第2話:ここは何処?私は俺?
開いてくれた方誠にありがとうございます。
春のような暖かい日差しの中、ぼんやりと目が覚めた。
――日差し? 草?
ん? 砂? どいう事だ……。
目を開くとまぶしい光が飛び込んできた。少しだけ風が吹いているのか視界ギリギリで草が揺れているのが分かった。手の甲には砂の感触がある。
どうやら屋外で大の字になって気絶していたようだ。
「痛たた……」
上体を起こしたときに頭が少し傷んだが、我慢して周りを見渡す。
まずは状況について理解しなくては。
――――草原? 広くね???
最後の記憶を思い出しつつも、[家の中] or [病院のベットの上] でないこの状況。明らかにおかしすぎる。
「夢?」
いや、夢にしては意識がはっきりしてるし、頭少し痛かったし。風や砂の感じがリアルだ。
「まぁ、夢なら夢で良いんだけど」と考えつつ立ち上がり辺りを見渡す。
360度ひたすらに草原が続くようだ。遠くには山や丘が見えるが、一切の人工物が存在しない。
あとは、少し遠くに山に向かって一本の川が流れているのが見える。
実にキレイな光景が存在していた。
「景色はきれいだが……どういうことだ?」
(拉致? ドッキリ? いやがらせ?)
素足の指の間に砂が挟まるのがなんとも気持ち悪い。気を失ったときのままの服装らしく、靴は無く家にいた時と同じジャージを着ている。
怪我はどうやらしていないようだ。自分の恰好を確認しつつ、色々考えを巡らせている途中。ある事実に気が付く。
クイッと眼鏡を押し上げようとするが、眼鏡が無いのだ。
「あれ?!」
足元を見渡し、落ちている眼鏡を見つける。
「あー良かった あったあった」
眼鏡を拾い上げ、息を吹きかけ埃を飛ばし装着する。
景色がゆがみ、視界がぼやける。
「あれ?」
眼鏡を外すと綺麗な景色が目の前に広がる。
「!?」
どういうことだ……目が良くなってる……。
それに……冬のはずなのに春みたいに暖かい。
つまり……。
「死んだな……完全に死んだ……」
いやまて、「通販の腰に巻くだけで2週間で10キロ痩せました!」的なやつで「酷い頭痛で気絶した後、お陰で視力回復しちゃいました!」的な・・・。
ないな。もしそうだとしても、こんな昼寝日和みたいな草原で目が覚めるのが分からん。
――まぁ死んだんだろう。 死後の世界的な所なのかな。
てっきり死後の世界といえば、白い着物着て、お花畑の先に三途の川的なイメージだったが、全然違うな。
それともあの川が三途の川なのかな?
そのうち案内人でも来て、天国行か地獄行を決める場所に連れていかれるのかな。
「目を良くしてくれるくらいなら、靴も欲しかったな……いや持ってきてくれたり?」などと砂で汚れた素足を見て考えていると視界の隅に、青い塊が動くのが見えた。
「ん?」
青い塊の方を見て、固まる。
「ちょっ!」
大声を出してしまい慌てて数歩下がり、口を両手でふさぐ。
大きさは30センチ程度……跳ねながら移動している。
……スライムだ!
「マジか・・・」
少し近づいてきたが、ある程度遠い為か襲ってくる様子が無い事を確認し辺りを見渡す。
遠くを見ていた時は気が付かなかったが、よく見ると何匹かいることが確認できた。
……そういう事でよいのだろうか?
一応死んだと考えたが、死後の世界にスライムがいることは想像しておらず、驚きつつも、
[家から離れた適当な場所に放置された可能性]は無くなった事に呆然とする。
……ここで考え込んでもしかたがないので、出来る事をやってみるか。
他のスライムの居ない方角を背にしつつ、一応念のために声をかけてみる。
「すみません。道に迷ってしまったのですが、町はどちらでしょうか?」
もしかするとこのスライムが案内役の可能性も……と一縷の望みに賭けてみる。
寄ってくるスライム。
少し潰れた形になり。
――勢いよく胸目掛け飛んできた!
「ちょ! ま!」
結構な速さで飛んできたが、攻撃される事も考えていたため、なんとか斜め後ろに飛び退き回避することに成功した。
その後、「ですよね~」と思いつつも即座に一定距離をとる。
――スライムは俺を見失ったのか、移動を繰り返している。
しかし焦るわ! 当たったらかなり痛そうだったぞ!
しかも攻撃の一瞬凄い形相だったぞ……ヤンキーがメンチ切るような。
――スライムマジ半端ないって!
索敵範囲が狭いのか、一定距離を離れることで見失うみたいだ。
【この世界はモンスターがいる】
「地獄なのかな? それにしてもスライムだよな……ん~……」とつぶやきながら、まずは安全な場所にと、芝生っぽい辺りがよく見える場所に移動した。
しばしこの状況について考えてみる。
・
・・
・・・
「――情報量すくなくね?」
まず思ったのがこれだ。
普通死んだら、もっと分かりやすいようにしないか? いや死んだことないから分からないけど……。
考えるんだ……俺自身がいまどういう状況に置かれているかを……。
――そういえば気を失う前に何か聞こえたな。
『どうかこの世界を救ってください』だっけか。
あれ、こんな感じのパターン小説かなにかで……。
【理解した】
[ここは異世界で、死んだことにより転生した]
こう考えると自然だ! なるほどなるほど!
――いや不自然か……死んだら異世界で再出発とか小説の中だけにしてくれ。といいつつも、ある程度納したが……同時に沸いた疑問がある。
「――不親切すぎじゃね?」
普通町に転移したり、転移前に神様的な人から説明を受けたり、「この世界について」みたいな本と食料が置いてあったり……。
このまま、スライムみたいな生物に殺されたり、餓死したらどうするんだよ……。
ん? このパターンって……。
――これが俗にいう【大厄災】というやつか。
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【大厄災】ここで言ったのは災害的な話ではない。
それは日本初のRPGゲーム「ダイヤクエスト」にて誕生した言葉である。
ダイヤクエストはゲーム開始直後、フィールドの城近くにキャラクターが配置されスタートするが、RPGというジャンルが初めてのプレイヤー達は、ことごとく近くにある城を無視した。
(まず城にキャラクターが重なると入れる事を知らないのだ。しょうがないとも言える)
その結果、城で装備や回復材を手に入れることなくモンスターに倒され、ゲームオーバーとなるのである。
ゲーム自体は面白いのに、説明不足のせいで死んでしまう為、皮肉を込めてゲームタイトルからその名がついた。
これ以降、ゲーム本来の楽しさが分かる前に挫折する系のゲーム等、本当は面白いのに勿体ないというゲームに対して用いられるようになった。
後の「ダイヤクエストⅡ」では、城に軟禁状態で開始されたのは言うまでもない。
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こういった場合、安全面の確保が最優先だと思うが。
どうするかなぁ……スライム倒すのがセオリーな気がしてならないよなぁ――
【大厄災】の事を考えつつも、1匹ぐらい倒すことぐらいできるのではと、先ほどのスライムを視界に入れ注意深く観察しはじめた。
すると、スライムの上に文字が浮かび上がった。
黄色の文字で「悪いスライム」と表示されたのだ。
スライムの動きに合わせて、表示も動いている。
「――お前悪いスライムだったのか……?! ――どうでもいいか」
これはゲームのような世界に転移したという事だろうか?
となると……得意分野の可能性が出てきたぞ!
――となるとやる事は絞られてゆく。
「ステータスウィンドウ!!」
そう口にすると、青い透過色のウィンドウが薄っすら浮かび上がった。
「かぁーーーっ! キタキタ!!! これだよこれ!」
「さて、どれどれステータスは?っと――」
浮かび上がったステータスを確認してみると。
力強さ:1
体 力:1
知 力:1
素早さ:1
器用さ:1
幸 運:1
思わず目に飛び込んできたALL1の文字群に声を漏らした。
「うわっ・・・私のステータス、低すぎ・・・?」
2話目も読んでくれて本当ありがとうございます。
感謝しかありません。