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第16話【第8技術班との協約】

急いでいたので誤字多数かもしれません。


遠慮なくご報告ください。<(_ _)>



白いカーテンを通して朝陽が射し込み、こころは目を覚ました。


陽が出る時間に起きるのは珍しい事で、普通ならもう少し寝ているはずだ。しかし今日に限っては目覚めてしまった。

そしてその理由が、なんとなくだが、すぐにわかった。


隣に、霊が居るからだ。


「そっか……霊くん、うちに泊まってたんだっけ」


こころの母親の志乃に押し切られ、霊は消極的ながらも泊まることになった。


霊の外の世界での10年間の様子が聞きたかったらしく、志乃は霊を質問攻めにしていた。それは誠も同じであり、【心蝕獣】に対する様々な対処法を熱心に聞いた。


だがこころはというと……両親が語らせた霊のこれまでが、あまりにも過酷に聞こえた。無論、霊は気を遣って多少笑いを取るような形で語った。


しかし、笑って済ませられるような話ばかりではない。


【心蝕獣】に襲われ廃人同然になってしまった被害者の話。

都市が【心蝕獣】に滅ぼされた瞬間。

荒廃していく、【心蝕獣】が現れる以前の、旧文明の跡地。


どれもこれも、都市に居続ける限り経験しないであろう、悲惨な話ばかりだった。

しかし、明日は我が身かもしれないこと。


だから夕食後は、楽しくお話という雰囲気にはなれず、霊とまともに話ができなかった。


そこでこころは、一計を案じた。


(うぅ……今考えると、すごく大胆なことしちゃった……)


全員が寝静まった頃合いを見て、こころは霊を誘った。話がしたい、と。


昔みたいに一緒に寝よう。それを口実にして部屋へ誘い、霊と一緒にベッドで寝ることになったのだが……ここで一つ誤算が起きた。


真心も一緒に付いて来たのだ。


実はちゃっかり霊に付いて行き、なし崩し的に霊の布団に潜り込んでいたらしい。


結局、焼きもちを妬いてまともに話ができず、いつの間にか三人で川の字になって寝入ってしまった。


(まったく……真心ったら……)


霊を挟んで向こう側。霊の右腕に引っ付いて寝ている真心を見遣る。


自分の妹ながら油断のならない……とは思いつつ、霊は真心とまともに会話が出来る唯一の人。懐かない訳が無いか、とため息を一つ。


それから霊の方を見遣ると、まだ寝ている。

二人に引っ付かれて寝返りも打てなかったのか、まったく初期状態で寝ていた。


穏やか……とは違う、霊の寝顔。まるで死んでいるかのような……。


「―――え?」


改めて観察しても、どうにも生きている気がしない。

呼吸は、ある。

なのに、死んでいると錯覚するほどに、霊は静かだった。


「霊、くん……?」


錯覚だと思っていても、確かめられずにはいられなかった。

霊の胸にそっと頭を乗せて耳を当てる。心臓の鼓動が聞こえ、ちゃんと脈打っているのが分かった。


「生きて……ますよね……」


それでも、安心できない。どうしてこんなにも焦燥感が湧き上がるのだろうか。

正体不明の不安がこころを満たし、そして霊の顔をじっと見つめる。


それからしばらくして、霊が目を覚ました。


ゆっくりと目が開いて行く様子を見て、ようやく不安が薄れて行く。


「……こころ?」


目を覚ましたらこころの顔が目の前に。

一瞬理解が追いつかず、こころに疑問を投げかけた。


同時に霊の心拍数が急上昇。何せこころは、霊の顔をじっと見たまま。

しかも今まで霊の胸に頭を乗せていた関係で、覆いかぶさるようにくっ付いている。

こころの豊かな膨らみが、自分の身体に押し付けられて形を変えているのがモロ分かり。


「あ、あの……こころ? その、離れてくれないと……起き上がれないんだけど……」


【心力】で身体を強化すればいけるじゃん、というのはこの際なしの方向で。


そもそも、こころ相手に【心力】を使えない。使わない、ではなく使えない。


このままではマズい……しかし打つ手なしの状況では、このまま流されてしまう……。


「ここ、ろ……」


その時。

こころが視界から消えた。


「痛っ?!」


それは真心が、こころを突き飛ばしたから。


壁側にいたために、突き飛ばされたこころは頭を壁に打ちつけてしまう。


「―――」


声を出せない真心は口ぱくと、怒っています、という表情で姉を睨みつけた。


「ま、真心ちゃん、落ち着いて。あと、暴力は良くないよ……」

「……霊くん、真心はなんて言ってますか?」

「うぇ?! えっと……駄目だ、それは言えない……」


険悪なムードになりつつある姉妹に、ニトログリセリンを注ぐようなマネはしたくない。

というか、通訳したら確実にとばっちりが来る、と直感して黙秘権を行使。


だがそれは、言えないような罵りをしていたという証拠に他ならず、結果―――


「真心! もう我慢の限界よ!! いい加減に霊くんにべったりするの止めなさい!!」

「―――!! ―――!!」


「おおおお、おち、落ち着いて二人とも! 喧嘩は、暴力は、取っ組み合いはダメだぁぁああああっ!」


朝からドタバタと騒がしい音を響かせる姉妹に挟まれ、霊は心身ともに衰弱していった。


その後、騒ぎを聞きつけた誠が乱入。娘二人と同衾していたと知り、怒髪天を突く勢いで怒鳴った。


もっとも、制裁行為など霊に通用するはずもなく、返り討ちにあうのが関の山なので、嫌味をチクチク言うに留まったのだが。




◆ ◆ ■ ◆ ◆




心皇学園 1年1組 昼休み


霊、こころ、朗、槍姫。いつもの第7チームの面々で賑やかな昼食。

霊を含め、全員お弁当。特に霊とこころの弁当箱は同じデザインの色違い。青とピンクのペアルック弁当箱だった。

これは志乃の計らいで、霊の常軌を逸した食糧事情を知って用意してくれたものだった。


「はぐはぐはぐ……ねぇねぇみんな、午後の実技見学はどうするのかな?」


ミートボールを食べながら朗が聞く。


その内容は心皇学園のカリキュラムについて。


ここでの午前中の授業は、主に一般教養と理論講習に充てられる。

数学や物理などはそのまま専門科目に結び付くので必須。

理論講習とは、戦闘における戦い方や【心力】、【心器】についての座学であり、定期試験も筆記で行われる。


一般教養以外の科目は次のようなものがある。


【心兵】としての戦い方を学ぶ授業――――――戦闘論。

都市の防衛を研究・学ぶ授業――――――都市防衛論。

【心力】を用いた戦い方を学ぶ授業――――――心技戦闘論。

【心器】につていの仕組みを学ぶ授業――――――心器工学論


そして午後の授業は、実技。

午前中に学んだ理論を実践するための授業が主となっており、実戦形式の対戦や【心器】を実際にいじって整備したり、製造したりすることを体験する。


実戦形式での授業――――――戦闘学。

【心力】を使う授業――――――心技学。

【心器】の製作授業――――――心器学。


というような名目で各授業が組まれている。


「4月一杯の実技は見学だけだが、5月からは本格的に参加することになるのだろう? だったら、私としては心器学を先に見学すべきだと思うのだがな。戦闘学にしろ心技学にしろ、【心器】は必要になるのだから、早めに自力で整備できるよう、そして心理工学科の先輩たちと交流できるようにしておくべきだ」

「それに、霊くんの新しい心器も用意してもらわないといけませんからね」


槍姫とこころの言は妥当で、霊と朗は特に反対することもなく賛同した。


(【心器】は別に、無くても困らないけれど……せっかくだから賛成しておこう)


霊としては、【心器】があろうと無かろうと、大した違いは無い。

相手が【心器】を持っていても、この都市の人間では相手にならないし、この前の【心蝕獣】の群れだって、あれほどの数が大挙して押し寄せてくることは早々に無い。


とはいえ、せっかくの好意でもあるし、授業に支障を来たしてチームの足を引っ張るのも忍びない。


昼食を食べ終えた霊たちは、午後一の授業に心器学を選択。

心理工学科の生徒たちが多く出入りする工学棟へ向かった。


「おお~~~! ここが心皇学園の工学棟か~~~!」


様々な機器の置かれた工学棟に入って、朗が感嘆の声を上げる。


【心器】の核となる【CMPコア】の製造機。

【心経回路】の調整用マニピレーター。

そして【心器】の外装素材を加工する加工機。


【心器】を作るための製造機があちこちに並び、さながらどこかの工場のようだ。


「あ~っ。御神くんなんだなぁ~。お~い」


その工学棟の一画に、見知った顔……ダナン・デナンを見つける。


相変わらずのポッチャリ体型にゆっくりとした口調。人を和ませる癒しポッチャリ系なダナンは、霊たちを招き寄せた。


「こんにちは、ダナン先輩」

「こんにちはなんだなぁ~。心器学の見学なんだなぁ~?」

「ええ。先に【心器】について色々準備をしたほうが、他の授業に支障がないのでは、と思いまして」

「正解なんだなぁ~。【心器】を自分用に最適化できるようになれば、他の授業が楽になるんだなぁ~。よければぼくが、色々教えるんだなぁ~」


ありがたい申し出を断る者はおらず、霊たちはダナンにレクチャーしてもらうことになった。


「御神くん達は戦闘学科の人たちだから、心器学の比重は少ないと思うんだなぁ~。最低限の調整を学べば単位はもらえると思うんだなぁ~。だから【心器】については、チーム毎に心理工学科の各技術班と協約することになるんだなぁ~。御神くん達さえよければ、ぼくたち第8技術班が受け持つんだなぁ~」


戦闘学科の生徒は戦い方を学ぶのが基本だ。そのため【心器】についての授業は最低限。

【心器】の調整は心理工学科の生徒たちで組織された技士に依頼し、授業を円滑に進めて行くのが基本となる。


心理工学科の生徒も、【心器】の調整をこなすことで成績評価が加算される仕組みになっているため、双方にとって有意義な協約になるのだ。


「それはありがたいです……。あ、こころ達はどう? ダナン先輩と協約してもいいかな?」

「私は霊くんに賛成です。それに、霊くんの【心器】を作れるのは、ダナン先輩だけなんですよね?」


【糸刀】は閃羽では普及していない珍しいタイプだ。

設計データが心衛軍によって解析されているため、いずれは追加されるだろうが、今のところ製造経験のある技士はダナンのみ。


そういった現状を鑑みて、こころは快諾した。


「ダナン先輩、私たちの【心器】はどうだろうか? 私は槍型の【心器】、朗はシールドガトリングガンの【心器】を使うのだが……」


問題はないであろうが、もし万が一自分達の使う【心器】が分野外だとしたら少々厄介なことになる。

そういった不安要素がないか確認するための、槍姫の質問だった。


「一通りの【心器】は扱っているんだなぁ~。もちろん、ビット型の【心器】も任せてほしいんだなぁ~」


ならば話は早いということで、霊たち第7チームは、ダナンが所属する第8技術班と協約することになった。




◆ ◆ ■ ◆ ◆




「まず【CMPコア】と【心経回路】。この二つが【心器】の基盤になるんだなぁ~」


ホワイトボードに図を書き込みながら、ダナンが【心器】の構成について説明する。


「心の力を【心力】として、物理エネルギーに変換する【CMPコア】。

これに【心力】を伝達する【心経回路】を接続。

 そして例えば、槍型【心器】であれば、外装に相当する槍部分を作り、基盤に繋げていく。

 こうして【コア】と【心経回路】を通して外装に伝達された【心力】は、槍の強度と貫通力を強化するという仕組みなんだなぁ~」


同じ第8技術班のメンバーがちょうど槍型の【心器】を作っていた。ちょうどいいので例に出して解説。


「【心器】の基本は【コア】と【心経回路】なんだけど、外装の素材も重要なんだなぁ~。

例えば今作って見せた槍型【心器】なら、高い強度を持つ【スティーラル鉱石】を主として槍部分を生成。その先端部分は、鋭利な分子構造を持たせやすい【シャープラル鉱石】を使って組み上げ、槍としての性能を高めるんだなぁ~」


様々な鉱石が加工機に入れられ、機器を操作して加工していく様子が分かる。


一度溶解した鉱石が円錐形に整えられ、冷やされることで固体化。

その先端を別に用意していたパーツと組み合わせ、槍の形となった。


「戯陽さんが使っているガトリンガンのような銃型の場合は、【心力】を弾丸として圧縮・保存する【心弾倉】に送ってから発射されるんだなぁ~」


手元にあった黒い弾倉と銃型【心器】を見せながら、懇切丁寧に解説。


「それで御神くんの【糸刀】は、今言ったどの【心器】のタイプにも当てはまらない、閃羽では見かけない技術が使われているんだなぁ~」


設計データがあったからこそ【糸刀】は作られた。しかしデータに示される性能を再現することは不可能だった。


「【糸刀】は使用者の【心力】そのものが糸となって射出される仕組みなんだなぁ~。柄は持つためだけのパーツであって、これは【スティーラル鉱石】を用いているんだけれど、実質的に【コア】と【心経回路】だけで構成された【心器】と言って差し支えないんだなぁ~」


そもそも、霊は【糸刀】がなくても指の数だけ【心力】の糸を使う事ができる。

この工程を【心器】に用いたのが【糸刀】だった。


「技術的な問題もあるんだけど、【糸刀】は使用者の【心力】の精密な調整があって初めて使える、間違いなく超上級者向けの【心器】なんだなぁ~」


それは、【心器】の製造・整備を生業とする心理工学科の生徒をしての、称賛だった。


「ところで御神くん。一から【糸刀】用に作りなおした新しいものを作ってみたんだなぁ。もらったデータ程の性能はまだ出せないけれど、糸を1000本出力できるようになったんだなぁ~。

 名付けて、【糸刀Ver(バージョン).1.0】なんだなぁ~」

「この短期間でですか? それはすごい。助かります」


ダナンが霊に渡した新しい【糸刀】。

見た目は変わっていないが、【心経回路】をダナンなりに改良した手製の【心器】だ。


その甲斐あって、出力できる糸の本数が倍増。ダナンの腕の良さが伺える。


「あの、ダナン先輩。糸を1本から2本へ、ないし3本以上、途中から増やすことには耐えられますか?」

「う~ん……それがすごく難しいんだなぁ~。【心経回路】にすごい負担が掛かるから、現段階では2本までが精一杯なんだなぁ~。」

「そうですか……。このまえ壊れてしまったのも、1本の糸を複数に増やしたのが原因だったもので……」


【心弦曲・糸白渦】。

1本の糸を数本~数十本に枝分かれさせ、複数の対象を突き刺し引き摺りまわす技。

この技を使った直後に、前にもらった【糸刀】は壊れてしまった。


「ぼくとしてもこの【心器】には凄い興味があるんだなぁ~。これからも研究・改良を続けるんだなぁ~」

「お願いします」


現状、霊はまだまだ本領を発揮することはできない。


ダナンの頑張りに期待だ。


「ただ、その代わりと言ってはなんだけど、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだなぁ~」

「なんですか?」

「閃羽には【地下資源区】というのがあって、そこから鉱石なんかの資源を採取しているんだけれど、質は悪いから精錬しても限界があるんだなぁ~」


閃羽の地下数百メートル下には、鉱脈がある。

そこから日々の物資を賄っているのだが、【心器】として最高の物を……そう考えるには物足りないのが現実だった。


「けれど都市の外……閃羽から少し離れたところにある、旧世代の鉱山へ行けば良質な素材が手に入るんだなぁ~。でも【心蝕獣】の所為でなかなか都市外への出向(しゅっこう)許可が下りなくて困っているんだなぁ~」


外へ出れば【心蝕獣】に襲われる危険性が高いため、人件費や護衛費が大量に必要となり、費用対効果が低く、従って質は物足りないが安全な都市内で採掘した方が経済的なのだ。


「なるほど……」

「学園長の許可が下りれば、授業の一環として単位を取得できるんだなぁ~。それもかなり多く、なんだなぁ~」


上級生にもなれば、都市外での訓練も課される。相当に危険が付きまとい、成績優秀者でなければ決して許可されないのである。


「でも、危険じゃありませんか? いくら霊くんが強いとはいっても……」

「少数で行くなら大丈夫だよ、こころ。ただ、持ち運べる分が少なくなるかもしれないけれど……」

「御神くんの腕を見込んでお願いするんだなぁ~。ぼくも一緒に行くし、運搬についてはぼくがどうにかするんだなぁ~」

「わかりました。それじゃあ……第7チームの実戦訓練も兼ねよう」


霊が本領を発揮できない今、少しでも戦力を向上させたい。

そんな思惑もあって、霊はダナンの依頼を受けることに前向きな姿勢を見せた。


あとは、他のメンバーの反応次第。


「ちょっと怖いけど、御神くんがいるなら安心かな?」

「いい経験になるだろう。リーダー、頼りにしているぞ?」


こうして第7チームの全員一致により、都市の外へ行く計画が練られた。


御神(みかみ)(くしび)―――――主人公。Fランクの落ち零れとされているが、膨大な【心力】を有する謎の少年。

純愛(じゅんない)こころ―――霊の美少女幼馴染。数少ない【感応者】。

針村槍姫(はりむらそうき)――――背の高いクールな少女。こころの親友。

戯陽(あじゃらび)(ほがら)――――いつも元気で明るい少女。こころの親友。

●ダナン・デナン――心理工学科のぽっちゃり系3年生。【心器】に関する技術はなかなかのもの。


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