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第23話【資質の開花】


【心力】の糸で縛りつけた孤児院の女性、寺河ほとり。

それを助けようとする、同じく孤児院の少年、照討(てらうち)(じゅん)


霊が巧みに動かす糸は、準の必死の動きを尽く(かわ)し、ほとりを地面に叩き落そうとしていた。


しかし、変化が訪れる。

異変に気付いたのは、当然のごとく霊だった。


(……先読み、されている?)


徐々にではあるが、準は霊の糸の動きに付いてきていた。


いや、徐々にという言葉は相応しくない。

そう思った瞬間には、ほとりを奪還されていたのだから。


「ほとり姉さんっ!!」


霊の糸を引き千切り、ほとりを助け出した準。


(決まりだね……彼は間違いなく、【同列存在】だ)


霊の糸は、ジェネラルクラスでも千切ることのできない頑丈なもの。

それを一瞬で成した準の【心力】は、霊と同等であることの証だ。


「おめでと。でもまだ、ぼくに一撃も入れてないんだから、続けるよ?」


あとは、彼が【何に属する】のか見極める。


両手を駆使して糸を躍らせ、準とほとりを襲わせた。


「くっ!!」


目にも止まらぬ、霊の糸。

寸前で避けた準は、ほとりを抱えたまま霊に肉薄しようと進む。


両手の指から出力した10本の糸は、巧みに準を襲う。それでも準は【心力】で身体能力を強化しているため避けることができ、避けきれないものは【心力】を纏わせた素手で弾いていった。


これは、驚くべきことだった。


(初動が、速いっ。こっちが仕掛けるよりも速く動いてる? 予知……じゃない、彼は糸じゃなく、ぼくを見て動いている?)


霊の糸は速い。

だがそれ以上に、細いという点が厄介なのだ。すべてを見て躱すなど、常人には不可能。

なのに準は、すべてを()なしている。


そしてよく見れば、準は糸ではなく霊を見ている。


(つまり、彼はぼくの何気ない、それこそ僅かな筋肉の動かし方が見えていて、だからどういう攻撃が来るのか予想している、という訳か……)


【心力】の糸を動かすのは、確かに指先の動きにあるていど追従させる。

しかしその動きというものは、本当に極僅か。動かしたかどうかも定かではないほどに。


圧倒的な動体視力と、先天的な先読みの才能。


(参ったな……即戦力じゃないか)


どうやら見た目に惑わされていたらしい。

普段は気弱で、おどおどしていて、狩られる側としか思えない存在。

見た目は判断材料にならないという典型例を嫌というほど【心蝕獣】で味わったはずなのに、これは反省が必要か。


霊は準の評価を上方修正し、技を繰り出すことにした。


そのとき―――


「ストーーーップっ!! それまでぇっ!」


気絶していたはずのほとりが、準に抱えられながらも大声をあげて二人の戦いを止めた。


「ほ、ほとり姉さんっ?! 大丈夫なの?!」

「当たり前でしょ! 別に怪我なんかしてないわ。でも、協力すると言った矢先に、気絶させられるなんて思わなかったけどね」

「え? どういうこと?」


ぽかん、と呆ける準。

ほとりの話……特に『協力する』と言ったところが引っ掛かる。


そんな準を無視して、ほとりは話を進めて行く。


「まったく。臨場感でも出したかったのかしら? 御神くんって、大人しい顔してやる事は過激なのね?」

「中途半端にやれば、照討くんが今まで以上に虐げられるだけですから」


指先の糸を回収し、戦闘態勢を解く。


まだ続けてもいい。

だが確認はできた。それで十分。

これ以上は蛇足でしかないと判断し、霊は矛を収めた。


「あの、ほとり姉さん? 協力って、どういうこと?」


一方、準は姉から出て来た言葉に思いがけない言葉に気付いた。


今の自分達……準と霊のやり取りを考えると似つかわしくない言葉があったのだ。


「準、アンタがいつもウジウジしてるから悪いのよ? シャキっとしてれば強いのに、踏ん切りが付かないからイジメられてるって、御神くんが言ってたのよ」

「それで、その、じゃあ今までのは、お芝居?」

「【心力】は心の強さで決まるんでしょ? さっきまでの感覚を覚えておきなさいって」


(より正確には、個々の精神状態で決まるんだけど……今はまだ、黙ってようかな)


霊は準に近づき、ほとりに続けるように、そして諭すように話しかける。


「照討くん。さっきも言ったけど、力は誇示しておかないと、いざという時に振るえない。それはつまり、孤児院のみんなを守るために努力してきた力を、使えないってことなんだ」

「つ、使えないって……どういうことなのっ!?」

「周りはFランクだからという理由でキミを拘束し、結果、キミより弱い人間が戦って死ぬ。そしてその後ろにいる孤児院のみんなも……死ぬよ」


すでに一度、霊は経験している。

【心蝕獣】の群れが現れたとき、霊はFランクであり、まともに【心器】を使えないという理由で邪魔をされた。


「そ、それは……」


準も、霊の言いたいことはわかっていた。


「だから、僕を挑発したの? ほとり姉さんを使って?」

「照討くん。ぼく一人じゃ、この都市すべてを守れないよ? わかるよね? 物理的に不可能なんだ。ぼくが手一杯になってしまったら、誰があの孤児院を守るの?」

「っ……!」


(喰い付いてくれたかな?)


準が、自分の言わんとしていることを理解した。

その感触を掴んだ霊は、さらに畳み掛ける。


「いいの? ぼくが手一杯ってことは、それだけ逼迫した状況。心衛軍の人たちでは対処できない」

「だから、僕が……?」

「うん。キミはキミで、守りたい人たちを守ればいい。そのためには、周りにそれだけの実力があることを示さないとね」


準とほとりの間を抜け、孤児院へ歩み出しながら、霊はさらに話を続けた。


「例えFランクであっても、それだけの力を持っていると誇示すれば、キミもある程度自由に動けるはずだ。

 だから忘れないで……キミが戦う理由。覚えておいて……戦えなかった時、何を失くすことになるのかを」

「……うん」


頷いて、くれた。


これで……安心できる。


(閃羽なんて滅んでも構わない。でもそうなると、こころが悲しむ。そのリスクを減らすには、照討くんの存在は好都合だったよね)


それが、すべての理由だ。

本来なら、その役目は槍姫と朗に任せようかとも思っていたのだが……。


霊にとって、照討準との出会いは嬉しい誤算だったのである。




◆ ◆ ■ ◆ ◆




「あ、霊くんっ」


孤児院に戻ると、その前でこころが待っていた。

他には寺太牧師に、槍姫と朗も。


「こころ? こんなところでどうしたの?」

「それはこちらの台詞です。急に姿が見えなくなって、心配したんですよ?」

「ああ、ごめんね。ちょっと照討くんと話があったからさ」

「お話、ですか?」


霊の後ろを見ると、準とほとりがいる。

だが一体、何の話しだろうと訝しんでいると、ほとりが口を開いた。


「準を鍛えてもらっていたの。私はそのお手伝い」


「あ、もしかして【心力】のこと?!」

「自分の意思で使えるようになったのか?!」


朗と槍姫が思い当たり、霊と準に詰め寄る。


「まあね。照討くんは即戦力だよ」

「ずるぅ~い!! 私たちも照討くんの【心力】について、色々知りたかったのにぃ~!」


朗が駄々をこねるのも無理ない。

ここまで付いて来たのは、どうすれば【心力】を強くできるのか、準を通して知るためだったからだ。

なのに、自分達の預かり知らぬところでそれは成された。


出し抜かれたような気分だ。


「あはは、ごめんね。でも照討くんには、明日からぼくらのチームで活動してもらうから、知る機会はあると思うよ?」

「え、ええ?! みみ、御神くん、そそ、それはどういうこと?!」


「準、あんたまた噛んでるわよ?」


霊が何気なく発した爆弾発言。

準は怯えたように噛みまくり、霊に詰め寄った。


「ぼぼ、僕は4組だよ?! クラスが違うじゃないか!!」

「学園長に頼んで、すぐにでも1組に編入してもらうつもりだけど?」

「だけど? じゃないよっ!! そんなこと認められるわけが……」

「だから、さっき言ったじゃないか。ぼくはナイトクラスと同等の権限を与えられてるって」


その権限を使うつもりだ。

要は、特権を行使するのだ。

権力は使うためにある、とは誰の言葉だったか。兎に角、霊は必要とあらば権力を惜しみなく使う性質(タチ)だった。


「そういえば、ほとりさん?」

「ん? 何かな、こころちゃん」

「お手伝いって言ってましたけど、どんなことを?」


徐にそんな質問をしたのは、興味本位だった。

というか、一般人にできることとは何だろうか、と気になったのだ。


霊のような、強力な存在の手助けができるのなら自分も、という意味合いがあった。


「ん、ん~~~……」

「あの、内緒なんですか?」

「別に口止めはされてないけど……そうね……」


瞬間、本当に一瞬、ほとりの口が歪んだ。それも、小悪魔的な笑みだった。


しかし瞬時にそれを手で隠し、こころに抱きつきながら悲痛そうな声で言った。


「実は、協力すると言った矢先、気絶させられたの」

「え、なっ?! き、気絶?!」


不穏な単語に、こころの声が裏返る。


「く、霊くんっ!! 気絶させて、一体ほとりさんに何をしたんですか?」

「え? 何って……気絶させたあと、縛っただけだけど? 糸で」

「縛っ―――!!」


こちらからも不穏な単語が。それも平然と。


その物言いで逆に冷静になるはずなのだが、こころの感情は沸騰し、話してもいないのに様々な憶測を脳内で展開。

なんというか、妄想が暴走して未成年お断わりな状況になっていた。こころの頭が。


「にゃはは……御神くん、言葉が足りないよね」

「そうだな。そしてこころも……勝手に妄想するあたり、やはり耳年増だな」


霊とこころ。

そんな二人のやりとりを苦笑しながら見守る朗と槍姫。


リーダーの非常識具合も、親友の考えていることも、手に取る様にわかっていた。


「霊くんっ!! 縛って、それから、それから一体ナニをしたんですか!? あれですか、そういうのが趣味なんですかっ?!」

「え、ええええ?! おお、落ち着いてよ、こころ!!」


「これが落ち着いていられますか!! なんで私じゃなくて、ほとりさんになんですか!! 年上がいいんですかっ?! そうなんですか?!」

「なんか発言が色々おかしいよ?!」


色々アウトな発言を自覚しないこころ。


絶賛沸騰中の彼女に、さらなる爆弾が投下された。


「縛られ、縛り上げられ、【落】とされ……もうお嫁にはいけないわぁ~」

「【()】とされっ!? く~し~び~く~ん?!」

「え、ちょ、なんで縛られただけで、お嫁に行けない、とかに?」


自分は何も悪くない……ことも無いが、反省の色のない発言に、こころがキレた。


「霊くんっ! そこにっ! 座りなさいっ!!」


その後、霊は孤児院の前で正座させられ、涙目でお説教を受けた。


さすがに悪ふざけが過ぎたと思い、ほとりが真相を話してなんとか誤解は解けたのだが、やり方に問題ありと判断したこころがお説教を追加したのは、不運としか言いようがなかった。


まあ、自業自得ではあるが。




◆ ◆ ■ ◆ ◆




孤児院を後にした第7チームは、それぞれの家路に着いた。


ただし朗だけは、本日発売のマンガ本を買うために寄り道。

夜の商店街を一人で歩き、馴染みの本屋へ歩いていた。


(いやぁ~……改めて御神くんの非常識さが際立ったねぇ~)


道中、考えるのは孤児院でのやりとり。


いくら準に本気を出させるためとはいえ、人質を取るような脅しをかけるとは。

しかもよく聞けば、芝居ではなかったような口ぶりだ。


他の者が気付いていたかはわからないが、朗はなんとなくそう感じた。


だが今のところ大事が起きている訳ではないし、自分の思いすごしかもしれないと思考を中断。

馴染みの本屋へ入り、これまた馴染みの店長に挨拶。


「こんばんは~!」

「おや朗ちゃん、こんばんは。新刊かい?」


メガネをかけた、人の良さそうな壮年の男性が迎える。


朗は「そうだよ~」と一つ頷くと、新刊コーナーへ一直線に向かった。


「あったあった。って、おお!? 長期連載休止だったマンガが再開されてるっ! これも買おう!!」


夢中になって新刊を次々に取る。


そして6冊目を取ろうとしたとき、そばに居た人に気付かず、衝突。


「うにゃあ?!」


自分からぶつかってしまったのだが、相手がかなり頑丈だったのか、一方的に弾かれた。


「―――っ、と」


そのぶつかった相手は、朗に気付くと素早く手を伸ばし、掴んだ。

朗の、サイドツインテールの片方を。


「っ?! イタタタ?!」

「あ、ワリィな。いい感じな位置にあったからよ」


謝罪しながらも、朗の髪を離さない。

離したら朗が倒れるからだが、男は面白そうに引っ張っていた。


「ちょっ?! 離してくれない?!」

「離したら倒れるだろうが。自分で態勢を直せよ」


言われてはじめて倒れそうな自分に気付き、態勢を立て直す。


「ううっ……もう~! 女の子の髪は命と同じくらい大事なんだから、もっと優しく扱ってよね!!」

「だから、ワリィって言ってんじゃん。っていうか、ぶつかられたのはオレなんだが?」

「うっ……」


正論を言われて押し黙る。


目の前のぶつかった相手……おそらく、男性だろう。

長身で、おそらく190cmは超えている。もしかしたら2mはあるかもしれない。

全身をすっぽりと覆う茶色のフードを被っているため、顔は見えない。


声の感じが若いから、たぶん20歳前後。

でも身長が高過ぎるからそう感じるだけで、本当はもっと若そうだな、と思った。


「まあいいや。オレも注意不足だったしな」

「……何か、探してるの?」

「ん? ああ、本じゃないんだがな。人を探すために、この辺の地図が欲しかった」


そう言うと長身の男は、この辺りの地図が載っている本を取り出した。

ページを開き、流し読み。


「……立ち読みは、マナー違反だよ?」

「ちょっとの間だけだっての。よし、覚えた」

「速っ!? って、本当に覚えたの?!」

「大まかに、だけどな。それより、おまえに聞きたいことがあるんだ」


懐に手をやり、何やら探しはじめる男。

やがて一枚の写真を引っ張りだし、朗に見せた。


「こいつを探しているんだけどな、見覚えないか?」


その写真には、一人の少年が写っていた。


「ん……? あれ、これって、御神くん?」


写真の少年は今より幼い顔立ちをしているが、間違いなく霊だった。


「知ってるのか?」

「うん。クラスメイトだよ」

「クラスメイト? ああ、そういえばおまえ、制服着てるもんな……。心皇学園、か。さっき見た地図だと、学園区のとこだろうな……」


男は、顎に手をやってしばらく考える素振りを見せる。


対して、朗は男が呟いた内容に驚いた。

どうやら、先ほどの地図を覚えているというのは本当らしい。

羨ましいほどの記憶力だなぁ、と呆けた。


が、しばらくして気を取り直し、長身の男に質問しようとして……。


「あ、そういえば御神くんと知り合いなのかな、って……あれぇ?! 居なくなってる?!」


呆けている間に、長身の男は姿を消していた。


店内を見回しても、どこにもいない。


「て、店長! 茶色いフードを被った、背のすんごく高い人、出て行かなかった?」

「ん? ああ、今ちょっと仕入れの処理をしていたから、気付かなかったなぁ。あ、朗ちゃん?!」


聞くやいなや、朗は外へ飛び出す。


だが、長身の男は見当たらない。あんなに目立つのに、一体どこへ消えたのだろうか。


(御神くんのこと、探してるみたいだったけど……)


言い知れぬ不安。

一体、あの男は何者なのだろうか。嫌な予感が止まらなかった……。




そして一方、その長身の男は、夜の商店街の屋根を次々と跳び越え、駆けていった。


(ハッハッハッ……ようやく見つけたぜ、霊よぉ……)


フードに隠れた唇が、鋭利につり上がる。


「テメェは、手足を圧し折ってでも連れ帰るぜぇ? 覚悟しろよ、霊っ!!」


男の両腕には、緑色に光る手甲が見え隠れしている。

ガントレット型の【心器】だろうが……どこか、異様な雰囲気を持っていた。

まるで、霊が【心力】の翼を出したときのように、触れるものすべてを消し飛ばそうとするかのような、異様な雰囲気を……。


御神(みかみ)(くしび)―――――主人公。Fランクの落ち零れとされているが、膨大な【心力】を有する謎の少年。

純愛(じゅんない)こころ―――霊の美少女幼馴染。数少ない【感応者】。

針村槍姫(はりむらそうき)――――背の高いクールな少女。こころの親友。

戯陽(あじゃらび)(ほがら)――――いつも元気で明るい少女。こころの親友。

照討(てらうち)(じゅん)―――――小柄で気弱な男子。孤児院の皆を何よりも大切にしている。

寺河(てらかわ)ほとり―――孤児院の子供たちの姉的存在。彼女自身も孤児。姉御肌。


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