宝石店から始まる小さな恋
朝食を済ませ、ゆっくりしているとイベリスが片付けを終えて一息ついていた。
「少し休憩した後、お店の開店作業を進めたいと思う」
「お店を開くのですね」
「ああ、金には困っていないが、商売は僕の生きがいだからね。それに働いている方が生きているって実感が得られる」
イベリスは真面目なんだ。
そんな素振り、前はまったく見せなかったのに。
でもいい。
今はようやく素の自分を曝け出してくれているから。
だから、わたしも少しずつ素直になっていこうかなって。
「では、わたしもお手伝いします」
「本当かい。珍しいね」
「今は支え合っている方がなにかと好都合なのです」
「そうだな。周囲から見て仲が良いと思わせないと」
またアンナのような面倒な人が現れないとも限らない。お父様も完全に許したわけではない。なんとしてでも、イベリスと生活を続けなければ。
お店は当面の間は『宝石店』を営むようだった。
気長にやれるし、なんといっても利益も大きいという。魔法の触媒に使う人も多いから需要も高い。きっと上手くいくとイベリスは自信に満ちていた。
きっと彼なら大丈夫。
豪商貴族なのだから。
わたしは宝石を並べたり、内装を変えてみたりなど自分なりに配置を考えてみた。
「どうでしょうか?」
「うん、いいと思う。君はやっぱりセンスがあるな」
急に褒められてわたしは胸が高鳴った。
「そ、そうですか……それは良かったです」
「どうしたんだい、プリムラ。顔が赤いけど」
「なんでもありません。それよりもお花が足りませんね。わたしが買いに行きましょうか」
「なら一緒に行動しよう。その方が周りへのアピールになる」
「なるほど。では、共に向かいましょう」
賛成だ、とイベリスは笑う。
……まったくもう。
さっきから、自然なのかわざとなのか分からない。
* * *
お店を出て花屋へ向かった。
普段、買い物なんて自分の足では行かない。だから場所なんて分からないし……正直、イベリスがついて来てくれて良かった……。
そもそも、お金だって持ち合わせていなかった。
もし彼が一緒に行動しようなんて言わなかったら、わたしは一度自分の屋敷へ帰る必要があったのだ。だから、呼び止めてくれてホッとした。
「さっきからどうしたんだい、プリムラ」
「いえ、その……」
安心していたなんて言えない。
そんなことを打ち明けたら、きっと笑われる。
「まあいい。それより――ん?」
イベリスが足を止めた。
花屋の方でなにかトラブルが発生しているようだった。なにが起きているの……?