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過去の断片

部屋中のロウソクが、一斉に消えた。


闇が二人を包み込んだ瞬間、千尋はツクモの手を強く握った。


「……ツクモ、大丈夫か?」


「ええ、でも……何かが、来るわ。」


ツクモの声は静かだったが、張り詰めた空気が二人を囲んでいた。


すると、暗闇の中で微かに青白い光が揺らめいた。


次の瞬間——


過去の断片が再び、目の前に映し出された。


温かな陽光が降り注ぐ家の中、マリアは幼い息子を胸に抱いていた。彼女の顔には安らぎがあり、子供を慈しむ母の笑顔があった。しかし——


その幸せは、突然崩れ去る。


扉の向こうで囁かれる声。


「マリアには言えないな……」


「ええ、あなたと私だけの秘密よ。」


戸口の隙間から覗いた光景に、マリアの体は凍りついた。


夫が、別の女と密かに抱き合っている。


足元が揺らぎ、息が詰まる。心臓が張り裂けそうだった。


「嘘よ……そんなはずない……」


だが、現実は容赦なく彼女を突き落とす。夫の優しい言葉も、温もりも、すべてが嘘だったのか——。


そしてその夜、マリアの家から幼子の泣き声が響いた。


「お願い、泣かないで……」


マリアの手は震えていた。腕の中で息子が泣き叫ぶ。


「どうして? なぜ私だけがこんな……」


彼女の目から涙がこぼれ、愛しげに抱いていたはずの手が次第に力を込めていく——。


——そして、翌朝。


村人たちは息を呑んだ。


マリアの家の中、幼い息子が冷たく横たわっていた。


「神よ……」


「なんということだ……!」


村人たちの目が、一斉にマリアへと向けられる。


「マリア……お前がやったのか?」


「違う……私じゃない……」


彼女は必死に首を振った。


「お願い、信じて……! 私は……!」


だが、誰も彼女の言葉に耳を貸そうとはしなかった。


「子供を殺した母親……」


「神に背く行為だ……!」


怒りに満ちた視線が彼女を貫く。


——そして、彼女の運命は決まった。


呪いの始まり


夜の村。


松明の炎が揺れ、怒声が響く。


「許すわけにはいかん!」


「お前が子供を殺したんだ!」


マリアは必死に逃げた。恐怖に駆られ、裸足のまま村の外れへと走る。


「違う! 私じゃない!」


「嘘をつくな!」


次々と飛び交う罵声。背後に迫る村人たちの影。


「お願い……お願い……」


涙を流しながら、彼女は最後の望みをかけて、村の片隅に立つ一人の女性に目を向けた。


「エレナ……助けて……」


エレナ。唯一の親友だった女性。


だが——


「……」


彼女は何も言わなかった。ただ、静かに見つめるだけ。


「エレナ……?」


その時、マリアは見た。


エレナの唇が、わずかに微笑んだのを。


そして次の瞬間——


ドンッ!


背後から突き飛ばされる。


川へと、落ちていく。


「やめて!!」


エレナの叫びが響く。しかし、それはもう届かない。


冷たい水が全身を包み込み、マリアの意識が闇へと溶けていった——。


代償の連鎖


それから数日前——


マリアは黒フードの男と出会っていた。


「夫を……殺す方法が知りたい?」


暗い声が囁く。


「……ええ。」


彼女の目には、狂気にも似た激情が宿っていた。


「……いいだろう。」


黒フードの男はマリアに呪文を授けた。それは血を代償にする恐ろしい呪術。


そして、マリアは実行した。


翌朝、マリアの息子は亡くなった。


「どうして……!?」


マリアは泣き崩れた。彼女の願いは夫の死だった。しかし、呪文は別の命を奪った。


その後、マリアもまた川へと沈んだ。


だが、呪いは終わらなかった。


——エレナ。


彼女もまた、黒フードの男と出会った。


「マリアを……殺したい。」


静かに告げる。


黒フードの男は冷たく微笑み、彼女に呪文を授けた。


エレナが呪文を使うと、マリアは死んだ。


そして、その代償として——


エレナの息子が命を落とした。


「……そんな……」


狂気に駆られたエレナは、息子を蘇らせようとするが、彼女が呼び出したのはマリアの亡霊だった。


そしてエレナもまた、川へと消えた——。


幻影が消え、千尋とツクモは現実へと引き戻された。


静寂の中、霧が立ち込める川辺。


千尋は息を呑みながら呟く。


「つまり……"もう一人の泣き女"は……」


「エレナよ。」


ツクモの声が静かに響いた。


「そして彼女は、まだこの村のどこかで泣いているのよ。」


千尋の背筋に寒気が走る。


「……呪文は、失敗すれば代償を払う。でも……」


ツクモが続ける。


「成功しても、代償を払わなくてはいけないのよ。」


千尋は無言で唇を噛んだ。


「黒フードの男……やつは一体何者なんだ……?」

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