表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/60

ep.53 恋愛は自分を変え、友達は自分を救う

三学期。

迫る合唱コンクールに向けて、

日々練習を続けていた。


そんな中、伴奏を担当するはずだった生徒が

怪我をしてしまい、

まさかの虹己が頼まれて……!?

冷たく寒い風が、外でビュービュー吹く音が聞こえる。

稼働するエアコンが、負けず劣らずと僕達の体を温めようと音を鳴らしながら羽根を動かす。

普段は気にすることなんてまるでない音が、今ははっきりと聞こえる。

それもそのはず、僕たち3人の間には気まずい沈黙が流れ続けているからだ。


あの話を聞いてしまった後、佐多さんが事の経緯をみんなに話してくれた。

伴奏をするなんてこと、いつもの虹己君なら断るだろう。そう思っていたのに、なんと彼は伴奏者になることを承諾したらしい。

そこから彼とは会話を交わすことなく、放課後練習はすぎてゆき、今に至るわけで……


ど、どうしよう。な、何か言わなきゃ。

伴奏なんて大丈夫? どうして断らなかったの? って。

でもそれ以前に………


「虹己君って、ピアノ……経験者だったの?」


つい、聞いてしまった。

心のどこかで引っかかっていた、佐多さんの言葉。


僕は虹己君のことを何も知らない。

出会ってから今まで、一緒に話したり帰ったり遊んだり……色々仲を深めてきた。

だけど彼は、過去のことをいっさい話そうとしない。

きっと言いたくないんだろうと、ずっと聞かずにいたけど……


「……みんなに話す時、佐多さんはオレが変わってくれるとしか言わなかったよね?」


「ご、ごめんなさい……ちょうど虹己君の様子を見に行こうと思ってた時に、話してるの聞こえて……」


「盗み聞きとか、趣味悪いね。君」


「そう怒るな、虹己。満も俺も、お前のことを心配に思ってるんだ。悪く思わないでほしい。だが……何故伴奏を引き受けた? 注目されること、まだ苦手なんじゃないのか?」


恭弥君の問いに、彼はまあねと軽い口で返す。

すると彼は、観念したのか自分の携帯でとある画像を指さして……


「この人、あの曲を作曲した音波弦っつー人なんだけどさ。これ、オレの親父なんだよね」


「へぇ、そうなん………うぇ!? お父さん!? 音波弦がぁ?!」


「あとソプラノ歌手に音波調っつーのがいるでしょ? あれはお袋。他にもギターとバイオリンで賞を総ナメしてる姉と兄がいる」


す、すごい……! 虹己君、有名人の息子さんなんだ……!

言われてみれば面影あるような、ないような……名字が一緒じゃないから、全然気がつかなかったよぉ~……


「オレの家、昔から音楽一家でさ。過去にピアノやらされてたことあるんだけど……あの人達の息子っつー期待に耐えられなくて、初めての大舞台で怖くなって……その日から、家族にも見捨てられたんだ。情けねぇ話だろ?」


確かにそれだけ凄い親やお兄さん達がいたら、責任を感じてしまうかもしれない。

以前、演劇の舞台で周囲からの期待に押しつぶされそうになった雲雀先輩と同じようにー……


「……お前の両親は授業参観などの行事も不参加だった……忙しい人なのかと思っていたが、そういうことだったのか……」


「で、でもそれならなおさらだよ。どうして断らなかったの? ピアノを演奏するだけじゃなく、たくさんの人の前でやることになるんだよ?」


「………結愛に合わせる顔がねえから……」


鳳、先輩に??


「あいつ、すげー男性恐怖症じゃん? 前まで怖いって逃げてた……なのに今は怖いものから目を逸らさず、ずっと変わろうとし続けている……それ見てたら、オレも腹くくらねぇとって思ってさ」


虹己君らしいな、そう思ってしまった。

鳳先輩は少しずつだけど、変わろうと努力している。

そんな人を近くで支え、見てきたからこそ虹己君も決意したのかな……


かっこ悪いだろ?

そう笑う彼の姿は、僕からしたら全然かっこ悪くない。

そういう努力をしようと思った自体変わってるって証拠だし、強い意志の表れだと思うし……


「んで……引き受けたはいいけど……どーーーすっかなぁ。やったことあるとはいえ、十数年ブランクあるんだぜ? おまけに全校生徒の前で弾くとか……想像しただけでやばいわーーやっぱやめよーかなぁー」


さっきまでの態度はどこへやら、緊張がとけたように彼は床に寝ぞべってしまう。

やっぱり心でそう決めても、実際やるとなったら別だ。

緊張しないで済む方法、かぁ。そんなの僕が知りたいくらいだなぁ……


「虹己、変わったな」


すると恭弥君は、ふっと笑みを浮かべる。

その事が癪に触ったのか、虹己君はムスッとした表情をこちらに向けながら


「何、嫌味ならオレのいないとこで言ってくれる?」


とつぶやいた。


「そうではない。鳳先輩のことがなければ、いつものように逃げていたじゃないか。やはり恋をすると、かわるもんなんだな」


「………その言葉、そっくりそのまま君に返すよ」


「でもどうしよっか? 僕達が練習に付き合う、だけじゃなんの克服にもなんないし……」


「あ、それなんですがぁ~……ミミルにお願いとか出来ねえの?」


急に彼の名前が出てきて、ドキッとしてしまう。

虹己君はそんな僕の様子に気づくことなく、ばっと起き上がり、お願いっ!と手を合わせて見せた。


「こういう時のフィオーリ様でしょー? 結愛の時だって一枚噛んでたじゃん! ね、今ハマってるアイドルの話、何時間も熱弁していいからさぁ~」


こういう時、いつもならじゃあ……と言ってミミルを呼んでいたかもしれない。

けれどこの前、自分の力でなんとかしろといわれたばかりだ。

そのことを、彼らは知らない。

ここは……僕で何とかするしかない!


「……ううん、ダメだよ虹己君。こういうのは、自分の力で乗り越えないと!」


「満……君?」


「大丈夫、何があっても僕達は虹己君のこと応援するからっ!」


これでいいのか、自分にはよく分からない。

何でもかんでもミミルに頼ってちゃだめだ、自分で乗り越えてこそ意味があることもあるんだから!


「……満の言う通りだ。仮にミミルの力に頼ったところで、お前は嬉しいか? 自分で乗り越えてこそ、やる価値があるというものだ」


「……そーゆーもんなの?」


「よぉし、そうと決まれば! 三人で合唱コンクール頑張ろーー!!」


僕が高らかに拳をあげるのに対し、小さめながら恭弥君もあげる。

それを見て虹己君は溜息をつきながらも、おーと小さく返事をしてくれた。

かくして僕らは、合唱コンクールに向けて特訓を始めたのです!


(つづく!!)

今回でやっと、虹己の過去が二人に向けて

公になりましたね。

友達から、真の友達に進化した3人は

もう、本当にエモすぎます……


ちなみに虹己の親の姓でもある音波は、

文化祭編でさりげなく出てきています。

なので、勘のいい方は、

前回出した作曲者の姓で親だと分かったはず。


けど、意外と忘れるものなのか、

私の友達には名前を出したことさえ

忘れていたみたいです。

なので覚えてた人が少しでもいたらいいな……

と思う日々であります。


次回は26日更新!

虹己の運命はどうなってしまうのか!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ