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始まりの季節  作者: 空猫
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第一章4  四季と北斗


 四季は廊下を猛ダッシュして難とか教室に辿り着いた。教室の賑やかさからすると、先生はまだ来ていないようだ。ホッとしながら、引き戸を開けて中に入る。幸い、四季の席はこの前の席替えで教室の後ろの扉から一番近い席になった。最悪遅刻しても何事も無かったかのように座れる――かもしれない。

 だが、四季はそんな事は気にしない。


「おはよう! 北斗!」


 目の前の席に座る親友の北斗に元気良く大声で話しかけた。

 北斗は振り向いて四季の席に肘を付き、ちょっとふてくされながら挨拶を返す。


「おはよう、四季。今日ちょっと遅くないか?」


 教卓の上の方にかけてある時計を確認する。いつもならもうとっくに着いている時間だ。

 北斗は今日、四季に聞きたい事があった。だから、四季が来るのを今か今かと待っていたのだが、中々来ず。やっと来たと思ったら、どうやら北斗の話を聞いてくれるというよりは、四季の話を聞いて欲しいという雰囲気をぷんぷんさせていた。


「へへっ、ちょっとね」

「何だよ? 嬉しそうだな」


 だから、ちゃんと聞いてあげた。

 北斗の言う通り、四季が嬉しそうな顔をしつつ、つられて北斗も何故だか笑ってしまう。


「新しい友達が出来たんだ!」

「またかよ」


 四季は誰とでも仲良くなれる性格で友達が多い。それが更新される頻度も。それはもう、北斗が感心を通り越して呆れる頻度にまで達していた。


「そう! 学校に来る途中で出会ったんだ!」

「へぇ、良かったじゃん」


 北斗も話半分で聞いている。だが、四季はそんな事は気にしない。


「うん! 名前なら北斗も聞いた事あると思う!」


 そう言われると気になる。


「俺が知っている奴なのか?」

「知ってるかどうかは分からないけど……」

「何だよ」


 北斗は拍子抜けした。

 四季としては、風の噂で名前だけは知っていたが、北斗も知っているかは分からない――だが、四季はそこまで気にしない。堂々と言い放った。


「北瀬真冬ちゃんだよ!」

「……冬……?」


 その名前を聞いた瞬間、北斗の表情が変わった――気がした。


「知ってるの?」

「――誰?」

「えぇー……」


 北斗は全く知らない様だ。

 だったら、さっきの表情は――? と、四季は思ったりしない。


「ま、いっか! 文芸部に誘ったから、その内来ると思うよ!」

「……そうか。だったら、その時にちゃんと紹介してくれよ」

「もちろん! 北斗も一緒に友達になろう!」

「――ああ、そうだな」

「俺も友達になれるかな?」

「うわあぁっ!」

「あ、数也! おはよう!」


 北斗の背後から声を掛けてきたのは、加瀬数也(かせかずや)。四季と北斗のクラスメイト。

 軽くパーマがかかった髪型が印象的で甘いマスクをしており、手足がスラッと細長く、身長は百八十を超えるモデル体型の誰がどこからどう見てもイケメン。女子にモテまくる為、いかにも同性から妬まれそうだが、彼の場合は性格が変人と言えなくもないので、妬まれるというよりは引かれている。所謂残念イケメン。そんな変人でも顔が良ければモテるのだから、世の女子達はイケメンに甘すぎる。現に数也には彼女がいたりする。


「おはよう、四季君――北斗君」


 何故か北斗には意味深な視線を向ける。


「うん!」

「あ、ああ。急に出てくんなよな……」


 北斗は、この数也が少し――いや、かなり苦手。


「二人とも久し振りだねー! 俺二人にずっと会いたかったんだよ!」

「俺も早く二人に会いたかったよ」


 四季と数也が一ヵ月半ぶりの再会に花を咲かせている傍らで、北斗は一人呆れながら溜息を吐いた。


「夏休み中も会ってただろ」

「でも、学校では会って無かったじゃん!」

「それはそうだけど……どこで会おうと一緒だろ」


 四季に言われるが、北斗にはピンとこないよう。その隣から今度は数也がズイッと顔を出してきた。


「そんな事無いよ、北斗君!」

「お前は距離感がバグってんだよ」


 数也の顔をグイッと押し戻しながら距離を取る。


「この慣れ親しんだ学校で会う! これこそ、学生の醍醐味の一つじゃないか!」

「いい事言うね、数也!」


 数也が拳を振り上げて演説すると、四季はその姿に拍手を送った。


「うるせー。早く先生来ねーかなー」


 北斗がそんな二人を冷ややかな目で見つめていると、北斗の願いが届いたかのように担任の先生が入って来てクラスの生徒全員に声をかける。これから始業式に参加する為、体育館に集まるように促された。

 四季は急いでカバンの中の教科書や宿題を机の中に突っ込んでから、他の生徒達が体育館へ向かう背中を追いかける。

 廊下で北斗と数也が待ってくれていたので、三人で一緒に行く事に。並びは向かって左から数也、四季、北斗。


「北斗君は俺に冷たいよね……」


 北斗は絶対に数也の隣に立たない。三人でいる時は必ず四季が真ん中になる。


「まぁな」

「せめて俺の方向いて言ってくれる?」


 落ち込む数也の背中を四季がポンポンと優しく叩く。

 北斗が数也に苦手意識を感じている理由は――変人だから。

 特に四季と北斗に関してはその変人の度が過ぎると言える。


「マジで関わって欲しくねーんだわ」

「ひどいなぁ」


 北斗の言葉にいい加減泣きそうになってくる数也。


「でもさ、数也は何でそんなに俺達に話しかけてくれるの? 俺は全然嬉しいけど」


「俺は全く嬉しくない」と北斗がぼやく。

 確かに数也は異常なまでに二人に関わってくる。それを四季は不思議に思っていた。


「四季君……」


 常に優しい四季に感動し、さっきとは別の意味で泣きそうになるのを堪えながら、ドヤ顔をかます。


「強いて言うなら、二人は俺の研究対象――かな」

「「研究対象?」」


 ちょっと不穏に聞こえなくも無い。

 四季はキョトンとしながら、北斗は怪訝な顔。


「そう! だって二人は奇跡だからね!」


 BAN☆


「「奇跡?」」


 四季は『BAN☆』を真似しながら人差し指を数也に向け、北斗はそれを「止めとけ」と言わんばかりに掌で払った。


「だって!」


 数也のテンションが爆上がりする。


「二人は双子でも無いのに、同じ見た目でプロフィールも一緒で、違うのは性格くらい――こんなの奇跡と言わずして何というの!?」

「「あー」」


 身振り手振りを交えながら興奮して話す数也に、二人は「それかー」と遠い目で相槌を打った。


――そう、四季と北斗の見た目は()()()


 四季と北斗が出会ったのは半年程前――。

 二年生になり、教室へ着くと、四季は見た目が自分とそっくりの北斗を見付けた。

「俺がいる!」と四季はハイテンション。「うわぁっ!? 何だよ、お前!?」と北斗はドン引きしていた。

 しかも、同じなのは外見だけではない。

 四季のプロフィールは以下。年齢十六歳(数えで十七歳)。誕生日、一月一日。血液型、AB型。身長、百七十三センチ。体重、六十キロ。足の大きさ、二十六センチ。

 北斗のプロフィールは以下。年齢十六歳(数えで十七歳)。誕生日、一月一日。血液型、AB型。身長、百七十三センチ。体重、六十キロ。足の大きさ、二十六センチ。

 その他ありとあらゆるプロフィールが一致。

 頭髪も同じ色で同じ髪型で同じ長さ――今は北斗がセットして髪型は変えているが――数也調べ。

 瞳の色も同じ色で形も同じツリ目な上に大きさも一緒――数也調べ。

 鼻の大きさと高さも一緒――数也調べ。

 口元の厚みや形も一緒――数也調べ。

 ほくろの位置まで一緒ときている――もちろん、数也調べ。

 見た目に関しては、違いを見付ける事は困難――と数也が結論付けた。

 という訳で数也は本当に二人を研究し続けている。これが、北斗から嫌われる要因の一つ。


――瓜二つというより生き写しの二人の出会いは、数也の言う通り『奇跡』と言えるだろう。


 唯、性格に関しては真逆。

 例えば、クラスメイトへの対応。二人の存在はその見た目から異質に思われ、距離を置く生徒も多いが、四季は気にしない。怖いもの知らずで人間が好きな四季は、相手が自分をどう思っていようと関係無い。話しかけたい相手がいれば話しかける。相手の警戒心を解く天才。誰とでも仲良くなれる。だが、北斗の場合は、基本的に四季と数也以外は話さない――四季はオープンな性格だが、北斗は閉鎖的な性格をしている。

 初対面の時も、四季は北斗と仲良くなりたくて持ち前の性格で毎日の様に話しかけていたが、北斗は逆に関わりたく無くて、そんな四季を避けまくっていた。

 だが、毎日しつこく話しかけてくる四季に根負け。今では大親友である。


「さっきからずっとハモってるね! 双子みたいだね! 双子じゃないけど!」

「確かに!」

「止めろ。四季も乗るな」


 盛り上がる二人が気に入らない北斗。溜息を吐きながら前方を向くと、体育館へ向かう他のクラスメイトが目に入る――そんな大勢の中に一人の女生徒を見付けた。お下げに眼鏡姿の冴えない少女――千秋だ。


――北斗が千秋と仲良くなれたもう一つの理由は、見た目が四季そっくりだから。


 隣で、数也と談笑する四季にそっと目を向ける。

 北斗が四季に聞きたかった事は――千秋の事だった。

 四季は千秋をどう思っているのかはっきり知っておきたいと思ったのだ。唯の幼馴染みなのか、それとも――。

 なのに、こんな時に限って数也に捉まるとは――いや、もちろん予想はしていたが。

 北斗のもやもやは消えないままだったが、始業式は呆気無く終わった。






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