8話 疲労
白鬼二号、出現。
トンネルでバスを襲い、妊婦だけを狙って殺害。
「遅かった……!!」
現場に駆けつけた達彦は壁を殴りつけた。そして、遅れて登場した恵理子は無線の音声をそのまま達彦に伝える。
「紫波町に白鬼二号が目撃されたって!」
「紫波町!? 一気に飛んだな〜!!」
今度は妊婦の乗ったタクシーが襲われ、妊婦が死んだ。どうやら白鬼二号はこうして妊婦を狙っているらしい。
「楽しいぜ〜、妊婦殺し! 風船みたいだから割ってみりゃあ、風船じゃないで泥団子なんだよなぁ〜〜〜〜! きもちいいぜぇ、希望に満ちた顔が絶望にゆがむのは!」
白鬼二号は宮城県古川市のレディースクリニックの前でウヒウヒと笑いながら、身体を揺らがせていた。
ゆらゆら、ゆらゆら。
「さっきは一人殺して、その前も一人。よし! そろそろ三人くらい殺したいなぁ。エリカァ、お父さん頑張っちゃうからな!」
そこにバイクの音が来る。
視線を向けてみると、男が乗っていたが、赤い石が輝くと、一号に変身した。それに乗じてバイクも一号専用の怪物じみたものに変態した。
「お前が黒鬼一号か〜!」
バイクは止まることなく白鬼二号を轢き飛ばした。
「い、痛いなぁ!」
黒鬼一号が降りると、僅かに上下する肩は震えていた。
「なんとか言ったらどうなんだ、轢いてしまってごめんなさいとかさぁ!! なんか言うことあるだろ!!」
一号は何も返さず、白鬼二号に歩み寄っていくと、振り落とされた腕を掴み握り潰し、胸を殴る。
「痛っ……」
怯んだところに小さく地面を踏み、突き出すような蹴りを首に叩き入れる。白鬼二号は頭から地面に倒れ込んだ。
一号はその頭を掴み持ち上げると、「痛い」と何度も叫ぶ白鬼二号を無視して、腹に膝蹴りを何度も叩き入れた。
「痛い!」
白鬼二号の腹部に貼り付く生体装甲が青紫に色付くと、口が開いて、赤く濁った吐瀉物が溢れ出し、一号の太ももに掛かる。
「やめろ……なんのつもりだ……!! お、俺とお前は同じ鬼だろ……!!」
何も答えない。
一号は白鬼二号の頭を離した。
「ハァ……ハァ……いっ、一緒に妊婦殺さねぇ……!? 汚くなるけど、『きたねぇな』って思うの最初だけなんだよ! マジで! 慣れてくるとむしろ血を浴びるのが楽しくなるんだわ! これ本当のこと! なぁ、なぁ……!! 何か言えよマジで!!」
一号は白鬼二号の脇腹を蹴る。
「むっ、ううう!!」
反撃してやろうと思い立ち上がれば、頭に蹴りを飛ばされ、また地面を転がる。ごろごろと。
「調子に乗るな黒鬼風情が!!」
「鬼蹴」
「あァ!?」
「鬼蹴」
頭に九曜の紋が浮かび上がり、激痛を伴い、白鬼二号の全身が崩壊していく。「痛い、痛い、痛い」と白鬼二号は叫びながら、助けを求め一号の胸に腕を伸ばす。
一号はその腕を引きちぎり、踏み潰す。
「…………」
踵を返しバイクに跨ると、爆発するのを見届けてから剣崎温泉に帰った。その道中、恵理子の乗るISPO東北支部のマークが入った車を見ると、窓を叩いた。
「焼肉まで時間ある〜〜〜〜〜!? 兄貴になんか聞いてない!?楽しみすぎておしっこ漏れちゃいそーっす」
「大丈夫……なのか……!?」
金助が運転席から身を乗り出して訊ねる。
「ウッホーン、まっちゃん! 顔面に肘めり込んでるよ〜〜〜ん!! いたいよ〜〜〜〜ん!! ほ、ほっぺがつぶれちゃうよ〜!?」
「大丈夫も大丈夫! 大丈夫すぎておちんちん」
「は?」
「俺めっちゃお腹減っちゃった!」
「私仕事あるからなぁ、不参加! かわりにまっちゃんは君に最後まで付き合っちゃうって! 最後まで! ファイト!」
「最後までリングに立ってた者が勝者的な話か?」
「さぁ……」
「まぁいいや! 白鬼二号殺したから、住所教えるぜ。ちゃんと記憶しろよ」
「メモするよ」
恵理子はその顔を見ると、咲葵が言っていたことがなんとなくわかった。「あ、疲れてるな」と言うのがなんとなく理解できた。
自分より、一回り若い青年が。