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鬼骸界  作者: 蟹谷梅次
7/8

7話 すごく疲れた顔してた

 十一月五日。


 恵理子が達彦のライダースーツを勝手に着て「でかすぎ!」とはしゃいでいるのを微笑ましく思いながら、達彦はそれを炙っていた。


 するとそこに咲葵がやってきて、達彦が無事に生きているとわかると、「よかったぁ」と心底安心したように崩れ落ちたので、達彦は「よかったねぇ」とそれを支えた。


「俺、部活サボってきちゃいました」

「おっ! 悪い子じゃーん。俺も学生時代は親友と部活サボっちゃってました。だってさぁ、みんなやる気なくてだりーんだもんね! 君は俺が心配すぎてって感じ? なんか君って優しいよなぁ」

「だって、剣崎さんは……」


 熱っぽい視線。

 恵理子は「おやおや」と思いながらライダースーツを脱ぎ捨てる。


「このおチビちゃんとどういう関係?」

「ダチっすけど」

「ほんと〜〜〜〜!? ゲヒヒヒヒ、ういうい〜」

「ぶっ飛ばしますよ。します」

「ひぇ~! 暴力的な男は嫌われちゃうんだ〜!」

「屠殺するっす」

「私は牛かい?」

「炙りカルビ」

「気持ちいいこと言うじゃないかこのクソガキ〜〜〜!!」


 恵理子は達彦の頭をぐりぐりとやりながら、改めて咲葵を見てみる。目もくりくりとしていて、端正な顔立ち。

 坊主頭なので「美しい庵主さん」と言われればそう見える。

 しかしおや、小柄ながら筋肉質。


「でかくて細ェ剣崎くんとは真逆だねぇ!!」

「あんたと?」

「え〜〜〜〜!? なにこの感情! 殺意への目覚めッッッ!? 『爆発』に備えろッ」

「いでででで」


 咲葵は恵理子を知らなかったので達彦の「趣味」かと思い少したじろいだが、その事を察した恵理子が姿勢を治す。


「そうあえば自己紹介し合ってなかったねぇ! どうも! 私はISPO東北支部長、見袖恵理子っていいまーす! 最近は白鬼一号の胸の石を研究させてもらってます! 年齢は秘密で、実はとってもキュート! 好きな食べ物はピーマンの饅頭でーす」

「ピーマンの饅頭……?」

「美味しいんだよ〜?」

「あっ、俺は籠米咲葵って言います。十七歳で、えっと、野球部で」

「好きな女の子のタイプは〜? 男でもいいよん」

「いつも笑ってる人、です……」


「いいね!」と達彦は合いの手を入れてみる。

 そんな奴いるか? と思いながら。


「お家何処? この近く?」

「えっと、北上の……」

「えっ、花巻市外だ」

「はい、すいません」

「え〜謝んなくていいよ〜! 北上っていいよね! あの、ほら、あれあるから。剣崎くん! 北上なにある!?」

「俺ン元カノの家」

「んも〜〜〜〜〜!! バカタレ〜〜〜〜〜〜〜!!」


 達彦は恵理子に引っ叩かれた頭を撫で、ブツクサ言いながらモップを持って掃除に向かった。


「あの……」


 その背中を見送ってから、咲葵は恵理子に訊ねる。


「あの人、なんかあったんですか?」

「え〜〜〜〜〜? なんで~〜〜〜〜〜?」

「なんか、すごく疲れた顔してた」

「え〜〜〜〜〜〜〜? そうかなぁ? いつも通りの能天気な笑顔に見えたけど。考えすぎじゃない?」

「いや、だって、なんて言えばいいのかわかんないんだけど……あの人なんにも楽しそうじゃないから……」


 洋太郎は「ようやくわかるやつが来たなぁ」と思いながら番台の、引き出しの中にあるごく小さな家族写真を取り出した。


 父と母と剣崎兄弟が写った写真。


 この写真を撮った三日後に、両親は達彦の目の前でカシマという女に巻き込まれ、電車に轢かれて死んだ。


 達彦は電車が止まると、近くに落ちていた両親の肉片を掻き集めて、頭を拾い上げて、必死に泣いていたらしい。


「最近は特に疲れてるものなぁ……」

「達彦ォ。今日ここにいる奴等で焼肉行くぞ」

「マジ〜〜〜〜〜!? 兄貴の奢り!?」

「オメェも半分払えや」

「オッケー!!」


 コンビニに煙草を買いに行っていた金助が戻ってくると、達彦は金助を焼肉に誘った。「いいのかい」「いいんだぞい」「おともしたい」「やったね」というやりとりを挟んで、当たり前のように咲葵の肩に腕を掛けて、「米と焼肉のタレだけで腹膨らませようぜ」と悪魔の囁き。


そこに、直感が働く。


「出た」


それだけを言って、突如達彦は外に飛び出した。


「あっ、私たちもちょっと焼肉のためにお仕事片付けてくるね。おらおら行くぞ! まっちゃん!!」

「あんたまさか酒飲んだか?」

「ギクゥ!」

「ギクゥやなしに」

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