第1話:クビを宣告された「荷物持ち」
初描きすー
「アルス。悪いが、今日でパーティーを抜けてもらう」
王都にある高級宿の一室。豪華なソファにふんぞり返った勇者ゼノンが、冷酷な声を響かせた。 その隣では、聖女のルナが同情のかけらもない視線を俺に向けている。
「……えっ、今なんて?」
俺は背負っていた大きなバックパックを下ろす手を止めた。
「耳まで悪くなったか? クビだと言っているんだ。これからの魔王軍との戦いに、戦闘能力ゼロの『魔道具師』なんて足手まといなんだよ」
「待ってくれ、ゼノン。君たちの武器や防具のメンテナンス、それにポーションの調合は誰がやるんだ? 現場で壊れた魔道具を直せるのは俺しか――」
「それなら代わりを見つけた。王立騎士団から引き抜いたA級魔道具師だ」
ゼノンが合図すると、部屋の奥から豪奢なローブを纏った男が現れた。 ……なるほど、最初から準備していたわけか。
「アルスさん、でしたっけ? あなたの使っている『アイテムボックス』、容量も少ないし、たまに中身が消える欠陥品でしょう? 私の持っている最新型なら、あなたの十倍は荷物が入りますよ」
新しい魔道具師が、鼻で笑いながら俺の腰のポーチを指さした。
確かに、俺の『アイテムボックス』は特殊だ。 師匠から譲り受けた古びた代物で、時々、頼んでもいない変な金属板や、奇妙な形の筒が混じることがある。ゼノンたちからは「ガラクタばかり出す欠陥品」と馬鹿にされてきた。
「……わかった。今まで世話になったな」
これ以上しがみつくつもりはない。俺は短く答えると、自分の私物だけを持って部屋を出た。
「あ、そうだアルス。そのポーチは置いていけよ? それもパーティーの資産だ」
「……これは俺の私物だ。師匠の形見だよ」
「ちっ、しけてんな。まあいい、そのゴミと一緒に辺境で野垂れ死ぬがいいさ」
背後で響くゼノンたちの高笑いを聞きながら、俺は宿屋を後にした。
夜。王都の裏路地。 一文無しで放り出された俺は、雨を避けて軒下に座り込んでいた。
「さて、これからどうするか……」
とりあえず、今後の生活用品を確認しようと、腰の『アイテムボックス』に手を突っ込む。 その瞬間、頭の中に今まで聞いたことのない無機質な声が響いた。
『――条件達成。一定期間の魔力供給を確認。管理者権限を譲渡します』 『オンライン・ショップ:【Amuzininin】との接続を再確立しました』
「えっ……?」
ポーチの中から、光り輝く一枚の板が現れた。 それは金属でも魔法触媒でもない、滑らかな黒い鏡のような板。
俺が指で触れると、板の表面に文字が浮かび上がる。
『初回ログインボーナス:【携帯型ガスコンロ】と【カップ麺(醤油味)】が贈られました』
ポーチの入り口が光り、コト、と足元に奇妙な道具が転がり落ちた。 見たこともない造形だが、なぜか使い方は直感的に理解できる。
「これが……ガラクタだと思ってたポーチの、本当の力なのか?」
空腹に耐えかねていた俺は、導かれるようにその「カップ麺」という謎の器に、魔力で出したお湯を注いだ。
三分後。 蓋を開けた瞬間、王都の最高級料理店でも嗅いだことがないような、暴力的なまでに食欲をそそる香りが路地裏に広がった。
「……うまい」
一口食べた瞬間、体中に力がみなぎるのを感じた。 ステータスを確認すると、一時的なバフ効果どころか、最大魔力が永続的に上昇している。
これがあれば、戦う必要すらない。 俺はこの「ガラクタ」を武器に、誰にも邪魔されない最高の生活を手に入れてやる。
捨てられた魔道具師の、逆転劇がここから始まった。




