第4話:初めての死闘
PV100達成!
開いてくれた方、誠にありがとうございます。
初ブックマーク、初評価、痛み入ります。
小春日和の草原の中、まさかのオフ会が始まった。
黒シャツ黒ジャージ、あまり特徴のない体格の俺に向かって、少し恥ずかしそうに髪を弄りながら――
「拓人ってこんな感じだったんだね」
「あ、うん普通の年相応の男子だよ――それよりパトさん、なんで俺って分かったの?」
「あー、しゃべり方、かなぁ? あとは雰囲気? マイク通した声と違ったから、直ぐには分からんかったけどね」
「なるほど、確かに声少し違うね……あと、ずっと気になってるんだけど、その恰好コスプレ?」
「え? 拓人のジャージだけど?」
パトさんは、自分の恰好を見て言ってることがよく分からないといった感じだ。
俺はというと、恥ずかしいとかよりも彼女の恰好が気になってしょうがない。
肩まで伸びる髪は、まるで光をそのまま結った様な薄い黄金色で、およそ人間とは思えない宝石のような透き通った蒼い瞳。顔立ちも若干の幼さを残すものの、整いすぎていると言える。
「そ、そうじゃなくて、髪の毛とか染めたり目は……カラコンってやつ?」
「あれ、言ってたと思ってたけど……うちイギリス人やで?」
「え?」
「え?」
「――あれネタとかじゃなく本当なの?! それに『やで』って日本人感しかない」
「イギリス人と言っても、両親がイギリス人ってだけなのよね。イギリスに居たのは生まれた時だけで、日本育ちの国籍は日本人だからね」
「じゃあパトリシアっていう名前も……」
「本名よ!」
両手を腰に少しドヤ顔で答える。
恥ずかしそうだったりドヤってみたり、オフ会独自の不思議な状況となっている。
「それにしても下着で転移とは不幸中の不幸というか……でもなぜ下着?」
「あ、うちお風呂出たあとはいつも下着なんよ、床暖最高! そういう拓人もなんで家でサングラスしてたわけ?」
しまう場所が無く、頭にかけてた眼鏡に突っ込む。
「あ、これ普通の眼鏡なんだけど、なぜか転移したら目が良くなってて」
「え、マジでぇ?」
目を細くしたりしてパトさんが辺りを見渡す。
「ほ、本当ね……うちも少し目が悪かったからこれは嬉しいね」
その後驚いた表情で「あれ、も、もしかしてスライム?!」
少し興奮気味なパトさんの目線の先には、先ほどのスライムが居た。
「あ、うんスライムだよ。スライムなんだけど――」
「きゃースライム!! ス・ラ・イ・ムー!!!」
「ちょ!」
勢いよく走るパトさんを背に、ふと彼女が無類のスライム好きなのを思い出す。
そういえばUFOキャッチャーでスライムの人形や、心がぴょんぴょんしそうな人形を取ると、その都度報告を聞いていた。
小走りで追いかけながら、危険な事を伝えようとするが時すでに遅し。
「拓人、見てみて! 目が点だけど、このスラにゃはーっ!!」
こちらを見て満面の笑みを浮かべたパトさんは盛大に吹き飛んだ。
「!?」
最初に説明するべきだった。モンスターが居る世界でありスライムが強敵である事を。
パトさんがスライム好きな事を知っていたら尚更だ。
スライムの追撃が無い事を確認しつつ慌てて駆け寄る。
「パトさん! パトさん!」
駆け寄ると、目を回したパトさんの頭の周りで殻を被ったヒヨコが複数踊っていた。
「スライムからスタンだと!?」
スタンというのは状態異常の一種で、[気絶させる]という英語通り、気絶状態を指す。
この状態になると、完全に無防備な状態となり、一定時間殴られ放題だ。
このスタンは非常に厄介な状態異常の一つであり、仕様次第では大変なこととなる。
スタン時間中にさらにスタン技を受けた場合、スタンの時間が延長される仕様の場合は延々とスタンし絶命する可能性があるからだ。
今回の場合、スライムに吹き飛ばされた先にもスライムが居た場合、キャッチボールの要領で殺されていたかもしれないのだ。
スライム強すぎないか?
せめて戦闘BGM掛かってくれれば、敵か分かりやすいのに……無音だもんなぁ。
そうこう考えているうちに、徐々にヒヨコの数が減っていき――
「ふぁ! いたたた……」
「パトさん大丈夫?!」
「あり得ない……スライムが攻撃してくるなんて」
「いや普通は攻撃するんだよ!」
土で汚れた体を払いながら、痛みで涙目になり絶望している。
「それに悪いスライムだからかな? パトさん、さっきのスライムだけど敵意を持った感じ見てみて」
パトさんが言ってることが良く分からないといった顔のままスライムを見て、その後驚きの表情を浮かべる。
「悪いスライムだ……どういう事なの拓人?」
「うーむ、それも含めて情報を共有しようか。 えーっと――」
今までに分かった事を説明していく。
頭が痛くなって、女性の声を聞き、死んで転移した事。スライムに話しかけ「ステータスウィンドウ」を発見し、魔力を上げるも魔法は撃てなかった事。最後に「スキルウィンドウ」を発見したことだ。
その後はパトさんの転移への話へと移った。
「なるほどね、うちもあの後頭が痛くなって同じ声を聞いた気がする」
「ああ、そっか……そういう意味では死んで転生ではなく、ただ転移しただけかも」
「どういうこと?」と言いながら、走った時に足の裏が痛かったのか、足の裏を気にしている。
「たまたま同時に頭痛で死ぬなんて事は、考えにくいって話だよ」
「たしかに」そう言って真剣な表情であれこれ考えている。
「――で、これからどうしようかって話なんだけど、あそこに川が流れてるから、山に向かって歩こうかと思ってるんだ」
「川沿いを山に向かって?」
「うん、町や村があるなら川沿の可能性が高いのと、食料が無い場合に最悪水分だけでも補給ができるからね」
「ふむふむ。拓人頭いいね! で、どうするのアレ」
愛着が無くなったスライムをすぐにアレ呼ばわりするパトさんに、若干の怖さを覚える。
「ん~、確かにレベル上げつつ町に向かうってのもありなのと、町に着いた時にお金無いのも困るよね」
「えっ、お金ならいくらでもあるじゃん……」
「というと?」
言いながら既に気が付いたのか、愕然とした表情になり、膝から崩れ落ちた。
「うちのお金が……うちの大切なお金が……」
俺もそれは感じていた。この世界に転移したという事は、20億円が無くなってしまったのだ。
絶望する暇もなく、現在に至っているというのもあるが、この世界に転移出来た事が若干嬉しいのだ。
その為、絶望まではいかず「もっと派手に使っておけばよかった」と思う程度だった。
「拓人は、な、なんでそんな平気なの?」
「いや、俺も転移した時に絶望したさ、あとは今考えてもしょうがないって事と、もしかしたらこの世界を救うと元の世界に戻れるかもしれないだろ?」
「なるほどねぇ」
確かに戻れそうと、暗い表情は徐々に明るさを取り戻し、やる気に満ちた表情に変化した。
そしてスライムの方を向き、こぶしを握り締めた。
こういった単純な所は好感が持てる。
「拓人! アレ、倒すわよ!」
「待って待って! まずステータス振ろう」
再度走りだそうとするパトさんに慌てて声をかける。
さっきの二の舞なってもらっては困る。
「あ、そうだったわね、攻撃力あげとけばいいんでしょ?」
「あ、うんそうなんだけど、いや待って!」
そんなこんなでステータス振りの説明を行う。
「そういえば説明優先でパトさんのステータス見てなかったね」
「うんうん、心の中で叫ぶ感じでいいんだっけ……おぉーでたでた」
「どれどれ?」と覗こうとした俺に向かって急に「ちょっとまって!」と慌てて数歩離れた。
一通り内容を確認した後、照れたように戻ってくる。 どうやら体重や3サイズが表記されているかもと慌てたようだ。
「確かにな……」
確かにそういったゲームもあるにはあるが、ゲームに慣れすぎていると出てこない発想だ。
パトさんは多少ゲームはするが、どちらかというとスポーツ観戦とか読書が好きだった。
「どうしたの?」と聞くパトさんに「いやなんでもない」と答えつつ、彼女へと近づきウィンドウをのぞき込む。
ステータスは以下の通りだった。
―――――――――ステータス―――――――――
名 前:パトリシア
種 族:人間
職業 :無職
レベル:1
【力強さ】↑: 1 HP: 32/ 56
【体 力】 : 1 WP: 19/ 19
【知 力】↓: 1 攻撃: 6 防御: 1
【素早さ】 : 1 魔力: 1 魔防: 1
【器用さ】 : 1 回避: 22 命中: 82
【幸 運】↑: 1+ 30
ステータスポイント:20
次のレベルまで:5
―――――――――――――――――――――――
「なぜ+30」
「う?」
真っ先にそこに突っ込んでしまった。 パトさんが良く分からないといった感じなので
自分のステータスも表示させる。
―――――――――ステータス―――――――――
名 前:拓人
種 族:人間
職業 :無職
レベル:1
【力強さ】 : 1 HP: 56/ 56
【体 力】 : 1 WP: 62/ 62
【知 力】↑: 10+ 2 攻撃: 6 防御: 1
【素早さ】↑: 1 魔力: 18 魔防: 15
【器用さ】 : 1 回避: 22 命中: 82
【幸 運】↓: 1
ステータスポイント:11
次のレベルまで:5
―――――――――――――――――――――――
「ほら、俺のはプラスの値無いでしょ? あ、【知力】の+2は最初無かったから」
「ほんとね、やったわ!うち運よさそう!」
パトさんは純粋に嬉しそうだ。俺はというと上方補正に加え【幸運】が+30されている理由が良く分からず、悩んでいる。
「――拓人?」
なんで+30なんだろうと呟いていると、「運が良いからプラスなんじゃない?」と、卵が先か鶏が先かみたいな事を言い出し、嬉しそうにしている。
「まぁいいか」
とりあえず、ここで考え込んでも仕方がないのでと、ステータスの説明をしていく。
基本的な6つのパラメーターの説明を終え、次にパトさんのステータス補正に合わせたアドバイスを行う。
「パトさんは【力強さ】に上方補正があって、【知力】が下方補正だから、前衛職が向いてると思うよ」
「――うん。【知力】が魔法に影響があるけど、私はそれが増えにくいってことなんだよね?」
「う、うん」
どうやらパトさんも魔法が使ってみたいようだが、現時点で魔法が撃てない事と、最初にステータスを振り間違えると、後戻りできない事を伝え、最初が肝心と説明し近接職の良さを伝える。
「前衛職は型によるけど、【力強さ】に振る事で敵陣に突っ込んで高い攻撃力で敵をなぎ倒したり、【体力】に振る事で、仲間の壁となって敵からの攻撃を一手に引き受けれるほどの防御力を手に入れたり、更には【素早さ】に振る事で、無数の斬撃により、敵を切り裂き、おまけに自身は避けまくる。なんて事も出来るんだぜ、すごいだろ?」
「な、なんか分からないけど、すごそうね……」
この世界のステータスは少し意味合いが違うかもしれないけど、大体同じような事ができるはずと説明し、どのような成長を遂げたいか聞いてみると、彼女なりの答えが返ってきた。
「うーん……モンスターの攻撃を引き受けるよりは、うちは敵一杯倒せるほうがスカッとするし向いてそうかなぁ」
「そうだね、上方補正もあることだし【力強さ】をメインにして、あとはバランス良くって感じにするか」
「うちあんまり分からないから……操作してもらってもよい?」と両手を合わせ片目を瞑り、上目遣いでこちらをのぞき込む。
か、可愛い……。これが人にものを頼む態度の最終系かと変なことを考えつつも、「俺が操作出来るか分からないけどやってみるか」と指で彼女のウィンドウに触れる。
「お、操作出来るみたい」
「いえあー!」
パトさんのテンションが高い。強くなれるのがうれしいのか、スライムに仕返し出来るのがうれしいのか、早く早くと雰囲気で催促する彼女のステータスを割り振っていく。
「――こんな感じかな」
「ふむふむ」と操作方法にうなずくパトさん。
一通りステータスを振り分けたのでOKボタンを押す。するとパトさんの体が薄っすらと金色に輝き、光が収まった。
「どう?」
そう声をかけると、「んーちょっと力が付いた気がするかも?」と彼女はその場でパンチしたり、避ける動作をしてみたり、少し回りを走ってみたりする。
動くたびにワクワクした表情から驚きの表情へと変化していった。
「これはやばい」といいながら、今度は空手の型を実施する。
「メッチャかっこいいんですけど!」思わず声に出てしまう。
「――うち昔護身術として、ほんの少しの間だけど空手やってたんよね。それにしてもビシッと型決まって、すごい気持ちいいわこれ」
どうやら目に見える形でのステータスアップとなったようだ。
「一番うれしいのは、足の裏が痛くなくなった事ね」
「そ、そこですか……」
うーん【体力】に振って防御力が向上した影響なのかな。
俺も、【体力】にとりあえずポイントを割り振りつつ、「これでスライムの攻撃も多少ましかな?」などと考える。
その後も型を続けるパトさんに、「そろそろスライム倒してみる?」と声を掛けると「あーそうだったわ」と我に返った。
「覚悟しなさいよスライム!」
えっと何処だと探しながら、見つけると叫びながら走り出した。
「うちの最強の技を受けるがよい! くらえーっ、どらいぶしゅーーーと!!」
俺も、フォローできるように追いかけ「え? ドライブシュート?」と驚いていると、派手なエフェクトの後に空高く吹き飛ぶスライムが見えた。
その後スライムが落下すると、破裂し幾つかの欠片となり消滅した。
「やったやった! 拓人、見た見た? どうよ!」と振り返り満面の笑みだ。
「流石パトさん! よっパトさん最強説!」
「そーお?」とドヤ顔に恥ずかしさが混ざったような複雑な表情となった。
こうして、初めてのモンスター討伐に成功するのであった。
つづく。
現在のステータス
―――――――――ステータス―――――――――
名 前:パトリシア
種 族:人間
職業 :無職
レベル:1
【力強さ】↑: 13+ 3 HP: 78/ 78
【体 力】 : 5 WP: 35/ 35
【知 力】↓: 1 攻撃: 34 防御: 6
【素早さ】 : 5 魔力: 1 魔防: 3
【器用さ】 : 1 回避: 27 命中: 82
【幸 運】↑: 1+ 30
ステータスポイント:0
次のレベルまで:4
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ステータス表記多くてすみません。 徐々に少なくなる予定です。
読んでくださりありがとうございます。
評価なくとも、読んでくれるだけでありがたいです。
ブックマーク外されないよう精進します。