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第20話【アウトスタンダード】

 採掘から帰ってきて一週間。


 その間、霊たち第7チームは、午後の自由科目の時間になると工学棟に入り浸っていた。


 目的は各自の【心器】を最適化すること。

 そして霊専用の【心器】である【糸刀】の改良を、ダナンと話し合うため。


 ああでもない、こうでもない、と議論しあうダナンたち第8技術班。ここ一週間は白熱しっぱなしだった。


「問題は【心経回路】にかかる負担だよな。熱を持ち過ぎて周辺機器がショートしちまう」


「持ち手の素材になっている【スティーラル鉱石】は、硬度が高くても熱に弱いですからね。【心経回路】そのものは熱に強いんですけど、御神くんの【心力】が強過ぎて意味がないんですよ」


「オリジナルデータ通りの回路構造だと、現状のうちらの技術力じゃ完全再現できないしなぁ。ってか、なんだよ1億本の【心経回路】って!? どんだけ細いんだ?! こっちはやっと1300を超えたとこなのによぉ!!」


「質の良い素材を使っても限界があるよね……。素材自体の問題だとしたらお手上げよ……そういえばこのデータに示されてる素材……【バルシリオン鉱石】って、聞いたことないわね……。まあ無い物ねだりしてもしょうがないから、こうやって一般素材で代用を試みている訳なんだけど」


 口々に意見を出し合い、改良を試みる生徒たち。

 しかし技術力の差があまりにも大きく、霊が渡したオリジナルのデータ通りに【糸刀】を作れないでいた。


 それでも不断の努力によって改良が重ねられ、出力できる糸は1000本から1300本に増やせた。


「御神くん、この【バルシリオン鉱石】っていうのは、何なんだなぁ?」

「ぼくも詳しいことは知らないんですよね。ただ、あらゆる特性を持った超希少素材という話です」


 扱うものとして、霊も議論に参加している。


 オリジナルのデータには、【糸刀】に関する詳細が、事細かに記載されていた。

 だが、【バルシリオン鉱石】なるものに関しては、その名称のみ記されているだけで、どういった物質なのか説明されていない。


 素材以外の構造は、形だけは真似ることができるめ、ちゃんと出力計算を行えば【心力】を糸にして出力させることはできた。

 だが霊の望む性能には程遠い。

 【心経回路】の本数が、そのまま出力できる糸の数に直結する。回路を細くすればするほどいいのだが、それだと強度の問題が生じ、霊の【心力】に耐えられなくなってしまう。

 質のいい素材で構成しても、限界があった……。


「御神の【心器】……難航しているようだな」

「そうだねぇ……だいぶ改良されているみたいだけど……」


 離れたところでは、槍姫と朗、そしてこころの三人が各々の【心器】の最適化を行っている。


 三人はすでに一週間の間で【心器】の簡単な調整をマスターした。

 さすがにオーバーホール等の突っ込んだことまではできないが、必要最低限の整備はできる。


 ここから先は、学園側が用意した課題に沿って【心器】を調整していき、必要な単位を取得する手順となる。


「そういえば、霊くんの【心器】はカタログに載っていないものだから、課題とかどうなるんだろ……」


 こころの懸念は尤もで、だからこそ見通しの立たない現状に技術班が総掛かりになっていた。


「あ、そういえばそうだねぇ~。一応項目には、『最適化』、『出力調整』、『外装補修』があるんだけど、御神くんの場合は『最適化』が問題かな? 全力を出せないからねぇ」

「しかし【心力】が強過ぎて【心器】が壊れるなど前代未聞だろうからな。適当なところで切り上げるんじゃないか?」


 実はすでに学園長がその手の根回しを済ませている。

 だが向上心旺盛な技術班の生徒たちが、珍しい技術の塊である【糸刀】に熱中。連日連夜不眠不休で改良が行われ続けていた。


「ならそうすればいいのに……。技術班の人たちはともかく、どうして霊くんまで熱中するの……」


 不機嫌そうに霊を睨むこころ。


 実はこの一週間、こころは霊とまともに話ができていない。こころが言ったように、霊も【糸刀】の改良に参加しているからだ。

 しかし毎日夕飯を食べてもらいに来ているため、まったく会話ができないことはない。だが、家に帰れば妹の真心が霊を独占するし、両親が霊を気に入っているため二人っきりになれないでいた。


 なんというか……


「やれやれ。欲求不満でご機嫌斜めか。御神も罪な男だ」

「なっ?! だ、だれが欲求不満なの!? べ、別に私、そんな不純な動機じゃなくて……」

「不純? 欲求不満は、何も性的欲求だけを指している訳じゃないんだがな? 以外に耳年増なことで……」

「っ!? も、もうっ!! 槍姫ちゃん!!」


 とまあ、こういうやり取りでガス抜きをさせる。

 霊にやらせたい役目だが、当分の間は適いそうもないので、親友たる槍姫と朗が担っているという訳だ。


 女子三人がそんなやり取りをしていると、一人の男が現れる。


 黒いジャージ姿に、野性的で凶暴な目つき。

 真っ赤な短髪で、180を優に超えるであろう長身の男子生徒。


 彼は、この場に現れるなりこんなことを言いだした。


「頼もぉぉおおお! 御神夫婦はいるかぁぁあああ!!」


「ひゃ、ひゃあい?!」


 その男の発言に、真っ先に反応したのは御神……ではなく純愛。つまり、こころである。


「こころ、とりあえずおまえが反応する場面ではないぞ?」

「わ、わかってるわよ!」


 槍姫に指摘されて、顔を真っ赤にするこころ。


 その間にも件の男は霊のところへ歩いて行く。


「あ、凱くんが来るのを忘れてたんだなぁ~」

「ダナン先輩、お知り合いですか?」

「そうなんだなぁ~。すっかり忘れてたけど、実は今日、御神くんに用事があると聞いてたんだなぁ~」


 やがて目の前まで来た男は、霊を見ながら自己紹介。


「御神霊だな? 俺様は輝角(きかど)(がい)。戦闘学科の3年生。探索部の部長でもある」

「探索部、ですか?」

「そうだ。そこのダナンも探索部でな。今日はお前を、我が部へスカウトしに来たのだ」


 腕組をしながら自信満々に言う、輝角凱。霊が探索部に入るのが決定しているかのような雰囲気だ。


規格外な問題児(アウトスタンダード)……さっそく犠牲者が出るのか……」

「いや、でも御神くんならあるいは……」

「だからって、また部活棟が半壊するような事態にならないだろうな……」


 技術班の生徒たちから、なにやら不穏な会話が聞こえてくる。

 それを意識の片隅で聞き止めながら、霊を対応していく。


「ダナン先輩も一緒なんですか。どんなところか聞いても?」

「無論だ。知っているかもしれんが、我が心皇学園の部活動は、その内容如何によっては単位を取得できる。医療部なら軍事医療学の、情報部ならば軍事情報学の、といった具合にな」


 これは生徒たちに単位を取得させやすくし、もっと幅広く科目を履修して多くを学ばせるための措置だ。

 都市で賄える人口からでは、【心兵】となる人間の補充は困難。そのため少数精鋭が好ましく、一人が複数の技術を持つことが求められる。


「で、探索部はどんな単位取得ができるかというと……すべてだ」

「すべて……ですか?」

「そうだ。名前こそ探索だが、その実なんでもやる。こちらが申請した内容と学園側の裁量で単位が取得できる仕組みになっている。無論、結果を出さなければ単位の取得はできないがな」


 ちなみに、単位の取得は点数制である。

 一定の点数を獲得できれば単位の取得となり、探索部のように何にでも手を出せれば、それだけで様々な科目の単位を取得しやすくなるのだ。


「なんだか人気ありそうな部ですね?」

「と、思うだろうが……部員は俺様とダナンの二人だけでな」

「そうなんですか?」

「ああ。我が部の特性上、入部するにはそれなりの実力を測らせてもらっている。最近の者どもは軟弱な奴が多くてな……おまえのような猛者を探していた」

「はぁ……」


 なんと返せばいいか分からず、曖昧に返事をする。


 霊から見ればこの閃羽の人間は弱い。

 確かにナイトクラスは5人いる。他の都市では1人いるかいないかというご時世に、これは恵まれているといってもいい。


 だからこそ他の人間は安心しきっており、危機管理意識が薄いのだろうと推測。


 その影響が次世代を担う生徒たちにも出ているのだろう。


「と言う訳で、だ。いま探索部は深刻な人材不足に陥っている。これは心皇学園の弱体化をも意味しているのだ!」

「そこまで言いますか?」

「探索部以上に秀でたところなど無い! 断じてぬわぁい(無い)!! だからお前をスカウトする訳だ。そしてこの際だ。おまえの妻と、その仲間たちも一緒に入部するがよい!!」


 相も変わらず、腕組みをしながら霊を見下ろす凱。

 自信満々なその態度と物言いはどこから湧いて出てくるのだろうか……。そもそも……。


「あの、輝角先輩?」

「俺様のことは凱と呼ぶがいい」

「あ、はぁ……それでは凱先輩。妻って……誰ですか?」


 言うまでも無いが、霊は結婚していない。なのに、妻とはどういうことか。


「それは愚問だぞ貴様。旧姓、純愛こころという女子に決まっておろうが。そうだろ?」


 そういって、こころに視線をやる凱。


 唐突に話題を振られ、こころは慌てて―――


「ひゃ、ひゃぁい!? ふ、ふ、不束者ですが?!」


 凱の口車に乗った。


「待て待てこころ。暴走しているぞ?」

「そうだよこころちん! そこは元気よく『はいっ!』って肯定しなきゃ!」

「煽るな朗っ」


 状況を引っ掻き回す朗の脳天に、槍姫のゲンコツが落ちた。


 朗は頭を抑え、呻き、地面に蹲った。


「まあ何はともあれ、一度我が探索部に来るがいい。いくぞ!!」

「は、はぁ……えっと、ダナン先輩?」


 【糸刀】の調整がまだ途中だ。

 ダナンの指示を仰ごうと視線を向けた。


「こうなった凱くんは止まらないんだなぁ。気分転換も兼ねて、一緒に行くんだなぁ~」


 それも一理ある。


 ダナンは他の技術班の生徒に後を任せ、霊たちを伴って凱の後を追った。




◆ ◆ ■ ◆ ◆




 凱に連れらてやってきたのは、訓練棟。


 実戦訓練を行うこれらの施設は、1年生のうちから頻繁に利用するというのは稀だ。

 しかし霊たち第7チームもよく利用している。

 それは霊が、常に実戦的な訓練を施しているからだ。


 習うより慣れろ。


 それが霊の教育方針である。


「さて……スカウトしておいて何だが、これから俺様と模擬戦をやってもらう」

「つまり入部試験ですね?」

「そうだ。貴様の実力は知っているが、俺様が直に手合わせしておきたい。いいな?」

「ええ。構いません」


 霊が了承し、二人は戦闘準備にはいる。


 凱は黒いバトルスーツ【心装】を着込む。

 しかし普通のとは違い、背中に黒いバックパックのようなものが仕込まれている。

 そしてそのバックパックには、バズーカ型【心器】が連結されていた。


「凱先輩はバズーカ型を使うのか……。朗のガトリングガンとは違い、一撃の威力に重きを置くタイプだな」

「そうだねぇ~。圧縮率を高めに設定してあるはずだから、連射は利かないだろうけれど、当たればタダじゃ済まないはずだよ~」


 槍姫と朗が、凱の【心器】を見ながら考察する。


 【心力】を弾丸として圧縮・保存する際、その圧縮率によって威力が決まる。

 朗のガトリングガンは圧縮率を低くしている分、素早い連射が可能。

 対して凱のバズーカは、圧縮率を高くしているために威力が大きい。しかし連射はできない。


 おそらく凱の戦法は、強力な一撃による短期決戦だろうと当たりを付けた。


「しかし、あのバックパックはなんだろうな? こころ、知っているか?」

「ううん……私も知らない。予備の【心弾倉】かなって思ったけど、大き過ぎるし……」


 またも知らない装備。

 どういう訳か、霊と会ってから未知の技術のオンパレードだ。


 偶然なのかもしれないが、類は友を呼ぶ、という奴かもしれない。


「さてと……俺様はフル装備でやらせてもらうが、貴様はどうする?」

「このままでいいです。どうせ使えませんし」


 霊はいつも通り、制服に【糸刀】というスタイルだ。


 膨大な【心力】を有しているが故に、【心装】を装着できない。

 もし【心装】がオーバーヒートして爆発してしまったら、霊の身体がその爆心地になる。危なくて着れないのだ。


「ふっふっふっ……では、始めよう。ダナン、合図を頼むぞ」

「わかったんだなぁ~。はじめぇ~」


「「「早っ!!」」」


 間髪入れずに開始の合図を出したダナン。


 第7チームの三人娘は揃って突っ込んだ。

 ぽっちゃり和やか系に反したその流れに、突っ込みを入れずにはいられなかったのだ。


 だが霊と凱の二人は、戸惑うことなく戦闘を開始した。


「っ?! バカな、御神に接近戦を挑むだと?!」


 槍姫が驚愕を露わにする。


 バズーカを背負いつつも、凱は霊に対して肉弾戦を仕掛けたのだ。


「ふぅぅぅうううん!」

「っ!」


 渾身の一撃を込めた拳が、霊に迫る。


 それを躱し、逆撃の蹴りを凱の横っ腹に見舞う。


「ぬぅんっ!」


 身体を捻って回転。霊の蹴りを空振りさせ、空中に浮く凱。


 直後、その回転の勢いを利用した裏拳を、霊の脳天に落とす。


 それを打ち払い、ハイキック。


 凱はまたしても身体を空中で回転させ、そのハイキックを流す。


「すごぉ~い……御神くんと互角に戦ってる~!」

「ばかな……あれだけやれる人が、ただの学生を今まで続けていただと? 大和よりよほど強いじゃないか」


 霊の体術のすごさは、チームを結成してから嫌というほど理解させられている。

 ナイトクラスを父に持つ槍姫ですら、霊以上の体術は見たことが無い。


 その霊と、体術で互角にやりあっているのが輝角凱だった。


「バズーカだから、遠距離から仕掛けると思ったが……予想外だな」

「どういう場面でバズーカを使うのかな? 御神くんみたいに全距離対応には思えないんだけど……」


 二人が驚く間にも、霊と凱の模擬戦は次の段階へ進む。


「ふむ。悔しいが今の俺様では、体術で勝つことは難しいな。では、【心器】を使わせてもらうぞ!」


 霊から距離を取り、バズーカを構える凱。


 紫色に光る【心力】が、その砲口から輝きだす。


(っ! 収束が速っ―――)


 高く圧縮しようとすれば、それだけ撃ち出すのに時間が掛かる。


 だが凱のバズーカは、霊の予想を上回るスピードで【心力】を収束。


 結果、放たれた【心力】の弾丸……というよりもビームに近い攻撃が、霊に直撃する。


「霊くんっ!!」


 まさか霊が喰らうなどと思わなかったこころが、悲鳴を上げる。


 しかし良く見ると、霊は腕に青く光る【心力】を纏わせ、ビームを凌いでいた。


「ふはははっ! 聞いていた以上に凄まじい【心力】だ! 俺様も久々に、全力を出せるぞ!!」


 その顔に凶暴な笑みを湛え、凱はバズーカを霊に向ける。


 今度はビーム状の攻撃ではなく、弾丸にして【心力】を放った。


「ふっ!」


 【糸刀】から糸を繰り出し、その弾丸を絡め取る。

 絡め取った弾丸はそれでも前方に突き進むが、霊は絶妙な力加減で軌道を逸らし、遠心力を利用して振り回す。


 そして、その弾丸を凱に返した。


「なんとっ」


 予想外の反撃を受けた凱はバズーカを構え、返された弾丸に狙いを定めて撃つ。


 【心力】の弾丸と弾丸がぶつかり合い、爆発。

 生じた衝撃波が、訓練棟を揺らした。


「っ!?」


 弾丸と弾丸が衝突し、煙が立ち込める。その煙から、数発の弾丸が霊に襲いかかる。


 【糸刀】から複数本の糸を射出し、すべて絡め取って先ほどと同じように振り回す。

 複数の糸が絡まないのは、さすが霊というべきか絶妙な技術だ。


 順次絡めていた弾丸を解き放ち、凱がいるであろう煙の向こうへ返す。


 だがその弾丸すべてが、ビーム状の【心力】によって掻き消された。


「ふはははっ! 楽しいぞぉ! 御神霊!!」


 バズーカの構えを解き、高笑いする凱。


 霊はいったん糸を回収し、凱の様子を窺った。


「ふっふっふっ……これは、アレだな。貴様にならば、俺の渾身の一撃を見舞っても良さそうだな」

「が、凱くんっ?! まさか、アレをやるつもりなんだなぁ?!」

「ふははははっ!! 御神ならば耐えられよう! むしろそれくらいでなければなぁ!!」


 バズーカを肩に構え、砲口を霊に向ける。


「貴様の全力を見せてもらうぞ! この俺の一撃から、貴様の後ろにいる者達を守ってみせろ!!」

「っ……」


 霊の後ろには、観戦しているこころ達がいる。

 避ければ……こころが危ない。


「【心力コンデンサー】っ! ちょっけぇえつ( 直 結 )!!」


 背負っていた黒いバックパックが上にスライド。

 肩に構えていてバズーカの後部に接続。


「まさかあれは、【心力】を蓄えられる装置か?!」

「コンデンサーって言ってたもんね……って、ちょっとマズいんじゃないかな?!」

「ちょっ、待つんだなぁ!! それはマズいんだなぁ~~~!!」


 槍姫と朗が慌て、そして凱がやろうとしていることを知っているダナンが、二人以上に慌てる。


 しかし、凱は撃つ気満々だった。


 【心力コンデンサー】は、【心力】を蓄えられる装置。

 蓄えた本人しか使えないが、戦闘前に【心力】をチャージさせることで予備バッテリーのような役割を持たせることができる。

 この【心力コンデンサー】とバズーカを直結させることで、通常では考えられない【心力】を瞬間的に放つ。


 これから放つ強力な一撃こそが、凱の本領だ。

 最初の予想に違わず、一撃による短期決戦が凱の真骨頂。それをしなかったのは、霊の実力を見定めるため。


 傍から見れば互角にやり合っていたが、凱は霊の底の見えない実力に、相手が格上であることを肌で感じ取った。

 であるが故に、その最深部を見るため、敢えて人質をとるようなマネをした。


 【心力コンデンサー】に蓄えられていた【心力】が、バズーカへ送り込まれる。

 砲口の中は眩い紫色の光で満ち、今にも爆発しそうな甲高い音を発していた。


「ふはははっ!! 行くぞっ!! 規格外(ガイズ)青春(スペシャル)熱き血潮(バズーカ)!!

 はっしゅぁあっ( 発 射 )!!」

「うわぁぁあああ! もうダメなんだなぁあああ!!」


 眩い光が大きくなり、すべてを呑み込まんとばかりに広がる。


「霊くんっ!!」


 こころが呼びかけるも、霊は動く気配がない。


 襲ってくる光の濁流を前に、霊は青く光る【心力】を全身に漲らせた。


 その青い【心力】は、霊の背中に集まって形を成す。


「―――……え?」


 凱の【心力】に呑み込まれる寸前、こころは確かに見た。


 霊が全身に纏う青い【心力】が背中に集まり、3対6枚の翼を形成したところを。


 天使の翼のような造形。

 【心力】の糸で織ったのとは違う、【心力】そのものが翼になった、その光景を。


 霊は3対6枚の翼を前方に折りたたみ、盾にした。

 翼は凱のバズーカから放たれた膨大な光を受け止め、その行く手を阻んだ。


「なっ……なんだ、御神の背中から生えているアレはっ!!」

「すごっ……まるで、天使の翼みたいだよっ……」


 槍姫と朗も、霊が起こした変化に気付いた。


 すべてを呑み込み破壊する凶暴な光を受け止める、天使の翼。

 今までのように、ただ【心力】を出力しただけのものとは明らかに違う、その青い翼。


「―――……っ! かああああぁぁぁっっっ!!」


 気合とともに、大きく張り上げられた霊の声。


 同時に翼を勢いよく開き、凱の放った凶暴な【心力】の濁流を、一瞬のうちに掻き消した。


「なんと……」


 自身のすべてを込めた一撃。

 それを防がれた驚き。そしてそれ以上の、歓喜。


「ふはははっ……見えたぞ。貴様の底が垣間見えたぞっ……貴様のような奴がいるっ! これが、世界の奥深さと言うやつかっ!! はっはっはっはっ!!」


 凱が、今日一番の大声で笑う。


 強者と出会えた喜び。

 予想を上回る世界の奥深さ。


 霊という存在を通じて、凱はそれらを実感した。


「―――っ! とっ」


 その笑いを掻き消すかのように、スパークするような音が響き渡る。


 それは【糸刀】から発せられており、霊は慌てて投げ捨てた。

 直後、【糸刀】は爆散。

 黒い煙の花を咲かせ、粉々に吹き飛んだ。


「ふむ。さすがにそれほどの【心力】を纏えば【心器】も影響を受けるか。とことん人外な奴よのぉ、御神」


 凱が笑いながら話しかける。


 霊は全身に【心力】を纏わせた。

 その余波は【心器】にまでおよび、使っていないにも関わらずオーバーヒート。爆散したという訳だ。


「……ぼくが止められなかったら、どうするつもりだったんですか?」

「ふっ……止められると思ったからこそ、撃ったのだ。そのようなもので止められるとは予想外だったがな」


 凱の視線は、霊の背中……青く光る3対6枚の翼に注がれている。


「俺様たちの知らない【心力】の形か。実に興味深いぞ。よぉし! 御神霊、合格だ!! 我が探索部に入部することを許可してやろう!! 無論、貴様のチームも一緒になっ!! ふはははははっ!!」


「あのっ……誰もまだ入部するなんて言ってないんですけどね……」


「はっはっはっはっ!! めでたい! 実にめでたいなぁ!!」


 霊のさり気無い突っ込みも、無視。


 凱は心底嬉しそうに笑い、霊たちに入部届けの用紙を配り始めた。





御神(みかみ)(くしび)―――――主人公。Fランクの落ち零れとされているが、膨大な【心力】を有する謎の少年。

純愛(じゅんない)こころ―――霊の美少女幼馴染。数少ない【感応者】。

針村槍姫(はりむらそうき)――――背の高いクールな少女。こころの親友。

戯陽(あじゃらび)(ほがら)――――いつも元気で明るい少女。こころの親友。

●ダナン・デナン――心理工学科のぽっちゃり系3年生。【心器】に関する技術はなかなかのもの。

輝角(きかど)(がい)―――――戦闘学科の3年生。野生児的でトラブルメーカー。


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