3話 三体目が現れて
二時頃になると剣崎温泉に出た。そこで「じゃーん」と披露する。
「かっこいいだろ! ワハハ! これ自作のネックレスね。欲しがってもあげないもんね〜! ワッハッハ」
「いらねぇけど、別に。にしても赤ぇ石〜。チンポ?」
「チンポじゃないです〜!!」
さっさと仕事に取りかかりたいところだが、午後になるとやることと言えば掃除ぐらいになってしまう。休憩室や脱衣所の掃除を行い、後で雇った女湯清掃のおばちゃんが置いてった眼鏡を分かりやすいところに置いたり、そういうことをしていると、緊急速報とニュースキャスターが叫ぶ。
「三体目の地球外生命体か現れました!! ISPO正式呼称『LAUGH』は現在……あっ、消失したそうです!」
「なんか命名の毛色が違うね」
「名前つけた奴が違うんだろ」
「そんなもん?」
「そんなもん」
「そっかー。じゃ、仕事しまーす」
洋太郎は煙草に火をつけて、少しの間を開けてから煙を吐いた。阿呆のような泳ぎで紫煙が視界の端に流れていく。
「お前、ここ以外にやりたい事とかねーのか?」
「は? なに、いきなり」
「お前頭いいし手先も器用だから何でもできるだろ」
「できねーよ。前科者だから。それに俺風呂好きだし。兄貴ィ、地球外生命体が現れてからよ、みんな疲れ切った顔してんだぜ。生きるのに。……生きるのに疲れたみんなによぉ、剣崎温泉で疲れ癒やしてもらいてぇんだなぁ。んで、いつか笑顔になれりゃオッケオッケだろ」
弟は昔から変わらない。
洋太郎は煙草を咥えたまま「そうかよ」とこたえた。
その日、恵理子は来なかった。どうやらLAUGHの出現によりお真面目モードで仕事をしているらしく、結局、剣崎温泉に恵理子が来たのは三日後の平成十三年十一月二日の事だった。
「全身の垢を洗い落とすぞ〜」
「お疲れ様でーす」
「君等まったく基地の方に来んよなぁ」
「行くつもりねーっす」
「兄に同じく」
「言っとくけどねぇ、私が君たちスカウトしたのあながち全部ジョーダンって訳じゃないんだよ。君たちはもともとスカウトリストに入ってたのね。ISPOの調査網を舐めないでね」
「ネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロネロ」
「お、剣崎くん久しぶりにイカれてんねぇ!」
洋太郎が切り出す。
「俺たちがリスト入りって何故です?」
「剣崎洋太郎、君は南米にいた頃、森の中で百ヤード先にいた敵兵の眉間を撃ち抜いたらしいじゃないか」
「へー、しゅっげー」
「剣崎達彦、君は警察学校の頃に知能検査を受けた際にIQ四百と判断されたそうじゃないか」
「そんなこともありましたねぇ!」
「君たちは温泉の経営で収まっていい人材ではないんだよ」
ビシッと恵理子が二人に指をさす。
「まぁ、君たちがここから離れるつもりがないのは分かってるからもう誘わないけどね。でもガン無視はさすがにきちぃや」
「休憩室で脱ぎ始める女こそきちぃのでは?」
「マジそろそろ脱いでいい場所とそうでない場所覚えてくださいよ。なんで仕事終わり馬鹿になるんすか」
「なんでプライベートでまで良い子ちゃんでいなくちゃなんねーの? 君たち別に女の体に興奮しないだろ。兄貴くんは『アレ』だし、剣崎くんに至っては『コレ』だし」
「俺普通にノンケっす」
「じゃあ私で興奮できる?」
「ウンコの主にしか見えね〜っす」
「ほらぁ」
「ほらぁ……?」
からかい甲斐が無いと嘆きながら更衣室に引っ込んでいく恵理子を見送りながら、「そういえば話しておきたいことあるんだった」と思い出した。三日も来ないのですっかり頭パッパラパーになって忘れてしまっていたが、夢のことや石のことを恵理子に話し付けておこうと考えていたのを今になってようやく思い出した。
「兄貴、俺これから地球外生命体騒ぎの度にしょっちゅう店抜けるかもしんねーから最初に謝っとくわ。ごめんね」
「あ? 入んの? ISPO」
「入んねーよ。俺ここ好きだし。でもさすがにね。あの人に言っていいよって公的な許可もらったら兄貴にも話すわ。ワリ」
「オッケオッケ」