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魔族シュヴァリオンの勇者育成  作者: 藍家アオ


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2 メロンパンと勇者の卵

 受付嬢が髪を揺らしながら戻ってきた。


「お待たせしました、リオンさん。ギルド長がお呼びですので、こちらへ来ていただいてもよろしいですか?」


「え?……まあ、いいだろう」


「お並びの方々は大変申し訳ないのですが、他の列にお並び頂けると……」


 背後から、息の揃った嘆息が聞こえてきた。受付嬢に案内されるがままに、受付を超え、ギルドの奥まで進む。辿り着いたのは一つの部屋だった。豪華な扉がそびえている。水色髪の受付嬢が扉をノックすると、中から微かなうめき声のような返事が聞こえてきた。


「失礼します」


「ご苦労、エミリ君。それで……そやつが天馬の赤瑪瑙を持ってきた奴か?」


「はい」


 ギルド長は、想像通りの奴だった。太っちょで、髭が生えていて、偉そうだ。魔族の権力者も、特に、大したことのない権力者が総じてこんな感じだった。言葉遣いまで、偉そうだ。


「ふむ、ふむ……胡散臭い奴だな。本当に冒険者か?」


「ギルド長、失礼ですよ」


 受付嬢は慌てているが、しかし。このギルド長、なかなか鼻が利くな。勘が鋭いというべきか。確かに俺は冒険者ではない。魔王軍の魔術師団長だ。偉そうで太っちょの権力者の中にも、時たま有能な者はいるわけだ。


「まあいい。Bランク冒険者リオン、だな?」


「ああ。」


「この宝石はどこで手に入れた?」


 リオンというのは、冒険者になる際に、本名はいくらなんでもまずいだろうと考えて名付けた偽名だ。ギルド長の手にあるのは、先ほど俺が買取を依頼した宝石だった。


「南大陸だな。十年ほど前に暴れ馬を討伐した際にドロップした」


「南大陸ぅ?そんなバカな話があるか!わしは騙されんぞ!この宝石はレヴィス令嬢から盗んだ物だろう!?」


「ギルド長、落ち着いてください……」


 ギルド長は鬼気迫る表情で、唾を飛ばしながら詰め寄ってきた。やめてほしい。受付嬢が静止しているが、この小太りのおっさんは止まる気が無い。それに、そのレヴィスなる貴族令嬢のことは、全く知らないしこの宝石は盗品ではない。正真正銘、俺が討伐したモンスターからドロップしたものだ。


「知らんな」


「ええい、とぼけるな!大体、これほど大きな赤瑪瑙がポンポンとドロップするか!」


「ギルド長!」


 受付嬢の大声に、ギルド長はびくりと肩を跳ねさせた。見た目通りの小心者のようだ。


「な、なんだね、エミリ君」


「ギルド長。レヴィス令嬢のブローチにはまっていた宝石は、もっと小ぶりで透明度が低いものという話です。それは先に言ったじゃないですか!」


「あ、ああ、そうだったか?」


 受付嬢は、さらに詰め寄る。ギルド長はその勢いにたじろいでいた。


「私がしたのは、これをレヴィス令嬢に献上してはどうですかという提案です。うちで買い取って、献上したとなれば評価も上がるでしょう」


「ううむ……そうか。そうだな。これほど素晴らしい宝石だ、きっと喜ばれるだろう」


 調子のいい男だ。窓の近くに寄ったギルド長は、日光に瑪瑙をさらす。瑪瑙はきらりと煌いた。宝石の良し悪しはわからないが、俺としては良い値段になればそれでいい。


「しかし、これほどの宝石をなぜ手放すことにしたのだ?」


「金が必要になったからだ」


「大金貨二枚はくだらないと思うが……欲しいものでもあるのか?」


「ああ。どうしても欲しいものがな」


 受付嬢は査定金額を伝えてくれた。大金貨三枚だそうだ。それなりにいい値段だろう。受付嬢はこれでいいかとこちらの顔色を窺っていた。交渉も面倒なので、そのまま金貨を受け取る。


「よからぬことを考えてはいないだろうな」


「くどい」


「で、では何を欲しているのだ?」


「メロンパンだ」


 俺の答えが気に食わなかったのか、それとも予想外だったのか。受付嬢とギルド長はぽかんと口を開けて黙った。


「め、メロンパンですか?」


「メロンパン……そ、そうかそうか!おぬしもメロンパンの良さがわかるか!」


「む?」


「いやはや、まさか同志だったとは。王都は初めてか?ならわしが良いパン屋を教えてやろうじゃないか。ここの——」


 突然笑顔を浮かべフランクな口調と態度になったギルド長。彼は興奮した様子で、仕事机の上の紙を千切るとそこに何やら書き込んで俺に渡した。見た目とは裏腹に、綺麗に引かれた直線。地図のようだった。現在地のギルドにぐるぐると黒点が書かれており、そこから目的地のパン屋までの道のりが示されていた。


 肩をがっと組まれた。これしきで上機嫌になるほど、この男はメロンパンを愛しているのか。魔王と話が合いそうだ。いっそこいつを勇者として魔王城まで連れていくか……いや、そうだ。メロンパンもそうだが、俺の目的はあくまで勇者の発見もとい育成だ。しかも、魔王を倒せるほどの。こんなおっさんを連れていったら、彼女にどやされるに違いない。






 ギルド長おすすめのパン屋でメロンパンを両手に抱えるほど買うと、所持金は大金貨二枚と小金貨九枚に減った。支払いに大金貨を出したときの、パン屋の店員の驚きようといったらなかった。大は小を兼ねる、という言葉には使い時があることを知った。


 あの少女の試験は終わったか。もうとっくにどこかへ行ってしまったかもしれないが、まだギルドにいる可能性もある。とりあえずギルドに戻ると、受付でなにやら手続きをしている少女の姿がちらと見えた。好都合だ。


「おい」


「あっ、さっきのお兄さん!」


 きょろきょろしながらギルドの出入り口まで歩いてきた少女に声を掛けると、ぱっと表情を明るくしてこちらへ寄ってきた。両脇にメロンパンの詰まった袋を抱えている滑稽な俺の姿を見て、少女はぽかんと口を開けた。


「一つ食うか?いや、食え」


「いいんですか?」


 彼女は小さい。細い。こんな瘦せぼそった身体では勇者になど到底なれやしない。メロンパンを取り出そうとするが、しまった両手が塞がっていた。魔術で隠していた尾を顕現させ、片方の袋を尾で掴む。袋を開け、メロンパンを一つ取り出して渡す。彼女は目をぱちぱちと瞬かせると、メロンパンを受け取った。


「ありがとうございます。竜人さんだったんですね。」


「そんなもんだ。焼きたてらしいから、早めに食えよ。俺はちょっとギルド長に会ってくるが、お前も来るか?」


「い、いえ。遠慮しておきます」


「そうか」


 再び魔術で竜の尾を隠蔽すると、ずかずかとギルド内を闊歩してギルド長の部屋まで赴く。ノックもせずに扉を開けると、中にいたギルド長は驚いた顔で身を縮こまらせていた。


「お、おまえ、ノックくらいはしなさい」


「まあそう言うな。ほら、差し入れだ」


「おお、これはマリニエールのメロンパン!しかも焼きたてではないか!」


 先ほどまでのビビりようはどこへやら、ギルド長はメロンパンの詰まった袋を一袋受け取ると、さっそく一つ取り出して頬張り笑顔を浮かべた。


「うむ。美味しい。わかっているじゃないか、キミぃ。名前は何というんだったかな?」


「リオンだ」


「リオン君。冒険者を辞めたら、ウチに来なさい。秘書のポストを空けておこう」


 ギルド長の懐柔は、思っていた以上にすんなりと終わった。これなら、今後の情報収集も円滑になるだろう。これが魔族のやり方というやつだ。


 ご機嫌なギルド長の言葉を聞き流し、部屋を後にする。メロンパンを食べ終えた少女は、その場で待っていたようだった。


「どうした。もう一つ食べるか?」


「いえ……その、お兄さんは、もしかして冒険者だったんですか?」


「ああ。そうだ。お前は冒険者ではなかったのか?」


「私は今日、冒険者になるための試験を受けたんです」


 ふむ。昇級試験ではなく、登録試験だったようだ。しかし、まさか落ちるということはないだろう。いや、そういえば遅刻していたか。


「間に合ったか?」


「はい!お兄さんのおかげで、なんとか。でも……」


「でも?」


「……試験自体は、あんまりうまくいかなかったんです。魔術は狙った通りに飛ばないし、模擬戦もすぐに攻撃を当てられちゃって……それでも、ただ聖剣を持っているだけで合格になったのです。それが、ちょっと……」


 指を突き合わせて俯く少女。納得のいかない結果に終わったようだが、俺に言わせれば当然だ。聖剣は持っているだけで、常人とはかけ離れた力を手にすることができる。しかし、聖剣が関係ない魔術試験や模擬戦では実力が見られる。実力が伴っていなければ、手ごたえはないだろう。むしろ、聖剣の力が強力であるがゆえに彼女の成長を阻害してしまっているということも考えられる。そのうえ、聖剣というのは厄介な恋情のようなものだ。気に入った者に執着し、しつこく付きまとう。彼女はもう聖剣とは切っても切れない関係にまでなってしまっているだろう。


「そうか。気に食わないか」


「ええっと、まあ……はい」


「それで、何だ。お前は強くなりたいのか?そもそも、何のために冒険者になったんだ?」


 少女は腰の聖剣に目を向けた。


「……私は……」

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