第5話:ステータスを制するものは世界を制す
ここまで読んでくれた方ありがとうございます。
初めてのモンスター討伐は無事成功に終わり、スライムが倒せた事に一安心する。
パトさんのテンションもMAXといった感じで実に頼もしい。
それにしても蹴りかぁ……そうだよねぇ、あの位置だもんね。
そんな事を考えていると、パトさんが何か見つけたようだ。
「拓人、何か落ちてるけど……これ何?」
「ん?」
パトさんがスライムが破裂した辺りで何かを見つけたようだ。近くへ駆け寄り指す先を確認する。
「なんだろね」
そこには、野球の玉より一回り小さく、ビリヤードの玉ぐらいの透明な蒼い玉が落ちていた。これだけ消滅しないって事は、ドロップアイテムだろうか。手に取ると少しひんやりとする。
「触って大丈夫なの?」
「えっ」
俺は慌てて地面に戻し、掌を観察するが、とりあえず荒れたりはしていない。
パトさんがゲームをあまりプレイしたことが無いお陰で、逆に助かる事も出てきそうだ。
再度手にし「大丈夫っぽいね、多分これドロップじゃないかな」と玉を目の前で見ていると。
【スライムコア:★1】と表示された。
「お、パトさんこれ見てみて」とパトさんにスライムコアを渡す。
少し嫌そうな感じではあるものの、手に取ると「おぉ、ひんやりして気持ちいいね! しかも程よい弾力!」との感想の後――
「スライムコアって書いてある! あと★が1だって!」
「うん、スライムコアってドロップ品で、レアリティが1なのかな」
「ドロップ品っていうは、落とし物ってこと?」
「そうだね」
こういったアイテムを集めて、町で交換したり、あるいは売ったりしてお金にするんだよと説明する俺に対し、パトさんはお手玉のようにコアを上に放り投げてを繰り返しつつ、「じゃぁスライム倒ながら、これ集めて町目指す訳ね」と次のスライムを探している。
「流石パトさん、理解が早くて助かるよ」
「いやぁ、拓人の方が色々知ってて凄いんだから、あ、あんまり褒めないでよねぇ」
褒めないでよと言いつつも、今回も実に嬉しそうだ。
俺が褒めると毎度の様に、とても嬉しい顔をする。
彼女はきっと褒めて伸びるタイプだ。これからも出来るだけ褒めていこうと決めた。
「そういえばパトさん。ステータスって残りいくつでLV上がるって書いてある?」
「えーと、次のレベルまで4だって」
「おおう……1しか減ってないのね」
「確かに最初5だった気がする……でもあと4匹倒せばLVアップできるじゃん?」
「確かにそうなんだけどねぇ……」
お互いに5匹ずつ、計10匹倒せば確かに二人ともLVがあがるんだけど……。
少し悩んだ後、一つ試したいことがあると彼女に提案をする。
「今度スライム見つけたら、俺がパスするから、それをシュートしてみてくれない?」
「おぉ! 楽しそうね! じゃあ先ずはあの子……うん、やっぱり悪いスライムね」
どうやら考えてる間に次の標的を見つけたようだ。
俺はそのスライムの方へと駆け出す。
走りながら、確かに地面の土や砂利っぽい感触はそのまま感じ取れるけど、小石とか踏んでも痛くないなと、ついつい感心する。
「パトさんいくよー!」
一定距離から素早く接近し、センタリングをあげる。
蹴った瞬間の感覚が弾力のあるビーチボールみたいな感じで、意外と気持ちがいい。
何度かバウンドしながらパトさんの目の前に転がり、パトさんのシュートによりその場ではじけ飛んだ。
「拓人これ楽しい!」
きっとスライムをこんな方法で倒してるのは俺らだけなんだろうな。
そう考えつつ、パトさんに駆け寄る。
「どう、パトさん?」
「うん、楽しい!」
シュートの素振りをしているパトさんに、そうじゃなくてと声を掛ける。
「もう一度ステータス開いてみて」
「おおお? 次のレベルまで2になってる。えっ? どういうこと?」
「おー、思った通り! えっとね――」
そうなのだ。この手の現象はオンラインのRPGではよくあることなのだ。
俺が蹴る。パトさんも蹴る。つまり戦闘参加人数が複数となる。
複数となった場合、基本的にはダメージを与えた割合に合わせて経験値が分配される。
つまりHP100で経験値が100の場合、ダメージを30与えた人は経験値30、残り70を与えた人は70となる。
では経験値が1の場合どうなるか。
ここが仕様次第となる。
今回の場合は、ダメージをより与えたパトさんがダメージ割合が大きくなる。
上記の例で例えると、俺は経験値0.3 パトさんは経験値0.7となる。
ここでまず四捨五入となるようで、パトさんは経験値1を獲得し、俺の獲得経験値は無くなる。
しかしだ。今回の結果はパトさんは経験値が2増え、実は俺も1増えている。
それはなぜか。
複数戦闘の場合、攻撃を加えた人は経験値が1増える仕様なのだ。
実は知らない人も多いが、これは初心者同士が最低級モンスターを狩りする時の経験値保証なのだ。
この仕様が無い場合どうなるか。それは、3人以上で均等にスライムにダメージを与えた場合、全員経験値を貰えなくなってしまうのである。
「というわけで、経験値が2増えるんだよ」どう? すごいでしょ?と、得意げに捲し立てる。
パトさんはというと、ポカーンとした表情で、「え、う、うん」という感じだ。
俺の悪い癖が出てしまった。デバッグで発見したバグを理由も推察して社員に伝えると、社員の人もよくその表情になっていた。
「えっと、つまり二人で倒すと、経験値3倍ウマー! ってことだよ」
「お、それならうちも理解できるわ」
なんとか納得してもらえたようなので、次のスライムに向かう。
「そういえばスライムコア落ちなかったね」
「そうだね、毎回落ちるわけじゃないみたいだね」
コアをにぎにぎしてるパトさんは何処か幸せそうだ。
「次いくよー」
「はーい」
同じような感じで、再度シュートをするとスライムは弾け、パトさんに後光がさしたようなエフェクトが発生した。
「レベルアップおめでとう!」
「いえあー! 分かりやすくていいね!」
自身の全身から輝きが無くなるのを見守り、今回も型の練習をする。
が、すぐに止めて「んーあんま変わらんかも?」とのことだ。
「とりあえずステータス開いてみようか」
「うん!」
―――――――――ステータス―――――――――
名 前:パトリシア
種 族:人間
職業 :無職
レベル:2
【力強さ】↑: 13+ 3 HP: 81/ 81
【体 力】 : 5 WP: 35/ 35
【知 力】↓: 1 攻撃: 34 防御: 6
【素早さ】 : 5 魔力: 1 魔防: 3
【器用さ】 : 1 回避: 28 命中: 83
【幸 運】↑: 1+ 30
ステータスポイント:4
次のレベルまで:10
―――――――――――――――――――――――
「4ポイントか、悪くないな。次のレベルもそこまで遠くないし」
「ステータスポイント増えてる!」
「そうだよ、レベルが上がると増えるから、それ振り分けて強くなるんだ」
言ってなかったっけと思いつつも、説明下手な所あるからなとやや反省する。
「で、どうしたらいいの?」とワクワクしているパトさんに「好きにしていいんだよ」と言うと。
「【素早さ】あげていい?」と言うので、もちろんと答える。
パトさんも操作をしっかり覚えたようで、パトさんの体が薄っすらと金色に輝き、光が収まった。
再度型での確認が始まった。やはりメッチャカッコいい。
以前より、速度が出ているのもあり、蹴りの時とかちょっと色々危ない。
「おー、多少早くなってるわ。これ沢山レベル上げたら百連拳できそうね」
「そうだね。あと、"ふっ、そいつは残像だ!"とかも出来るかもね」
「えっ? どういうこと?」という不思議そうなパトさんに、反復横跳びを繰り返して説明するが
「ちょっと何やってるか分からない」と笑われてしまう。
「そ、そうだよね……」
速さが足りない。
気を取り直して、上流を目指しつつスライムを倒していく。
さらに3匹倒したところで俺のレベルが上がった。
「わーいスライムコア落ちた! いえあ!」
パトさんは光ってる俺には気が付かず、目の前に落ちた2個目のコアにご満悦の様子だ。
近づいて声をかける。
「パトさんレベル上がったよ」
「おっ、おめでとう!」
俺も何か変わったかなとステータス画面を開くと、両手でにぎにぎしながらパトさんがのぞき込む。
「拓人ポイント余ってるじゃん。なんで使わないの?」
―――――――――ステータス―――――――――
名 前:拓人
種 族:人間
職業 :無職
レベル:2
【力強さ】 : 1 HP: 81/ 81
【体 力】 : 5 WP: 63/ 63
【知 力】↑: 10+ 2 攻撃: 6 防御: 6
【素早さ】↑: 1 魔力: 19 魔防: 18
【器用さ】 : 1 回避: 23 命中: 83
【幸 運】↓: 1
ステータスポイント:11
次のレベルまで:10
―――――――――――――――――――――――
「う、うん……出来れば【知力】に振りたいから我慢してるんだよ、今は振っても魔法使えないからね」
「【知力】に振らずに他のに振って、後で【知力】に振ればいいんじゃないの?」
良く分かってない感じなので、【知力】を優先して上げたいから、ポイント温存してる旨を説明する。
「え、振ったら元に戻せないの?」
「う、うん。だって戦士だった人が、次の瞬間魔法使いになってたら困るでしょ?」
「えっ、誰が?」
「えっ」
確かに誰も困らないような気もする……。
「ま、まぁ困らないかもしれないけど、そういうものなのよ」
あんまり納得しきれていないパトさんに、自分のステータスウィンドウを見せながら、【知力】を選択し↓矢印で【知力】を9にしてOKボタンを押す。
「ほらぁあれぇ?」
「お、【知力】9になってるわね」
思わず変な声が出てしまった。
特に警告が出ることもなくステータスポイントも1増えている。
ステータス振り直しなど、課金アイテムの特権みたいな現象なのに……。
そうか、そもそも課金要素がないのかこの世界は……。
「――パトさん助かったよ。【知力】の呪いに殺されるとこだった」
「?」
またパトさんが何言ってるか分からない状態になってるので、この辺りで話を切り替える。
「つまりだ……これから検証を始める!」
「えっ?」
ポイントが振りなおしたい放題ということは、6つの各ステータスがどのような影響を及ぼすか、確認し放題という事である。
なんかデバッグ作業を思い出すなぁ……。
「例えば、すべてのステータスを1にした後、【素早さ】に全部振ってみる」
パトさんにウィンドウを見せつつ、全部【素早さ】へ割り振る。
これで【素早さ】が22+4となった。
どうやら21以降は必要なステータスポイントが2ずつ必要になるみたいだ。
「あとはこの状態で――」
なるべく速く反復横跳びをする。すると、こうなる。
「きゃははははははははははははっはぁは!!・・・はぁはぁはぁ――」
「え?」
凄い笑い声を聞いた。
目には涙を浮かべ、胸を押さえて爆笑している。
後で聞いたら、凄い真剣な表情のまま、おかしい速度での反復横跳びがシュールすぎてツボに入ったらしい……。
残像を生み出せるのはまだ先のようだ。
パトさんが落ち着くのを待ちつつ、一つの問題に気がついた。
「あ、これメッチャ足の裏痛いわ」
「え、大丈夫?」
ひとしきり落ち着いたパトさんが涙目のまま心配してくれる。
その後、パトさんも【素早さ】に全振りし(少し【体力】だけど)
道場の師範級の型を披露している。その顔はいつにも増して驚きに満ちている。
「うち、この世界で暮らしていきたいかも……」
「早っ!」
思わず突っ込んでしまった。
慌てて「じょ、冗談だし!」と表情とのギャップを感じる言葉を発するが、深く突っ込むことはやめておく。
それかはらは、【体力】全振りでの格闘大会や、【力強さ】全振りの腕相撲など、検証を進めていくのであった。
(つづく)
ユニーク100人突破しました。
ブクマ、評価、感想もいただき誠にありがとうございます。
凄くやる気が出ます^^