるほどの黒さ。しかしよく見れば何も見ていない。目的を果たすことしか考えていない。
それがはっきりとわかる、狂気の目をしていた。
つまり、本気で神を殺そうとしている目だった。
『殺す……? 神、を?』
『そう。ぼくは神を殺す。殺したい。じゃないと、ぼくはキミのように大切な人を失うかもしれないから』
すっ、とゆっくり指を差す霊。
そのさきにあるのは、たった今失った、昂の故郷。都市だった廃都市。
【心蝕獣】によって滅ぼされた、昂の居場所。
『あっ……あぁっ……くっ、ぁ……』
今までどこか、認めていなかった現実。
しかし突きつけられた事実。
認識すると湧きあがる、悲しみの涙。
張り裂けそうになる胸の痛み。
そして……この身が爆発するかのような怒り。
その怒りは捌け口を求め、昂のなかを激しくのた打ち回る。
『怒ってるよね。うん……怒って当然だ……。それを、力に換えてみない?』
『なっ、にぃ……』
『その怒りを、憎しみに換えて、力に換えて、神にぶつけるんだよ』
『神……神ぃ……神っっっ!!』
すべてを奪った【心蝕獣】。それを率いている、神。
『きっとキミは、ぼくと【同列】だ。【あの時】、ぼくはキミになっていたかもしれない。
だからこそ、ぼくと一緒に戦えると思う。一緒に戦おうよ。一緒に殺そうよ。一緒に……神を、殺そうよ」
『うぅ……く、ぅ、うぉぉおおおぁぁあああっ―――!!』
天を貫く、昂の慟哭。
二人以外には存在しない無の廃都市に、虚しく響き渡る。
霊との出会いが、昂を変えた。昂を生まれ変わらせた。そして……殺神者に変えた。
◆ ◆ ■ ◆ ◆
「神を殺そう……。そう言ったのはテメェだった。なのに、な、の、にぃぃいいい―――」
昂の【心力】が、緑色の光となって吹き荒れる。
怒りを、憎しみに。
憎しみを、力に。
両腕のガントレットに【心力】を集中し、霊を睨みつける。
「なんでオレ達の前から、居なくなったんだぁあああ!!」
踏み出す。
踏み込みのあとが地面を陥没させる。
勢いよく霊へ迫り、その慣性を利用した一撃を見舞う。
「―――っ?!」
が、昂の動きが突然止まる。理由は簡単。霊の指先から伸びる10本の糸が、昂に絡みついて拘束したからだ。
「確かに、今のぼくには【殺神器】がない。けれど、アレはぼくにとって操る糸の本数を増やす装置でしかないんだよ……言ってなかったけ?」
糸の強度その他は、【心器】を使おうが使うまいが変わりは無い。
違いが出るのは、操れる本数。
【心器】無しでは指の数しか出力できないだけなのだ。
ただ、心弦曲は糸の本数が多ければ多いほど、その技術力は発揮されるので、【心器】があればそれに越したことは無い。
「くっ……なん、だ、と……」
「ああ、言ってなかったよねぇ。手の内を晒すなんて、バカのやることだし」
それは、昂にとって痛烈な皮肉だった。
霊は、昂の手の内をすべて知っている。知り尽くしている。
なぜなら、霊が昂を殺神者に誘ったのだから。
「それで、なんでキミたちの前から去ったか、っていう話だっけ……。
逆に聞いていい? 【先生】や【老師】、【オババ様】……殺神者の主要メンバーが、なぜぼくが閃羽に帰郷することを許したか、考えたことある?」
「それは、おまえが序列1位……オレ達のリーダーだから、だろぉがっ」
「忘れてない? ぼくは多数決を取った。序列は便宜的なものであって、あくまで議論によってぼくら全体の行動は決議される……」
殺神者、という集団……。
それはいわゆる、民主制的な意思決定方法を採用している。
霊を頂点としてはいるものの、独裁状態ではない。
「だとしても! 理由を聞いてねぇ!! いきなり帰るなんて言い出して、何もオレ達に言わなかった……いや、待てよ?
【ジジイ】や【ババア】どもは、理由を知ってんのか?! そうなんだな?!」
「別に黙ってたわけじゃないよ。ただ、ここ数年で【同列存在】を3体、立て続けに倒してしまったから、時間が惜しかったんだ」
「どういうことだよ?! 【同列存在】は倒すべき相手だろうが!!」
「最初に倒した【同列存在】は、能天使エクスィア。次に力天使デュナメイス。そして智天使ケルビム。残りは4体。つまり、4分の1の確率で【アイツ】とあたるということ……」
アイツ、が誰を指しているのか。
それが誰かを、昂は一瞬で思いつく。昂にとっても、神を殺すために倒さねばならない相手の一人だから。
「……熾天使セラフィム。死天使のおまえと【同列】の存在」
「そう。アイツはここで……閃羽で生まれたらしい。アイツが最初に現れるのは、間違いなくここだ」
「んなっ?!」
確信を持った目で、霊は告げた。
霊は、確信も確証もなく、憶測で物事を進める人物ではない。
そう分かっているのに、疑問を挟まずにはいられない。【心蝕獣】がここで……人間の住まう場所で生まれたなど、信じられるはずがないから。
「お、おいおい……どういうことだっ?! 【心蝕獣】がここで生まれただと?!」
「正確には、熾天使セラフィムという【心蝕獣】が、ここで生まれた」
「同じことだろうがっ!! 第一、なんでそんなことを知ってんだ?!」
「【オババ様】からそう聞いてたんだ。おじいちゃんの寿命がもう無いってわかったとき、ぼくに教えてくれた」
「だとしても、おまえがここに帰る理由はなんだっ!!」
聞いても納得がいかない。倒すべき【同列存在】が出現するまえに、わざわざ待ち伏せまがいなことをする理由が、昂にはわからなかったから。
だから、霊は答えることにした。
「……ぼくが【天使モード】になったのと、同じ理由だよ」
いつの間にか、霊はこころの所にいた。
昂に【心力】を流し込まれ、封印されていた記憶を無理矢理に解放されかけた。
霊の目から見ても、こころの体力はかなり消耗しているように思えた。
「く、霊くん……」
「ごめんね。もっと上手くやれると思ってたんだけど……思い通りにはいかないね」
昂には、理由を話すつもりはなかった。
話せば、こころに施していた記憶の封印についても話さなければならないから。
だが、十全に力を発揮できない状態で昂を退けられるほど、甘くは無かった。自分自身の甘さを、悔やまずにはいられなかった。
そんな霊の、こころを労わる様子を目の当たりにして、昂は一つの答えを導き出した。
「まさか……? それがおまえの【戦える理由】ってやつかよ……」
霊の強さ……つまり心の、【心力】の強さ。
それは昂も理解している。だから、幼いころからたった一人で、【心蝕獣】を殲滅できるその強さの原動力が、気になっていた。
どんな理由かと思えば……たった一人の女のためだったのか、と……ある意味で失望を禁じ得なかった。
「大切な、人なんだ……ぼくの味方であり続けてくれた、とても大切な人なんだ」
去来する、過去の思い出。
あの日……自分がFランクだと分かってから、周囲の人間は自分に対する態度を反転させた。
蔑み、嫌悪し、忌み、軽視し、見下す。
それまで友達だと思っていた同年代の子供たちはおろか、その親たちまでもが、霊を蔑視した。
あの子は人間の失敗作だった。
あの子は弱い心の持ち主だった。
あの子は社会不適応者になる。
気付けば、霊のまわりは敵だらけとなっていた。【心蝕獣】に脅かされる世界のなかで、人間すらも敵になっていた。
だが、そんななかでたった一人だけ、霊に変わらず接してくれた人……それが、こころだ。
だから大切に思えた。大切にしたいと思えた。守りたいと思った。強くなりたいと、渇望した。
「戯陽さん、針村さん、こころをお願い」
昂に【心器】を破壊され、見ているしかなく呆然と立っていた二人……戯陽朗と針村槍姫に声をかける。
はっとなって正気にかえり、二人は慌てて霊とこころのもとへ駆け寄った。
「こころちん、大丈夫なの?」
「体力を消耗してるけど、大事はないと思うよ」
「御神……勝てるのか?」
「心配しないで。手はあるから……」
朗と槍姫に答えつつ、霊は昂の前に立った。
「昂……キミは、こころを傷つけようとした」
「だから【天使モード】になったってかよ? ちゃちぃ理由だ……」
「ぼくにとっては大事だよ。それに、キミは殺神者の決議に背いたんだ……。罰は受けてもらう」
次の瞬間、昂の身体が宙に飛ばされる。
絡み付いていた霊の糸が、昂を空へ押し上げたのだ。
だが、絡み付いていたのは8本の糸。【天使モード】となり【心力】を完全解放したとしても、それを十全に発揮できる【心器】……【殺神器】がなければ、【殺神器】を持つ自分……昂に対抗するには不十分なのだ。
そう。昂のガントレット型【心器】も、【殺神器】。霊クラスの【心力】にも耐えられる、超高性能【心器】。
神を殺せる、唯一の武器だ。
昂は全身から【心力】を放出し、霊の糸を引き千切る。
「ハッ! 例え【天使モード】でも、【殺神器】を持ってるオレの方が有利だゴルァ!!」
だが間髪入れず、再び8本の糸が昂の左腕を絡め取る。
「だから、数で補おうと思ってる……照討くん、よろしく」
糸は指一本につき1本。つまり、両手の指を合わせれば、【心器】がなくても10本まで出力できる。
昂を絡め取っている糸は、全部で8本。
残る2本のうち一本が、昂ではない人物のところへ伸びていた。
その糸を通して霊が声をかけた人物……それは、照討準。
先程の戦いで昂に敗れはしたものの、まだ拳銃型【心器】が1丁、残っている。
殴られた部分がズキズキと痛んで起き上がれないが腕は動く。狙いを付けるだけなら問題ない。
準は地面に倒れたまま、空中にいる昂に銃口を向けた。
「うん、わかってる……撃つよっ」
引き金を引く。橙色の弾丸が、昂を襲う。
「ウゼェ! 大人しくくたばってればいいものをっ!!」
絡め取られていない、右腕のガントレットで弾丸を弾く。
(ちぃっ! 片腕を封じられてっから、埒があかねぇぞゴルァ)
絶え間ない射撃に舌打ち。
しかしよく考えれば、この攻勢は長くは続かない。
準は、霊や昂と同等の【心力】を有している。であるが故に、一般の【心器】では耐えられない。
時期にオーバーヒートを起こして壊れ、戦闘不能になる。
だが、霊がそれを失念しているわけがない。
(あん? 残る1本は、どこに通じてる……?)
そこで気付く。
本気で抵抗するつもりなら、今使える手段……10本の糸を駆使してくるはず。1本を準への連絡に使っていたとしても、残りの1本はどこにある?
気付いて、準の弾丸を捌きつつ周囲に注意を払うと……最後の1本が見えた。
その1本は訓練場の外……校舎の方へ伸びていた。
「じゃあ、止めをお願いします……凱先輩」
その校舎の屋上に、人影を見つける。
真っ赤な短髪に、黒いジャージ姿の男子生徒。
輝角凱が、バズーカ型【心器】を肩に構え、そして背中に黒いバックパック……【心力コンデンサー】を背負って立っていた。
糸電話の理屈を応用し、凱に連絡をとって加勢に来てもらったのだ。
「ぬわぁーーーはっはっはっ!! 任せておけいぃぃぃっ!!
【心力コンデンサー】、ちょっけえぇぇつ!!」
背負っていた黒いバックパックが上にスライド。
肩に構えていてバズーカの後部に接続。
【心力コンデンサー】に蓄えられていた凱の膨大な【心力】が、バズーカに流れ込む。
「行くぞ!! 規格外な青春の熱き血潮!! はっしゅぁあっ!!」
放射される、紫色の光。
膨大なエネルギーがすべてを呑み込まんと放たれ、空中に拘束されている昂に迫る。
「なっ……この【心力】は、まさか……」
「【同列存在】が3人……さすがに予想できなかったかな?」
昂の表情が、驚愕の色に染まる。
反応が遅れ、凱の放ったバズーカの光に呑み込まれてしまう。
学園の上空を蹂躙した紫色の光が、都市上空を覆うエネルギーシールドを超え、外の世界の地平線の向こうを貫いた。
「や、やったのか……」
「あれって、凱先輩の……だよね? あんなにすごい威力だったんだ……」
【心力コンデンサー】に蓄えた【心力】を一気に解放し、超ド級の一撃をもって必殺とする、凱の戦術。
前回は霊のおかげで事無きを得たが、改めて目の当たりにした威力は、筆舌に尽くしがたい。
正直、あの威力なら都市の一部を壊滅させることなど容易いのではないか? と震撼した。
が、それよりもあの男……昂はどうなったのか。
光条が収束しはじめ、ようやく収まったころで空を注視する。
「……バカな。凌いだのか」
槍姫の呟きは、驚愕を表している。
その視線の先には、昂の姿が。
両腕を交差させ、防御の体勢を取っていた。全身から煙が立ち上っており、服も所々溶け破れている。
それからしばらくして、交差させていた腕が、だらんと垂れる。
そして、ゆっくりと落下する昂。
地面に落下し、力なく倒れて行った。
「み、御神くん……? やったの、かな?」
「……」
返事は、なかった。
だが、霊の代わりとばかりに響いたのは、笑い声だった。
昂の、笑い声だ。
「くっくっくっ……ハハハハ……ヒャハハハハ、ハッハッハッ!!」
「全然……効いてないの……」
朗の声は震えていた。
身体を大きく痙攣させ、大きな笑い声を響かせる昂。
ボロボロでありながら爆笑を続けるその光景は、どこか不気味だ。これだけのダメージを負っていながら、まるで堪えた様子を見せないのだから。
ひとしきり笑った昂は、勢いを付けて起き上がった。
「はっはっはっ……霊よぉ。最後に【同列存在】を見つけたのは5年前だったよなぁ? なのに、この短期間で2人も見つけたのかよ……すげぇな」
昂は肩を小刻みに震わせ、手で顔を覆いながら話す。表情は分からないが……口の端は大きく吊り上がっていた。
「ただ故郷に帰って、のうのうと過ごしていたわけじゃねぇってか」
「……2人を見つけられたのは偶然だった。けど、これはチャンスだ。戦力は多いに越したことはないからね」
「なるほどな……。おまえがここに留まるってのは、ある意味で合理的だわなぁ」
「急いでいても、神は【同列存在】すべてを倒さないと出てこない。ならそのとき、確実に神を殺せるように準備しておくのも、悪い手段じゃないだろう?」
「フッ……いいぜぇ。なら見ててやるよ。あの時のおまえの言葉が、嘘じゃねぇってのをよぉ……」
「神は必ず殺すよ」
「その女のために、か?」
「神を殺さないと、ずっと脅かされたままだからね」
「わかったよ……。想像してたのと違ぇけど、てめえの【戦える理由】を知って納得したぜ」
ここで数少ない【同列存在】である2人の戦力を鍛え上げる。
そうすれば、勝算はかなり上がるだろう。
神を確実に殺せるならば、しばらく待ってやってもいい……そう、思うようになった。
それほどに、【同列存在】の発見は希少なものだったのだ。
「おまえは神を殺すんだよなぁ。オレと同じで、自分の願いのために」
「もちろん。付け加えるなら、ぼくの願いのために、キミを仲間に引き入れたんだ。役に立ってもらうよ」
「けっ。神を殺せるならどんなことだってやってやるよ。だから、失望させんなよ?」
背を向け、そのまま跳躍する昂。
あっという間に姿が見えなくなり、あたりには静けさだけが残った。
「御神くん……いいの? 放っておいて……」
「うん……。まあ、もう大丈夫だと思うよ。それより、はやく学園側に状況の報告をしないと」
朗の問いに曖昧に頷き、糸を使って学園の教官たちに状況を知らせた。
◆ ◆ ■ ◆ ◆
昂の乱入により、戦闘学のチーム対抗戦は中止。
市街地を模した野外訓練場の被害が馬鹿にならなかったためだ。
建物の倒壊が7棟。損壊は、修復に1週間以上を要するものだけでも2桁に達していた。
行方を眩ました昂については、霊がナイトクラス権限を使って捜索の一切を止めさせていた。
理由の多くは語らなかった。
それでも、もうあのような真似はしないだろうという霊の強い進言で、昂の捜索は行われず、学園に平穏な日々が戻りつつあった。
かに、見えた。翌日までは。
「あ~……ダリィけど転校生を紹介するぞ~」
1年1組の担任、篤情竹馬教官が、いつも通り教師とは思えない態度でHRを始めた。
ガシガシと頭をかきながら、大あくびを一つかます。
典型的なダメ大人。
しかしこんなのでも、閃羽のNo.2ナイトクラスである。
そんな彼の隣には、2mに届きそうな高身長の男子生徒の姿があった。
「憤激昂……昨日の一件で知ってるやつもいるだろうが、まあクラスメイトとして仲良くしてやれ」
「憤激昂だ。よろしくなっ」
ニヒルに笑いながら、クラスの面々に向かってそう挨拶。
「え……えええぇぇぇ?! なんでえええぇぇぇ?!」
朗が立ちあがり、昂を指さしながら絶叫。
昨日の一件を中継で知っているクラスメートたちも、昂の姿に開いた口が塞がらない。
「ちょっ、なんで?! 御神くん、これはどういうことなの?!」
「ああ、そういえば言ってなかったっけ。彼はああ見えて、ぼくらと同い年だよ」
「いや、それも結構驚きなんだけど、そうじゃなくて!! なんで転校生としてここにいるの?!」
「さあ……ぼくにも分からないんだけど……」
これは本当だ。霊だって今知った。
まあ理由はなんとなく想像が付くが、あえて口には出さなかった。
これだけ騒いでいれば、昂の耳にも入っているだろうから。
「おいおいお嬢ちゃん。昨日言っただろ? 見ててやるってよ」
案の定、昂はが近くに来て説明した。
霊が本当に神殺しを成そうとしているのか。それを近くでみるために、転校生としてやってきたのだ。
「お、お嬢ちゃんって、同い年なのに……」
「っていうか、お嬢ちゃんはオレとタメなんだな。どうみても小学生……よくて中学生くらいにしか見えねぇ……これが生命の神秘ってやつか?」
「んなっ?! ひ、人が気にしてることをズバっと……」
「朗、落ち着け。本当のことでもな」
「ちょっ?! 槍姫ちゃん酷いっ!!」
ガヤガヤと騒がしくなる、霊の周辺。
そこに追い打ちをかけるように、篤情教官が告げた。
「んじゃあ憤激は第7チームに入れな? これで数もちょうどよくなるだろ?」
「……押し付けましたね? 篤情教官」
霊がボソっと抗議するが、篤情教官はスルーして次の連絡に入ろうとした。
が、それを遮った生徒がいた。
大和守鎖之だった。
「待って下さい、篤情教官! 立て続けに、このクラスに転入生などおかしいじゃないですか!!」
「そうだけどよぉ。まあ色々あんだよ。それに貴重な戦力にもなるって、理事長が即、許可しちまったんだ。従うしかねぇわなぁ……」
「貴重な戦力だと……こいつが?」
「大和。きのう、おまえを吹っ飛ばして気絶させたのが……コイツなんだわ」
「なっ?! こいつが、あのときの乱入者?!」
昂は乱入時、あたりを吹き飛ばしながらやってきた。その時の余波で守鎖之は吹き飛ばされて気を失ったのだ。
「ふざけるなっ! こんな訳のわからない奴を放っておくなど―――」
その時の屈辱から、昂を糾弾しようとしたとき……教室のドアが勢いよく開いた。
ドアが壊れそうなほどの音が教室に響き、一人の男子生徒が顔を出す。
「憤激昂というヤツはいるかぁぁあああっ! 探索部にスカウトしにきてやったぞぉぉおおお!!」
いつかのように、輝角凱は吠えた。
今年の新入生は不作だと思ったが、立て続けに光るものを持つ……というか、光っている奴が転入してきて、凱のテンションはウナギ登りだった。
「……混沌だっ」
疲れたような霊の呟きが、現状のすべてを表していた。
●御神霊―――――主人公。Fランクの落ち零れとされているが、膨大な【心力】を有する謎の少年。
●純愛こころ―――霊の美少女幼馴染。数少ない【感応者】。
●憤激昂―――――霊を連れ戻しにやってきた男。イケメンだが口が悪い。
●戯陽朗――――いつも元気で明るい少女。こころの親友。
●照討準―――――小柄で気弱な男子。孤児院の皆を何よりも大切にしている。
●針村槍姫――――背の高いクールな少女。こころの親友。
●輝角凱―――――戦闘学科の3年生。野生児的でトラブルメーカー。
●大和守鎖之―――Sランクにして最年少ナイトクラスの少年。こころの幼馴染。
●篤情竹馬――――霊たちの担当教官。ズボラな性格だが閃羽のNo.2ナイトクラス。