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第14章:真実の告白

 翌朝、エミリーは三人を古代遺跡の装置の前に集めた。一夜考え抜いた結果、彼女は重要な決断を下していた。


「皆さん、私の決断をお聞きください」


 エミリーは深呼吸して口を開いた。


「私は、この時代に留まることにします」


 リシャールの顔が明るくなった。


「本当ですか! しかし、元の世界への憧れは……」


「確かにあります」


 エミリーは正直に答えた。


「現代世界には、この時代にはない多くの利便性と自由があります。しかし、私はここで本当に大切なものを見つけました」


 彼女は三人を見回した。


「友情、信頼、そして真の使命感です。これらは、どの時代にあっても変わらない価値があります」


 マルクスが感動した表情を見せた。


「あなたのような方と共に働けることは、我々の光栄です」


「ただし」


 エミリーは条件を付けた。


「私には、皆さんに打ち明けなければならない真実があります」


 三人は興味深そうに耳を傾けた。


「実は、私は……元は女性だったのです」


 一瞬、沈黙が遺跡を支配した。


「女性?」


 ロベルトゥスが困惑した。


「しかし、あなたは明らかに男性の身体を……」


「転生の際に、性別が変わったのです」


 エミリーは詳しく説明した。


「元の世界では、エミリー・ハートウェルという名前の女性の研究者でした。しかし、この時代に送られる際に、エミリウス・ハンリクスという男性の身体を与えられました」


 リシャールは驚いたが、すぐに理解を示した。


「それで時々、女性的な仕草や考え方をされることがあったのですね」


「はい。最初は戸惑いましたが、今では両方の性別の視点を理解できることを、貴重な経験だと考えています」


 マルクスが興味深そうに質問した。


「では、あなたの心は女性のままなのですか?」


「それが複雑なところです」


 エミリーは苦笑した。


「最初は完全に女性の心でした。しかし、男性として生活するうちに、性別というものが思っていたより流動的なものだと理解しました」


 彼女は自分の体験を整理しながら続けた。


「重要なのは、男性か女性かということではなく、一人の人間として何を成し遂げるかということです」


 ロベルトゥスは神学的な観点から考えていた。


「神がそのような体験を与えられたのには、深い意味があるのでしょう」


「そう思います」


 エミリーは頷いた。


「この体験により、私は男性と女性の両方の立場を理解できるようになりました。これは、将来の活動において大きな助けになるでしょう」


 しかし、より重要な告白が残っていた。


「そして、もう一つの真実は……私は、この身体の元の持ち主の魂と融合しているということです」


 三人は驚いた。


「融合?」


「はい。転生の過程で、エミリー・ハートウェルの魂と、エミリウス・ハンリクスの魂が一体となったのです」


 エミリーは古代遺跡の装置を指差した。


「この装置の記録を調べた結果、そのことが分かりました。つまり、私は完全に別人になったわけではなく、二つの魂が合体した新しい存在なのです」


 それは、エミリーが感じていた複雑なアイデンティティの説明になっていた。現代の知識と中世の感性、女性的な直感と男性的な論理、研究者の客観性と修道士の信仰心——これらが全て、一つの人格の中に共存していたのだ。


「だからこそ、私はこの時代に適応することができたのです」


 エミリーは自分の体験を振り返った。


「エミリウスの魂が、この時代の生活方法や感覚を教えてくれました。そして、エミリーの魂が、現代の知識と技術をもたらしました」


 リシャールが温かい笑顔を見せた。


「それなら、あなたは本当にエミリウス殿でもあるのですね。私たちの友人として」


「ありがとう、リシャール」


 エミリーは深く感動した。


「君の理解と友情は、私にとって何よりも貴重です」


 マルクスが実用的な質問をした。


「では、今後はどのような名前で呼べばよろしいのでしょうか?」


「エミリウスで構いません」


 エミリーは決断した。


「この時代では、男性として生きる方が活動しやすいでしょう。そして、エミリウス・ハンリクスとしての人生も、私の一部なのですから」


 ロベルトゥスが神学的な観点から意見を述べた。


「神は時として、我々の理解を超えた方法で奇跡を行われます。あなたの存在も、そのような神の御業の一つなのでしょう」


 真実を打ち明けたことで、エミリーは心が軽くなった。もう隠し事はなかった。


「それでは、我々の新しい活動について話し合いましょう」


 エミリーは前向きに提案した。


「『永遠の叡智の守護者』の改革、知識の普及、そして社会の改善——やるべきことは山積みです」


 マルクスが組織改革の具体案を説明した。


「まず、全ヨーロッパの支部に改革方針を伝達します。知識の独占をやめ、研究成果を大学や修道院と共有するシステムを構築します」


「それは素晴らしい計画です」


 ロベルトゥスが賛同した。


「教皇庁としても、そのような活動を支援いたします」


 リシャールも意欲的だった。


「僕も手伝います。クリュニー修道院を拠点として、新しい教育制度を作りましょう」


 エミリーは友人たちの熱意に励まされた。


「では、具体的な計画を立てましょう」


 彼女は現代の知識を活用して、教育制度の改革案を提示した。


「まず、識字率の向上です。一般民衆も読み書きができるようになれば、知識の普及が格段に進みます」


「しかし、それは既存の権力構造を脅かすことになりませんか?」


 マルクスが心配した。


「確かにリスクはあります」


 エミリーは認めた。


「しかし、長期的には社会全体の発展につながります。重要なのは、段階的に進めることです」


 次に、医療知識の普及について話し合った。


「消毒や衛生管理の概念を広めれば、多くの命を救うことができます」


 エミリーは実践的な提案をした。


「また、薬草学の研究を進めて、より効果的な治療法を開発することも可能です」


 ロベルトゥスが政治的な側面を指摘した。


「これらの改革を進めるには、各国の王や貴族の理解を得る必要があります」


「そのために、具体的な成果を示すことが重要です」


 エミリーは戦略的に考えた。


「まず小規模な実験から始めて、効果を実証してから拡大していきます」


 議論は深夜まで続いた。四人は、人類の未来をより良いものにするための壮大な計画を練り上げていった。


 しかし、エミリーには一つの不安があった。


 自分の行動が歴史に与える影響は、果たして良いものなのだろうか。未来を知る者として、歴史の流れを変えることに責任を感じていた。


 ただし、古代遺跡の記録によると、『守護者』の役割は歴史を変えることではなく、正しい方向に導くことだった。そして、その判断は『守護者』自身に委ねられていた。


 エミリーは、自分の良心と知識に従って行動することを決意した。


 完璧な未来を作ることはできないかもしれないが、少しでも良い方向に導くことはできるはずだった。



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