5話 白鬼 対 黒鬼
一秒、二秒、三秒──……と時間が過ぎていく。
銃火器のカチャリという音や瓦礫が崩れるガチャンという音が、辺りに虚しくこだまする。エスプリの効いた空っ風が吹いて、ようやく黒い鬼と白い鬼の間に「いる」という、共通の感覚が芽生えると、二人は走り出した。
お互いの拳が、お互いの胸にぶつかると、白鬼が弾けるように吹っ飛んだ。黒鬼はグッと堪え、怒りに複眼状の双眸を細く歪ませながら、一歩一歩近寄っていく。
白鬼は態勢を整え、今度はなんらかのエネルギーを拳に溜め込み、それを思い切り放とうとするが、黒鬼はその腕を下方に受け流し、背後に回ると、後頭部に踏みつけるような蹴り下しをぶち込んだ。
白鬼が倒れ込むと、頭をつかみ、何度も何度もアスファルトに叩きつけると、白鬼の頭が一部潰れた。
「い、痛いッ……」
「……………………」
辺りに転がる遺体は、若かったり。
「辞めてくれっ、やめてくれーっ」
老けていたり。
「ウウッ、ウワウッ」
赤子だったり、小学生だったり。
「ウッ」
中高生だったり、成人していたり。
「ウッ……」
老若男女、年齢層はそれぞれ。まだ生きていて、「しにたくない」と「いたい」と「苦しい」と、虚ろにつぶやく者ども。
「ゆる、して……」
首を持ち上げ、背中を蹴り飛ばす。
白鬼は瓦礫の山に突っ込み、黒鬼はその方に歩み寄っていく。
「く、くるな……来るな!!」
白鬼が投げた赤子の遺体を受け止め、その場に置く。赤い強化筋肉が淡く光り始める。瓦礫が投げつけられる度に、その輝きは強くなっていき、その輝きはすべて脚に集中していく。
「鬼蹴」
「やめっ」
白鬼の腹に穴が開く。ISPO戦闘部隊は終始動けず、その場に留まるだけだった。恵理子も、固唾をのんだ。
(剣崎くんがもともと喧嘩は強い方だってわかっていたけど……それでもこれは……強すぎる。……あんまりにも強すぎる……)
強さゆえに羅刹鬼は剣崎達彦を選んだのだろうか。そんな事を考えながら、恵理子は黒鬼に寄っていく。
「剣崎くん!」
「…………」
黒鬼の変身が解けると、ニパッと笑顔が浮かんだ。
「いやぁ、張り切っちゃいました! どうもすんませんした。ところで、こいつの身元調べたほうがよさそうっす。なんか前テレビで見たことあってぇ、なんか指名手配犯だった気がするっす」
「平気なのか……?」
「平気って……そりゃあ、辛いけど、『つらい』っていうのもなんか違うんで、俺言わないんすよ。大丈夫! 俺チンポでかいから」
「そっか〜……チンポでかいのか〜……次セクハラしたらぶっ飛ばすぞ! それはそうと今日はゆっくりお風呂に浸かるんだぞ」
「は〜〜〜い」




