お見合い相手
様子を伺うと、店員に怒鳴り散らす男がいた。
いったい何があったのかな。
「こんなゴミみたいな花しかないのか……!」
アザレアを地面に捨て、踏みつける男。酷い……。
「お客様、商品をそのようにされると困ります!」
「黙れ、店員。こんな低クオリティの花ではプリムラは満足しないんだ」
え……なんで、わたしの名前が?
それとも人違い?
困惑していると、男がこちらに気づいた。
「おぉ、プリムラ! プリムラじゃないか!」
「えっ」
急接近してくる男は、わたしの手を握り親し気に話しかけてきた。……誰なの?
「なんだ、覚えていないのかい。俺だよ俺。アーチボルド・ステュアートさ」
「ス、ステュアート様……!?」
彼の変わりように、わたしは驚くしかなかった。
アーチボルド・ステュアート。
ヤブラン伯爵の名で知られ、この辺りでは有名な人物。お父様が紹介しようとしたお見合い相手でもあった。
ステュアートとは、一年前から関りがあった。
でも、当時の彼は痩せこけてひ弱なイメージしかなかった。
そんな貧弱を払拭するかのように、今の彼は筋肉質で鍛え上げられていた。自信に満ち、性格もまるで違う。
「今日、君を迎えに行くところだったんだよ」
「わたしをですか?」
「そうとも。お見合いをする予定だったが、破談になった。だがな、俺は諦めない。君を手に入れるまではね」
「も、申し訳ありませんが……わたしにはもう婚約者が」
「婚約者? なら、余計に燃える。そうか、その隣の男が相手か。いいだろう、そこの男……プリムラを奪ってやるから覚悟しろ」
豪商貴族相手に凄い自信。
スチュアートってば、絶対気づいていない。
肝心のイベリスは興味がないのか冷めているし。
「……誰だい、君は」
「おいおい、アーチボルド・ステュアートを知らんのかね。伯爵だよ?」
「知らん」
「……ッ!」
ガクっとうなだれるスチュアート。
「プリムラは、僕の婚約者だ。伯爵だかなんだか知らんが、邪魔をしないでくれ」
「おっと、邪魔をさせてもらう! プリムラは俺とお見合いをする予定だったんだからな」
「……しつこいな。それに、花は大事にしろ。こんなに踏みつけて……可哀想に」
「ははっ! 花が可哀想? 馬鹿じゃねーの」
スチュアート……以前はこんな性格ではなかったのに。どうして……。