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荒れ狂う生命

 「さてと、面倒くさいからさっさと片付けてしまおう。」



 そう言ってアヴァロンはステラの降星の何倍もの大きさの変わった形の銃を取り出した。これがエレグラの言っていたレールガンというものだろうか。アヴァロンはレールガンを構えるとエネルギーを充填し始めた。



 「…まずい!みんな避けろ!」



 エレグラが叫ぶとともに皆が一斉に四方八方に散った瞬間、さっきまでいたところにとてつもない速さで何かが通っていった。その行き先を見ると、先ほどまで確かにあったはずの木々が跡形もなく消え去っている。



 「…何、この威力…」


 「超軽量型極超音速レールガン…捕食者社会でもまだ公には流通していない最新技術だ…どうしてこいつがこんなものを…」


 「避けられたか…やはりこの武器は隙が大きい。だが、それならば相手の行動を読み切ってしまえばいいだけのことだ。」



 アヴァロンは再びエネルギーを充填し始めた。私たちも再びかわそうと試みたが、今回は避ける方向を読まれていたらしく、死者こそ出なかったものの、グルーレとタルマの二人がけがを負った。



「グルーレ!タルマ!…大丈夫か!?」



ラッカルが焦った表情で二人に駆け寄る。



 「…ラッカル…私たちは大丈夫。でももう動けそうにないわ。悪いけど後は頼んでいいかしら。」


 「ああ、任せろ。仮にも俺は今回の遠征隊の隊長だ。お前らを守る義務がある!」



 そう言ってラッカルは剣を片手にアヴァロンへとびかかった。風になびく彼のバンダナは英雄を彷彿とさせる。駆け出し勇者感は否めないが。



 「動ける奴は立ち上がれ!相手がだれであろうと諦めるな!もう二度と、負けることは許されないんだ!俺たちの故郷は不滅だぁー!」



 ラッカルは繊維を失いつつある私たちに向けて檄を飛ばした。すると、それに触発されてか、他のコノマ集落の村民たちが、各々武器を携えて集まってきた。その姿を見て諦めかけていた私たちも再び武器を握り直す。



 「…俺たちもやるぞ、みんな。」


 「うん。この集落をこんな危険な奴の好きにさせるわけにはいかないもん。」


 「お前ら…なんでこの集落のためにそこまで命はって…」



 グージュが不思議そうな顔でこちらを見つめてくる。



 「仲間のピンチは助けるのが当たり前でしょ?昨日の敵は今日の友って言うしね。」


 「…ステラ…みんな、ありがとう。じゃあ、最後まで付き合ってもらうぜ!」



 私たちは一斉にアヴァロンに斬りかかった。この数には彼のレールガンでは対処が難しいはずだ。アヴァロンは大剣を手に取ろうとしたが案の定対応が間に合わず、次々に人々の斬撃を浴びていった。あまりの攻撃量に再生も間に合っていない。



 「…今度こそ!」


 「これで終わりだ!アヴァロン!」



 四肢はバラバラになり、言葉を発することすら無くなってきたアヴァロンに全員でとどめを刺そうとしたとき、今まで精気の宿っていなかったアヴァロンの顔に、不気味な笑みが浮かんだ。



 (…!こいつ、まだ…!まずい!)



 そう思った時には遅かった。アヴァロンの傷口という傷口から血のように赤い光が辺りを包み込み人々を吹き飛ばしたかと思うと、本体が急速に再生し始めた。



 「こいつ、まだこんな力がありやがったのかよ!」


 「…やはりこの体は都合がいい。元々高かった生命力をさらに引き上げてくれる。…見直したよ、君たちは『試練』を受けるにふさわしい人間のようだ。」



 アヴァロンはズボンのポケットから一本の注射器を取り出した。恐らく虎の血であろう。仮にも彼の体は捕食者らしい。



 「まずい、使われる…!早く止めろ!」



 だがもう遅い。私たちが動く隙も無く注射針は彼の血管を貫いた。



 「ふははははは!さぁ、来い!試練の開始だ!」


 (…使われてしまった…この状況、本当にまずい。でも、なんだろう、この違和感…あ、そっか、あいつ…姿が変わってないんだ。どういうこと…?これで終わりなはずがない。何か仕掛けがある…)


 人々は次々にアヴァロンに襲い掛かっていく。しかし、アヴァロンは特に何かする素振りもなくただひたすらに攻撃を受け続けた。



 「こいつ、何か偉そうなことを言っていた割に何も対応できてないじゃないか。」


 「今度は再生される前に押し切るわよ!」



 四肢がバラバラになり、腹もえぐれ肉片が飛び散り始めた時、アヴァロンは再び不気味な笑みを浮かべた。次の瞬間、飛び散った肉片は気味悪くうごめき始め、急速に巨大化し人の姿を形作っていった。こうして周囲はあっという間に大量のアヴァロンで溢れかえった。



 「…!これが、アヴァロンの血の能力…アヴァロンがたくさんいます…これ何人いるんでしょう・・・」


 「知らん!ナコ、とにかく今はノラネコを暴れさせろ。一秒でも多くこいつらを足止めするんだ。一分耐えればひとまず何とかなる。」


 「わかりました。…ノラネコちゃん、お願い!」



 エレグラはナコちゃんに指示を出した後、一人本体の方へと走り出した。立ちふさがる敵を切り伏せながら、雷光のごとく突き進んでいく。



 (…よし、分裂体からはさらに分裂することはないみたいだ。なら今やることはやはり…)


 「…アヴァロン!」



 エレグラは高く飛び上がると、すぐさまオーバードライブトリガーに手を掛ける。



 「神爪刀(シンソウサーベル)限界超過(オーバーリミット)・Ⅱ・雷爪(ライトニングネイル)!」



 三本に展開した神爪刀はまるで雷獣の爪のような凄まじい稲光と共に天からアヴァロンに降りかかり三等分に切り伏せた。洞窟でステラを助けるときにも使った技だが、やはり捕食者であるエレグラが使うと迫力が違う。エレグラはこの攻撃を起点にすでにぼろぼろの本体へ猛追撃を始めた。血の効果で再生速度の上がっているアヴァロンの体を再生する前に細かく砕いていく。そしてついに、一分が経過した。



 「…もう一分経っただろう…これで…」



 エレグラが安心したのもつかの間、私たちは衝撃の事実を知ることになる。



 「エレグラ!大変、こいつら一分経っても消えないよ!?」


 「なんだと!?」



 なんと、アヴァロンが血を摂取してから一分が経過したというのにもかかわらず、アヴァロンの分裂体は一向に消えないのだ。



 「…フフフ…甘く見たな、ガキが…分裂体を増やすことは血の能力だが、こいつらが生存するのに虎の血はいらない。多少身体能力は低下するがな。一度召喚してしまえば死ぬまで絶対に消えることはないんだよ。」


 「そんな…依然不利な状況は変わってないということか。」


 「そうさ。でも君たちはもっと不利な状況を味わうことになる。気付いていたか、俺の分裂体の中には九人ほど手練れが紛れている。この九人は俺と同等の力と再生能力を持っていることに加え、俺の生命の分身だ。つまり、俺を殺したとしても俺を含める十人を殺さない限り俺は死なないんだよ。」


 「…これってもう、普通の戦いとして見たらだめだよね。」


 「ああ。ナミカ、あいつ、呼べないのか?」


 「ブーラーのこと?…わからない…さっきも呼ぼうとしたけど、制約がどうたらこうたらで断られた。」


 「もう一回頼む。」


 「まぁ、いいけど…」



 私はダメもとでもう一度ブーラーに頼んでみることにした。



 (…ブーラー、聞こえる?)


 (何?さっきも言ったけど、世界の均衡に影響が出ない限り私は動けないんだけど。)


 (やっぱりそうだよね…でも、このままいけばあいつ、ここら一帯の環境をぶち壊してもおかしくないよ?)


 (さすがにそれはないでしょ。だってあいつの能力って、自己再生だけでしょ?虎の血だってもう使ったわけだし。)


 (あいつが虎の血を一本しか持ってないとは限らないよ。普通の捕食者なら一本使ってしまえば体力が尽きてもう一本は使えないんだろうけど、あいつの再生能力ならわからない。それに、もしも分裂体が同じように血の効果を使うことが出来るんだったら?)


 (…!そんなわけ…まぁ、あり得ない話ではないか…)



 ブーラーはしばらく考え込んでいたようだったが、しばらく経ってから大きなため息のようなものが聞こえてきたような気がした。



 (…わかったわ。そんなことをされたら、ここら一帯はあいつに侵食されてしまうかもしれない。均衡が崩壊するのを事前に防ぐのも私の使命。少しだけ力を貸してあげる。)



 次の瞬間、私の体は赤く激しく発光した。光が止み視界が開けると、そこには『私』が雷玉を手に持ち宙に浮いていた。

  

                              


ここまで読んでくださりありがとうございます。少しでも面白いと感じていただけたなら幸いです!

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