第1話 出発
僕は、明るい君が好きだ。
「おはよう」
今日も君との一日が始まる。
「おはよう!」
いい匂いがする。特別強い香りではなく、日常を思い出させるいつもの香りだ。
「あやちゃん、何作ってるの?」
ジュージューといい音を奏でてあやちゃんはフライパンを握っていた。
「ベーコン焼いてるの!ちょうど冷蔵庫に入ってたからね。」
「おー、いいねぇ。他には?」
「お米が結構あったから今炊いてるよ!あと缶詰とかも。」
「なかなか充実してるね。良かった。」
今日も一日。僕達は、初めて座る食卓で、知らない人の家の食べ物を食べる。
僕達の家はもうない。だからこうして、他人の家を漁る。
どうせ誰もいない。
最初は大きかった罪悪感も、次第に薄れていった。
「いただきます」
「いただきます!」
「今日はどこに行く?」
「とりあえず二丁目はあらかた調べたし、三丁目に行ってみようか!」
「三丁目か...」
「あれ?嫌だった?それだったらもう少し二丁目にいよっか!」
「いや、嫌じゃないよ。三丁目に行こう。」
君が向かうと決めたんだ。僕はただついて行くだけ。
そう僕自身が決めたんだ。僕から全てを奪った、あの日からは。
「ごちそうさま」
「ごちそうさま!」
「ほんと、朝から元気だねぇあやちゃんは。」
「いやいや、ケンちゃんが元気無さすぎなだけだよ!ほら、男なんだからもっと元気だして!出る準備しよ!」
「はいはい」
出る準備。と言っても、持っていくものは食料といつものかばんだけだ。缶詰詰めるだけで終わる。
...缶詰詰めるってなかなか...いや、なんでもない。
まぁ言った通り準備がすぐに終わった。
「よし行こうか!」
そう言ってあやちゃんは手招きする。
いつも扉を開ける時は横並びにならんで、同じタイミングで踏み出す。あやちゃんが怖いって言うから。
いや、嘘だ。僕の方が怖い。
あやちゃんはすごい勇敢だ。それに比べて僕は臆病。
でもいいんだ。あやちゃんくらい勇敢じゃないなら、臆病すぎるくらいじゃないと、今を生きていけない。
いつ死ぬか分からない、この状況では。
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「逃げて!」
「ダメだよ!!一緒に行こう!!」
「私は大丈夫よ。後で必ず合流するから!」
「母さん!!」
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いやなことを思い出したな。今は涙を流している暇はない。
「ケンちゃん?」
「...なんでもないよ。行こう。」
今は君について行くと決めたんだ。今までもそうやって生きてきた。何も変わることは無い。今まで通りに、僕は臆病に生きるだけ。
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僕達は外に出た。景色は入る時とさして変わらない。
色あせたブロック塀。草におおわれた住宅街。
...もうこの二丁目に定住している人間はいない。
初めて連載作品を投稿していきます。一応週1回1話ずつ投稿します。
修正
現在はなし