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第1話:俺の所持金は2147483647円

開いてくれた方誠にありがとうございます。


眼鏡をクイッと押し上げつつ光野(こうの)拓人(たくと)は呟いた。


「今日は一日疲れたな……」


日付が変わるまで1時間を切ろうとしている。

パソコンデスクで背を反らし、複数のディスプレイの1つを眺めながら伸びをしていると、

ボイスチャットからいつも聞いている女性の明るい声が届く。


「ただいま拓人(たくと)今戻ったよー。今日の祭り(・・)はどうだった? ちな、うちは初動で1200取れて、後は流れでって感じで2000弱までいったよ」


祭りというのは『米国雇用統計』のことだ。トレーダーであれば常識である。


FX(外国為替証拠金取引)を行ったことがある方ならわかると思うが、毎月第1金曜日のこの日がビックニュースでもない限り、月で一番為替レートが動く日だ。その為、相場の活気にちなんで米国雇用統計を祭りと呼ぶ。


伸びから姿勢を戻す。


ヘッドセットのマイクの位置を直し、報告会を始める。


「うはっ パトさんはやっぱすごいな。今日の流れで2000は流石だよ、こっちは800がやっとだった。一時はマイ転しそうだったし……」


大まかな結果報告の後、買いと売りのタイミングや理由について軽く話すというのがいつもの流れだ。


彼女の名はパトリシア。仲良く話しているが実は会ったことがないが大事なパートナーだ。

そして2000や800という単位を伏せた数字は、【万円】である。

つまり互いにちょっとした金持ちトレーダーである。


「でも拓人負ける日ほぼないじゃん? (総資金)は多いし、いつ抜けるやら。今どれぐらいってるっけ? 20いってたっけ?」


「今日で、21.5だね。でもパトさんのフィーリングトレードには勝てる気がしないよ。俺のトレードは固くてつまんないからなぁ……。正直パトさん居なかったらトレーダーとっくにやめてるよ、俺もパトさんみたいなフィーリング能力があればなぁ」


祭り以外の日は、二人話しながらトレードすることが多く、取引に関わるニュースの吟味から、世界情勢、日常会話や家族の話まで何でも話し合う仲だ。ちなみに祭り当日は値動きが激しく忙しいのもあって、会話しないことにしている。

パトさんの歓喜が聞こえてきて俺が熱くなり、集中出来ないのが原因だ。


彼女と知り合ったのは3年前で、俺が21歳の時だ。当時の俺は既に資産が9億あった。トレーダーといっても様々で、俺の取引スタイルは1週間画面を見続けて、取引するのは数回程度。非常に暇なのだ。

「そろそろトレーダー辞めて利息生活しようかな」などと考えつつ、暇つぶしに見ていたトレーダーが集まる掲示板が彼女との出会いだった。


最初は日々の収支を報告したり、トレード内容等を伝え合うだけだったが、徐々に二人のトレードタイミングが全然違う事が分かり、お互いのトレードを解説しながらという形でボイスチャットが始まった。


「なんか分からんけど、線引いてたらなんとなく分かるっていうか。あ、拓人の話も参考にしてるで?」


世界情勢やニュースの考察を共有しているが、本当に参考にしているのかと思うトレードなのでちょいちょいつっこむが、本人は参考にしてるらしい。

現にお互い自分の取引タイミングを守るが、判断がとても微妙な時の一押しに相手の意見を参考にすることがある。

ただ、まれに致命的な一押しとなる事もあるが……。


「出た出たパトさんのライン最強説! まー最初は疑ったけど今更否定もできないわ。なんとなく理解はできるんだけど、俺には無理無理」


「えー 最強なんて一度も言ったことないし? 確かに普通は拓人みたく色々なデータ見て入るけど」


この手のパターンは毎度おなじみの流れだ。

そのあともトレードに関する話が続き、その後話が変わった。


「あ、拓人そういえば落とした財布見つかった?」


「あぁ、いや駅とか交番で聞いたんだけど、それらしいのは無いってさ」


「免許証の再発行とかだるそうよね」


「確かにな……まぁ長く使ったし丁度いいから良い奴買うよ」


3日前、町へ出た帰りに財布を無くしてしまったのだ。


「また町に買い物か……そして免許証の再発行……だりぃ……」


仕事も含め殆どが家で完結する拓人は、外に出ることが億劫だった。

今の時代、家に居ながら何かしら遊べてしまうのだ。

アニメやゲームなどは勿論、漫画や小説ですらネットで見れてしまう時代なのだ。

拓人も例に漏れず、取引出来ない土日はゲーム三昧の日々を過ごすことが多く、

取引時間ですら、市場が落ち着いてる時間はアニメを見たりやゲームをしていた。


21歳にして9億を稼いだのはゲームの知識があったからとも言える。

正確にはゲームのデバッグ知識だ。ゲーム開発でのデバッグというのはゲームが発売される前に、ゲームのバグを見つける作業の事で、見つけた後はプログラマーに報告し修正を行う。ゲームの製作会社自身でも勿論行うが、同時に外部のデバッグ専門の会社にも任される事が多いのだ。

拓人はそのデバッグ専門の会社でアルバイトとして働いていた経験があったのもあり、FXのパソコン用取引ツールの不具合に気が付いてしまったのである。


不具合の内容は、そこまで複雑ではない。変動する相場の中「買い」「売り」のボタンで取引をするが、ボタンの上でマウスを押し、ドラッグしたまま取引ツール外に移動し、ドラッグを維持したまま再度ボタンの上へ移動させるというものだ。どうなるかというと……表示される値が固定される。


分かりやすく言うと「100円」で買いますという状況を固定し、相場が「101円」になったらボタンをそのまま離し、「100円」で購入。

相場が「99円」になったとすれば、ボタンの上からマウスカーソルを移動させてからはなす。

これで購入しない事となる。

「100円」で買った時点で価値が「101円」な訳だから、即売れば「1円」の儲けな訳だ。

つまり必勝なのだ。


その事に気が付いた拓人は相場が大きく変動する祭りの時や、各国の重要報告の際にこの仕様を利用した。まぁただのバグ利用といえばそれまでだが。

半年後修正される事になるが、その間に20万から始めた資金も9億となっていた。

その後は年利30%程度のトレード方法を見つけ、現在に至る。


「あれ? 俺そんな外でないし、そう考えると――」


「――再発行はしなさいよ?」


「なぜばれたし!」


「拓人が考える事ぐらい大体わかるよ 3年も毎日のように話してるんだから」


その後、身分証明書がいかに重要かを説き伏せられた。


「分かった、分かったって再発行するって」


「分かればよろしい」


変な言い訳を挟んだせいで余計に説教が長くなってしまった。


「――さて、そろそろ12時だし相場も落ち着いたし、俺は今日は寝るかな」


「拓人、ちゃんと歯磨いて風呂入るんだぞー」


しかし時計が12時を指したとき、変化は訪れた。


「わかってるって、これから風、うぁ!!!!  がっ!!! いっっついあああっ!!!」


頭が割れるように痛い。

頭を低い天井におもいきりぶつけたような、鋭い痛みが発生した。

痛みは徐々に治まるどころか、大きくなっていく。

頭を抱えるタイミングでヘッドセットが床に落ち、声がかろうじて聞こえる。


「大丈夫拓人!!? 大丈夫? 大丈……? だ……大――」


そして何も聞こえなくなった。


視界が薄れていくその中、痛みで頭を押さえながら開く片目に、並んだディスプレイの1つ、真っ黒な画面の中央。

奇妙に笑った悪魔が映った。


その後、視界は真っ白になり……。






『どうかこの世界を救ってください』と……脳内に神秘的な女性の声かがささやいた。

ど素人にて出だし不自然かもですが、どうか暖かい目で……(汗


誤字指摘や感想など、もしあれば遠慮なくお願いします。

出来れば、落ち込まない程度に……。

(。>д<。)ゞ 


2020/5/14(改定) 主に体裁修正  感想指摘ありがとうございます。

2020/6/8(改定) 主に体裁修正  指摘ありがとうございます。

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