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 でも、美香子は不服だ。それはその人に対しても失礼だと思うのだ。世間にも、その境遇にも。

 姫様が受領の妻になるなどと、裏では女房たちがぶつぶつ言っていたが、そういう選択もあり得るだろうと思っていた美香子は、気に入らなかった。

 それも、もう、かつていた、になってしまった。

 文句も言う者がいればこそ、文句が聞けるものだ。我が家も寂しくなったと、美香子は思った。

(でも、この方の文は、とても見た目が綺麗で、香りが良く、心よい気がする)

 美香子は、薄い紫色のうすものに巻かれた紙を広げる。文と聞くとどきどきする。遠い親戚の人に書いた文とは違う。金子を用立てるように書いた、土地取引商売人への文とも違う。明らかに、文面がやわらかい。

 微かに香るのは、爽やかな香りだ。

 白い和の紙は、どことなく気障な感じもする。書かれた文を見ると、墨で書かれた文字がびっしり並んでいる。濃い墨で書かれたもので、なめらかに文字の端が伸び、太いところは太く、均整に並んでいて上手い。心良い書き方だ。

(私の窮状をどこかで耳にしたらしいけど)

 どうして美香子などを欲しいと思ったのだろう?血筋だけ?それとも、何かしらの評判を聞いたのだろうか?

「姫様、お返事はどういたしますか?」

 文の返事をまだしてないから早く出せと、松風が部屋の外から促してくる。

(とりあえず、米もないことだし・・・)

 私が嫁げば、松風の窮状も救ってやれると思いながら、美香子は文机に向かい、返事を書いた。

 天候のこと、時節のことなど、当たり障りのないことを書いた。

 相手も何のことのない、届け物が届いたのかとか、都のことはどうだとかそれぐらい。男らしい文字に、美香子が書く文は細くて丸みを帯びているのが、妙な感じがする。

 二行、三行の簡単なお返し。それだけというのに、この受領にする返事は、どきどきとする。

 美香子は自分がいつもより浮ついているのに気づく。もしかして、美香子はこの人を特別に思っているのだろうか。

 いや、でも、今の自分では、この人だけしかいないのは確かだ。他の貴族の色恋狂いの老人など嫌だし、一時の恋愛などを求めてくる遊び人も嫌だ。日々の食事に事欠かないのも、今は、この人が援助してくれているおかげだ。

(せめて礼はきちんと)

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