表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】二次元の推しが死んだので、後を追おうとしたら目の前に落ちてきた  作者: 当麻リコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/28

21.推しの笑顔は世界一

店を出て、フラフラとした足取りで駅に向かう。


遠目にノクトが見えて、自然と口許がほころんだ。

まだ距離は離れていたけどすぐに気付いた。

だってオーラが違う。


彼は駅周辺の通行人たちから注目を集めていて、それは私の欲目でも何でもなく事実だったらしい。

逆ナンしようとしてる女子が声をかけるも、軽くあしらわれているのが見えた。

しつこく食い下がらない辺り、次元の違う美に腰が引けているのだろうか。


やっぱりノクトは本当に存在しているんだな。

改めて思って、少し離れたところでしばし足を止めて見惚れる。


彼はつまらなそうな顔をしていて、端正な顔立ちが際立っていた。

そうしていると、流行に合わせた服を着ていてもノクトだけ別世界にいるように見えた。


――私みたいなつまらない人間が、彼の側にいていいのかな。


「あかり」


今更なことを考えていると、ノクトが私に気付いて超絶かわいい笑顔で片手を上げて近付いてくる。

キュンキュンしながら走り寄ると、ノクトの笑みが濃くなった。


「おかえり」

「た、ただいま……」


外で言われたことに、さらに胸が高鳴る。


帰る場所は家ではなく、ノクトなのだと思うと悶えたくなるほどの幸福を感じた。


さっきまでの焦燥じみた不安はあっさり吹き飛んでいった。

ノクトが笑ってくれるなら、私がなんであろうと関係ない。


「うわー! 本気ですげぇイケメン出た!」

「これは貢いでもしょうがない……」

「私も騙されたい……」


背後から聞きなれた声がして反射的に振り返る。


「うわぁ!」


振り返ると、さっきまで一緒に飲んでいたメンバーが勢ぞろいしていた。


「どうも初めましてあかりの同僚の清田です」

「先輩の木下です」

「所長の加藤です」


めいめいが勝手に自己紹介を初めてノクトの前に並ぶ。

みんな物凄くいい笑顔だ。


「カルナティオだ。あかりの家に住んでいる」

「日本語お上手ですね!」

「どちらのご出身ですか?」

「イタリア辺境の小さな町だ」


ノクトが戸惑いつつ、適当な嘘を混ぜてそつなく挨拶を返す。

さすがです魔王様。


「どうも、上司の篠宮です」


一拍遅れて篠宮が前に進み出る。


「篠宮……」


名前を聞いてノクトが小さく呟いた。

少し目つきが鋭くなったような気がした。


「この前電話でお話しましたよね」


篠宮はにこやかに言って、握手を求めるように右手を差し出した。


「……二人でじゃなかったんだな」


それに応じながら、ホッとしたような口調でノクトが言う。


「ああ、なるほど」


何かに気付いた表情になって、篠宮が愛嬌たっぷりに笑う。


「ご安心を。大切な人がいる女性を二人きりの場に誘ったりしません」


茶目っ気の滲むウインクを見せてノクトの手を放す。


「すまない。誤解があったようだ」

「いえいえ」


何故か詫びるノクトに、篠宮が余裕の表情で答えた。


「若宮。お前すごいな」

「え? 何がです?」


それから妙に感心したように言われて首を傾げるしかない。


すごいというなら篠宮だ。ノクト相手に少しも物怖じせず、むしろ少し強気な態度で。

飄々とした食えないおじさんだと思っていたけれど、その印象はさらに強まった。


駅前で解散した後は、飲み会帰りのサラリーマンたちでごった返す満員電車に押し込まれた。

いつもならうんざりするような圧迫感も、今はそんなのを気にしている余裕もない。


「夜の電車はえらく混むな」

「うん……」


すぐ真上で聞こえる低い声に身体を固くする。

電車の扉を背に、モデルのような体形を眼前に、私はまるで少女漫画のヒロインのような状態になっていた。


守るように密着している身体からはいい匂いがしている。

シャンプーもボディソープも、柔軟剤まで同じものを使っているというのに、この頭の芯が痺れるような匂いはなんなのだろう。


ノクトの身体つきは線が細く見えるくせにがっしりとしていて、駅に着くたび人が押し込まれていくのにも関わらず、私への影響はほとんどない。

おずおずと見上げてみると、超至近距離に涼しい顔があって思わず見惚れてしまう。


「ん? どうした?」


視線に気付いたノクトが、窓の外に向けていた視線を私に移して微笑んだ。


「はぁ……死ぬほどかっこいい……」


酔って思考能力の落ちた頭が、素直に心の声を漏らしてしまう。

ノクトは一瞬面食らった顔をしたあとで苦笑した。


「酔っ払いめ」


言って私の頬にそっと触れる。


「赤くなっているぞ」

「ふわぁ~最高……」


その場で膝から崩れ落ちそうになる。

ぎゅうぎゅう詰めの状態でなければ実際そうなっていただろう。

それくらいの破壊力だった。


朝からほのかに漂っていた不機嫌オーラはすっかり霧散していて、むしろ今のノクトはご機嫌だ。


電車を降りて、その日初めて手を繋いで歩いた。

完全に酔っ払いの介護という意味しかなかったけれど、私の心臓は爆発しそうなほどに高鳴っていた。


ノクトは夜道に溶け込むような艶やかな声で話し、それに頷くことしか出来ない自分が情けなかった。



先にシャワーを浴びさせてもらって部屋に戻ると、ノクトが自分の隣に座るように手招いた。


「さっぱりしたか」

「うん……なんか今日いろいろとごめんね」


酔いはもうすっかり醒めていて、本日の不甲斐なさを反省してノクトの前に正座する。


「謝られるようなことがあったか?」


首を傾げる仕草さえ可愛いしかっこいい。

こんな国宝級の人に自分の欲望ゆえに迎えに来させ、会社の人に絡まれ、その上満員電車で防御してもらってしまうなんて。


「なんか迷惑ばっかりかけてる気がする」

「何を言うかと思えば。俺がしたいからしてるだけだ」

「酔っ払いの介護を……?」

「はは。そうだな。楽しい」


納得いかなくて疑う視線を向けるも、ノクトはただ楽しそうに笑った。


「あかりも楽しかったようだな」

「うん、久しぶりに飲み会に出たからかも」

「仕事仲間たちとは随分と仲が良いようだ」

「そうだね。もう何年も一緒だし」


屈託なく言われて私も自然に笑みが浮かぶ。


だっていつも自主的に残業まみれだったし。

節約してたし。

飲み会でお金を使うくらいなら少しでも公式に課金していたかった。


だけど今日はノクトの素晴らしいところを、一からプレゼンすることが出来て本当に楽しかった。

時間が足りないのと、元の世界でのことを話せない分、語り足りないところはあったけれど。


「また行くといい。仲間は大事にしろよ」

「うん、ありがとう。次はちゃんと自分で帰るから」

「気にするなと言うのに。あかりの介護が趣味なんだ」

「あはは」


冗談めかした言葉に笑い声を上げると、ノクトが目を細めた。


「その笑顔が見られただけで充分だ」

「ぇうっ」

「よし、俺もシャワーを浴びてくる。先に寝ているといい」


唐突な殺し文句と、それに伴う極上の笑みを見せられて咽そうになる私に構わずノクトが立ち上がる。


今日のノクトはいつも以上に破壊力が高い気がする。

これ以上起きていると余計な妄想が始まってしまいそうなので、風呂場に消えていくノクトを見送ってからすごすごとベッドに潜り込んだ。


しばらく小さく聞こえるシャワー音から生まれる邪念と闘ったのち、睡魔が訪れる。

うとうとと船をこぎ始めていると、部屋にノクトの気配が戻ってきた。


「まったく……電気は消していいのに」


呆れる声と同時にぱちんと電気の消える音がする。

その優しさに満ちた声音に自然と口許が緩んだ。


「……おやすみ、のくと」

「ああ起こしてしまったか。すまん」


ベッドに入り込むノクトに薄く目を開けてあやふやな口調で言うと、ノクトが私の頭を撫でてくれた。

あまりの気持ち良さにうっとりと目を閉じる。

ノクトの手が止まって、もう終わりかと内心残念に思っていると、ふわりと身体を抱きしめられた。


「やはり抱き心地がいいな」


低い艶のある声が頭上に聞こえて、思わず目をぎゅっとかたく閉じる。

一気に意識が覚醒して、体温が急上昇していった。


抱きしめられて眠るのはインフルエンザの時以来だ。

もしかしたら二日酔いの可能性を残さないためにまた治癒魔法でも使ってくれているのだろうか。


酔っぱらっているせいにしておずおずと抱き返すと、拒絶もされず緩く腕に力が込められた。


「おやすみあかり」


穏やかな労りに満ちた声。

胸が締め付けられるように痛んだ。


ノクトが来てから幸せなことばかりだ。


だけど本当はずっと、ノクトのいた世界のことが気になっていた。


新しい世界でノクトは楽しそうに笑う。

新しいことを知るたび嬉しそうに笑う。


でも、時折遠い目をするのだ。

別の世界の誰かを想って、ほんの一瞬だけ憂いに満ちた顔をする。


それを私に見せないように笑顔で隠して、残してきた誰かの代わりに私の幸福に寄り添ってくれるのだ。


ノクトが夕飯を作って出迎えてくれる。

同じベッドで寝て、優しく抱きしめてくれる。


この幸せがいつまでも続くとは思っていない。

だけど今はまだ、無邪気に未来を信じていたかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 限界オタクの気持ち悪さと特有の軽妙な脳内反応が最高です。 [気になる点] どうしても名前から最終幻想15の人がチラつく…! 世の中の小説にはアルベルトとかクローディアとか大量に大量に溢れて…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ