第22話【悪いこと】
「同類じゃないよ。彼は、ぼくと【同列】だ」
彼は、気付いていない。
だから教える必要がある。どんな手段を使ってでも、彼が自分と……神殺しを成そうと思っている者達と同列であることを、分からせなければならない。
「はっ……Fランクってのは本当に訳がわかんねぇな。てめぇらはいつもそうだ! いつもビクついてるくせに、訳わかんねぇことでキレやがる!」
「そして平気で人を殺す! どうせ人を人とも思っちゃいねぇんだろ!!」
霊の糸で拘束している2人の男子が、その拘束を解こうと吠える。
罵声を浴びせられている霊は、しかしその話を聞いていない。
ずっと、恫喝されていた照討という小柄な男子生徒を見ていた。
「無視してんじゃねぇよ! こいつを解きやが―――!!」
霊が腕を振るう。
その動作につられて、糸が拘束している男子たちもろともに宙を舞った。
そして、壁に激突。
「ぐぁっ!!」
「あがっ!!」
照討が無意識で突き飛ばし、壁にめり込ませた最初の男子と同じように、拘束されていた2人の男子も壁にめり込んだ。
「ちょ、ちょっと御神くん!? やり過ぎじゃないかな?!」
「……あっ」
言われてみればそうだった。
彼に……照討と呼ばれていた人に意識してもらいたくて、彼が無意識にしたことと同じことをやった。
だが考えてみれば、今それをする必要はない。あとで分かってもらえればよかったのだ。
「くぉぉおおおらぁあああ!! 貴様らそこで何をやっとるかぁあああ!!」
廊下のむこうから怒鳴り声。
見ると、教員と思わしき大人の男性が走ってきていた。
「マズいぞ御神!! 生徒指導の先生だ!!」
槍姫が叫び、暗に逃げろと言う。
霊がどれほど強かろうが、Fランクに対する風当たりは強い。生徒指導の先生、隔異霄壤は、特にそれが強い傾向にあると有名だ。
「このまま放っておけないでしょ? みんなは行って。これはぼくが撒いた種だから、ぼくに任せて」
「しかし、あいつには理屈が通じない!! 感情論に任せて、おまえにどんな理不尽を強いるかわからないぞ!」
逃げようとしない霊を、なんとか説得しようとする槍姫。そして―――
「ならば俺様に任せておけい!!」
「ひぁああああ?!」
槍姫の背後から、赤髪短髪の暑苦しい男が大音声とともに現れた。
いきなりのことに、槍姫が驚いて悲鳴をあげた。
いつも凛としている彼女からは想像もつかない、実に可愛らしい悲鳴だった。
「が、がが、凱先輩?! なぜここに?! というかいつの間に!?」
「ふっ……針村よ、気配を消して近づくなど、俺様には赤子の手を捻るより簡単なことだ。まあ御神は気付いていたようだが、こいつは普通ではないので除外しておく」
「っ……」
「霊くん、相手は一応先輩なので抑えてください……。ね?」
普通ではない、と面と向かって言われたので何か言おうとした。
が、話が進まないので、こころはそれを押し止めた。
「ふむ……隔異教諭か。奴の相手は慣れている。ここは俺様に任せ、貴様たちは逃げるがいい」
「は、はぁ……しかし、凱先輩に迷惑をかける訳には……」
「そこの生徒絡みで面白いことを考えているのだろう? ならば御神、貴様らの先輩にして部長である俺様が応援するは必然。ほれ、さっさと行かんか!!」
「わかりました……では、お願いします」
ぺこり、とお辞儀をして、霊と第7チームはその場を去る。
もちろん、照討と呼ばれていた小柄な男子生徒も一緒に。
「クックックッ……さて……。悪い子はいねがぁ~~!」
「それはおまえだ輝角ぉぉおおお! また、また、またしても貴様かぁああああ!!」
「フハハハハッ! 震えおって……どうした駄教師がっ!! 俺様の規格外な威厳に怖気づいたか!!」
「これは怒っておるのだぁあああ!!」
怒りに震える隔異を、腕組みしながら高笑いとともに迎え撃つ凱。
このあと通算738回目の、輝角凱に起因する校内乱闘騒ぎが勃発した。
◆ ◆ ■ ◆ ◆
「て、てて、照討じゅ、じゅじゅ、準と言いますっ。さ、先ほどは助けてもらって、ありがとうございましたっ」
怯えているのか、何度も噛みながらやっと自己紹介をする、小柄な男子生徒。
照討準。
それが彼の名前らしい。
霊たちと同じ、今年入学した1年生。4組所属のFランク。
屋上に逃げて来た霊たちは、連れて来た準とともに、そこで昼飯を食べることにした。
とはいえ、準の弁当は先ほどの騒動でほとんど食べられなくなってしまった。
なので、霊たちは少しずつ弁当の中身を準に提供。
恐縮する準だが、持ち前の明るさを発揮した朗に言い含められて受け取ることになった。
「か、重ね重ね、ありがとうございます……」
「気にしない気にしない! でも残念だったねぇ、照討くんのお弁当……。あ、これもあげるね」
「朗、ニンジン嫌いだからってあげるなっ」
ゴツっ、と鈍い音を立てる槍姫の拳骨。
都合良く嫌いな物を処理しようとした親友に、お馴染みの制裁をくわえた。
「あ、あはは……」
「うぅ……槍姫ちゃんったらすぐ殴るぅ~……」
「おまえが悪い。
……それにしても照討。キミには驚いたよ」
「え、え? な、なな、何でです?」
突然そんなことを言われ、戸惑う。
心当たりがないだけに、また怯えてしまっていた。
「【心器】も無しに【心力】を使えることだ。
そんなことが出来るのは、ここにいる我ら第7チームの非常識リーダーだけだと思ってたよ」
「は、針村さん……ぼくは別に非常識じゃないよ……?」
目の前で堂々と非常識にカテゴライズされ、抗議する。
しかしスルーされ、話は進んでいった。
「あ、あの……そのことなんですけど……あれは本当に、僕がやったんでしょうか……?」
「ん?」
「さ、先ほども言ったように、ぼぼ、僕はFランクです。だ、だから【心力】が弱い……。【心器】を使っても、僕の【心力】なんて高が知れているんです……」
「しかしキミは、さっき全身から【心力】を出力し、1人倒したじゃないか?」
霊と同じように、全身から【心力】を出力。
身体能力を強化し、体格で勝るガラの悪い男子生徒を突き飛ばして壁にめり込ませた。
目の前で見せつけられたのだ。間違いない。
「で、でも今だって、今だって【心力】を使おうとしても、何も起きないし……」
「う~ん……御神、何か心当たりはあるかい?」
同じことができる霊に、槍姫が聞いてみる。
「たぶん、無意識だったんだと思うよ?」
あらかじめ答えを用意していたかのように即答。
違和感を持たれる前に、霊は矢継ぎ早に準へ話しかけた。
「ねぇ照討くん、キミのお弁当、孤児院のみんなが作ってくれたって言ってたけど、キミは孤児院に住んでいるの?」
【心力】に関係ないことを聞いてどうする、と槍姫は思った。
が、次に準が答えた内容を聞いて、押し黙ってしまう。
「は、はいっ。僕が赤ん坊だったころ、両親が【心蝕獣】に殺されたらしくて、それで孤児院に引き取られたんです」
「そっか。じゃあ孤児院のみんなが家族なんだね」
「はいっ! 血は繋がっていなくても、みんな僕の大事な家族なんです! だから、ぼぼ、僕は【心兵】になってみんなを守りたい……。Fランクだけど、僕はみんなを守りたいんです」
このとき、準に怯えの色は見られなかった。
はっきりと自分の覚悟を口にしたのが、この場にいる全員に伝わっていた。
そして準は徐に、潰されて汚れてしまった弁当を開け、中身を食べ始めた。
「あ、照討くん、お腹壊しちゃうよ!!」
朗が止めようとするが、準は笑ってそれを静止した。
「構いません。孤児院のみんなが作ってくれたお弁当だから、どんなに汚くなっても食べられます」
汚れているところを取って食べればいいものを、準はすべて口に入れて行く。
(そうか……。やっぱり照討くんは、そういうことなんだね)
これは、確信。
いまの準の言葉を聞いて、霊は確信した。
「ねぇ照討くん。今日の放課後、照討くんの孤児院に行ってもいいかい?」
「? 霊くん?」
なぜ、霊がそんなことを言い出したのか。
こころはそれが分からず、霊に答えを求めようとしたが……話は先へ先へと進んでいく。
「え……いいですけど、何もない所ですよ?」
「それでも、ちょっと見てみたいんだ」
「わ、わかりました。助けてくれたお礼もありますし……。じゃあ、放課後に行きましょう」
釈然としないながらも、準はとくに考えることもなく霊の提案を受け入れた。
◆ ◆ ■ ◆ ◆
準の孤児院は、教会を兼ねた場所だった。
【心蝕獣】の襲撃がある度に犠牲者が出ており、親を殺され、残された身寄りのない子供は、大抵がどこかの孤児院に引き取られる。
準が引き取られた孤児院は、学園区のすぐそば……森林に囲まれた緑豊かなところにあった。
「あ、あの、なんかすいません……。小さい子たちの面倒を見てもらって……」
「気にしなくていいと思うよ? こころ達、すごく楽しそうだ」
霊と準の視線の先。
そこには、まだ幼稚園にも満たない小さな子供たちと遊んでいる、第7チームの3人娘がいた。
そう、彼女たちも付いて来たのだ。
理由はボカしたが、霊と同じように【心力】を使う準のことが気になっていたから。
準はまだ意識して全身から【心力】を出力できないので、一緒に切っ掛けを探せたら、自分達も彼らと同じように強くなれるかもしれないと思っていた。
まあ、ここに来てから霊は、準に何をするでもなく孤児院を見学しているだけなので、彼女たちは子供たちの相手をすることになった訳だが。
そんな風景を見ていたら、霊と準のもとに一人の牧師と、20歳くらいの女性ががやってきた。
「皆さん、夕食の準備ができましたので、どうぞ中へお越しください」
孤児院の院長を務める、孤児たちにとって父親のような存在。
寺太流さん。
白い修道服を着ている、聖職者な白髪の老人だ
「さあさあ、みんな手を洗って! 準、お友達を食堂に案内してね!」
女性の方は寺河ほとり。
肩ほどで切りそろえた赤毛が特徴で、ここの孤児たちのお姉さん的存在だ。
彼らは準がFランクである、という問題から学園での生活を心配していた。
しかし、霊たちに助けられ、こうして孤児院に連れて行く学友が出来て嬉しく思っており、夕飯を御馳走してくれるという。
「では、準の新たな学友と、そしてその出会いを祝い、頂きましょう」
この孤児院には、準を含めて12人の孤児たちがいる。
寺太牧師を含む13人と、霊たち4人を合わせた食事は、非常に賑やかなものだった。
「しかし、準が御学友を連れて来たと聞いたときは驚きました」
「そうよね。準ってかなり気弱で、慣れてないと会話するのも一苦労だから」
Fランクである準は、その低ランク通りとても弱い。
すぐにどもり、いつもビクビクしているから友達が出来にくい。そんなんだから、今まで友達を呼ぶなんてこともしていなかった。
「ふむ。確かに照討は、そういう印象を受けるな」
「ごご、ごめんなさいっ。ぼく、ひひ、人と話をするのが苦手なんですっ」
「ほぉら準、せっかく出来た友達なんだから、もっとシャキっとなさいよ」
ばしんっ、と背中を叩かれ、咽る準。他の子供たちから笑いが漏れていた。
「ところで、話は変わるのですが……。御神霊くん、と言いましたか?」
「はい。なにか?」
「もし違っていたら申し訳ないのですが、あなたは御神弦斎という人の、お孫さんでしょうか?」
「え、ええ。そうですが……」
祖父の名前が出てきて、少しばかり驚く。
肯定の答えを返された寺太牧師は、嬉しそうに目を細めた。
「ああ、やはりそうでしたか。若い頃の弦斎に似ていたので、もしやと思いましてね……」
「おじぃ……祖父とは、どういう関係で……?」
「同じ学び舎に通っていた仲でして。中学から高校の6年間、ずっと同じクラスだったのです」
「そうだったんですか……」
祖父の学生時代。
思えば、霊は祖父の実力は知っていたが、その生い立ちを知らない。
だからか、とても興味が湧いた。
「ですから、こうして君と準が一緒にいることに、縁を感じています」
かつての級友の孫と、自分が育てている子供が、知り合えた。
だからこその、縁。
感慨深いものがあった。
「ところで、弦斎は元気ですか?」
「あ、ええ……実は……」
2年前に老衰で亡くなったこと。
最後は笑って眠りについたことを伝えた。
「そうですか……弦斎が……」
しばし目を瞑り、何かを堪えるように天井を仰ぐ牧師。
それからしばらくして、霊に向き直った。
「すみません。知らぬ事とはいえ……」
「いえ。祖父も気に掛けてもらって喜んでいると思います」
寺太牧師は短い黙とうを捧げ、胸の前で十字を切って、級友の冥福を祈った。
「少し湿っぽくなってしまいましたね。さあ、どんどん食べてください。今日は嬉しい日ですので」
仕切り直すように、笑みを浮かべて促す。
「あの、寺太さん?」
「なんでしょうか?」
「あとで、祖父の話を聞かせてもらえませんか?」
「ええ、いいですよ。とはいえ、そう多くはありませんが」
聞かれ、寺太牧師は嬉しそうに快諾してくれた。
祖父の話を聞きたい。
唯一の肉親を失った霊の本音だ。
(これで話が上手く進む……願っても無いことだね)
しかし、これを口実とし、打算を働かせていたのも事実だった。
◆ ◆ ■ ◆ ◆
騒がしくも楽しい夕食を終えたあと、霊は孤児院から少し離れた裏手の庭の一本杉の下で、夜の月を眺めていた。
ここにいるのは、待ち人がいるからだ。
程なくして、その待ち人は来た。
小柄な少年。今日会った、気の弱そうな少年……照討準だ。
「やあ、照討くん」
「ど、どうも……。あ、あの、御神くんがここで待ってるって、寺太牧師から教えられたんだけど……」
「うん。ちょっと話があって……。キミの【心力】について」
それは昼間、準が見せた【心力】。
【心器】も無しに【心力】を出力して見せた、あの力。
「ぼぼ、僕の【心力】?」
「うん。キミの【心力】は強大だ。でも自分の意思でそれを使えない……」
そう。準は無意識に【心力】を使っていた。
裏を返せば、いつでも使えるという訳ではない。あのガラの悪い男子生徒たちに、再び絡まれてされるがままになってしまうことも考えられる。
「ちょ、ちょっと待ってよ! 僕はFランクだよ?! 心が弱い、最底辺の人間っていう診断結果が出てるんだ!!」
「うん。それは否定しないよ。キミは気弱で、いつも何かに怯えてる。でも、その理由が、孤児院の人にあるとしたら?」
「え?」
その瞬間、準の胸がざわめいた。
嫌な予感。
霊の瞳が、それを感じさせる。
「キミの心の在り様が、孤児院の人たちに左右されるとしたら、それを利用することができる。例えば、こんなふうに」
よく見ると、霊の左手の指先から、青い糸が出ていた。
その糸は、一本杉の上に伸びていて、その先にはよく知った人が吊るされていた。
「っ?! ほとり姉さんっ?!」
吊るされていたのは、ほとり。
孤児院の子供たちにとって姉的存在
気絶しているのか、まったく動かないままだった。
「この砂時計、すべてが落ちるまで約3分だそうだね? これがすべて落ちる前に、僕に一撃入れられたら、彼女は無事に返すよ。でもそれが出来なかったら……このまま落とす」
特に何かの感情を表すでもなく、平然と言い放つ霊。
それが返って、本気であることを理解させられた。
「な、どど、どうして?! どうしてこんなことを?!」
「キミを駒として使えるようにするためだよ」
「こ、駒……? な、なにを言ってるの、御神くん……」
理解ができない。
今日会ったばかりだが、こんな酷いことをする人でないと思った。
なのに、こんな形で裏切られるとは……。
動揺する準に対し、霊は話を続けて行く。
「人類側の戦力は圧倒的に少ない。戦える人が少ないから。その数少ない戦える人でも、ポーンアイズを相手にするのが精一杯。
閃羽にはナイトクラスが5人いるけど、それだってこの前の大群に押し潰されそうになった」
「そ、それが何なの?! 僕を駒とするに……弱い駒を得ようとするのに、何の関係があるのさ?!」
「ぼくは、探していた。ぼくと【同列】の人を。それが、キミだ」
何も、感じられない。
感情を読み取れない普通の表情が、たまらなく怖い。
それでも、家族同然の人を助けるため、準は説得を試みる。
「わ、分かんないよぉ! 僕は、御神くんみたいに、ナイトクラスの大和くんを倒せるほどの【心力】を持ってないっ!」
「だからそれは自覚してないだけ。でも安心して。今から自覚させてあげる。ほとりさん一人……ううん。孤児院の何人かを犠牲にすればいいだけだ」
言いながら、霊は地面に置いた砂時計を指さす。
「この砂が落ちても駄目なら、そうだな……次はあの子供たちのうちの誰かにしようか?」
「な、やめてよっ! そんなことしても、僕は強くなれないよ! それに、それって犯罪じゃないか!!」
「そうだね……悪いことだ。とても悪いこと。
でも残念だね。ぼくはナイトクラスと同等……ううん。それ以上の権限を与えられているから、これは必要経費として許される。都市を守るための、ね」
人の命を、必要経費と言い切った。
「そ、そんなこと、許されるわけ……ない……」
「現実はいつも理不尽だよね。その理不尽を如何に少なくし、ねじ伏せられるようにするか。やっぱり、力がないとね」
「ち、力って……」
「物理的な力、暴力でもいい。権力でもいい。とにかく、人に認めさせる、認めざるを得ない力を誇示しないと。
キミはその資質を持っているのに、自覚していないから、理不尽を強要される」
どんな綺麗事を言っても、最後に物を言うのは力。
暴力でもいい。
権力でもいい。
数の暴力でもいい。
風潮でもいい。
とにかく、他人を圧迫できるものであればいい。
「あ、砂が少なくなってきたね。あと何秒だろ?」
「っ?!」
実際は、何秒もない。
すぐに、砂はすべて落ちてしまった、
「じゃあ、まず一人目」
霊の青い糸が波打ち、絡めていたほとりを地面に落とす。
「っ、や、止めろぉぉおおお!!」
瞬間、準の全身から橙色の【心力】が噴き出す。
その【心力】によって身体能力を強化され、弾丸の如き勢いで飛び出す。
ほとりが落ちる前に助け出す。そのために飛び出した。
「おっと。僕に一撃入れないと、返してあげないよ」
だが、巧みに糸を操る霊がそれを許さない。
軌道を変更されたほとりは、再び宙を舞って別の場所へ落下。
「ほとり姉さんっ!?」
態勢を無理矢理に変えて、再び準は飛び出した。
「一撃入れるのが早いか、あの人が地面に落ちるのが早いか。趣向は変わってもやることは変わらないよ」
その声は、準には聞こえていない。
ただ、大切な家族を助ける。そのことしか頭になかった。
そして霊は、準の力を引き出させることしか頭になかった。
そのためなら、孤児院の子供たちを皆殺しにしても構わないとさえ、考えていた。
●御神霊―――――主人公。Fランクの落ち零れとされているが、膨大な【心力】を有する謎の少年。
●純愛こころ―――霊の美少女幼馴染。数少ない【感応者】。
●針村槍姫――――背の高いクールな少女。こころの親友。
●戯陽朗――――いつも元気で明るい少女。こころの親友。
●輝角凱―――――戦闘学科の3年生。野生児的でトラブルメーカー。
●照討準―――――小柄で気弱な男子。孤児院の皆を何よりも大切にしている。
●寺太流―――――孤児達を養う老牧師。
●寺河ほとり―――孤児院の子供たちの姉的存在。彼女自身も孤児。姉御肌。